大河原克行のキーマンウォッチ

お客さまのCopilotとなり企業や個人の成長を支える役割を担う――、日本マイクロソフト・津坂美樹社長

 日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、「日本のクラウドおよびAIの領域において、リーダーシップのポジションを取る」と宣言する。クラウドビジネスの事業拡大は、これまでの日本マイクロソフトの基本方針と変わらないが、生成AIの急速な広がりにあわせて、AIの領域においてもリーダーとなることを明確化した。

 2023年7月からスタートした同社新年度では、「Microsoft Japan Will Empower and Copilot Your Growth」を掲げ、日本マイクロソフトが、日本のユーザーのための「Copilot(副操縦士)」となり、企業や個人の成長を支える役割を担う姿勢を明確にする。同社のAIにつけられた「Copilot」のブランドとも掛け合わせた新たなスローガンだ。

 2023年2月に社長に就任してから8カ月目に入った津坂社長に、日本マイクロソフトの新たな事業戦略について聞いた。

日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長の津坂美樹氏

社外から見ていたマイクロソフトと、入社して感じたマイクロソフトとの差は?

――日本マイクロソフトの社長に就任して約8カ月を経過しました。社外から見ていたマイクロソフトと、入社して感じたマイクロソフトとの差はありますか。

 マイクロソフトは、多くの製品やサービスを提供し、屈指の時価総額を誇り、世界をリードする企業のひとつです。そのすごさは外からも感じていましたが、中に入ってみると、それ以上にすごさを感じています。特に、社内の「引き出し」の多さと、社外の「引き出し」を活用できる広さ、そして、それを実行に移すスピードは、社内に入って目の当たりにしたすごさのひとつです。

 その一方で、外からはわからなかったことは、米本社のシニアリーダーシップチーム(SLT)が、優れたバランスを持ち、その上で経営を行っているという点です。例えば、SLTのメンバーのマイクロソフトの在籍期間を見ても、25年以上の人と、10年以上の人、最近入った人が、ほぼ3分の1ずつで構成されています。全社規模で見ても、これは同じで、長年在籍している人がその経験を生かす風土がある一方で、最近入ってきた人は、外からの空気を取り込み、「なぜこういうことをやらないのか」、「なぜこういうやり方をしているのか」という新鮮な意見を述べることができる環境があります。あらゆる経歴を持った人たちで構成される組織が、ワンチームとして常に進化していることに驚きを感じました。

――「引き出し」とはなにを指しますか。

 私は、ボストンコンサルティンググループ(BCG)で、ニューヨークで20年間、東京での15年間にわたる戦略コンサルタントの仕事をしてきましたが、ここでは、持っている「引き出し」を全部開けて、お客さまに必要なものを持っていくという手法を学びました。サプライチェーンの話が必要であれば、サプライチェーンの「引き出し」のなかから最適な人を連れていき、テクノロジープラットフォームの話であれば、そこに最適な人を「引き出し」のなかから見つけて連れていく。必要に応じて、社外の「引き出し」を活用することもありました。

 マイクロソフトの「引き出し」の多さを表現する際に、最もわかりやすいのが製品やサービスです。お客さまの状況を30階建てのビルで例えると、最上階となる30階にはCEOがいて、29階にはCIOやCFOなどがいて、その下のフロアには、事業部長や部長、社員などがいるとします。多くの企業の場合、このいずれかのフロアを対象にしたり、特定部門向けの製品が多かったりするのですが、例えば、Microsoft 365では、すべてのフロアの人たちが使うことができる製品であり、各フロアのお客さまと接点を持っています。

 しかも、これだけにとどまらず、インフラを提供したり、サービスを提供したり、セキュリティも提供しています。売るものがたくさんあるというのはぜいたくな悩みだともいえます(笑)。多くの製品があり、それらが最新のテクノロジーを持ったものであり、お客さまの改善につなげることができます。言い方を変えれば、すべてのフロアに対してアプローチしなくてはなりませんから、とても忙しい仕事なのですが、私たちはウキウキしながら忙しい仕事を楽しんでいます。

 「引き出し」というのは大切なものをしまっておく、重要な場所です。「引き出し」に入っているものは大切なものばかりです。

 マイクロソフトは、プロダクトの「引き出し」が多いだけでなく、さまざまなバックグラウンドを持った人材が在籍しているという「引き出し」があり、さらに、お客さまもエンタープライズだけでなく、政府、自治体、学校、病院などの公共分野、日本の経済を支える中小企業、そして個人ユーザーに至るまで幅広いのが特徴です。これも「引き出し」の多さだといえます。

