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アカマイの事業戦略、サイバーセキュリティとクラウド事業で新たな成長へ
2025年3月24日 06:00
アカマイ・テクノロジーズ合同会社は21日、同社の事業戦略について説明会を開催した。説明会の冒頭で、アカマイ・テクノロジーズ 職務執行者社長の日隈寛和氏は、「アカマイの事業領域は過去10年で大きく変わった。これからのアカマイは、サイバーセキュリティとクラウドコンピューティングの企業として事業を推進する」と述べた。
アカマイといえば、これまではCDNビジネスで知られる企業だった。それが、過去10年で売上比率は大きく変化し、「2014年は売上の85%がCDN事業によるものだったが、2024年にはその割合が33%となる一方、サイバーセキュリティ事業が51%、クラウドコンピューティング事業が16%へと拡大した」と日隈氏は語る。
2月に発表した2024年の同社の売上高は39億9100万ドル。うち、サイバーセキュリティ事業は前年比16%増の20億4300万ドルで、クラウドコンピューティング事業は前年比25%増の6億3000万ドルだった。一方のCDN事業は、前年比マイナス14%で13億1800万ドルという結果だ。日隈氏は、「CDN市場におけるシェアは維持しているものの、成熟している市場ということもあり、価格競争が激しく売上は落ちている」と説明した。
アカマイには、サイバーセキュリティ分野において他社にはない強みがあるという。「分散処理によって数多くの脅威インテリジェンスを保有している。サイバーセキュリティで成功するには情報が重要だが、アカマイは多数のインターネットトラフィックを運んでいるため、膨大な情報が集まってくる」と日隈氏。また、「さまざまなソリューションを提供しているのはもちろん、グローバル展開するセキュリティコマンドセンターのチームなど、製品のみならず組織としても多層防御を提供している」と、そのメリットを強調した。
サイバーセキュリティで同社がフォーカスするのは、インフラセキュリティ、アプリケーションセキュリティ、APIセキュリティ、ゼロトラストセキュリティの4分野だ。2024年の売上高は、インフラセキュリティとアプリケーションセキュリティが前年比14%増の18億4000万ドルで、APIセキュリティとゼロトラストセキュリティが前年比51%増の2億500万ドルだった。
急成長しているAPIセキュリティとゼロトラストセキュリティについて日隈氏は、「2024年にAPIセキュリティを手掛けるNoname Securityを買収し、APIディスカバリーやビジネスロジックの悪用対策などができるようになった。またゼロトラストセキュリティは、当社のGuardicore Platformを中心にマルウェア対策や多要素認証などのソリューションを提供する」としている。
クラウドコンピューティングについては、「この2年で多額の投資を行い、世界で最も分散したクラウドプラットフォームが提供できるようになった」と日隈氏。同社のクラウドは、フルスタックコンピューティングとストレージサービスを提供する「Core」と、最適なパフォーマンスとスケーラビリティを提供する「Edge」という2カテゴリーで展開しており、Coreは現在36都市・41ロケーションで稼働、Edgeは約700都市・4300以上のロケーションで稼働している。
また、2月末に発表したManaged Container Serviceは、現在100都市で試験運用中だ。日隈氏は、「今後アカマイのすべてのEdgeロケーションでこのサービスを提供できるようにしたい」と述べている。
2025年に注力するソリューション提案の分野については、アカマイ・テクノロジーズ マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネージャーの中西一博氏が解説。まずセキュリティについては、「組織が防御力を強化し、事業継続やデータ保護ができるよう支援するほか、複雑化するアーキテクチャと拡大するアタックサーフェスに対応できる堅牢でスケーラブルなセキュリティを提供する。また、さまざまな業界規制や標準に着目し、コンプライアンスへの対応を進める」としている。
一方のクラウドコンピューティングでは、「オブザーバビリティを活用し、CDNの運用やライブイベント管理などにおける課題を解決する。また、マルチクラウドポータビリティにより、分断された複数のクラウドをつないでワークロードやデータを移動できるようにする。エッジネイティブアプリも活用し、コスト削減やパフォーマンスの向上に貢献する。さらには、データの分散配置によって低遅延化を実現する」(中西氏)とした。
CDN事業はマイナス成長となってはいるが、「サイバーセキュリティやクラウドコンピューティングのビジネスは、CDNの超分散型アーキテクチャの上で成り立っており、非常に重要なインフラだ」と日隈氏。加えて同氏は、「CDNビジネスにより、キャリア事業者とのパートナーシップとスケーラビリティを実現している。そして、サイバーセキュリティとクラウドコンピューティングサービスとの高い相乗効果により、ハイパフォーマンスでスケーラブルなソリューションが提供できるほか、CDN事業による強力なキャッシュフローがあるからこそ、新製品への積極的な投資ができている」と述べ、その重要さを強調した。
AIについては、「『オンラインライフの力となり、守る』という当社のミッションを実現するための強力なツールだ」とし、AI推論やAIを悪用した脅威に対する保護など、さまざまな分野でAIを活用していると日隈氏は説明。「2025年はAIを悪用した脅威に対抗する製品を多数発表する予定だ」と述べた。
サステナビリティにも積極的に取り組むアカマイ
説明会には、米Akamai Technologiesにてコーポレートサステナビリティ担当ディレクター 兼 ESGオフィサーを務めるマイク・マッテラ(Mike Mattera)氏も登場し、同社のサステナビリティへの取り組みを語った。
マッテラ氏によると、アカマイでは「2030年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロとし、すべての業務において100%再生エネルギーへと移行することを目指している。また、データセンターや業務においてエネルギー効率の向上に取り組み、サプライヤーとも連携して持続可能な慣行を推進している。さらには、資源を再利用する循環型経済にも取り組んでいる」という。
米国では今年になって脱炭素に消極的なトランプ大統領が就任したばかりだが、「アカマイのサステナビリティの方針が変わることはない」とマッテラ氏は話す。「政治の世界では政策の変更が生じているが、アカマイでは変わらず環境への取り組みを続ける。株主も顧客も社員も、この方向性で事業を推進することが重要だという考えで一致しているためだ。この目標は当社の事業目標とも連動している」(マッテラ氏)
日隈氏も、「アカマイはグローバル企業で、売上の半分以上が米国以外からのものだ。地球規模の課題に対して、グローバル企業としてしっかり取り組む必要がある」と述べた。