ニュース

AIが新たなプラットフォームになる始まりの時期に来た――、米Microsoft・沼本健EVP

すべてのクラウド製品にAIを導入し、AIプラットフォームへのシフトを推進

 日本マイクロソフト株式会社は、Microsoft AIに関して、報道関係者を対象にした説明会を実施し、来日中の米マイクロソフト エグゼクティブ バイスプレジデント(EVP) コマーシャル チーフ マーケティング オフィサーの沼本健氏が、同社の最新の取り組みについて説明した。

米Microsoft エグゼクティブ バイスプレジデント コマーシャル チーフ マーケティング オフィサーの沼本健氏

 沼本氏は、ソフトウェア開発向けのGitHub Copilot、ドメインエキスパート向けのCopilot in Power Platform、ナレッジワーカー向けのMicrosoft 365 Copilot、営業部門向けのSales Copilot、セキュリティ運用者向けのSecurity Copilot、産業分野向けのDAX Copilotをラインアップしていることを示しながら、「マイクロソフトのAIであるMicrosoft Copilotは、さまざまな領域に展開していくことになる。すべてのMicrosoft Cloudの製品分野に対してAIを導入し、AIプラットフォームへのシフトを進めていくことになる」と発言した。

 また、「AIというと、大規模言語モデルの話になりがちだが、お客さまにとって最も重要なのは、大規模言語モデルと、持っているデータをかけあわせて、すでに使っているアプリケーションのなかで、使いやすい形で提供されるかどうかという点になる。それを解決するひとつの答えが、Microsoft 365 Copilotになる」と位置づけた。

 なお、Microsoft Copilotのロゴは、人とコンピューティングが握手し、人を支援していく様子を示していることも明かした。

Microsoft Copilot

 説明のなかでは、Microsoft 365 Copilotの最新デモンストレーション映像をもとに、AIによる生産性向上の様子を紹介した。

 PowerPointでは、Copilotに簡単な指示を出すだけで、Wordで作った提案書から、プレゼンテーション資料を作成することができる。Wordの文書から、ワンクリックでPowerPointの資料に変換。あとは、Copilotと簡単な対話をすることでスライドを生成できる。だが、「Copilotは万能ではない」とし、必要に応じて、内容を確認しながら、編集することが大切であることも示す。Copilotが作成したプレゼン資料が文字だらけのスライドになっていた場合には、もっとビジュアルな資料にするように指示すれば、デザインが変更され、アニメーションを加えることも可能だ。さらにCopilotは、各スライドの発表用メモも生成でき、時間を節約しながら効果的なプレゼン資料づくりの手助けを行うという。

 「Wordの企画書をベースにPowerPointの資料を作れるほか、PowerPointに搭載されていた機能を使いこなせていない人も、ナチュラルユーザーインターフェイスを通じて、さまざまな機能を使いこなせるようになる。すべての人をパワーユーザーにすることができる」。

PowerPointでのデモンストレーション

 またMicrosoft Teamsでは、定例会議の時間に別の重要な会議が重なってしまったというシーンを想定。参加できない会議のスケジュールを選んで、「フォロー」ボタンを押すだけで、会議終了後に、Copilotが会議の内容を要約し、Teamsに通知が届く。

 ここでは、共通コンテンツや要約メモのほか、参加者宛てのアクションアイテムも提供される。例えば、会議のなかで自分が担当する顧客が話題に上っていたことを要約メモで確認できたときには、Copilotに質問して、その顧客に関する議論の詳細な回答を得ることができる。また、決定が下された理由をCopilotに質問すると詳しい状況を説明してくれ、決定されたものとは別に、検討が行われた解決策についても質問が可能になっている。会議に参加していなくても、あとから録音データなどを聞く必要がなく、議事録が届くのを待たずに会議の状況を理解し、大幅な作業時間の短縮につなげることができる。

 さらに、会議中においても、参加者の発言を要約し、議論の趣旨をとらえた会議が進行していることを全員で確認できるほか、会議の進行にあわせながら、参加者の意見の確認も可能になるという。

 「私自身も会議への参加が遅れ、最初の15分間の内容を確認したいという場合にも、その内容を要約したものをすぐに確認できる。また、参加していない会議についても、会議の内容と決定事項を確認することができる。ゲームチェンジャーであることを体感できる機能だ」と述べた。

