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不退転の覚悟でAIに取り組んでいる――、米Microsoft・沼本健CMOが示したAIへの意気込み

 東京・有明の東京ビッグサイトで開催したワールドツアーイベント「Microsoft AI Tour-Tokyo」にあわせて来日した、米Microsoft エグゼクティブバイスプレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO)の沼本健氏が、日本のメディアの共同インタビューに応じた。

 「Microsoftは、2012年から不退転の覚悟でクラウドに取り組んできた経緯があるが、いまはそれ以上の強さで、AIを成功させようとしている。不退転の覚悟でAIに取り組んでいる」と述べたほか、「重視しているのは、Copilotを浸透させるスピードである。有料版がいくつ売れたかだけでなく、無料版のCopilotの利用者をいかに増やしていくかも重要な要素である。PCだけでなく、スマホでの無料利用者を増やすことも、事業拡大の基盤になる」と述べた。

米Microsoft エグゼクティブバイスプレジデント(EVP)兼チーフマーケティングオフィサー(CMO)

 米Microsoftの沼本EVP兼CMOは、昨今の生成AI市場について、「AIは、IT業界だけのキーワードではなくなり、世間一般のキーワードになりつつある。2023年は、AIについて語ったり、検討を開始したりといった段階だったが、2024年は、AI導入や活用が進む1年になる」と述べたほか、「企業のAIトランスフォーメーションの実現に向けて、Microsoftは、ファーストパーティーとしてのMicrosoft Copilotの提供、このプラットフォームを開発する上で蓄積した知見やケイパビリティ、学びを反映した形で、顧客独自のAIの開発を支援するCopilot stackの提供、それらを利用する上で重要になる『責任あるAI』の提案を行っていくことになる」と語った。

 その上で、「Microsoftは、不退転の覚悟でAIに取り組んでいくことになる」と宣言する。

 「Microsoftは、2012年から不退転の覚悟でクラウドに取り組んでいった。いまはそれ以上の強さで、不退転の覚悟でAIを成功させようとしている。これが、Microsoft社内における大号令となっている」と発言。直近3カ月間のAIへの投資額は、2010年のクラウドに対する年間投資額の2倍以上になっていることを示しながら、「AIに対しても、不退転の覚悟があることがわかってもらえるだろう」とした。

 また、生成AIの普及戦略については、「商業的に成功したOffice 365 E3やE5よりも、立ち上がりが早い」と、有料版の動きが順調であることを示しながらも、「さまざまな形でユーセージを増やしていく」と語り、有料版の販売を強化だけでなく、無料版の普及にも注力。PCだけの利用だけでなく、iOSやAndroidといったスマホやタブレットでの利用を促進するほか、コマーシャルにも、コンシューマにも積極的に展開する考えを示した。

 具体的には、「生成AIの普及戦略で重視しているのは、市場にCopilotを浸透させるスピードである。有料版がいくつ売れたかといった指標だけで評価するのではなく、無料版のCopilotの利用者をいかに増やしていくかも重要な要素である。無料での利用が増えれば、有料版の利用を広げるベースになる。2024年2月のスーパーボールで放映したMicrosoftのCMでは、最後のメッセージで、iOSとAndroidのモバイルアップをダウンロードしてほしいと呼びかけている。PCだけでなく、スマホの無料利用者を増やすことも、事業拡大の基盤になる」と話す

 また、「Copilotは、Windowsのような役割を果たすことになる。例えば、コンシューマとコマーシャルのいずれにおいても利用できるという点では同じである。Copilotは、今後の情報活用において慣習的に使われるものになるだろう。機密性が高いデータを扱うビジネスの世界と、プライベートに使うパーソナル利用の世界を行ったり来たりする使い方もできる。また、生成AIの特徴は、利用が促進されるのに従い、カテゴリーなどの敷居が無くなり、透過的に情報を交換することができるようになる点だ」と指摘した。

