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AIで限界を超えるお手伝いをする――、日本マイクロソフトがAI戦略を説明
Azure OpenAI ServiceへのGPT-4実装も正式に言及
2023年3月17日 06:00
日本マイクロソフト株式会社は16日、AIに関する取り組みについて説明。同社の津坂美樹社長は、「マイクロソフトは、AIが人々や産業、社会に貢献できることを確信しており、テクノロジーと人々を結びつけ、責任を持って、AIの可能性を実現することにコミットしている。人々がより創造的な仕事やイノベーティブな考え方に集中できるようにAIのパワーを活用していくことが、マイクロソフトのAIのおける基本方針である」と述べた。
また、OpenAIのGPT-4をAzure OpenAI Serviceに実装することについても正式に言及した。「詳細は後日紹介する。まずはAzure OpenAI Serviceを利用してもらい、GPT-4が実装される日を楽しみに待ってほしい」(日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&ソリューション事業本部長の岡嵜禎氏)とした。
3つの原則に基づいた“AIへのアプローチ”
日本マイクロソフトの津坂社長は、「マイクロソフトでは2023年1月に、すべての製品、ソリューションにAIを組み込むことを宣言し、それ以降、AIのパワーを活用したBingやWindows 11、Power Platformなどを発表。今後もAIを組み込んださまざまな製品を発表することになる。これらの取り組みは、マイクロソフトの企業ミッションである『地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする』に合致したものである」と前置きしながら、「マイクロソフトにおけるAIへのアプローチは3つの原則に基づいている」とし、それぞれの取り組みについて説明した。
ひとつめの「有意義なイノベーション」では、「研究のための研究ではなく、開発したテクノロジーが、社会やお客さまの課題を解決にどう役立つかといったことを重視している。マイクロソフトは、AIに取り組み始めた30年前から、業界各社と協業しながら、実際に役立つようにAIを進化させている」とした。
2つめは「人と組織のエンパワーメント」であり、「WindowsやMicrosoft 365、Teams、Xboxなどのすべての製品で、AIのパワーを届け、あらゆる利用者を支援する」と発言。同社が、「AIの計り知れない可能性を活用して、地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」という姿勢で、AIに取り組んでいることも示した。
3つめの「責任あるAI」では、「テクノロジー企業の責務として最も重要なことであり、AIを組み込んだ製品の設計段階から開発、提供に至るまで、すべてのプロセスにおいて、責任あるコミットを行っている」とし、「開発チーム、法務担当、ビジネス担当などのさまざまな部門が参加し、あらゆる角度から責任あるAIが実行できるように取り組んでいる」と語った。
津坂社長は、SF作家のアーサー・C・クラーク氏による「物事の可能性の限界を発見する唯一の方法は、限界を超えてみることである」という言葉を引用しながら、「マイクロソフトはAIで限界を超えるお手伝いができると考えている。AIを活用することで、クリエイティビティを高めるだけでなく、より多くのことを達成し、その過程でより多くのことを学ぶことができる。AIによって無限の可能性の扉を開くことができる。マイクロソフトはパートナーと連携しながら、規模を問わずに、あらゆる人々や組織がAIを取り入れ、ビジネスや生活に活用できることを支援する」とした。
さらに、「マイクロソフトが提供するAIは、発展途上のものである。学びながら、製品やサービスを作っていく段階にある。多くの人に使ってもらい、多くのフィードバックをもらいたい」と呼びかけた。
多くの企業のAI transformationを支援
一方、日本マイクロソフトの岡嵜執行役員常務は、「インターネットやクラウドの登場に続き、変革を生み出すことができる、まったく新しいAIテクノロジーの台頭が始まっている。新たなAIの活用によって、お客さまのDXを加速でき、同時に、地殻変動のようにAI transformationが起きることになる。企業は新たなAIを、いかに速く取り込めるかが大切である」と提言した。