Microsoft Teamsでのデモンストレーション
発言者メモも生成してくれる

 またM365 Chatは、より有機的なコラボレーションを実現することが可能だという。例えば、Copilotに、社内における喫緊の案件はなにかを確認すると、新店舗オープンの案件が優先事項であることが報告された。最新の状況を聞くと、Microsoft Graphに蓄積されているeメールやチャット、ドキュメントなどの情報をもとに、有益な情報を収集。情報ソースも明示する。また、新店舗の競合店となる情報を収集して、対応策を検討することもできる。

 これらのデモンストレーションを通じて、沼本氏は、「Copilotによって、毎日使用しているPowerPointやTeamsを利用する頻度を高めることができる。業務の生産性を高め、情報の解像度を高めた仕事ができるようになる」と語った。

M365 Chatのデモンストレーション

 では、Copilotはどういった仕組みになっているのだろうか。

 Microsoft 365 copilotは、「The copilot System」と呼ぶシステムとして稼働しており、これは、WordやExcel、PowerPoint、Outlook、Teamsなどの「Microsoft 365アプリ」、電子メール、ファイル、会議、チャット、カレンダーなどのすべてのコンテンツとコンテキストを蓄積している「Microsoft Graph」、そして、自然言語を通じてアクセスが可能な「大規模言語モデル(LLM)」の3つの基盤技術で構成されるという。

Microsoft 365 Copilot

 Copilotは、アプリを通じてプロンプトを受け取ると、グラウンディングによるアプローチで、プロンプトを事前に処理し、適切で実用的な回答を得られるようにする。

 ここでは、Microsoft Graphを呼び出してビジネスコンテンツとコンテキストを取得し、Copilotがプロンプトを改善することになる。その後、LLMにプロンプトを送信。責任あるAIが、セキュリティやコンプライアンスをチェックし、プライバシーを見直して、コマンドを生成することになる。

 最後に、Copilotがユーザーに応答を送信し、アプリにコマンドを返す。Copilotは、これらの仕組みで、サービスを繰り返して処理し、さらに高度化と効率化を図ることになる。

 「Copilotに対して、営業の佐藤さんの状況はどうなっているのかと聞いたときに、その佐藤さんはどの佐藤さんなのかを理解し、そこから必要な情報を収集し、大規模言語モデルを通じてサマリーをまとめ、責任あるAIのフィルターを通じて、私に返事が返ってくる。さらに、医療分野や製造分野に強いパートナーとの連携により、Copilotを拡張する形でサービスを提供できるような仕組みも用意している」と述べた。

 一方、沼本氏は、「AIの幕開けを迎えている現時点において、3つのAI Imperatives(喫緊の課題)がある」と指摘し、生産性の向上にCopilotを活用する「Unlock productivity with Copilot」、すべての顧客が自らのAIを持つことを支援する「Build your own AI capability」、ビジネスやデータを安全に保持する「Safeguard your business and data」を挙げた。

 「Unlock productivity with Copilot」では、先に触れたMicrosoft 365 Copilotの活用など、日々の業務で利用しているアプリケーションにおいて、AIを活用することが重要であることを指摘した。すでに生まれている成果として、Copilotを利用することで、ソフトウェア開発者のコード生成で55%の生産性向上を実現するとともに、開発者の満足度が向上。Microsoft 365 Copilotアーリーアクセスプログラムに参加している企業では、営業部門やカスタマーサポート部門での生産性向上などの成果があがっているという。

Unlock productivity with Copilot

 ただ、ここではMicrosoft 365 Copilotを使用するために月額30ドルの追加費用が必要であることに対して、高価であるとの指摘があるのも事実だ。現在の為替レートでは、4500円近い料金となり、1日150円程度の費用負担が発生する計算になる。

 沼本氏は、「価格設定に関しては多くのリサーチを行って決定した。高い生産性を得られるということがわかれば、その価値が理解してもらえる。1日150円程度で、1時間以上の生産性向上が図れれば、それは決して高くはない。Microsoft 365 Copilotアーリーアクセスプログラムに参加している企業からは、導入したいという声が多く、特にナレッジワーカーが多いコンサルティングファームでは価値が認められている。そこには、強い手応えがある。月額30ドルの価値を訴求することができる」と自信をみせた。

 Microsoft 365 Copilotは、2023年11月から一般提供が開始されることになる。日本マイクロソフトでは具体的な料金を発表していないが、Microsoft 365 Copilotが提供する価値の訴求に力を注ぐ考えを示した。

