ニュース

NEC、ビジネスに応じて最適化した生成AIの利用環境を2024年春より提供へ 独自の生成AI「cotomi」を活用

研究開発戦略などを解説する「NEC Innovation Day 2023」を開催

 日本電気株式会社(以下、NEC)は、報道関係者およびITアナリストを対象に、研究開発戦略および新規事業創出戦略について説明する「NEC Innovation Day 2023」を、12月15日、神奈川県川崎市のNEC玉川ルネッサンスシティで開催した。今年で3回目となる。

NEC Innovation Day 2023の様子

生成AI「cotomi」を提供

 そのなかで、同社が開発した生成AIの名称を「cotomi(コトミ)」とすることを発表。2024年春には、NECが持つ業種や業務ノウハウをもとにした特化モデルを中核として、日本の企業などを対象に、ビジネスに応じて最適化した生成AIの利用環境を提供するという。

 今後、各業種や業務の変革を推進する特化モデルの整備に注力。NEC Digital Platform(NDP)で提供するマネージドAPIサービスを通じて、cotomiの適用範囲を、個別の企業から、産業や業種全体へと広げていくという。

NECが持つ業種・業務ノウハウをもとに特化モデルとして顧客に届ける環境を構築(2024年春リリース予定)

 さらに、1000億パラメーターの大規模モデルの開発も並行して開始していることも明らかにした。「NECは、サイズとデータのバランスのいいところを模索し、その結果、まずは、13億パラメーターのLLMを出した。1000億パラメーター規模のLLMを開発することで、スケールをカバーできるようなする。サイズが大きくなればなるほど知識は増え、やれることは増えるが、使い勝手は悪くなる。大きなサイズを含めて試行錯誤しながら、顧客ニーズに最もあったものを提供したい」(NEC Corporate EVPの山田昭雄氏)と述べた。

NEC Corporate EVPの山田昭雄氏

 cotomiの名称は、言葉によって、未来を示し、「こと」が「みのる」ように、という想いを込めたという。

 NEC 執行役 Corporate EVP兼CDOの吉崎敏文氏は、「2023年7月に独自のLLMを発表した時点では、世界で戦える生成AIの開発に必死に取り組んでおり、まだ名前がついていなかった。機が熟したので、研究者、開発者、マーケティング、セールス、技術営業など100人以上が参加し、50以上の候補のなかから選んだ。NECの生成AIにも名前の候補を聞いてみた。cotomiは、縁起がいい名前である。今後、映像や画像などのマルチモーダル化しても、NECの生成AIのシリーズの名称としていて継続していくことになる」と位置づけた。

NEC 執行役 Corporate EVP兼CDOの吉崎敏文氏

 cotomiは、あらゆる業界や業種に対応し、あらゆる製品に搭載されることになるという。

 生成AIの基盤モデルとなるcotomiの上に、金融や自治体、医療、製造などの業種特化モデルを構築。さらに、セールス向けLLMやコンタクセンター向けLLM、ソフトウェア開発向けLLMなどの業務特化モデルを組み合わせて、特化モデルとして整備する。さらに、これらの特化モデルを、NECなどが提供する業種・業務向けパッケージやソリューションに組み込んでいくことになる。

NEC開発の生成AI「cotomi」をベースに、業種ノウハウを活用

 吉崎CDOは、「生成AIの世界的な潮流は、ファウンデーションモデルや、チップなどのハードウェアに目が行きがちだが、NECが大切にしているのは、その上にある、どう使うかという点になる。フェーズ1として、12社の民間企業と3つの大学で先行利用しながら、フレームワークやモデルを開発しているが、これが完成すると、フェーズ2として、それぞれの業界ごとに、数百社、数千社が利用できるような環境が整うことになる。さらに、フェーズ3では、パートナーとの連携による、cotomiを利用したビジネスが広がっていくことになる。フェーズ2、フェーズ3は、2024年度から開始する」と説明。

 また、「NECは、生成AI関連事業において、今後3年間で約500億円の売り上げを目指す。そのうち、フェーズ2が4~5割を占め、フェーズ1が2割、残りがフェーズ3になる。フェーズ2では、cotomiを活用することで、個別SIモデルから大きくトランスフォーメーションし、日本の環境にあわせたプラットフォームビジネスによる新たなバリューを提供していきたい」と述べた。

