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「5Gショーケース」で新しい価値創出を加速する――、シスコが5Gへの取り組みと開発戦略を説明
放送事業者のIP化技術支援を目的とした環境をパナソニックと共同で構築
2021年12月16日 06:15
シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は15日、エンドツーエンドの5Gネットワーク環境の実証実験ができる「5Gショーケース」を開設してから約1年間の取り組みと、シスコの5G開発戦略について解説するオンライン記者説明会を開催した。
シスコの5G開発戦略として、サービスプロバイダー向けやローカル5G向け、あるいはサステナビリティなどの戦略が語られた。また、5Gショーケースでの取り組み内容や、そこで見られるソリューションなども紹介された。
パナソニックの映像制作プラットフォームとIP伝送を組み合わせる
同日、5Gショーケースでパナソニック株式会社の「KAIROS(ケイロス)」を導入し、放送事業者のIP化技術支援を目的としたデモ・開発環境を共同で構築して、運用を開始したことも発表された。
放送用デジタルビデオ機器の伝送規格であるSDI(Serial Digital Interface)ケーブルをIP・Ethernet化することによって、伝送量・速度が向上し、ケーブル量の削減や双方向通信が可能になるほか、どこからでもリモートからデータ伝送ができるという。
こうしたIP化に向けて、パナソニックのライブ映像制作プラットフォームKAIROSと、SDIからIPへの移行を実現するシスコの「Cisco IP Fabric for Media」を組み合わせて構築しており、映像制作や伝送の開発検証が可能になるとしている。
5Gサービスプロバイダー向けの事業戦略
記者説明会ではまず、シスコ 専務執行役員 情報通信産業事業統括の濱田義之氏が、同社の5Gソリューションについて紹介した。
まずシスコとモバイルインフラについて。濱田氏はまず、国内のサービスプロバイダー向けルータ市場シェアで、シスコが直近では77.0%というIDC Japanの調査結果を紹介した。そして、国内のサービスプロバイダー各社と共同での取り組みを説明した。
また、「いま、サービスプロバイダー各社の収入は、コンシューマーが8割以上だが、2025年には50%以上がエンタープライズやIoTに移るという予測がある」と、エンタープライズ5Gの可能性を語った。
続いて濱田氏は、Cisco本社のサービスプロバイダー向けの事業戦略を紹介した。中心となるのが「コア技術の継続的なイノベーション」で、オプティカルやIPという違ったネットワークを統合する「Routed Optical Networks」などがある。
その礎となるのが「コンポーネント提供の拡充」だ。濱田氏は「シリコンやオプティカルに大量の投資しており、Acaciaの大型買収もその一環だ」と語った。
またコア技術の上には「デジタル通信事業者向け付加価値サービス」がある。放送のIP化も、その一端だ。
この付加価値の例としては、2020年末から2021年3月にNTT東日本が新潟県で行ったローカル5G実証実験を濱田氏は紹介した。働き方改革を目的とし、高精細遠隔会議システムや3D-VR遠隔協調作業システムによって、新潟と渋谷でシームレスなコラボレーションを行ったという。
濱田氏は最後に「Ciscoとしては、新しい技術で5Gの発展もさることながら、サステナビリティにも貢献したいと考えています」と語った。
シスコの5Gにおける重点開発領域4つ
続いて、シスコの5G開発戦略について、シスコ 執行役員 サービスプロバイダーアーキテクチャ事業担当の高橋敦氏が説明した。
高橋氏はまず、シスコの5Gにおける重点開発領域4つを説明した。
1つ目は「5Gコア」。「これまで、サービスプロバイダー向けのモバイルコアの開発展開を進めてきた。ここに引き続き投資する」と高橋氏。また、1つのモバイルコアで複数の世代を収容できるコンバージドコアの開発を進めて、4G LTEから5G NAへ、そして5G SAへのスムーズな移行を支援するという。
2つ目は「5G IoTサービス」。2016年に買収したJasper Technologies社の基盤を拡張したIoTプラットフォームで、3万社の1億9000万以上のデバイスがCiscoのコントロールセンターに接続されていると高橋氏は紹介した。
3つ目は「5Gプライベートネットワーク」。ローカル5Gによって「シンプル、セキュア、シームレスな5Gプライベートネットワークを展開するためのソリューション開発に注力している」と高橋氏。また、エンタープライズ市場において「ローカル5GやWi-Fi6、有線を含めたマルチアクセスの環境下で、共通のポリシーとアイデンティティを適用した、シンプルでシームレスな5Gプライベートネットワークが必要だとの声を数多くいただいている」とも高橋氏は紹介した。
4つ目は「固定無線アクセス」。アクセスサービスを統合した固定無線アクセスサービスが、サービスプロバイダーや大規模エンタープライズで重要となっていると語った。
サステナビリティのための製品開発
