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米Microsoftが「Azure Percept」などの新サービスを発表、Azure ArcはAzure ML対応に

 Microsoftは、3月2日(米国太平洋時間、日本時間3月3日未明)に開始される同社のプライベートイベント「Ignite 2021」において発表されるMicrosoft Azureの新サービスについて、報道発表を行った。

 同社が発表したのは「Azure Percept」、「Azure Synapse」、「Azure ArcのAzure MLへの拡張」などで、順次サービスとして投入される。

 「Azure Percept」はマシンラーニング/ディープラーニングを利用した音声認識やコンピュータビジョンの仕組みを、エッジデバイスに提供する仕組み。Microsoftが提供するカメラやオーディオ装置などを備えた開発キットを利用すると、Azureが提供する音声認識やコンピュータビジョンを利用したエッジデバイスを、AIやハードウェアの知識がなくとも容易に構築可能になる。

Azure Perceptの開発キットとして提供されるエッジデバイス(出典:Microsoft)

 また、2020年のIgnite 2020で発表されたAzure Arcは、クラウド、オンプレミス、エッジの各環境を選ぶことなく、Kubernetesを統合的に管理して実行可能にしているが、今回はそのAzure Arcが、「Azure Machine Learning(ML)」も利用できるように拡張された。

日本時間3月3日0時半から行われる基調講演ではナデラCEOからMicrosoftのクラウド戦略のビジョンが語られる

 MicrosoftのIgnite 2021は、COVID-19の感染拡大などの影響でデジタルイベントとして3月2日~3月3日(米国時間)に開催される。3月2日午前8時30分(日本時間 3月3日 午前1時30分)からは、Microsoft CEO サティア・ナデラ氏による基調講演が行われる予定になっており、同社のフェローで同社のHoloLensの開発者としても知られるアレックス・キップマン氏もゲストとして登壇し、同社のMR(Mixed Reality)の未来について語る見通しだ。

 その中でナデラ氏は今後数年のクラウドがどうなるかについて「次世代クラウドの鍵となる5つの特性」(The Five Key cloud attributes)というタイトルで同社のビジョンに関しての説明を行う見通しだ。

 ナデラ氏が言う5つとは

1)Ubiquitous and decentralized computing(あまねく存在し、中央司令塔を持たないコンピューティング環境)
2)Sovereign data and ambient intelligence(データ至上で環境適合したインテリジェンス)
3)Empower creators and communities everywhere(クリエイターの活動を扶助し、どこでもコミュニティを構築できるようにする)
4)Expanded economic opportunity for every member of global workforce(グローバルに働くすべての関係者のために経済的な機会を拡大すること)
5)Trust by design(信頼されるクラウドサービスを提供すること)

のことで(かっこ内は筆者の訳)、それぞれの内容に関してはナデラ氏の基調講演で説明される予定になっている。

ナデラ氏が説明した「次世代クラウドの鍵となる5つの特性」(出典:Microsoft)

エッジAIでバイスを簡単に設計できる仕組み「Azure Percept」のパブリックプレビュー

 Microsoftが発表した「Azure Percept」のパブリックプレビューは、Azure Cognitive ServicesやAzure MLなど、AzureのAIエンジンを利用してエッジデバイスを制作したい開発者向けのサービスとなる。

 MicrosoftはこのAzure Perceptを利用してエッジデバイスを設計したい開発者向けに、「Azure Percept development kit」と呼ばれるハードウェアを提供する計画。オーディオやカメラなどのデバイスが用意され、それらとAzure Perceptを組み合わせることで、短期間でAIを活用したエッジデバイスを構築することが可能になる。

 それらのデバイスは業界標準の80/20 Tスロットフレームに固定可能で、量産出荷前に小売店や工場などにある現状のインフラにアドオンし、試験的に使うことなどが想定されている。

80/20 Tスロットフレームに固定されたAzure Perceptのエッジデバイス(出典:Microsoft)

 従来であれば、開発者はハードウェアについても、そしてAIについても知識が必要だったが、Azure Perceptを利用すると、そうした知識があまりなくても開発できるようになるという。