 さらに、「Officeアプリが生産性向上ツールとして、あらゆる業種においてベーシックに利用されており、このアプリが役に立たない顧客はあまり居ない」と前置き。「Copilotも同様であり、さらに、Officeアプリよりもフットプリントが大きくなる可能性が高い。必ずしもPCを必要とせずに、モバイル端末でも使えること、フロントラインワーカーにも使ってもらえること、表計算を使わない人やプレゼンテーション資料を作成しない人にもCopilotを使ってもらえるシーンは多い。Officeアプリよりも役に立つ場面が多く、当然、市場の裾野は広くなる」と述べている。

 このほか沼本EVP兼CMOは、Copilotの立ち上がりが好調な理由のひとつとして、沼本EVP兼CMOは、Microsoft社内のカルチャー変革が進んだことを挙げた。

 Microsoftのクラウドサービスの総称であるMicrosoft Cloudでは、「Digital and App Innovation」、「Data and AI」、「Modern Work」、「Business Application」、「Infrastructure」、「Security」の6つのソリューションエリアをカバーする形で事業を展開しているが、Copilotの展開においても、すでにこれらの6つのソリューションエリアをカバーしており、「Copilotは、すごいスピードで、ソリューションエリアを横断的にカバーし、実装が進んだ。その背景には、Microsoft社内のカルチャー変革が大きく作用している」と指摘した。

 沼本EVP兼CMOは、次のような例を示してみせる。

 「例えば、Speech to Textの技術が必要だといった場合に、過去のやり方では、オフィスチームが自分たちでエンジンを開発し、Windowsチームがまた別のエンジンを持ち、クラウドチームも別のエンジンを開発するという仕組みだった。それぞれの出荷スケジュールにあわせて、独自にエンジンを用意していた。だが、サティア・ナデラがCEOに就いてから、『One Microsoft』や『Growth Mindset』のカルチャーへと変革するなかで、開発の手法が変わり、開発チームがお互いの製品に深く入り込むようになった」のだという。

 具体的な結果としては、「Teamsでの文字起こし機能は、Azureの文字起こし機能を実装したものであり、どの開発チームも同じものを使っている。さらに、OpenAIとの協業により、Azure OpenAI Serviceを提供するとともに、各製品部門がこれを活用している。Copilot for Microsoft 365も、Copilot for Dynamics 365も同じ技術を利用している。また、開発においてうまくいったものと、うまくいかなかったものを、フィードバックループとして、組織を超えて横に展開し、共有している。こうした取り組みが、Copilotを6つのソリューションエリアに一気に展開することにつながった」と述べた。

AIの時代におけるMicrosoft Cloud

 さらに沼本EVP兼CMOは、「Microsoftはプラットフォームプレーヤーであり、自社製品とオーバーラップする製品を持つプレーヤーとも協業するカルチャーがある。さまざまなアプリケーションをWindows上で動作するようにサポートしていたのは、その一例であり、この動きがクラウドになってさらに加速している」とコメント。

 「クラウドビジネスは、クラウドサービスの上にワークロードを走らせて、顧客やパートナーに貢献できる。かつては、LinuxベースのビジネスはMicrosoftには構築できなかったが、クラウドの時代になり、LinuxもAzureで走らせることができ、そこにMicrosoftの商機が生まれ、ビジネスモデルが構築できた。実際、Azureで動作している仮想マシンの半分以上はLinuxベースである。クラウドであれば、Linuxも、Oracleも、Snowflakeも、Microsoftのビジネスとしてアドレスでき、顧客の選択肢を広げるとともに、貢献できる範囲が広がる」とした。

 このほか、「クラウドのジャーニーで学んだことは、お客さまのワークロードを走らせることを中心に物事を考えることができるという点である。テクノロジーが誰のものであれ、Microsoftのプラットフォームの上で走らせ、そのあとにMicrosoftの製品を使ってもらうことができる。クラウドビジネスは、MicrosoftのIPでなくても貢献できる余地がある」とした。

 また、「クラウドと同じことがAIでも起こる。生成AIの世界においても、Salesforceをリプレースしなくても、Copilotを使ってもらうことができ、ビジネスの機会を広げることができる。こうした世界が当たり前になってきた」とも述べている。