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シスコ・中川社長、2024年度までの3カ年成長戦略を打ち出す 日本の売上高を米国以外では世界1位に――
2021年11月5日 06:15
シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は4日、2024年度までの3カ年の成長戦略を打ち出し、日本の売上高を、米国以外では世界ナンバーワンに引き上げる社内計画を明らかにした。
現在、米国外では英国、ドイツに次いで3番目の規模だが、シスコの中川いち朗社長は「日本はまだまだ伸びしろがある。経済力は世界で第3位だが、日本のデジタル競争力ランキングは28位である。これを変えれば日本人はもっと幸せになり、もっと経済を発展させ、国力を高めることができる。日本のデジタル競争力を高め、日本を変えていく」と発言。「Ciscoは全世界170カ国で展開しているが、そこでトップになる野望がある」と語った。
また中川社長は、「シスコを、ネットワークの会社やインフラを提供する会社から、企業のビジネスを変える会社、社会を変える会社、素晴らしい未来への懸け橋になる会社に変えたい。その基盤となるのが人材であり、企業文化である。お客さまの成功を強く意識し、それを働きがいと感じる会社にしたい」と述べ、「業界別のDXを支援し、行政、医療、教育などの社会インフラへの投資を加速させ、ソフトウェアやリカーリングビジネスに移行しながら、お客さまのITライフサイクル全体を支援し、企業や社会のデジタル変革に直接貢献していく。長期にわたる信頼関係をお客さまと構築し、新たな市場をパートナーとともに開拓していく」との考えを述べた。
2021年8月からスタートした同社2022年度については、「第1四半期(2021年8~10月)は、前年対比で大幅な成長を達成できた」とした。
4つの重点戦略をさらに加速へ
中川社長は、2021年1月に社長に就任して以降、「日本企業のデジタル変革」、「日本社会のデジタイゼーション」、「営業/サービスモデル変革」、「パートナーとの価値共創」の4つの重点戦略を打ち出してきたが、2022年度以降は、これらの取り組みをさらに加速させ、それぞれの項目について3つずつのイニシアティブを実行。それらを支えるものとして、「変化に即応できるプラットフォームの提供」、「人財と企業文化」への取り組みを強化することを示した。
「社長就任直後に立てた戦略のフレームワークが、正しい方向であるという確信を持った。2022年度以降は、この4つの重点戦略を、さらに具体的に、長期的な視野で検討し、将来に向けた新たな投資を含めた形で、3カ年の成長戦略に発展させた」とする。
また、「これはCiscoがグローバルで推進しているビジネス戦略に基づきながらも、日本の市場、現場の意見を反映し、掛け声だけではなく現場での実行を伴ったリアルな戦略とすることを目指した。そのために、各組織の担当役員はもとより、組織を超えた現場の100人のリーダーが戦略ごとにチームを構成し、“One Cisco”の姿勢で議論をした。トップダウンとボトムアップで決定した戦略である。まだ達成度は低い段階にあるが、3年後には、7割程度の達成感を持てる状況にまで満足度を高めたい」などと述べた。
重点戦略のうち「日本企業のデジタル変革」では、業界ソリューション、本社開発部門との密接な連携、LOBカバレッジ強化に掲げた。
なお業界ソリューションでは、企業のデジタル変革を推進するために業界別のアプローチを強化。製造、金融、流通サービス、公共を重点業界に定め、ユースケースを通じて効果を実感してもらえるような業界別ソリューションを整備し、事例化を進めるという。
「情報システム部門だけでなく、LOBへの訴求や、シスコ自らの実践例を紹介する『Cisco on Cisco』にも取り組む」とした。業界別の専任開発チームを立ち上げ、ユースケースの開発、エコシステムパートナーとのソリューション開発なども進める考えだ。
2つ目の重点戦略である「日本社会のデジタイゼーション」では、カントリーデジタイゼーションアクセラレーション(CDA)、デジタル庁への支援体制強化、ローカル5Gの普及促進に取り組むという。
