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リコー、デジタルサービス事業の戦略を説明 デジタルサービス企業への変革を再度強調
ITサービス・BPA・CSの3領域に注力し、ワークプレイスサービスプロバイダーへ
2023年12月11日 06:00
株式会社リコーは、デジタルサービス事業戦略について説明。日本、欧州、米州の責任者が説明を行い、11月15日付でリコージャパンの社長に就任したばかりの笠井徹氏も登壇した。
リコー デジタルサービスビジネスユニットの入佐孝宏プレジデントは、「リコーは、OAメーカーからデジタルサービスの会社への変革を目標に掲げている。ここに経営資源を集中させ、2025年度にはデジタルサービスの売上構成比を60%以上にする。価値あるサービスを創出し、これを提供することで、オフィスサービス事業の収益成長を遂げる。ITサービス、BPA(Business Process Automation)、CS(Communication Services)の3つの領域に注力し、ワークプレイスサービスプロバイダーを目指す」と、デジタルサービス事業の基本姿勢を示した。
デジタルサービスの売上比率は2023年度上期で46%となっており、日本では49%、欧州は43%、米州が30%、APACが16%となっている。2025年度のデジタルサービス比率60%以上の目標においては、オフィスのデジタルサービスが50%、現場のデジタル化で13%を見込んでいる。
注力領域のひとつであるBPAでは、ドキュメントのデジタル化や、デジタル化したワークフローから生まれたデータの統合管理を行う既存事業領域に加えて、AIなどを活用することで、顧客の業務や作業のタスクゼロを実現する新たなリカーリングビジネスの創出に挑むほか、もうひとつの注力領域のCSでは、欧州から世界展開をしているRICOH Spacesや、買収した米CeneroによるマネージドAVサービスプラットフォームを活用し、これらをRSI(RICOH Smart Integration)プラットフォーム上から提供。世界中でコミュニケーションやクリエイションが行える空間を提供し、CS市場でのグローバルナンバーワンプレーヤーを目指す。
一方、これまでリコーの収益を支えてきたオフィスプリンティング事業は、よりリーンな組織運営とし、持続的にキャッシュを生み出し、リコーに貢献するとしたものの、「デジタルサービスストック率は2023年度上期で38%となり、2022年度から7ポイントアップした。2026年度には、デジタルサービスストック率が50%以上となり、オフィスプリンティングストック率と逆転することになる。これをさらに前倒し、2025年度のどこかのタイミングで逆転を達成したい」と述べ、ストック領域でもOAメーカーからデジタルサービスの会社へシフトを図ることになる。
デジタルサービス会社への変革に向けては、本社部門ではグループ戦略の推進と地域間連携の創出を進め、「自社ソフトウェアのグローバル展開」、「地域をまたがるグローバル案件の対応力強化」、「M&Aや資本提携による提供能力の拡大」、「デジタルサービス会社としての外部評価の向上」の4点に取り組む考えを示し、それぞれについて説明した。
「自社ソフトウェアのグローバル展開」では、文書管理ソリューションのDocuWareが、世界45カ国に展開し、1万7978社に導入。顧客数は前年同期比11%増、売上高は同21%増という高い成長を遂げていることを示した。
「一度導入すると、社内で利用する部門が増え、ID数が増加する。顧客数を上回る売上高成長になっているのはそのためである。また、DocuWareの販売には高いスキルが必要であり、アカウントセールス、アプリケーションコンサルタント、システムコンサルティングの3層で対応している。これが連携しないと提案ができないため、その点も他社との差別化につながっている」という。DocuWare有資格者数は全世界で500人以上になり、この分野への投資を加速。人的資本を活用した提案を進めていることも強調した。
また、2022年10月にスタートしたRICOH kintone plusは、日本において1000社を超える新規顧客を獲得。「RICOH kintone plus において、AIを活用することで、専門的な知識がなくても、ノーコードで開発できる利便性が特徴となっている。そこでも価値を提供できている」とした。日本に続き、北米の販売を開始。2024年1月からは、スペイン語版として南米での販売を開始する。その後、アジア、欧州での販売も計画している。
