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マイクロソフトが「Microsoft AI Tour - Tokyo」を開催、米本社の沼本健CMOがCopilotの強みをアピール
2024年2月21日 06:00
日本マイクロソフト株式会社は20日、東京・有明の東京ビッグサイトで、「Microsoft AI Tour - Tokyo」を開催した。
Microsoft本社主導のワールドツアーとして、2023年9月の米国ニューヨークでの開催を皮切りに、世界13都市で展開しているイベントで、「一歩先を行くAIトランスフォーメーションの実現」をテーマに実施。今回の東京での開催は、日本の都市としては唯一の開催地となり、意思決定者と開発者を対象に、Copilotを中心とした同社AIに関する各種セッションが行われた。
日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、「Microsoft AI Tourは、AIによってビジネス成長を加速するためのイベントであり、それを新たなソリューションやテクノロジーを通じて支援していくことになる。今回の東京のイベントには3000人以上が参加している」と述べた。
基調講演では、米Microsoft エグゼクティブ バイス プレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO)の沼本健氏が登壇。「GUI、モバイル、クラウドといったプラットフォームシフトを目の当たりにしてきたが、AIはそれらと比べても、最も大きな変化になると考えている。これからやってみるという技術ではなく、すでに、個人の生産性を高め、チームの協業の仕方を変え、すべての業界でAIが活用されている段階にある」と切り出した。
沼本氏は2023年10月に、米MicrosoftのCMOに昇格。サティア・ナデラCEOの直属の立場として、同社のすべての製品とサービスに関する製品マーケティング、ブランド、広告、市場調査、イベント、コミュニケーションなど、世界中のマーケティングを統括している。CMOとしては、今回が初めての日本での講演となった。
講演では、CMOの立場から、Microsoft Copilotのネーミングやロゴマークについてのこだわりについて言及。「Microsoftは、地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにするというミッションを掲げており、その会社が提案するAIテクノロジーは、Autopilotではなく、人を中心としたCopilot(副操縦士)である」とコメント。ロゴについては、「ハンドシェイクをモチーフにしている」と語った。
Microsoftでは、「Digital and App Innovation」、「Data and AI」、「Modern Work」、「Business Application」、「Infrastructure」、「Security」の6つのカテゴリーで、Microsoft Cloudを提供しているが、Microsoft Copilotでも同様に、この6つのカテゴリーにおいて、横断的にテクノロジーを提供していることを強調。さらに、AIによって「従業員体験の充実」、「顧客エンゲージメントの改革」、「ビジネスプロセスの再構築」、「イノベーションのカーブを曲げる」という4点で効果があると指摘した。
すでに、先行利用した企業からは、情報検索に費やす時間が75%短縮でき、日常的な煩雑な作業では71%の時間節約が実現されていること、欠席した会議のキャッチアップの時間は3.5倍速くなっていること、週平均で1.2時間の削減が可能になっていること、77%のユーザーがCopilotを手放したくないと考えていることなどをあげ、「個人的には時間削減は、週1.2時間以上になっていると感じている。私自身、もはやCopilotなしに仕事をすることは考えられない。先行ユーザーのなかでは、ランチを無料にしてもらうよりも、Copilotを提供してほしいという声が社員から上がっているケースもある」と述べた。
日本の企業を対象にした調査では、社員が英語による会議に出席した際に、Copilot を使った会議内容のまとめに関する精度は97%に達しているという評価についても紹介した。
「Copilotは、ナレッジワーカーにとって大きなメリットがあるが、セールスやソフトウェア開発者、カスタマサービス、セキュリティ運用、データ&ITプロフェッショナルにとっても成果がある。どの業界においても、どの従業員に対しても、ソリューションとして提供できるものになる」とした。
