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セールスフォース、業界特化型の顧客ロイヤルティー向上支援ソリューション「Loyalty Management」を発表

 株式会社セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)は20日、小売や消費財、製造、旅行、サービス業などに向けた新たな業界特化型ソリューション「Salesforce Loyalty Management」を発表した。

 Salesforce Customer 360プラットフォーム上に構築されたSalesforce Industry Cloudの新製品に位置づけられ、これらの業界の企業が、優良顧客に対するロイヤルティープログラムを開始したり刷新したりする際に、業種別に用意されたテンプレートを活用することで、エンゲージメントの高いプログラムを、コーディング不要で作成することができる。また分析ツールを活用し、顧客向けサービスの高度化や現場の意思決定につなげられるとした。

Salesforce Loyalty Management
Loyalty Managementのロイヤルティープログラム管理画面
Loyalty Managementのダッシュボード

 セールスフォース インダストリーズトランスフォーメーション事業本部小売消費財担当の国本久成シニアマネージャーは、「ロイヤルティープログラムのパーソナライゼーションに満足している消費者の割合は22%であり、ポイントや割引といった経済的側面のサービスだけでは、ロイヤルティーが育たないのが実態だ。本質的な顧客ロイヤルティーをはぐくむには、カスタマージャーニー全体をとらえた感情的な側面に着目する必要がある」という点を指摘。

 また、「ロイヤルティー戦略の多くは、マーケティングチームが主導するケースが多いが、本来は顧客接点全体にまたがる取り組みが必要であり、組織間がコラボレーションし、複数のシステムが連携して迅速な意思決定を行う必要がある」という点もあわせて指摘する。

 一方で、「スピード感を求めているマーケティング部門に対して、IT部門のスピードが足かせになる傾向があり、テクノロジーの柔軟性への制約も課題になっている。コロナ禍において、ロイヤルブログラムの変化が求められるなかで、柔軟に対応できず、価値を下げることにつながる課題も浮き彫りになっている」と、現状での問題点について語った。

セールスフォース インダストリーズトランスフォーメーション事業本部小売消費財担当の国本久成シニアマネージャー

 Loyalty Managementでは、こうした点を踏まえて、顧客と企業双方のメリットを最大化し、大規模なパーソナライゼーションや、一貫性のあるロイヤルティー体験を継続的に強化するシステムとプログラムを提供。「柔軟にロイヤルティープログラムを管理し、価値を提供することで、生涯にわたる顧客との関係性を構築することができる」とする。

 具体的な機能としては、プログラム設定、会員管理、パートナー管理、リワード管理、特典管理、動的プロモーション管理、バウチャー管理、アナリテティクス、ロイヤルティープロセス管理、業種別テンプレートなどを提供。「顧客満足度が売り上げに貢献しているのか、休眠会員向けのキャンペーンが掘り起こしにつながっているのか、クーポンや割引が一方的な収益ロスにつながっていないかといったパフォーマンスも分析することができる」とした。

Salesforce Loyalty Managementの機能

 なおLoyalty Managementでは、Tableau CRMと、製造業、小売業などの4つの業種別分析テンプレートを標準で提供しているという。

 さらに、顧客の行動やポイントの利用などに関する情報を処理し、一元的に蓄積する機能を新たに提供。Marketing CloudやService CloudなどのSalesforce製品と連携し、顧客接点全体を通じてロイヤルティー向上を図ることが可能だと説明。

 「ゼロからプログラム開発し、システムを組み立てる必要がない。ノーコードでプログラムをデザインすることができ、テクノロジーの実装は極めて迅速に行え、カスタマイズも容易に実行できる。企業のデジタル担当者は、ロイヤル顧客に対して、カスタマージャーニー全体でつながったロイヤルティー体験を実現できる」とした。

 また、セールスフォース マーケティング本部プロダクトマネジメント担当の山下義憲シニアマネージャーは、「Loyalty Managementは、Salesforceの各製品とシームレスに連携することで、顧客と企業ブランドのエンゲージメントを強化するためのロイヤルティープログラムを、大規模で、柔軟性を持った形で支援できるプラットフォームになる」とした。

セールスフォース マーケティング本部プロダクトマネジメント担当の山下義憲シニアマネージャー

Salesforce Customer 360/Industry 360に関する戦略を解説

 一方、セールスフォース 常務執行役員 インダストリーズトランスフォーメーション事業本部の今井早苗氏は、Salesforce Customer 360およびSalesforce Industry 360に関する事業戦略について説明した。