「地域をまたがるグローバル案件の対応力強化」では、国をまたがる環境でもハイブリッドワークをしたいというニーズが高まり、CSの商談が増加するなかで、リコーの勝率は5割以上となっていることを示したほか、「M&Aや資本提携による提供能力の拡大」では、2022年度以降だけでも、ITサービス会社3社、CS関連企業4社、アプリケーションサービス企業1社を買収し、引き続き重要な戦略として、M&Aを推進する姿勢を強調した。
また、「デジタルサービス会社としての外部評価の向上」では、ガートナーのマジッククアドラントにおいて、ワークプレイスサービス分野で世界17社のうちの1社として掲載されたことや、IDCのプリントトランスフォーメーションの評価レポートで「リーダー」を獲得したことに触れ、「外部評価をもとに戦略の正しさを評価していく」と述べた。
日本市場での展開
これらの本社の活動方針に対して、日本、欧州、米州の地域子会社では、地域戦略強化により、ストックの積み上げを確実に実行することを基本方針に打ち出している。
日本市場での展開については、リコージャパンの笠井徹社長が説明した。
リコージャパンは、国内に約350拠点を持ち、従業員数は約1万8500人、販売・サービスパートナーは約3200社、顧客基盤は約100万事業所に達する。「大規模企業に対しては、全国広域体制と共創モデルによって提案する一方、地域密着による地場企業、中堅中小企業に対してはパッケージソリューションを提供している」と語る。
中堅中小企業を対象に、2017年から販売を開始したスクラムシリーズは、2023年度上期までの累計販売本数が36万本を突破。2023年度上期は前年同期比59%増の648億円と大きな伸びを見せている。「スクラムシリーズでは、テレワークやインボイスなどのひとつの課題解決だけでなく、さまざまな課題を解決するパッケージを組み合わせた提案ができる点が他社にはない強みになる」と述べた。
また、スクラムシリーズを導入している顧客のオフィスサービスストック付帯率は88%となり、スクラムシリーズを導入していない顧客の31%に比べて大きな差がある。「新規導入されるスクラムシリーズのオフィスサービスストック付帯率は、ほぼ100%に達している。オフィスサービスストックの売上高は、2016年度比で2.6倍になっており、これにより、収益基盤の強化も進んでいる」という。
今後のデジタルサービスの拡大に向けては、製造業、建設業、流通業、ヘルスケア(医療/福祉介護)、自治体の5業種が同社顧客数の5割を占めることから、注力する重点業種と位置づけ、業種や業務の課題解決に向けた提案を進める。
また、2017年度からスタートしている政府のIT導入補助金制度を活用した提案を進めており、これまでの採択率が8割を突破したことが評価され、経済産業省の「スマートSMEサポーター」の認定を取得。東京都のデジタル技術導入促進ナビゲータ事業、福岡市のバックオフィス業務効率化推進事業のほか、全国で展開することになる「みらデジ」によるデジタル化支援事業にも参画し、国や自治体と連携した中小企業のデジタル化支援も推進する。
「日本の中堅中小企業の3分の2が、デジタル化ができていない状況にある。その一方で、労働人口の減少により、働き方改革を進めなくてはならない状況にあることに加え、インボイス対応や電子帳簿保存法への対応、Windows 10の延長サポートの終了などによるIT環境の見直しも迫られている。スクラムパッケージを届けなくてはならない企業はまだ多い」と述べた。
さらに、人的資本への投資を加速していることに触れ、2019年4月から開始したプロフェッショナル認定制度の拡充や、プロフェッショナル人事制度の導入のほか、全社員デジタルスキルの強化と実践を進めるほか、事業拡大に必要なスペシャリスト人材の育成を図る考えを示した。
現在、リコージャパンには、主力デジタル人材として活躍できるプロレベル3以上の社員が3635人おり、Microsoftソリューションエバンジェリストが325人、kintone認定資格者が401人、情報セキュリティマネジメントが1287人在籍している。
「プロレベル3以上の社員は早期に5000人以上に拡大する。これらのスペシャリスト人材の拡充により、課題解決力が向上し、パートナーからの評価も高まっている。中堅中小企業に、リコーのデジタルサービスをしっかりと届けていきたい」と述べた。
なお、リコージャパンの笠井社長は、自らの社長就任について、「これまでは、デジタルサービスビジネスユニット経営企画本部で、大山(リコーの大山晃社長兼CEO)とともに、第21次中期経営戦略を策定する立場にあったが、それを実行する立場に変わった。自分で作った計画を、しっかりと達成し、デジタルサービス企業への転換を進める。リコージャパンは、顧客が必要とするツールを提供する力が強い。さまざまなツールと組み合わせて、顧客の課題に刺さる提案を行い、収益性の高いストックを積み上げることに徹底的にこだわる」と述べた。
欧州における取り組み