 そして日本マイクロソフトは、パートナービジネスを基軸としており、幅広いパートナーと連携をしています。これも私たちから見ると、重要な「引き出し」となります。加えて、日本マイクロソフトにとって、デベロッパーも大切です。デベロッパーの存在があるからこそ、製品やサービスにさまざまな機能が実装され、企業がその恩恵を受けることができます。これもマイクロソフトにとって重要な「引き出し」です。お客さま、パートナー、デベロッパー、そして社員といった「引き出し」の多さは、まさにマイクロソフトの強みだといえます。

マイクロソフトの社長として役に立つスキルはリュックサックの中にたくさん入っている

――日本マイクロソフトの社長に就任してから、どんなことにこだわって経営をしていますか。

 私は、IT業界のなかから来た人間ではありませんから、学ぶことがとにかく多い。まずは学ぶことに時間を割きました。一方で、外から来たからこそ、その視点を生かすことができます。これまでの経験をもとに指摘してほしいという要望があれば、意見を述べるようにしています。

 先に触れたように、日本マイクロソフトのSLTも、長年にわたり、マイクロソフトに在籍している人、一度他社に行って戻ってきた人、私のように入社したばかりの人が混在しています。また昨年のいまごろと比べると、SLTのメンバーは約7割が入れ替わっています。このように、これまでの視点と、新たな視点を組み合わせた経営を行っています。

 一方、毎週金曜日には、全社員に向けてビデオメッセージを配信しています。すでに30回以上の配信を行っており、日本語と英語で、お客さまにお会いした時に聞いた話や、厳しい声をいただいた時の話などもシェアしています。

 オープンドアの姿勢で仕事をするのが、私のスタイルです。また、外の空気を吸って、それをビジネスに生かすのも私のやり方です。私は、ビジネスには聞く力を持つことが大切だと思っています。社長就任直後は、社内に割く時間を増やし、マイクロソフトを学ぶことに時間を費やしましたが、その後は、お客さまやパートナー、デベロッパーの方々とお会いする時間を増やしました。ただ、7月前後になると、新年度がスタートするのにあわせて、また社内に時間を割くことが増えたのですが(笑)、ここにきて、再び社外に向けて多くの時間を割くようにしています。Outlookで行動分析して、「今月はもっと社外に時間を使わない」といけないと判断すれば、外に出ることを増やしたりしていますよ。

 いまは、2カ月に1回のペースで米国本社に行っていますが、米本社にいる時間も、社内の仕事だけに時間を割くのでなく、お客さまとのミーティングを入れたり、日本のお客さまをお呼びしたりといったこともしています。

――津坂社長のこれまでの経験は、日本マイクロソフトの経営にどう生きますか。

 戦略コンタルタントの仕事の半分以上がデジタルであり、ビジネス変革はテクノロジーがないと進みません。私は、ビジネス変革における「川上」の領域で長い期間、経験を積み、企業の課題を知り尽くし、それを解決するためのプランを作ってきました。また、CEOやCIOと対話をしたり、消費財や流通、金融、保険、製造、ハイテク、メディア、通信などのさまざまな業種を担当し、マーケティングやセールスといった部門とも緊密に連携し、助言を行ってきました。こうした現場を知る経験は、日本マイクロソフトにおいても武器になると思っています。

 日本マイクロソフトは、もともとプロダクトが強い会社であり、ライセンス販売の時代には、マイクロソフト製品を継続的に使ってくれる人が多い状況にありました。しかし、クラウドやAIの時代になると、日本マイクロソフトが、お客さまのことをより深く知らないと、正しいものを提案できない状況に陥ります。また、マイクロソフトから他社に乗り換えられてしまうといったことも発生します。どうやってお客さまのことをより深く知るのか。そこにも私の経験が生きます。

 日本のお客さまのグローバル化が進展している状況や、そこに対して、マイクロソフトが持つ海外の先進事例を提案できること、グローバル企業の成果を日本の企業に届けるということは、前職と同じ手法を用いることができます。

 さらに、人の管理はこれまでにもずいぶんやってきました。テクノロジー企業であっても、人と人の触れ合いが大切であることに変わりはありません。時代の変化にあわせながらも、人との接点を重視した組織づくりや社員育成を進めていきます。

 ただ戦略コンサルタントは、来週の戦略は作りません(笑)。言い換えれば、日本マイクロソフトの社長に求められる短期のプランと実行力に、戦略コンサルタントで培ってきた長期的視点でとらえる手法を組み合わせることができるともいえます。中長期の目線と、短期のリアリティを結びつけて経営をしていきたいですね。