CDAは、世界40カ国で1000件以上のプロジェクトを対象に実施している取り組みで、各国が直面している課題をデジタルによって解決するための支援プログラムである。日本では製造業やスマートシティ、公共サービス、GIGAスクールなどを対象に投資をしてきたが、新たにCDA 2.0として、これまでの活動に加えて、カーボンニュートラルや医療、高齢化などの持続的社会、スマートメーターやスマートモビリティなどの社会インフラ、サプライチェーンや無人店舗などの業界エコシステムに取り組むことになる。
また、政府機関の情報システムや地方公共団体の公共サービスなどを支援する専任チームを新設。米本社のチームとも連携して、グローバルで蓄積したノウハウを日本にも提供する。
3つ目の「営業/サービスモデル変革」では、カスタマーエクスペリエンス、Ciscoユニファイドポータルの開設、ソフトウェアの包括契約の推進――、の3点を挙げた。
カスタマーエクスペリエンスでは、ITライフサイクル運用支援サービスを拡充することを発表。導入したシステムの機能を最大限に生かすためアドバイス、状態の分析、その後の最適化提案などを行うという。
「働き方変革やプロセス改革により、システム導入時には予想外だった使い方や、セキュリティ対策の高度化、急速なトラフィック変化への対応といった新たな課題が発生している。ニーズの多様化、ソフトウェアビジネスの特性からも、導入はスタートであり、その後の利活用こそが、価値を提供することにつながる。さまざまなニーズに、柔軟に対応することができるオファリングを開発中である」とした。
ここでは、ネットワーク管理とそれに伴う自動化を行うCisco DNA(Digital Network Architecture) Centerを紹介。この対象範囲をセキュリティやデータセンターにまで拡張する計画を明らかにしたほか、多くのユーザーに利用してもらえるように簡易版サービスも用意する考えを示した。
最後の「パートナーとの価値共創」においては、マネージドサービスパートナーとの協業、戦略的フレームワークの提供、DevNetコミュニティ拡大の3点を掲げた。
マネージドサービスパートナーとの協業では、2020年度に、サービスプロバイダーとのマネージドサービス開発専任チームを発足し、ビジネス開発や市場展開、販売協業を推進してきたことに触れながら、「過去2年間でビジネスを2倍以上に成長させており、シスコとパートナーの成長に大きく貢献した取り組みになっている」と前置き。その上で、「2022年度はこの変革と成長をさらに推進させるために、専任チームをパートナー事業に移管し、新たなマネージドサービスプロバイダーチームとして再編し、拡大する形で発足した」と述べた。
新たな組織は、サービスプロバイダーやパートナーとともに、ビジネス成功ノウハウを横展開。富士通や三井情報(MKI)、日立情報通信エンジニアリングなどのパートナーとともに、ビジネス拡大を推進していくという。
- 初出時、パートナー名を「日立エンジニアリング」としておりましたが、シスコより「日立情報通信エンジニアリング」の誤りとの発表があったため、本文も訂正いたしました。
また、Merakiやセキュリティ、コラボレーションなどを扱うクラウドパートナーや、SD-WAN、SD-Access、SASEなどにおいて、シスコとパートナーのソリューションを組み合わせたManaged SD-Xを提供するパートナーをそれぞれ開拓。プライベート5G as a ServiceやFSO (フルスタックオブザーバビリティ)as a Service、スマートシティ支援といった中長期的なデジタル変革を実現するためのマネージドサービスの開発も、シスコの開発者コミュニティであるDevNetを通じた開拓するという。
「エコシステムパートナーとはさまざまな協業を検討しており、今後、順次発表していくことになる」と述べた。
4つの重点戦略を支える「変化に即応できるプラットフォーム」
一方、これらの4つの重点戦略を支えるものが「変化に即応できるプラットフォーム」となる。ここでは、ネットワーク、セキュリティ、クラウド、コラボレーション、サービスプロバイダー、5Gを駆使したプラットフォームを提供。