 具体的には、Azure Percept Vision(カメラを利用したコンピュータビジョンを利用するためのツール)、Azure Percept Audio(音声認識を利用するためのツール)がそれぞれ用意される。

 デバイスとAzureのサービスがインターネットで接続されAIのモデルが利用されたり、デバイスがインターネットに接続されていない場合でもエッジ側に導入されたAIエンジンが動作したりする仕組みが提供される。これにより、クラウド側のAIエンジンを利用する時間的余裕がない場合でも、デバイスはAIの処理を続行できるとのこと。

 Microsoftによれば、現在サードパーティの半導体メーカーとの協業も予定されており、今後、そうしたメーカーがリリースする半導体や、それを搭載したサードパーティのデバイスもAzure Perceptでサポートされる見通し。今後数カ月の間に、認証されたデバイスの提供が行われ、実利用環境などで利用できるようになる。

Azure Synapse Analyticsのデータマイグレーションの高速化やAzure ArcのAzure MLへの拡張などが発表される

 データ関連のAzureでもいくつかの発表があった。「Azure Synapse Pathway」はすでに提供されているAzure Synapse Analyticsの新しいマイグレーションサービス。従来は数週間~数カ月かかっていたデータのマイグレーションを、わずか数クリックの処理で自動的にTSQLのスクリプトに転換して、数分で終えることが可能になる。

 Microsoftによれば、Teradata、Snowflake、Netezza、AWS Redshift、SQL Server、Google BigQueryなどからAzure Synapse Analyticsへのマイグレーションに対応する。

 また、2020年12月に発表したユニファイドデータサービスのAzure Purviewでは、Amazon AWS S3、Teradata、Azure data Services、Power BI、そしてオンプレミスのOracle DB、SAP ERP、SQL Serverなどからのデータスキャンやデータ分析が可能になった。

Harness the power of data with Azure Data and AI
https://aka.ms/Ignite21-DataBlog

 2020年のIgnite 2020で発表されたAzure Arcの拡張も明らかにされた。Azure Arcは、オンプレミス、クラウド、エッジといった場所を選ばずにKubernetesの管理、実行をするための仕組み。ハイブリッドやマルチクラウド環境を構築している場合でも、1つの管理コンソールからKubernetesを複数の場所に導入したり、管理したりということが容易にできるようになる。

 今回発表されたAzure Arcの拡張では、そのデータサービスがAzure MLも含むように拡張される(Azure Arc enabled machine learning)。これにより、オンプレミス、クラウド、エッジなど場所を選ばずに、Azure MLの学習モデルが実行できるようになる。プレビュー版の募集は本日より開始される計画になっており、以下のサイトから申し込むことが可能だ。なお、2020年秋にプレビュー版が発表された「Azure Arc enabled Kubernetes」は、本日より正式提供が開始される。

Preview (March 31st 2021) of Azure Arc enabled ML
https://aka.ms/amlk8s-preview-survey

 Azureと企業のデータセンターをひとまとめにして管理できるAzure Stack HCIも拡張され、Azure Arcに対応する。それによりAzureの顧客は、Azure Stack HCIにより実現されたハイブリッドデータセンター上で、Azure ArcのKubernetesのプログラムを実行可能になる。

 すでにAzure Stack HCI対応のオンプレミス用のサーバーを提供しているDell、HPE、Lenovo、富士通などのサーバーと組み合わせて利用可能だ。

 また、Azure Arcで実行できるKubernetesのディストリビューションには、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)、Red Hat OpenShift、Charmed Kubernetes、RKE(Rancher Kubernetes Engine)などがあったが、今回のIgnite 2021で新たに「Nutanix Karbon」のAzure Arcでのテストと検証が行われたことが明らかにされた。Microsoftは今後も、対応するパートナーを増やしていきたいとの意向が同時に表明されている。

Hybrid datacenter with Azure Stack HCI and Azure Arc
https://aka.ms/Ignite21-HybridBlog