個社対応に加え、業種・業務特化モデルをOne to Manyで展開する「ソリューション展開」、そして「パートナーとの提携」と順次ビジネスを拡大

 フェーズ2としての具体的な先行事例として、東北大学では、医療業務向けLLMを導入。電子カルテや医療文書の自動作成をLLMで支援し、医療文書の作成時間を半減。業務課効率化の可能性を確認しているという。電子カルテの自動作成では、年間116時間の削減が可能になり、医療文書の自動作成では年間63時間の削減が可能になり、医師の記録業務の負荷を削減。診療に専念できる環境構築を目指すという。今後は、NECが提供している医療分野向けソリューションにもcotomiを搭載していく。

 三井住友海上火災保険では、金融業界向け特化モデルを活用。商品や事務マニュアルを搭載した照会応答機能を開発し、専門知識を必要とする商品規定や事務処理ルール照会といった内務的な業務を効率化したという。また、相模原市では、自治体向け特化モデルとして、同市が保有するデータを学習して、業務効率化の検証を推進。市民からの問い合わせに対して、ベテラン職員の知見を生かして、生成AIが答えるという仕組みになっている。

東北大学病院の事例
三井住友海上火災保険と相模原市の事例

 これらの成果をもとに、金融分野や自治体分野に展開していくことになる。このほか、金融、製造分野におけるフレームワークづくりにも着手しており、今後、成果を発表していくという。また、オンプレミスで活用できる軽量LLMをリリースする準備も進めており、2024年度にも発表することになる。

 2024年春から提供する生成AIのマネージドAPIサービスでは、cotomiのプラグインやAPIを提供。業界対応ソリューションを強化。さらに、IaaSやPaaSを提供するグローバルクラウド企業がcotomiを活用することも想定しており、すでに複数社との話し合いが進んでいるとのこと。2024年後半には発表できる見通しも示した。

 さらに、業界全体での活用を想定し、Robust Intelligenceと連携し、LLMリスク評価プロジェクトを推進。グローバル基準でリスク評価した業種特化モデルを提供するという。これにより、安心して利用できるLLMの提供を実現する考えだ。

Robust Intelligence社と連携し、LLMリスク評価プロジェクトを推進中

 また、民需を担当するエンタープライズ事業部門において、80人のアンバサダーを新たに任命。さまざまな業界の顧客に対して、LLMを提案する仕組みを用意した。

 すでに、CDO直下に生成AI推進組織を設置。企業の生成AI利活用を支援するNEC Generative AI Hubを、110人の専門家体制で稼働させているほか、臨機応変なリスク対応やルールメイキングを実施するためのデジタルトラスト推進統括部門を40人体制で運用しており、「推進エンジンとなる組織と、ガバナンスを統括する組織を設置にすることで、個別企業への対応や業界対応が可能な体制を構築している。ここに、新たにアンバサダーを加えることで、顧客に対応しているチームが、生成AIの提案活動を通じて、業種ナレッジを蓄積できるようにする」と述べた。

CDO直下150名の「生成AIビジネス推進」「リスクマネジメント」組織に加えて、事業部門から「アンバサダー」を任命

 さらに、グローバルイノベーションビジネスユニット内に、生成AIセンターを新設したことも発表した。国内外の研究所を含めて100人以上の規模で構成。NEC Generative AI Hubと連携することで、新たな技術研究やプロトタイプの創出、α版やβ版の提供、デリバリー、マネージドサービスの提供までを、一気通貫で提供する体制を整える。

 NECの吉崎CDOは、「研究開発ビジネスのシームレスな連携により、研究開発のスピードを維持しながら、商用化につなげていくことが大切である。このサイクルが速い企業だけが残ると考えている。そのための仕組みができる」と述べた。

研究開発とビジネスのシームレスな連携により、生成AIの研究成果の製品化を加速

研究開発と新規事業創出に関する戦略

 NEC Innovation Day 2023では、研究開発と新規事業創出に関する戦略についても説明した。

 NECでは、グローバルイノベーションビジネスユニットを横ぐし型の組織として設置。研究開発、新事業開発、知的財産戦略の3つの部門を一体化しているのが特徴だ。世界7カ国に研究拠点を置き、全研究員の約4割が海外拠点に在籍している。また、新事業開発拠点を世界4カ所に設置し、外部企業での事業推進経験者は約4割。知財部門では弁護士や弁理士のグローバル人財の採用を強化している。グローバルイノベーションビジネスユニット全体では2000人規模の専門人材を擁し、社内イノベーション人材を育成する役割も担っている。