 2つめの「Build your own AI capability」では、自らの企業に最適化したAIを構築し、その活用を支援するものとなる。ここではCopilot stackを用意しており、アプリケーションレイヤーにおいては、Copilotによる標準機能とプラグインを活用して、エンドユーザーでも必要な機能を簡単に組み込むことができるほか、AIオーケストレーションレイヤーでは、GPT-4などの言語モデルを拡張しながら、自分たちの言語モデルを構築するといったニーズに対応。AI基盤モデルでは、OpenAIやHugging Faceなどの言語モデルを活用することができる。

 また、これらのサービスを支えるMicrosoft Azureの強みについても強調。「全世界60以上のリージョンに、200以上のデータセンターを持ち、競合とのベンチマーク比較では、AIモデル学習およびAIモデル推論のいずれにおいても5倍以上の性能を発揮している。システム全体の最適化によって実現しているものであり、AIアプリケーション開発、導入、運用において、最高のインフラを提供している」と胸を張った。

Microsoft Azureは、60以上のリージョンに200以上のデータセンターを持つ

 さらに、「AI開発において最も重要なのは、データの活用である。データがなければ良いAIは作れない」とし、「Azure Cosmos DBやMicrosoft Fabric、Microsoft Purviewなどにより、AIを行うためのUnified data estateの管理を行うことができる。また、Oracle、Snowflake、DataBricksと協業することで、データを統合させ、AIアプリケーションの開発、導入を加速できる。さらに、マイクロソフトでは、幅広いAIモデルを提供しており、2019年からスタートしたOpenAIとの協業だけでなく、Metaとの協業によるLlamaの提供、Hugging Faceとの提携による数千にのぼるLLMの活用を通じて、適材適所のAIモデルを選択できるようにしている」と語った。

 加えて、AIアプリケーションを開発するためのツールの品ぞろえにも力を注ぎ、Azure AI Studioを通じて、ユーザー独自モデルの構築や学習、プロンプトフローの作成、Azure OpenAIやOSSモデルと独自データのグラウンディングを可能にしている。

 「Azure AI Studioによって、最も包括的なエンドトゥエンドのAI開発ツールを、マイクロソフトは提供できると自負している」と述べた。

統合されたデータ資産
Azure AI Studio

 3つめの「Safeguard your business and data」では、AIの開発および運用において、ビジネスとデータの安全を保つことの重要性を示した。

 「お客さまのデータはお客さまのものであり、お客さまのAIモデルは、Microsoft Cloudが実現しているエンタープライズグレードのセキュリティとコンプライアンスによって、安全性を担保して運用することができる。ここは、マイクロソフトが最も自信を持っているところである」と語った。

 また、新たに発表したCopilot Copyright Commitmentについても言及。「Microsoft 365 Copilotで生成したコンテンツが、コピーライトに抵触するのではないかといったお客さまの心配を排除するものになる。商用化されたCopilot機能で作られたコンテンツが、万一、著作権上の異議を申し立てられた場合に、マイクロソフトは法的リスクに対して責任を負うことになるプログラムである」と述べた。

MicrosoftのエンタープライズAI保護策

 さらに、責任あるAIを担保した形で、Copilot機能を提供していることについてもあらためて強調した。

 沼本氏は、「AIが、新たなプラットフォームになる始まりの時期に来ている」としながら、これまでのIT産業の歴史を振り返り、「1980年代のPC、1990年代のウェブ、2000年代のモバイル、2010年代のクラウドといったプラットフォームシフトと、同じ変化をもたらすものになる」と位置づけた。その上で、「AIがプラットフォーム化する上で重要になるのが、人とコンピュータがどう対話するのかといったナチュラルユーザーインターフェイスである。テキストだけでなく、映像や音声を含めたマルチモーダルであること、さらにマルチドメインで、マルチターンでなくてはいけないと考えている。また、もうひとつ重要になるのが推論エンジンであり、これが成熟化していかなくてならない」と指摘した。

 その一方で、顧客自身のAI活用に向けた姿勢についても触れ、「日本の市場においては、AI導入の前にクラウド導入を検討してほしい。また、データ資産を活用することがAIには不可欠である。そして、GitHub CopilotやSales Copilot、さらにはMicrosoft 365 Copilotによって、生産性を高めてもらうところから活用してほしい。加えて、AIを導入する際にはROIのメジャメントをあらかじめ設定することも大切である。成果が理解できれば、より導入や活用が加速することになる」と提言した。