「VPNを中心としたネットワーク環境から、インターネットを中心としたネットワーク環境へとシフトするなかでは、インフラの可視化、分析、自動化、全体最適化が重要になる。シスコでは、Cisco Digital Network Architecture(DNA)というフレームワークを通じて、新たな企業ネットワークアーキテクチャーを実現していく」と説明。
どこからでもシームレスにアクセスする「マルチアクセス」、最適なパフォーマンスを維持し、最適なネットワークを利用できる「マルチクラウド」、異なるネットワーク環境をまたがって、意図に応じたネットワークポリシーを自動的に変更し、実装する「インテントベース」、インターネットを中心とした運用環境におけるセキュリティ対策となる「ゼロトラスト」の4つが鍵になるとした。
ここでは、ハイブリッドワークスタイルを実現する「Cisco Webex」、ゼロトラストプラットフォームである「Cisco SASE」、フルスタックオブザーバビリティを実現する「AppDynamics」、「Intersight」、「ThousandEyes」を提供することができるとした。
「Cisco Webexは、オンラインでも対面以上の体験ができるように、1年間で800以上の新たな機能を提供した。7月にはWebex Suiteを発売。会議だけでなく、セミナー、商談、株主総会、役員会議、採用面接、トレーニングでも利用されている。また、Cisco SASEでは、ネットワークの信頼性を実現するConnect、セキュリティ脅威対策を強化するControl、最も包括なセキュリティ環境を実現するConvergeの3つのCから提案できる唯一の企業、シスコならではの特長を生かしていく」とする。
そして、シスコが提供するフルスタックオブザーバビリティでは、「アプリケーション領域をAppDynamics、インフラ最適化および運用領域をIntersight、外部アクセスの可視化をThousandEyesで担い、全体を俯瞰(ふかん)する統合ダッシュボードを通じた監視などが可能になる。システムの観点から監視するのではなく、ビジネスの観点から一元的に把握し、ビジネスチャンスを逃さない環境を実現することができる」などとした。
2021年10月のFacebookのサービス障害では、ThousandEyesが稼働状況を監視し、分析し、その結果をいち早くTwitterで公開したことで話題を集めた事例も紹介した。
2021年度を振り返る
一方、2021年7月までの同社2021年度の取り組みについても振り返った。
中川社長は、シスコ全社が年間を通じて100%のリモートワークを実施したこと、2021年2月には、働きがいのある会社の大規模企業部門で1位となったこと、東京2020大会でスポンサーとして、大会の成功を支えたこと、2020年11月に、本社内に5Gショーケースを開設したことなどに触れた。
「オフィス勤務、在宅勤務、リモートワークが共存しても、生産性を落とさない新たな働き方をシスコ自らが実践し、見本になることができた。また、5Gネットワーク市場では80%近い圧倒的なシェアを獲得しており、今後は企業内で5Gの活用を推進するために、あらゆる業界やパートナーとともに、ユースケースを創造し、実証する環境を提供することに力を注ぐ。5Gモバイルネットワークと、エンタープライズ企業ネットワークの双方で豊富な実績を持つ、業界唯一の企業がシスコであり、そのノウハウを生かして、5Gにおける企業価値創造を推進していく」と述べた。
また、2021年春から夏にかけて、「Bridge to Possible 3.0」と呼ぶブランドキャンペーンを実施。テレビや駅構内のサイネージなどでCMを放映したことを紹介。「製品主体の広告ではなく、シスコのパーパスをもとに、企業のお客さまや、社会にどんな貢献ができるのかというメッセージを伝えている。日本における重点戦略である企業のデジタル変革と、社会のデジタル化へのコミットメントを表明した。3000万ものインプレッションがあり、一般消費者へのシスコの認知度は大幅に向上した」と成果を報告した。