研究開発とビジネスのシームレスな連携により、生成AIの研究成果の製品化を加速

 NEC 執行役 Corporate EVP兼CTOの西原基夫氏は、「グローバルイノベーションビジネスユニットは、知財を生み出し、新事業の種を創出し、現行事業の競争優位に生かすとともに、次の成長事業の創出を目指す役割を担っている」と位置づけた。

NEC 執行役 Corporate EVP兼CTOの西原基夫氏

 また、グローバルイノベーションビジネスユニットでは、GPU規模が928基、演算能力580PFLOPSを誇り、各種AI研究を支える国内最大級のAIスーパーコンピュータを所有。2021年4月から構築を開始し、2023年3月に全面稼働。生成AIの開発にも大きく貢献した。AIスーパーコンピュータは、今後、拡張する計画があることも明らかにした。

各種のAI研究開発を支えるAIスーパーコンピュータに継続して設備投資

 NECは、機械学習難関学会採択ランキングにおいて、日本の企業では唯一、上位10社のなかに入っているほか、映像・画像処理、セキュリティ、通信の分野でも、主要国際学会において多くの評価を獲得している。また、生体認証、映像認識、分析・対処AIでは、グローバルNo.1の知財数を獲得。顔認証、虹彩認証、指紋認証ではNISTが実施したベンチマークテストで世界1位の評価を獲得している。

 「AI、セキュリティ、通信の分野では、網羅的に世界トップクラスの技術競争力を保有している。特に、生体認証、映像認識、分析・対処AIの3分野では、米国特許件数だけでなく、権利者スコアを掛け合わせた指標で、2025年にグローバルNo.1を目指す。技術においては、事業に刺さる強みを発揮することを目指す」と語る。

 これらのグローバルNo.1技術を提供する基盤になるのが、NDPである。大規模言語モデルや顔認証、音声認識、異種混合学習、疑似量子アニーリングなどの各種先端技術を提供。2023年度は、約20の先端技術群を新たに追加する予定だという。

NEC Digital Platformを支える先端技術

生成AIの取り組み

 NECの西原CTOは、研究開発の立場から、生成AIの取り組みについて説明した。

 「AIは、ファウンデーションモデルの時代へと突入している。かつて、インターネットの登場によって、多様なサービスが低コストで創出され、GAFAなどが成長したが、ファウンデーションモデルの登場も同様のインパクトを持ち、誰もがAIを使える時代がやってくる。ファウンデーションモデルは、DXやデジタルツインシステムの高度化、自動化、大規模化に大きく寄与するものになる」とした。

AIは今、ファウンデーションモデルの時代へ

 その上で、AI分野におけるNECの注力ポイントとして、「独自ファウンデーションモデル」、「マルチモーダルAI」、「LLM時代の安全・安心」、「システム構築・運用の自動化」、「オーケストレーション機能」の5点を挙げた。

AI分野におけるNECの注力ポイント

 「独自ファウンデーションモデル」では、「人間の理性や知性、論理を、ソフトウェア形態で提供するものであり、クラウドや端末にも実装されることで、さらに大きなポテンシャルを持つことになる。NECは、自ら作る能力を持ち、生成AIを活用した次世代のプロダクトを出していきたい。小型から大型まで柔軟にサイズを拡張できるLLMを提供するとともに、画像などの多彩な専門AIとも連携し、目的にあわせてAIモデルを構築できるようにしていく」と述べた。

 NECでは、2023年7月に、130億パラメーターの軽量な独自LLMを発表。「オンプレミスサーバーや、次世代端末に搭載するプロセッサでも利用できる規模である」と語る。
発表以降もさらなる性能強化を続けており、7月の発表時点からは、その2倍近い良質な日本語データを学習させて、日本語処理能力を向上。「圧倒的な日本語処理能力を持つ」と自信をみせる。

 さらに、長文プロンプトにも対応し、30万字の入力を可能とした。「企業や個人が持っているデータを学習させる際にも、直接、プロンプトに入れることができる。30万字は大きなポテンシャルがあり、小説であれば15冊分に匹敵する。社内外業務文書や社内マニュアルなどを入れることが、それぞれの企業が専門のLLMを実現できる」とした。