 日本マイクロソフトの社長として役に立つスキルは、リュックサックの中にたくさん入っています(笑)。これまでに培ってきたスキルは、全部使いますよ。

――どんな日本マイクロソフトにしたいと考えていますか。

 いくつかの視点があります。大きな目標は、マイクロソフトがミッションとして掲げている「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」会社になることです。

 いまは、生成AIの大きな潮流がありますから、これをしっかりととらえ、AIといえば、まずはマイクロソフトに声をかけてもらえるという状況を定着させます。マイクロソフトは、AIにおいては、競合優位性がありますから、それをフルに活用していきます。

 また、日本の大手企業や中堅中小企業、日本の政府・自治体の変革を加速する支援をしていきます。いまは、支援を実行するにはどうするか、どんな種まきをして、どこに水をまくのかということを議論しているところです。お客さまのニーズはなにか、そこになにを提案するのか、そのためにはどんなアプローチをするのかといったことを、スピード感を持って、実行に移していきます。もっと効率よく、もっと働きやすい環境を提案し、日本を元気にする会社になりたいですね。

 また社員にとって、魅力的に思える企業にすることも重要です。日本マイクロソフトでがんばりたいと思ってもらえたり、働きたいと感じてもらえたり、優秀な人材を引き寄せることができるタレントマグネットになりたいですね。働く人たちにとって、圧倒的ともいえるトラステッドブランドやリクルーティングブランドになることを目指します。

日本のクラウドおよびAIでリーダーシップを発揮できるポジションを取りたい

――2023年7月からスタートしている新年度における重点ポイントはなんですか。

 本社からは、すべての領域を伸ばしてほしいと言われていますから(笑)、クラウドをはじめとして、すべての領域において、市場全体の伸びを超える成長を目指していきます。ただ、そのなかでも、最も重要な領域がAIです。すでに、あらゆることにAIが関わっていますし、この流れはますます加速します。いまはAIが特別なもののように記事で取り上げられていますが、3年後には、AIは当たり前のようになっているでしょう。

 そうした時代を見据えて、AIへの取り組みを強化していきます。日本マイクロソフトでは、すべてのプロダクトにAIを組み込んで、それを日本のお客さまに提供していくことになります。しかも、それを、責任あるAIとして提供していきます。ここにマイクロソフトのAI戦略の大きな特徴があります。

 私は、日本のクラウドおよびAIの領域において、リーダーシップを発揮できるポジションを取りたいと考えています。そして、この2つの領域でナンバーワンを目指します。ただし、市場シェアが大きければいいというわけではなく、クラウドやAIといった時に、まずはマイクロソフトを想起してもらい、相談してもらえるということが大切です。幸いにも、生成AIの話を、日本マイクロソフトに聞きたいという要望が多く、さまざまな方々と生成AIに関して日々議論をしたり、ご提案をしたりといったことを行っています。本社およびアジアリージョンからは、日本市場での継続的な成長に向けて、日本への投資を行っていく方針が出されていますから、より積極的に活動を進めていきます。

 もうひとつのポイントはスピードです。日本はDXが遅れていると指摘されていますが、AIを使うことで、日本の企業変革への取り組みが一気に変わることになると思っています。日本は、高齢化や少子化が進むなかで、人材不足や労働力不足、タレント不足が課題となっており、マイクロソフトが掲げている「Do more with less(より少ないリソースでより多くを)」といった取り組みが、特に重要な市場だといえます。AIはそれを実現するための重要なテクノロジーであり、新たなテクノロジーを活用することで、日本の企業の業務改善やプロセス改革、アジャイルな組織への変革を支援できます。

――生成AIについては、これまでにないスピードで次々と新たな製品やサービスを発表しています。長年、マイクロソフトを取材していますが、これだけの大きな発表が相次ぐスピード感は、これまでにはないものだといえます。

 私のマイクロソフトへの入社と生成AIの広がりが、ちょうどリンクしましたから、周りからは、「いい時に社長になったね」と言われます(笑)。ご指摘のように、AIに関しては数多くの製品やサービスを発表しています。すでに市場に提供しているものもあれば、発表はしているものの、市場投入はこれからというものもあります。そして、まだ発表していないものもあります。これらのAI関連製品やサービスが、市場に投入されたら、日本でもいち早く動けるように準備を進めているところです。日本のお客さまに、タイムラグなく、すぐに使えるように準備することは、私たちの重要な役割のひとつです。それを実現するために、日本マイクロソフト社内にAI人材を増やすだけでなく、米本社、アジアリージョンと日本マイクロソフトが連動して、迅速に動けるように連携を強化しているところです。