ここでは、Azure OpenAI Serviceを採用している企業の事例について紹介した。
パナソニックコネクトでは、1万2500人の社員に、Azure OpenAI Serviceで構築したチャットボットを展開。生産性向上を目的としたアイデア出しをする際の支援を行う。あわせて、AIに強い人材の育成を視野に入れ、プロンプトエンジニアリングによるAIに対する質問スキルの向上、AIとの付き合い方に関するスキルの醸成も進めるという。
また米Carmaxでは、膨大なカスタマレビューのデータをもとに、Azure OpenAI Serviceを利用し、ウェブサイトで販売している自動車のサマリーを迅速に生成。11年かかる作業を数日で実行したという。EYでは、新規契約や監査作業において、Azure OpenAI Serviceを通じて、インテリジェントな文書検索や自動化を実現することで、25万時間分の手作業を削減できたという。
さらに、月間4000万人が利用するnoteでは、Azure OpenAI Serviceを利用して、タイトルの提案や文章のレビューなどにより、創作を支援。PKSHA Technologyは、AI ヘルプデスク for Microsoft TeamsなどのAI SaaSプロダクトに活用。wevnalではBXプラットフォームのBOTCHAN AIにおいて、ユーザー満足度の向上に活用しているという。
日本マイクロソフトによると、現在、グローバルでは200社以上がAzure OpenAI Serviceを利用していると説明する。
また国内においては、30社以上のAzure AIパートナーが、AIを活用した企業のデジタル変革を支援していることも示した。
AIに対する取り組みを積極化してきたマイクロソフト
マイクロソフトは、約5年間に渡り、AIに対する取り組みを積極化させてきた。
2018年1月に「責任あるAI」として、「6つのAI原則」を発表。2019年7月にはOpen AIとの戦略的パートナーシップを発表したのに続き、2020年7月にはGPT-3 Open AI APIモデルを発表。2021年4月にはNuance Communicationsを買収。2021年7月にGitHub Copilotを発表し、2021年8月にはOpen AI Codexを発表した。さらに、2021年11月にAzure Open AI Serviceを発表し、2022年5月にMetaとの戦略的パートナーシップを発表。2022年7月にはGitHub Copilotの正式サービスを開始している。
そして最近の取り組みとしては、2023年1月16日から、Azure Open AI Serviceのサービスの提供を開始したほか、ChatGPTのAzureへの実装や、Open AIとのさらなるパートナーシップの深化を発表。2月には、Teams PremiumやViva SalesへのGPT-3モデルの搭載のほか、Bing、Edge、Skypeに対話型に特化した次世代AIモデルを搭載。3月に入ってからは、Windows11に、GPT-4を活用したNew Bingを取り込んだほか、Microsoft Dynamics 365 Copilotの発表、Azure OpenAI ServiceにおけるChatGPTの利用も可能にした。
岡嵜執行役員常務は、「OpenAIとの戦略的パートナーシップにより、AI開発における協業を推進。自然言語処理や新たなAIモデル、アルゴリズムの開発を共同で進めている。大規模言語モデルの開発に必要なコンピューティングリソースは、マイクロソフトから提供している。さらに、GPT-3をはじめとしたAIモデルはマイクロソフト製品に組み込むことを前提としており、それに向けて多くの投資を行っている。今年に入ってから、この動きはさらに加速している。マイクロソフトのあらゆる製品に対して、製品を一変させるようなAI機能を搭載していくことになる」と述べた。
6つのカテゴリーでOpenAIのAIモデルをネイティブに統合
Microsoft Cloudでは、「Digital and App Innovation」、「Data and AI」、「Modern Work」、「Business Application」、「Infrastructure」、「Security」の6つのカテゴリーで製品群を提供しているが、これらの領域において、OpenAIが提供するAIモデルをネイティブに統合していることについても説明した。