また、4つの重点戦略における成果としては、「日本企業のデジタル変革」として、損保ジャパンでは、Webexにより、オンラインを採用したハイブリッド型の営業スタイルを構築したこと、「日本社会のデジタイゼーション」では、教育、医療、行政分野でのデジタル化を支援したことや、楽天モバイルが基幹システムにシスコのオプティカルアーキテクチャを採用したことを紹介した。
「営業/サービスモデル変革」では、デンソーが全世界150拠点400台のネットワーク機器の運用の自動化のためにCisco DNA Centerを採用。さらに「パートナーとの価値共創」では、NTT ComのManaged SDxに、シスコのSD-WANやMerakiソリューション採用した例などを紹介し、「こうした取り組み以外にも、新たなパートナーとの戦略的提携が進行中である」などとした。
なお、シスコではパーパスを「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」とし、コミットメントとして、「お客さまの成功こそが、私たちの成功」を掲げている。
「多くの企業が利益追求型の競争から、協業しながら社会のためにどんな貢献ができるのかという協創型のパーパス経営へと変化している。その背景にあるのは、コロナ禍によって生まれた危機感である。だれもが分け隔てなく、受け入れられ、認められていることを実感する社会を、デジタルで実現することこそ、シスコの使命である。新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの価値観や社会の在り方に大きな変化をもたらした」と前置き。
「それと同時に、世界的にも急速なデジタルシフトが起きている。日本においてもテレワークや遠隔教育、遠隔医療などが進展しているほか、企業においてもネットワークとデジタルテクノロジーを活用したDXが加速している。政府もデジタル化の遅れを挽回(ばんかい)するべくデジタル庁を発足した。シスコは、いまこそ、パーパスを実現すべきときであるととらえ、デジタル化の恩恵を受ける人と、受けづらい人の格差を解消し、誰一人として取り残されない社会を作る大きなチャンスであると考えている」とした。
また中川社長は、「多くの人から、『コロナ禍の大変な時期に社長になりましたね』と言われたが、変化のときこそチャンスであるということを実感している」とし、「2021年度は、シスコにとって大きなビジネス変革が起こった1年だった」と位置づけた。
ここでは、グローバルにおける総売上に占めるソフトウェアの割合が30%を占めたこと、ソフトウェアとサービスの割合が53%に達したこと、ソフトウェア売り上げに占めるサブスクリプションの割合が79%に達したことを示しながら、「ソフトウェアとサービスが、ハードウェアの構成比を超えて、半数以上となった。これらの結果は、2017年掲げた目標を達成したことになる。日本でも同様のビジネス変革が進んでいる」とした。
さらに、中川社長は、「構築型から利用型へと市場が変化するなかで、シスコでは、製品のソフトウェア化、クラウドサービス化に加えて、システムをライフサイクル全体に広げ、導入後の利用、定着、活用、最適化までを支援するカスタマーサクセスサービスを充実させることに力を注いできた。ソフトウェアでは、ネットワーク管理、マルチクラウド運用、セキュリティ、コラボレーションといった領域で事業を拡大している。シスコは、1993年以来、約220社の企業買収をしているが、昨今ではほとんどがソフトウェア企業の買収である。ソフトウェアの売上高は約150億ドルであり、マイクロソフトやSAP、SFDCなどの主要企業に次いで、世界6位の規模である」などとした。
なおシスコ日本法人は2022年に創立30周年を迎えるが、「新卒で入社してから20年以上を経過した社員が、経営を担う立場に成長している。こうした人材が、すでにリーダーシップチームの3分の1を占めている。成長を支えてきた体制を、内部昇格を中心に新世代にアップグレードし、安定した人材とチームワークはそのままに、新たなイノベーションを生み出す体制になった。日本のIT業界において、最高の企業文化と、最高のチームワークを兼ね備えたベストメンバーだと自負している」とも述べた。