 先ごろ、Azure OpenAI Serviceを東日本リージョンから提供開始しましたが、日本はいい意味で“ひいき”されていて(笑)、サービス開始にあわせて、当初の計画以上にデータセンターを拡張してもらい、大きなキャパシティを用意することができました。日本のみなさんには、ぜひ、これを使い倒してもらいたいですね。日本のお客さまに多く利用していただけると、さらに、より多くの投資が可能になりますから。

 いまは、多くの方々とお会いするなかで、AIが話題に出ない会議はひとつもありません。関心はDXから、AI Transformation(AX)へと変化してきており、先進的な事例を知りたいといった声も多く聞かれます。日本の企業はこれまで以上にDXを加速しなくてはなりません。そこに生成AIが有効です。ステップを踏んだ進化ではなく、一気にジャンプすることができるテクノロジーが生成AIだといえます。

これからの変容

“まずはやってみる”というところから踏み出す姿勢が大切

――生成AIに対して、企業や政府、自治体は、どんな姿勢で向き合うべきなのでしょうか。

 東京都のWebサイトでは、「文章生成AI利活用ガイドライン」を公開し、ChatGPTの利活用について説明をしています。文章生成AIという新しい技術を正しく使いこなし、行政サービスの質を高め、都政のQOS(Quality of Service)向上へとつなげていく姿勢を示しています。実は、これは日本マイクロソフトが協力して作り上げものであり、政府や自治体でChatGPTを活用する際の指針になるのはもちろん、企業においても参考にできる部分が多い内容となっています。生成AIにどう向き合うべきかをわかりやすく示しています。

 私が生成AIに対する姿勢として、キーポイントになると考えていることは、少しでもいいですし、一部の社員だけでもいいですから、まずは使ってみることです。多くの企業が、どこに生成AIを活用すると効果が生まれやすいのか、といったことを模索しているところですが、元日本マイクロソフト社長の樋口さん(パナソニックコネクト CEOの樋口泰行氏)が率いるパナソニックコネクトのように、まずはやってみるというところから踏み出す姿勢が大切です。マラソンに参加するにも、筋トレをしたり、少しずつ走る練習をしたりといったことをしておかないと、さぁ、走ろうという時に、ほかの人たちは、ずっと先に行ってしまうことになりかねません。

 日本の企業の場合、口では「失敗してもいい」といいながら、なかなかそれが通用しないところがありますが、Azure OpenAI Serviceを利用すれば、安全に生成AIを利用できますし、社内でハッカソンをやると、社員から生成AIを活用したアイデアが多数出てきたといったことが多くの企業で起きています。アイデアが出たら、どこからはじめれば成果が出るのか、経済効果はどうか、効率性はどうかといったことをリストアップし、筋がいいものがあれば、そこに取り組んでみる。内容によっては、GPT-4を使わなくても、GPT-3.5で十分できてしまう場合もあります。

Azure OpenAI Service

 もちろん、日本マイクロソフト自身も、社内で使い倒すことが必要です。私も積極的に使っています。自分たちがフル活用して、その効果を感じなければ、自信を持って薦められないですからね。個人的には、マイクロソフトに入社したことで、最新の技術に触れる機会があり、いち早く使わせてもらえることをとても喜んでいます(笑)。日常の業務のなかでCopilotを使い、そこで感じたことをエンジニアにフィードバックしています。

――ちなみに、Microsoft 365 Copilotの料金が月額30ドルと発表されました。価格設定が高いと感じますが。

 私は高くないと思っていますよ。すでに先行して利用していますが、月額30ドル以上の価値を生み出しており、圧倒的ともいえる効率化を実現しています。ただ、このサービスを提供するには多くの処理能力が必要になりますし、まだ、社員全員が使うという考え方ではなく、一部の人が利用するということが前提になっています。いまは、すべての人が利用してもらう前の段階にあると理解してください。

 マイクロソフトでは、Microsoft 365 Copilotを、2023年11月1日から一般提供を開始することになります。Microsoft 365 ChatやOutlook、Excel、Loop、OneNote、OneDrive、Word向けにCopilot用の新機能も搭載します。また、Copilotアイコンが、Microsoft 365やEdgeをはじめとしたMicrosoftアプリケーションのサイドパネルや、Windowsのタスクバーでも利用できるようになり、マイクロソフトが提供する最新AIを体験できる入り口が用意されます。Microsoft Copilotと呼ぶ新たなCopilotエクスペリエンスにより、より多くの人に、マイクロソフトのAIを体験してもらいたいと考えています。