「Digital and App Innovation」においては、開発者に最適化されたプラットフォームとしてGitHub Copilotを提供。OpenAIのCodexを初めて統合した製品で、プログラミングを自動生成により、開発の効率性を劇的に改善。開発スピードを半分に短縮できるという。
「Data and AI」では、Azure OpenAI Serviceとして、OpenAIが開発および学習させた大規模言語モデルをマイクロソフトのマネージドサービスとして提供。文書作成や文書の要約が可能なGPT-3.5、プログラムコードを自動生成するCodex、テキストをもとに画像生成が可能なDALL・E、チャットボットとして注目を集めるChatGPTなどのAPIを提供。Azure上のサブスクリプションにデプロイされるため、データやアプリケーション、サービスとシームレスに統合できるほか、エンタープライズ領域では、Azure ADによる認証および認可、ロールベースのアクセス制御、プライベートネットワークによるエンタープライズグレードのセキュリティを実現できることを強調した。
日本マイクロソフト アジアグローバルブラックベルトAI/MLシニアスペシャリストの棚橋信勝氏は、「GPT-3モデルファミリーは、これまでDavinciが幅広く使われてきたが、注目を集めているChatGPTに置き換わってきた。また、スリープットを優先したいという場合には軽量のAdaを利用するケースもある」としながら、「これらのジェネレーティブAIは、付加価値の高いテキストを生成するというメリットを最大限に生かして、マーケティングメッセージの作成や、タグラインの作成に使用したり、財務報告書やアナリスト記事などの専門文書を要約したりといった利用のほか、チャット形式で業務のアシスタントとして利用したり、コメントからコードを生成したりといった使い方ができる。さまざまなインダストリーでの利用が進んでおり、小売業界ではカスタマボイスの集約、店員の日報からの知見の抽出といった用途、ヘルスケア分野では医療の専門用語の意味をチャットで検索する利用など、確実に用途が広がっている」とした。
ここではPower BIが、2021年からOpenAIの自然言語モデルを実装していることにも触れ、対話を通じて分析レポートを自動生成できるようにしているほか、SQLなどのクエリを不要にし、迅速な意思決定とアクションにつなげることができるようになっているという。
「Modern Work」では、Teams Premiumにおいて、ノイズキャンセリングや背景画像の変更、書き起こし、翻訳機能を実現。「GPT-3.5の実装により、会議の発話内容から議事録が作成できる。キーワードによる抽出要約ではなく、新たな文面を生成してまとめる抽象要約を実現している点が特徴である。また、画像をもとにアジェンダやトピックスごとのチャプターの自動切り分けも行える」(日本マイクロソフト Azureビジネス本部GTMマネージャーの小田健太郎氏)という。
プレビュー版として提供しているNew Bingについては、Windows 11からすぐに呼び出して利用できるほか、モバイルアプリとして、音声で問い合わせができるBingアプリと、グループチャットの中で利用できるSkypeアプリの2種類を用意。ウェブブラウザのEdgeにもBing専用機能を搭載。その役割を、「AIを搭載したウェブの副操縦士」と位置づけている。
マイクロソフトディベロップメント Bing開発統括部プロダクトマネージャーの山岸真人氏は、「New Bingでは、リンクが羅列されるような従来の検索とはまったく違う体験ができる。やりたいこと、みつけたいこと、つくりたいこと、そして、意思決定の支援についても、より積極的に情報を出すことができるようになっている」とした。
関連度が高い情報を多く検索することができる「高品質な検索」、ウェブ上の検索結果を検証し、答えをまとめて表示するほか、キーとなるトピックのリンク先も表示する「情報のまとめ」、話しかけるようにチャットで検索できる「新たなチャット体験」、スピーチ原稿の作成や、夕飯の献立の相談などにも応えることができる「創造力」を、New Bingの特徴に挙げた。
