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シスコ新社長の中川いち朗氏、「日本企業のデジタル変革を支援」など4つの重点戦略を説明

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)の代表執行役員社長に就任した中川いち朗氏が、2月24日、オンラインで社長就任会見を行った。

 中川社長は、「社長就任後に社員に言ったのは、『お客さまの成功こそが、私たちの成功である』という言葉である。顧客やパートナーのビジネスに直接貢献する企業になりたい。また、当社のパーパス(存在意義)は、『すべての人に開かれた未来を創る』としている。日本の社会をすべての人に開かれた未来にすることがシスコジャパンの使命である。ポジティブとネガティブが錯綜する混沌とした時代であり、時代が変わるタイミンクである。これは日本にとって脅威ではなく、新たな世界を作るチャンスだと考えている。新型コロナウイルスによる社会変化を好機と見て、デジタルで日本をすべての人に開かれた未来にする」とコメント。

 「これまでのシスコはインフラ企業という印象が強かったが、Webexに代表されるビジネスソリューション、リカーリングソフトウェアビジネスの促進、5Gネットワークの拡大など、ビジネスポートフォリオを変革させている。現状維持は退化であり、それはシスコも例外ではない。これまでの成功の上に胡坐(あぐら)をかくことなく、変革をしていかなくてはならない。歴代のリーダーが築いてきた日本の社会におけるシスコの位置づけをさらに一歩向上させるために、お客さまのビジネスの成功がシスコの成功につながると、社員全員が本気で考える会社にしたい」などとした。

 また、シスコジャパンの重点戦略として、「日本企業のデジタル変革を支援」、「日本社会のデジタイゼーションに貢献」、「お客さまのライフサイクルすべてを支援」、「新たなパートナーモデルの実装」の4点を挙げ、それぞれの取り組みについて説明した。

シスコ 代表執行役員社長の中川いち朗氏

エンタープライズ事業、情報通信産業事業をともにリーダーとして担当した経験を持つ

 中川新社長は、1962年東京都出身。1985年3月に慶應義塾大学法学部法律学科卒後、同年4月に日本IBMに入社。24年間に渡り勤務し、流通サービス担当営業としてスーパーマーケットやコンビニエンスストア、衣料専門店など大手流通企業を担当した。

 2001年から米IBM本社への勤務を経て、2003年からソフトウェア事業を担当。2007年から事業統括理事を務めた。また2010年に日本ヒューレット・パッカードに入社。執行役員および常務執行役員として、5年間に渡り、先進的なシステム開発や運用にかかわりながら、ソフトウェア事業を2けた成長させた。

 シスコには2014年に入社し、専務執行役員として、金融や製造、流通、IT業界など大手顧客を担当するエンタープライズ事業を統括したのち、2018年からは副社長として、情報通信産業事業を統括。大手通信事業者をはじめ、モバイルサービスプロバイダー、ブロードキャスティング事業、クラウド事業、メディア業界に向けた戦略立案および事業成長の責任者を務め、日本におけるシスコの持続的な事業成長に貢献してきた。そして、2021年1月25日付で代表執行役員社長に就任している。

 中川新社長は、これまでのシスコでの経験について、「それぞれに独立して活動し、成長してきたエンタープライズ事業と情報通信産業事業の2つの事業を、リーダーとして担当した経験は貴重である。広い顧客との関係性を構築し、ビジネス面でも融合できたことがこれまでの実績だと考えている。5Gを活用したエンタープライズ企業におけるDXは、その最たる例である」と述べた。

 趣味は、トライアスロン、マラソンであり、2018年には、若手の自己啓発に関してまとめた著書「一枚の紙で夢はかなう」を出版している。

4つの重点戦略を打ち出す

 シスコでは例年、8月から始まる新年度にあわせて年間計画を立て、それを公表してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、市場環境が大きく変化。通年での計画策定が不可能と判断し、2020年10月の事業方針説明会見に続き、今回の中川新新社長の就任にあわせて、今後半年間の事業方針を説明した。

 「今回の会見は、新年度事業方針発表と等しい重要な位置づけの会見になる」と中川新社長は発言。中川新社長が会見で打ち出したシスコジャパンの4つの重点戦略は、この同社2021年度下期における重点分野と位置づけることができる。

シスコジャパンの重点戦略

 4つの柱のうち、最初の「日本企業のデジタル変革を支援」では、「コロナ禍の状況は一過性のものではなく、もとには戻らない。ニューノーマル時代は、ハイブリッド型ワークスタイルになる」と前置き。

 「企業のネットワークのあり方が変わろうとしており、それを支えるのがCisco Secure Work from Anywhereである。VPNを前提とした社内ネットワークから、マルチアクセス、マルチクラウドによるインターネットを中心とした環境に移行する。インフラの可視化、分析、自動化、全体最適化が重要であり、Cisco Digital Network Architecture(DNA)によるフレーワークが新たな企業ネットワークを実現する」とした。

 DNAでは、どこからでもシームレスにアクセスできるマルチアクセス、マルチクラウドにおけるアプリケーションのパフォーマンスの最適化を図れるSD-WANの活用や、異なるネットワーク環境にまたがり、ビジネス要件に応じてインテントベースの統合運用管理を提供するほか、広範囲のインフラセキュリティを担保するために、多要素認証を含めたゼロトラストセキュリティを実現するCisco Duo、クラウドセキュリティのCisco Umbrella、セキュリティの観点からネットワークを可視化するStealthwatch Cloudなどによって、企業のゼロトラスト化を促進できるとした。

Cisco Secure Work from Anywhere

 2つめの「日本社会のデジタイゼーションに貢献」では、世界各国のデジタル化を支援するプログラムである「カントリーデジタイゼーションアクセレーション(CDA)」について触れ、「CDAは、シスコの中期的な投資に対するコミットメントでもある。政府、公的機関、教育機関、民間企業と協力しながら、各国の重要な課題解決や経済成長に対して貢献していくものである。世界40カ国、900以上の支援を行っている」と説明した。