欧州(EMEA)における取り組みについては、Ricoh Europe PLCのNicola Downing CEOが説明した。
欧州における2022年度の売上高は前年比10%増の35億ユーロ。そのうちオフィスサービスが前年比17%増の13億ユーロとなり、37%を占めているという。3200人の直販営業チームを有し、4800人のフィールドエンジニアが在籍。18万社の顧客ベースを持っている。また、欧州ではこれまでに18社を買収しており、M&Aが成長戦略の原動力になっていることを示した。買収企業の業績の合計は前年比23%増という高い成長を遂げており、2023年には、アイルランドのナンバーワンITインテグレータであるのPFHを買収している。
従来型のプリントビジネスに加えて、ワークフローやBPA、CSの提供、ストックビジネスの強化、独自ソフトウェアの提供、パートナーとの連携強化などを進めており、「中小企業からグローバル企業に対して、付加価値を提供するワークプレイスインテグレータとなり、この分野でのリーダー企業になることを目指している」とした。
また「欧州市場では、戦争の影響もあり、IT市場全体が前年比4%増という状況にとどまっているが、Ricoh Europeの2023年度上期業績は14%増という力強い成長を遂げ、プロセスオートメーションやITサービス、CSのいずれもが業界平均を上回る成長を遂げている。また、ストックビジネスも好調であり、欧州におけるDocuWareの更新率は95%という高い水準にある」と語った。
さらに、デジタルアカデミーを通じて470人の社員を、DocuWareやCS、データアナリティクスなどの成長分野にシフトできるようにリスキリングしたほか、1000人以上のプリンターのフィールドエンジニアを対象に、ITサービスやCSのサポートができるように育成。営業部門では3000人を教育し、幅広い製品を提案できるようになったことにも触れた。これらの取り組みの成果として、2023年度上期にDocuWareの売り上げが前年同期比36%に達したこと、プロフェッショナルサービスの売り上げが13%増加したことを紹介した。
「欧州市場では高い競争力と高い信頼性、多くの顧客基盤があり、買収企業の顧客ベースにも新たにサービスを提供している。パートナーへの投資も強化しており、60以上の市場に対して一貫したサービスを提供している。グローバル企業にも、ローカルの中小企業のニーズにも対応できる点も強みである。欧州においては、2025年にデジタルサービスの売上比率を60%以上にする目標は達成できる見込みである」と語った。
米州における取り組み
米州におけるデジタルサービスの取り組みについては、Ricoh USA, Inc.のCarsten Bruhn社長兼CEOが説明した。
米州の2022年度実績は、売上高が前年比9%増の35億ドル。5万5000社の顧客ベースがあり、フォーチュン500のうち84%の企業が採用しているという。現在、オフィスサービスの売上構成比は27%となっている。またサービス売上高の63%がBPS(Business Process Services)だという。
医療、小売、金融サービス、製造業の4つの業種を、米州における高成長分野に位置づけている。現在、売り上げの66%が大手企業であり、中堅企業が25%、中小企業が9%という構成比。また、2割が販売店経由であり、8割を直販が占めている。
「4つの高成長分野に対して高いスキルを持った人材を採用している。人材は30%増加し、定着率も高まり、その結果、顧客満足度を高めることができると考えている。顧客中心のポートフォリオにより、ソリューションを提供し、顧客のパートナーとしてビジネス課題を解決する役割を担っている」と述べたほか、「過去2年半で、米州ビジネスは大きく変化した。人材獲得や文化の醸成、市場アプローチの変化やストックビジネスの拡大、主要な顧客と市場へのフォーカス、デジタルファーストのアプローチによる最適化や近代化、自動化の提案により、継続した成長の地盤を確立した」と語った。
2022年に買収したCeneroにより、デジタルワークプレイスを提案するためのサービスポートフォリオを拡充。24時間稼働するService Operations Center(SOC)を通じて、デジタルアジリティを改善したり、イノベーションを加速したり、高いパフォーマンスを持つチームを流動性な職場を通じて関与させることができるようになるとした。
「北米のCS市場全体では5.3%の成長率だが、Ricoh USAでは30%増という高い伸びを計画している。Ricoh USAは、北米の既存顧客に対して、もっと多くの価値を提供することができる」と自信をみせた。
また、北米市場で販売を開始したRICOH kintone plusについては、インサイドセールスにより、既存顧客へのアプローチからスタートしている段階だと述べた。