New Bingでは、マイクロソフトが独自開発したPrometheusを採用。「最近の出来事に関する質問でも、より正確な回答を導き出せるマイクロソフト独自のテクノロジー」と位置づけている。「Bingが持つ関連度と鮮度が高いウェブ情報、さらに進化した検索アルゴリズム、OpenAIによる最新のGPTモデルを組み合わせることで、ホットな情報、フレッシュな情報にも回答でき、スムーズな検索体験を提供できる」とした。GPTモデルで指摘されている情報の鮮度の課題を、Bingの技術が補完する格好だ。
日本マイクロソフトによると、New Bingのブレビュー登録者は、すでに100万人以上となり、そのうち日本からの登録者は10万人以上と約1割を占める。日本からのチャット質問は200万以上に達しているという。「71%のユーザーが検索結果や回答に満足したと答えている。一人あたりの検索数では日本がトップになっている。日本のユーザーは一人ひとりが深く利用しており、高い満足度も得ている」と述べた。
なお、日本マイクロソフトでは、Bingで検索するだけでポイントが貯まる「Microsoft Rewards」プログラムを開始しており、ポイントはAmazonギフト券などに交換できるという。
「Business Application」においては、Microsoft Dynamics 365 Copilotが3月に発表されたばかりだ。CRMとERPにAI機能を搭載しており、営業活動の生産性を高めることができる。
「営業担当者は1日に10種類のアプリを、25回切り替えて仕事をしており、直接的な営業活動以外のところに時間が割かれている。顧客からの問い合わせや質問に対して、AIが自動でメールの返信文を生成し、営業、マーケティング、カスタマサポート部門の作業を効率的に支援できる」(日本マイクロソフトの小田氏)という。
また、ローコードツール群であるPower Platformが、OpenAIの機能を実装した最初のマイクロソフト製品であることを示しながら、Power AppsやPower Automateに加えて、新たにPower Visual Agents、AI BuilderにもAIモデルを実装。Conversation Boostersによって、高度なチャットボットの利用が可能になるほか、Azure OpenAI Serviceを通じてGPT モデルをテンプレートとして利用することも可能になる。
「Infrastructure」については、OpenAIが提供しているChatGPTなどのAIモデルの学習のために、マイクロソフトのAzureがインフラとして活用されていることに触れ、「AIの能力を、さらに洗練するには、いまの計算能力の10~50倍が必要だと言われている。大規模なAIモデルを支える基盤をマイクロソフトが提供しており、それは今後も継続していくことになる。また、NVIDIAとのパートナーシップによって、次世代GPUを搭載した仮想マシン『Azure ND H100 v5』のプレビューも開始しており、ジェネレーティブAIをさらに拡張することができる」(日本マイクロソフトの小田氏)とした。
6つめの「Security」に関しては、信頼性という観点から説明。データは高度なエンタープライズコンプライアンスとセキュリティ制御によって保護するとともに、AIを実装する上で必要となるファインチューニングには顧客が所有するデータを使わないことを明確化。さらに、マイクロソフトでは、責任あるAI原則を、「プライバシーとセキュリティ」、「包括性」、「アカウンタビリティ」、「透明性」、「公平性」、「信頼性と安全性」の6つの観点で定めており、これをもとにして厳密な審査ガイドラインを策定し、製品への設計段階から運用段階まで適用し、AI機能を安全に利用できるようにしていることを紹介した。
「AIは、人間の知性に近い使い方がされるため、データの有害性や、悪意ある使い手による想定しないリアクションが起こるリスクもある。一方で、責任あるAIの原則を定めても実行に移さないと意味がない。社内ガバナンスの策定、ルールの標準化、社内啓発やトレーニングの実施、ツールやプロセスへと反映している」と述べた。
日本マイクロソフトの小田氏は、「AIが、すべての製品やアプリ、サービスに実装され、AIが競争要因や差別化要因になる。アプリケーションを開発する上で、AIモデルに注目する企業が増え、AI機能を実装することが、今後のデファクトスタンダードになる」と述べた。