セールス分野向けのMicrosoft Copilot for Sales、カスタマサービス向けのMicrosoft Copilot for Service、セキュリティ運用向けのMicrosoft Copilot for Security、ソフトウェア開発者向けのGitHub Copilotをラインアップ。さらに、Microsoft Copilot Studioの日本語対応を開始したことも発表した。
講演の前半で紹介したこれらの取り組みは、Microsoft Copilotを活用して、ビジネス全体の生産性を向上させる取り組みであるとしたが、さらに、オープンなAIプラットフォームとパートナーエコシステムを通じて、顧客自身が特有のAI機能を構築する取り組みについても説明した。
沼本EVP兼CMOは、「固有のビジネスプロセスに合致した独自のAI機能を構築したいという要望に対しても、Azure AIによって対応できる。MetaのLlama2ファミリーのサポートや、Hugging Faceによるオープンソースモデルも利用でき、さらに、ローコードのMicrosoft Copilot Studio、プロコードのAzure AI Studioという2つのAIツールを活用することで、それぞれの状況に応じて、独自のCopilotを構築できる。また、MicrosoftがCopilotを構築する上で得た学びを、ユーザーにも生かしたいという狙いからCopilot stackを提供している」などと述べた。
ここでは、「Microsoftがパートナーと協力しないと、顧客がAIトランスフォーメーションを実現できない」と前置きし、「Copilotの技術がどんなに優秀でも、顧客特有のワークフローに落とし込んで利用できなくては、その力を発揮できない。アプリケーションやサービスとして展開するためには、パートナーエコシステムが重要な役割を果たし、パートナーとの連携は不可欠である。日本においても、顧客のAIトランスフォーメーションを加速するためのエコシステムが構築されている」と述べた。
さらに、信頼に基づいた共同イノベーションによるビジネスの保護という観点からも説明を行った。
「AIの安全性は、後づけで考えるものではない。Microsoftは設計の初期段階から安全性を考えて開発をしている」と発言する一方、「Microsoftの基本姿勢は、データは顧客のものであり、許可なしにOpen AIの基盤モデルのトレーニングには顧客のデータを用いず、包括的な企業コンプライアンスとセキュリティにより、顧客データを保護しているのが特徴である。Microsoftは、エンタープライズグレードのセキュリティ、プライバシー、コンプライアンスを実現するとともに、2018年から責任あるAIにおける6原則を発表し、17の目標に取り組んでいる。それによって、信頼できるAIを実現している」とした。
さらに、Copilot Copyright Commitmentにより、Copilotを使用して作成した文書などに対して、著作権上の異議申し立てがあった場合に、Microsoftが法的リスクに対する責任を負うことを表明していることにも触れた。
沼本EVP兼CMOは、講演の最後に、AI活用の準備に向けた5つの柱として、「事業戦略」、「技術戦略」、「AI戦略と体験」、「組織と文化」、「AIガバナンス」を挙げ、「DX全体にいえることは、うまくいかない場合のほとんどが、事業戦略が明確でなかったり、組織や文化に問題があったりというように、技術的な要素でないことが多い。生成AIの活用も同じである。技術以外の観点からも、Microsoftは顧客に寄り添う形で、日本のAIトランスフォーメーションを支援していきたい」としたほか、「日本には課題が多く、国民一人ひとりの生産性を高めるには国家レベルでの取り組みが必要である。これは生成AIが貢献できる部分でもある」と述べた。
基調講演にゲストとして登壇した本田技研工業 執行職 デジタル統括部長の河合泰郎氏は、「従業員の働き方や日々の業務を加速できるのが生成AIである。これが進展することで、人は本来やるべき意思決定や思考にフォーカスでき、その結果、競争優位につなげることができる。負けないためには、早く使うことが大切である」とし、「生成AIは、一般常識を高いレベルで知能化したレイヤー、ホンダ社内の日々の業務のなかで出てくる情報や知識を知能化するレイヤー、専門的な情報を意図を持って知能化していくレイヤーの3階層で考えているが、Copilot for Microsoft 365は、2番目のレイヤーで活用することになる。これを使いこなすためには、データが大切になる。異なるツールやデータ管理の壁を乗り越えて、知能化できる点が特徴となる。また、Microsoft 365で使っているデータを、そのままCopilotで使える点も大きな要素になる。これにより、自分たちが知っていることに基づいたAIを従業員一人ひとりに提供することができる」と述べた。