スケーラブルなファウンデーションモデル

 さらに研究開発レベルでは、LLMと多様なAIモデルを柔軟に連携。NECの軽量LLMを積み重ねて、スケールアップすることで、1000億パラメータークラスのLLMを開発しているほか、NECが持つ専門AIや業種特化型LLM、他社LLMとも連携することで、知識を拡張。加えて、小型LLMをエッジに搭載したり、エッジとクラウドと連携させた分散配置および連携利用を可能にしたりする。「入力データやタスクに応じて、柔軟にモデルを組み合わせ、新たなAIを創り出す新アーキテクチャを開発中である」とした。

 また、データドリブンDXソリューション「dotDataInsight」との連携により、データ分析の専門家ではない業務部門や経営層が、ビジネスインサイトを自動で導出することが可能になり、さらに、LLMに自社データを追加学習させることで、自社に特化した回答を生成することができるようになるという。dotDataInsightと連携したソリューションは2024年初頭に製品提供を開始する予定だ。

データドリブンDXソリューション「dotDataInsight」

 2つめの「マルチモーダルAI」では、音声認識、画像認識、顔認識、センシング技術をLLMに融合し、実世界のさまざまな事象を、人間のレベルを超えて高精度に把握し、自律的に処理できるという。

 例えば、映像をテキスト化できるNEC独自の映像認識AIを活用し、テキスト化された文字群をLLMにより、意味がある情報に変換して文章化して、実世界の状況を把握しやすくできる。「監視カメラの膨大な映像から、なぜ事故が起きたのかといったことを把握し、文章にまとめてくれるといった使い方ができる。画像認識を超えた実世界の認識が可能になる」という。また、災害対策ソリューションでは、NECの類似性判定技術と位置推定技術により、続々と提供される膨大な画像から、被災状況と位置を番地レベルで特定。LLMとの融合によって、言葉での被災規模や状況の整理を実現し、初動対応を迅速化できるという。

LLMとマルチモーダルAIの融合

 3つめの「LLM時代の安全・安心」では、サイバーセキュリティの高度化に加え、ハルシネーションや倫理への対応、適切な学習ソースであることの検証、個人情報漏えいなどへの対応に取り組んでおり、LLM時代の安全や安心を担保するという。

 具体的事例として、LLMによるセキュリティリスク自動診断を開発。セキュリティ特化型LLMが、NECのリスク診断技術を活用して、ユーザーの依頼文に対して、診断やレポートを短時間に回答。非専門家でも、セキュリティリスクの診断ができるようになるという。NEC社内で先行的に試用しており、高度な専門性が求められる脆弱性診断では80%の省力化が可能になり、攻撃ルート分析では半分の工数で実現できたという。

 「システム構築・運用の自動化」においては、ソフトウェア開発の効率化や省電力化に加えて、システム構築や運用管理を自動化。「オーケストレーション機能」では、各種業務を自律的にタスク分解し、AIモデルの配置や連携、ネットワークやセキュリティ制御を行い、実世界の多様な業務を自動化するという。

 すでに、データ分析の自動高速化技術により、負荷の高いテーブル処理を16倍に高速化したり、深層学習処理を4倍に高速化した実績があるほか、ユーザープログラムをLLMで高効率化したり、データサイエンティストの作業時間を30%削減したりといったことが可能になるという。「AI創薬にも使っている技術であり、3カ月かかるワクチンのシミュレーションを1週間で行うことができる。β版を公開中である」と説明した。

LLMにより高度化するセキュリティやプラットフォーム

生体認証やそのほかの技術への取り組み

 生体認証については、顔認証において、国内100万人以上が生体認証クラウドを活用し、約1500店舗でのセキュリティシステムに活用。PCログインの導入社数は1000社以上、20万以上のライセンス数に達しているという。また、世界約45カ国と地域で顔認証の事業を展開。80空港の出入国管理に利用したり、インドやベトナムでは国民IDにNECの顔認証技術が採用され、約16億人が利用したりといった事例がある。さらに、欧米をはじめとする世界各国の法執行機関でもNECの顔認証技術が採用されているという。