 その上で、日本では全国規模でのデジタル化を促進すると発言。「安全安心な公共インフラ」、「教育のデジタル化」、「テレワークの推進と高度化」、「新型コロナ対策・遠隔医療」、「サプライチェーン対策」、「規制改革とデジタル社会」、「5Gインフラストラクチャ」の7つの分野に注力するとともに、「政策との連携も図ることになる」とした。

カントリーデジタイゼーション

 3つめの「お客さまのライフサイクルすべてを支援」は、シスコ自らのビジネス変革への取り組みだと位置づけた。

 同社では、製品やサービスの購入前から購入後まで、顧客にとっての価値を最大化するための手法として「カスタマーライフサイクルアプローチ」を開始。「従来のシスコは、需要喚起から購入、導入までに注力してきたが、今後は、導入後の活用、最適化、ビジネスへの貢献に軸足を置く。近年、シスコでは、製品のソフトウェア化、クラウドサービス化、リカーリングビジネスモデル化を加速している。また、システムのライフサイクル全体に対する支援を行うための専任部隊である『カスタマサクセス』を設置したほか、2021年度から新たにソフトウェア&サービス営業部門を設置した。ネットワークインフラ管理の簡素化支援、抜本的なコスト削減、ビジネスケースにおけるコンサルティングサービスをデリバリーチームとともに提供していく。カスタマーライフサイクルアプローチが、シスコの新たなビジネスモデル、新たな変革になる」と述べた。

カスタマーライフサイクルアプローチ

 最後の「新たなパートナーモデルの実装」では、「ライフサイクル全体に対する支援は、パートナーとの協業なくしては実現ができない。そこで、10数年ぶりにパートナープロクラム制度を刷新した」と語った。

 従来の制度では、シスコとの取引量などをもとに、Gold、Premier、Selectに分かれていたが、今後はパートナーの役割を軸に支援内容を刷新。「プロダクト販売、構築、運用を担うシステムインテグレータに加えて、マネージド型やas a Service型といったサービス提供を担うサービスプロバイダー、Cisco DevNetを通じてプログラマビリティを生かし、付加価値を創造するテベロッパー、コンサルティングなどの経営戦略にも踏み込むアドバイザーの4つのカテゴリーに再編した。大手パートナーではすべてのカテゴリーで支援してもらうことを期待している」とした。

新パートナープログラム

 こうした取り組みを通じて、中川新社長は、「シスコは、ネットワークを中心としたテクノロジーが支援のコアだが、シスコ自身が、DXをリードする企業にならなくてはいけない。DXの手本にならなくてはいけない」などと述べた。

前社長のウェスト氏はCisco アジアパシフィック ジャパン アンド チャイナ プレジデントに

 一方、シスコの代表執行役員社長を務めていたデイヴ・ウェスト氏は、1月25日付でCisco アジアパシフィック ジャパン アンド チャイナ プレジデントに就任。日本のほか、豪州・ニュージーランド、インド・南アジア地域協力連合、東南アジア諸国連合、韓国、中国のほか、サービスプロバイダーをあわせた7つの組織を率いる。同職は、シスコジャパンの社長を務めた鈴木みゆき氏が就いていたが、先ごろ退任したことで、後任としてウェスト氏が就くことになった。

Cisco アジアパシフィック ジャパン アンド チャイナ プレジデントのデイヴ・ウェスト氏

 ウェスト氏は、中川新社長について、「事業成長、収益性向上、次世代人材の育成といったビジネス領域のすべてですばらしい結果を出してきた。そして、信じられないほどの情熱をシスコジャパンの成功に注いでいる。顧客のデジタルジャーニーと、パートナーとの良い関係性にコミットしており、シスコの文化と価値観に信念を持っている。Ciscoにとって、日本は、戦略的に最も重要な市場のひとつ。今後も日本の顧客、パートナーにコミットしていく。その市場の推進役として、理想的なリーダーである。この人事は1年以上前から計画を進めてきたものであり、後任としての役割を託すことができたのは光栄だ」と述べた。

 また社長在任期間中を振り返り、「ビジネスを成長させることができたのはもちろんだが、シスコのカルチャー変革を実現できたことが最大の成果である。シスコの存在価値にフォーカスし、社会に貢献できるという価値観を共有し、それを醸成できた」などとした。

 なお会見のなかでは、シスコジャパンが社内で最も高い成長実績を上げたことが評価され、シスコカントリーオブザイヤーを2年連続で受賞したこと、「働きがいのある会社」ランキングの大規模企業部門で1位になったことを報告。

 中川社長は、「2020年度後半は厳しい環境にあったが、サービスプロバイダー事業において、5Gビジネスが75%の市場シェアを獲得。エンタープライズ事業ではBCPやリモートワーク、GIGAスクール構想といった社会ニーズに沿ったソリューションをいち早く提供することができた。基盤ネットワークに加えて、コラボレーション事業などが成長した点が評価されている。また、働きがいのある会社ランキングでは、2018年以来の1位への返り咲きである。早い時期から、社員の生産性向上とモチベーション向上のために、最新のコラボレーションテクノロジーを導入し、働き方改革を推進してきた。また、インクルージョン&コラボレーション、ダイバーシティの活動を強化し、多様性を尊重することを最重要戦略に位置づけてきた。コロナ禍では、社員と家族の健康を最優先に位置づけ、いち早く完全在宅勤務などを実施した。人材と企業文化が、シスコの最大の強みである。これがシスコの好調なビジネスを支える原動力である」などと述べた。

シスコジャパンの近況