ここで高橋氏は少し観点を変え、「Beyond 5G」としてサステナビリティを取り上げた。その要素として「再生可能エネルギーの利用を加速」「循環型経済の推進」「革新的な製品開発」の3つを挙げ、その中でも「革新的な製品開発」について解説した。
シスコの、革新的な製品開発による環境へのアプローチは、「イノベーション」「先端テクノロジー」「アーキテクチャ変革」の3つだ。「すべて5Gショーケースでご覧いただくことが可能」と高橋氏は紹介した。
1つ目のイノベーションについては、独自のネットワークチップ「Cisco Silicon One」がある。「シリコン設計をいちから見直して、超高速・超低消費電力を実現した」と高橋氏。ラック数を48倍削減し、帯域を60%向上させて、1ラックあたりの帯域を77倍向上させた。さらに、消費電力を38倍削減するなどの効率化を高橋氏は説明した。
2つ目の先端テクノロジーについては、従来のモデルが伝送装置からルータまで垂直統合だったところ、トランスポンダが分離しマルチベンダー化したことを説明。さらにAcaciaの買収と技術の進化により、トランスポンダがPluggable Opticsまで小さくなり、圧倒的な省スペース化と省電力化を実現したと高橋氏は述べた。
3つ目のアーキテクチャ変革については、フラットでシンプルなネットワークを実現するRouted Optical Networkingにより、CapExとOpExを大きく削減したと高橋氏は語った。
5Gショーケースのこの1年
最後に、5Gショーケースの開設から1年の状況について、シスコ 情報通信産業事業統括 SEマネージャーの山田欣樹氏が解説した。
まず、開設時にはローカル5Gの免許を取得する予定を宣言していたが、現在はミリ波とSub6の2種類の免許を取得した。15個のソリューションを見ることができ、12パートナーが利用、リモートだが50社以上の顧客が利用して合計100回以上のデモを実施したという。
ローカル5Gの商用免許を取得したことにより、5Gの基地局を所有するJMA Wireless社(ミリ波)とAirspan社(Sub6)の協力で、それぞれのユースケースごとの比較検証が可能になった。Sub6は100Mhz幅を2ch取得して、チャネルをまたいだハンドオーバーなどが検証でき、将来的にはキャリアアグリゲーションの実装も予定しているという。
NECとも同様に、ローカル5Gで協力を拡大することになった。動画で出演したNEC デジタルネットワーク事業部 事業部長の尹 秀薫氏は、CiscoのモバイルコアとNECの基地局を組み合わせることや、5GショーケースとNECのローカル5Gラボを組み合わせることなどで協力することを語った。
5Gショーケースで見られる、オブザーバビリティ、セキュリティ、運用のデジタル化
続いて、シスコの山田氏は、5Gショーケースで見ることができるソリューション3つを紹介した。
1つ目のソリューションは、フルスタックのオブザーバビリティ(観測性)だ。AppDynamicsと、ThousandEyes、Intersightのツールを組み合わせることで、フルスタックの観測性を提供できるという。
例としては山田氏はThousandEyesのダッシュボード画面を紹介。さまざまな状況を一元的に把握でき、色で状況がわかることや、エージェント間の障害について時間をさかのぼってどの時点で発生していたかわかること、Path Visualizationでネットワークパス上のどこでパケットロスが発生しているかがわかることを見せ、「結果としてビジネスの継続性に貢献できる」と語った。
2つ目のソリューションは、5Gセキュリティだ。5Gでは、高速低遅延で攻撃の量も増えやすくなることや、分散化・仮想化・分離化で統一的なセキュリティポリシーの強制が困難になることなどのセキュリティ課題が考えられる。
それに対してシスコでは設計といっしょにセキュリティを考えるSecurity by Designのアプローチを提唱する。また、1つのソリューションですべてを保護するのは困難なため、シスコのさまざまなセキュリティソリューションを組み合わせて保護するところを5Gショーケースで見られるという。
3つ目のソリューションは、運用のデジタル化だ。運用にかかわる人が場所を問わずコラボレーションするもので、具体的には自動化によって指示や可視化などをチャットから行うChatOpsが見られる。
ChatOPSによって、同じ業務フローで、オンサイトエンジニアやNOCエンジニア、自宅作業者など複数のメンバーがコラボレーションできる。例えば、障害時にオンサイトエンジニアにチャットで指示しながらいっしょに解決するといったことだ。
5Gショーケースでの運用のデジタル化では、監視システム、自動システム、連携システムがChatOpsでつながり、監視や異常検知、チャットでの対応指示によるBOT経由での自動システムのアクション実行などが見られるという。
最後に山田氏はまとめとして、5Gを活用してDXを実現するためには、5Gで接続するだけでは不十分で、セキュリティや自動化、可視化が必要不可欠だと指摘。そして、さまざまなユースケースの創出と、それに合わせたアプリケーション開発も同時に行う必要があると述べた。そして、5Gショーケースにより、新しい価値創出を加速していきたいと語った。