事業適用が進むNECの顔認証

 生体認証の新たな技術として、「どこでもゲートレス生体認証」を発表した。1分間に100人の同時認証が可能なゲートレス生体認証技術であり、AIのエッジ処理の軽量化によって、ポータブル機器でも生体認証を実現する。レイアウトの柔軟な変更が必要とされるイベント会場や建設現場などでの用途が見込まれている。また、顔画像からバイタル状態を推定する技術も発表。スマホで撮影した顔画像から、脈拍数や血中酸素飽和度、呼吸数を瞬時に推定し、健康状態を理解したり、行動変容を促したりするという。

進化する生体認証技術

 そのほかの技術として、40GHz帯の分散MIMOを開発し、無線通信のさらなる高速化や大容量化を実現。また、宇宙統合ネットワーク・レジリエントDX共創研究所を東北大学とともに開設し、光と無線、衛星の多様な通信技術を統合し、宇宙と空、地上を統合したネットワークの実現を目指しているという。さらに、Googleの台湾-フィリピン-米国の海底ケーブルシステムにNECのマルチコアファイバケーブルを世界で初めて採用。国産量子暗号の開発では、国内の重要な機関システムの通信セキュリティを支えることができる技術を完成。2023年度から納入することになる。「光通信においても、量子暗号技術を活用できる技術の開発と、モジュールを小型化する技術の開発を進めている。これが完成するとデスクトップ間での量子暗号通信が可能になる」と述べた。

社会インフラを支える「安全・安心」「高速・大容量」通信
光通信・量子暗号通信がもたらす社会の高度化と安心・安全

知財戦略と新事業の創出

 知財戦略においては、「NECが持つICT技術の知財が、広範囲な産業で活用される時代が訪れている。そこで、NECの知財創出および活用プロセスと、体制を抜本に改革した。事業防衛や事業拡大、顧客やパートナーとの共創、グローバルブランド構築という狙いにとどまらず、知財収益事業も強化していくことになる」との姿勢を示した。

 2025年度に向けては、特許の保有比率の向上による技術強化とともに、AI関連市場や生体認証市場、自動運転車関連市場などの異業種へのライセンスによる知財収益の拡大を目指している。2025年度までの5年間では、知財収益を2倍以上に増やす考えであり、知財アセットをフル活用し、新しい市場の創造、拡大にも注力する。「年間3桁の億円規模の収益を確保でき、やり方によっては、収益の安定化も図ることができる」とした。

持続的かつ安定的な知財収益に向けて

 一方、新事業の創出では、「NECなりに、新事業創出プロセスを確立できるようになってきた。NECグループ内やパートナー、シリコンバレーの起業家、スタートアップ企業などからのアイデアをもとに、リスクを抑えながら、着実に育てていく手法を用い、社内事業化、カーブアウト、事業提携、JV設立など、さまざまな事業化形態を用意している」とした。

 新規事業においては、2025年度に3000億円の事業価値を創出するという目標を掲げており、「そのうち、ヘルスケア・ライフサイエンス事業が、約2000億円の規模を占めることになる。そのほかに、データドリブンDX事業、農業生産現場革新、量子技術を起点とした顧客業務の最適化、量子暗号通信の実現などがある」とした。

 ヘルスケア・ライフサイエンス事業では、電子カルテ・病院DX、健康増進・検査サービス、AI創薬の3つの分野で展開している。また、データドリブンDX事業は、dotData Insightによる展開を中心に、直近5年間の年平均成長率が98%という高い成長を遂げており、今後も50%以上の高い成長を想定している。そして、量子コンピューティングでは、製造拠点であるNECプラットフォームズの4工場に、生産計画立案システムを本格導入し、設備稼働率が15%向上し、生産計画立案工数が90%削減するという実績をあげている。今後は、この実績をもとに、業務最適化サービス事業へと進化させ、事業支援を行う体制を倍増させるという。

ヘルスケア・ライフサイエンス事業
次の事業価値を生み出す新事業の育成

 オープンイノベーションの取り組みでは、NEC Xが、NECが持つ知財をベースに、北米市場での事業化を推進。2021年以降、10件のローンチに成功したという。また、国内において共創型R&D事業を進めるBIRD INITIATIVEでは、新事業コンサルティングの累積件数が63件、カーブアウト実績は2社に達したという。2025年度までに6社のカーブアウトを目標にしている。

NEC X:NEC知財をベースに北米市場で事業化
BIRD INITIATIVE:共創型R&D事業