セールスフォース 常務執行役員 インダストリーズトランスフォーメーション事業本部の今井早苗氏

 まず、「Salesforce Customer 360は世界ナンバーワンのCRMであり、業界やビジネスの規模を問わず、デジタル変革のニーズに応える包括的なプラットフォームだ。営業支援、コールセンター支援、デジタルマーケティング、オンラインコマースなどのあらゆる顧客接点をカバーし、支援する」と前置き。

 「Customer 360のパワーを最大限に活用するためには、業界特有のものにパーソナライズする必要がある。医療分野向けには患者を中心としたPatient 360を提供し、通信・メディア業界では加入者を中心においたSubscriber 360を、金融業界向けにはClient 360が提供できる。これらを総称してIndustry 360と呼ぶ。Industry 360は業界独自の目標達成のためのアプリケーションであり、業種別データモデルでのインテグレーションが可能。すぐに使えるプロセスを700以上も実装している。それにより、迅速に成果を出すことができる」とした。

Salesforce Customer 360
Salesforce Industry 360

 このほか、フォーチュン100にランクインする金融サービス、ハイテク、ヘルスケア、通信・メディア、製造、小売・消費財のすべての企業がSalesforceを活用していることに触れながら、「これまでは、ビジネスに応じてSalesforceのインスタンスをカスタマイズする必要があったが、業界特有のUIやロジック、データモデルを標準機能として実装し、業界のトレンドや課題分析に基づいた業界特化型のIndustry Cloudを活用することで、より迅速な実装と、年3回のバージョンアップの利益も得られる。ユーザー企業により近く寄り添い、ユーザー企業の成功により深く貢献できると考えている」と述べた。

 なおセールスフォースは、業種別ソリューションであるSalesforce Industry Cloudとして、金融業界向けの「Financial Services Cloud」、製造業向けの「Manufacturing Cloud」、小売業向けの「Consumer Goods Cloud」、教育分野向けの「Education Cloud」、非営利団体向けの「Nonprofit Cloud」を日本で提供。さらに、2020年6月のVlocityの統合完了によって、通信業界向けの「Communications Cloud」、メディア/エンターテインメント業界向けの「Media Cloud」、エネルギー業界向けの「Energy & Utilities Cloud」を追加している。

Salesforce Industry Cloudのラインアップ

 今回の「Loyalty Management」は9つめの業界特化型ソリューションとなる。近いうちに、米国では約4年前から発売済みの保険、医療分野向けの「Health Cloud」を、日本でも提供することになるほか、「米国でスタートしている製品を追加し、日本でのラインアップの充実を予定している」という。

 「コロナ禍において、企業は迅速な変革を求められている。そのニーズに対して、最速で、安心、安全に高い柔軟性、拡張性を持って対応するためには、世界ナンバーワンCRMとして、長年の経験を持ったIndustry 360およびIndustry Cloudを活用してもらうことが最高の近道である」と位置づけた。

 また、海外におけるIndustry Cloudの導入事例も紹介した。

 ポーランドの通信サービス事業者であるOrange Polandは、モバイルで1400万人、固定通話で400万人、ブロードバンドで200万人の顧客を有しているが、デジタル志向の消費者を獲得したいと考え、Communications Cloudを活用して、シンプルで、透明性が高く、顧客が自由に管理できる「Orange Flex」のサービスを開始。11カ月でサービスを開始したという。その結果、競合他社からの乗り換えや新規契約の割合が50%に達した。「新規顧客の27%がeSIMの利用者で、約2分でアクティベーションが可能になっている点などが口コミで広がり、新規顧客を拡大させた」という。

 米金融サービスのMascoma Bankは、コロナ禍で実施された中小企業経営者向けの給与保護プログラム(PPP)を、迅速に処理するためのアプリ開発にFinancial Services Cloudを導入。銀行には4人の開発者しかいなかったが、AppExchangeのパートナー企業の協力を得て、連邦政府のシステムと連携し、オンラインで署名が行える申請手続きシステムを開発した。1年分の申請数に想定する融資申請を13日間で処理したという。そして、PPPの第1期だけで1億2000万ドルの融資を行い、地元で1万5000件の雇用を維持したと、その効果を説明している。