また、同じくゲストとして登壇したサイバーエージェント 専務執行役員 技術担当の長瀬慶重氏は、「生成AIの登場は、インターネットやスマートフォンの登場と同じインパクトを感じている。GitHub Copilotが登場したときには、すぐに社内導入を決定し、現在は1000人以上のエンジニアが使っている。社内に導入支援を行う専門部署を設置し、利用状況をモニタリングしながら、優れた事例を社内で共有することで、GitHub Copilotの利用を拡大していった。生産性は10%向上したが、1年後には20~30%程度に生産性を引き上げ、3年後には50%にまで引き上げたい。生産性が1.5倍にあがれば、エンジニアがよりクリエイティブな仕事ができるようになる」とコメント。
「生成AIを徹底的に活用している企業と、そうでない企業との間には、3年後には大きな差が出る。活用している企業しか生き残れないとさえ考えている。より積極的に生成AIを使っていきたい」と語った。
2024年は生成AIをスケールさせ、フル活用する年になる
一方、基調講演の冒頭に登壇した日本マイクロソフトの津坂社長は、「2023年はAIを語る段階であったが、2024年は、生成AIをスケールさせ、フル活用する年になる」とし、「マイクロソフトは、半世紀前に、すべての家庭にPCを普及させることを打ち出し、それを成し遂げたが、いまはCP(Copilot)を日本中のみなさんに届けることが私の夢である。マイクロソフトは、すべての製品にAIを取り込むことを宣言している。未来の技術は手元にきている。Copilotをいち早く使っている人の70%が生産性の向上を感じ、67%の人が時間の節約ができたと回答した。また、要約タスクを29%短縮し、名刺の処理時間も3分の2の時間に短縮できる」と語った。
さらに、「日本のお客さまからも、新たなテクノロジーの活用事例がどんどん生まれており、もはやAIなしでは仕事ができない、業務量の90%以上を削減することができた、本来の仕事に集中できるようになった、ROIが340%に達したなどの声が挙がっている。日本の企業においても、組織内の働き方の変革や効率化だといった成果だけでなく、組織を横断した活用が進み、AIの民主化が実現できている」と指摘した。
また、自らCopilotを使用している立場から、「今日からはじめてもらいたいことがある」と切り出し、それを「AIの筋トレ」と表現した。これはAIをより効果的に使用するためのスキルのことを指す。
「最初のうちは、ある程度やったところで、AIの筋肉がついたかなと思ったが、さらに進めると、スキルが横ばいになる感じがあった。しかし、毎日毎日使い続け、Copilotと議論を繰り返すことで、自分にさらにAIの筋肉が付いてきたと感じることができるようになった。今回のMicrosoft AI Tourは、AIジムであり、1日をかけてトレーニングすることができる。明日からも、引き続き、AI筋肉のトレーニングをしてほしい」と、独特の言葉で提言した。
また、講演のなかでは、経済産業省の調査では、日本における生成AIの経済効果が、2025年度までに中小企業で11兆円、日本全体で34兆円のインパクトがあり、日本のGDPの約6%に達することが示されていることを紹介。
さらにMicrosoftの試算では、1ドルの投資に対して、3.5ドルのリターンがあるという結果が出ていることを示しながら、「生成AIは、人口減少や高齢化、労働生産性といった日本が抱える課題解決に貢献できる。働き方改革や新たなビジネスの創出が注目されるなかで、Copilotはみなさんの副操縦士として、やりたいことをサポートする。エンジニアでない私でも使えて、いつでも、どこでも、誰にでも、呼び出すことができ、アシスタントとしての役割だけでなく、チームメートや同僚、通訳者にもなったりする。AIの民主化を実現するプラットフォームとなっており、すべての人をエンパワーし、多くのことを達成できるようにすることができる。日本マイクロソフトは、あなたのCopilotとして成長を支える」と述べた。
なお、津坂社長は、日本におけるMicrosoft AI Partnersは、150社以上に拡大したことを発表。さらに、Azure AIのグローバルでの採用社数は5万3000社以上に達し、そのうち日本では数1000社が採用。初めてAzure AIを利用した新規顧客がグローバルで3分の1以上を占めていることなども明らかにした。