Microsoft 365 Copilotの画面

――日本の企業が生成AIを使用するために、日本マイクロソフトでは、どんな支援を行っていきますか。

 生成AIに対しては、コンサバティブな会社がある一方で、逆に「そこまでやるんですか」というほど積極的な現場があり、IT部門が困っているケースがあるとも聞きます。ですから、それぞれの企業の状況にあわせた支援体制を敷くことが大切だと思っています。日本では、AIが広がるの伴い、自分たちのデータを守るという動きがますます活発化していくでしょう。そこに対して、Microsoft Fabricのような製品を提案したり、マイクロソフトが持つ強固なセキュリティ技術がより生かされるようになったりします。
 一方で、生成AIの利用を加速させるためには、スタートアップ企業に対する支援も重要だと思っています。スタートアップ企業のなかには、生成AIを活用することで、これまでとは異なる成長を遂げたり、新たなビジネスを創出できたりといったケースが少なくありません。成長のためにも、生成AIを活用してもらいたいと考えており、そのための環境を提供していきます。

 また、生成AIを中心とした先端技術を、お客さまのビジネスに適用するための共創施設として、Microsoft AI Co-Innovation Labを神戸市に設置します。ここでは、エンタープライズや中小企業、スタートアップなど、規模を問わずに、日本およびアジアのお客さまのビジネスに対して、AIやIoTなどの技術適用を支援することになります。

Microsoft AI Co-Innovation Lab

 もうひとつ重視しているのがデベロッパーです。デベロッパーコミュニティへの支援は、生成AIに限らず、日本マイクロソフトにとって重点領域のひとつに位置づけており、より多くの投資をしていきます。日本のデベロッパーに、マイクロソフトのファンになってもらうことが、日本を元気にすることにつながると思います。マイクロソフトが、Copilotの最初の製品として提供したのは、GitHub Copilotです。これも、マイクロソフトがデベロッパーを幸せにしたいという姿勢の表れだと受け取ってもらえるのではないでしょうか。デベロッパーは、私個人のバックグラウンドから見ると、一番遠いところにあるといえるかもしれませんが、だからこそ、しっかりお付き合いをしていきたいと考えています。

津坂社長が打ち出した最初のスローガンは?

――社長就任以降、日本マイクロソフト独自のスローガンを対外的には打ち出していませんが。

 いろいろと検討を進めてきましたが、新年度においては、「Microsoft Japan Will Empower and Copilot Your Growth」といったスローガンを打ち出したいと考えています。日本マイクロソフトの役割は、お客さまの「Copilot(副操縦士)」となり、企業や個人の成長を支える役割を担い、寄り添っていくことです。この姿勢を明確にしていきます。そして、お気づきのように、「Copilot」という言葉は、Microsoft 365 CopilotをはじめとしたマイクロソフトのAIに使用しているブランド名と掛け合わせたものになっています。

Microsoft Cloudの各サービスにCopilotを

――今後の日本マイクロソフトの進化は、どこに注目しておくべきですか。

 いま、日本マイクロソフトが、どんなポジションにあるのかということは、外部データをもとにとらえてもらえばいいと思うのですが、先に触れたように、マイクロソフトは、数あるテクノロジー企業のなかで最も「引き出し」が多い会社ですから、これらのプラットフォームやプロダクト、サービスを使い倒してもらえる会社になっているかどうか、という点を評価してもらいたいですね。

 お客さま、パートナー、デベロッパー、社員といったそれぞれのフレームワークで、日本マイクロソフトは、どう貢献しているのかといった点も重要なポイントだと思っています。また、歴代9人目となる日本マイクロソフトの社長として、お客さまやパートナーに、しっかりとした印象を持ってもらい、聞く耳を寄せてくれたと言ってもらえる存在になりたいです。

 さらに、多くの人たちが、日本マイクロソフトで働きたいと言ってくれる会社にしたいですし、時代の変化にあわせた社員の育成にも力を入れていきます。前職は35年間在籍しましたが、今度は、35年間はやりませんから(笑)、次の世代から、私を追い越して社長になれるような人材も育てたいと思っています。そして、繰り返しになりますが、クラウドとAIでは、日本において、ナンバーワンのポジションを目指します。