ニュース

シスコジャパンは“やわらかいインフラ”の実現に注力する――、2023年度の事業戦略を解説

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコジャパン)は19日、2023年度(2022年8月~2023年7月)の事業戦略について発表。2022年度からスタートした3カ年の中期経営計画「Project Moonshot」を、市場の変化に機敏に対応するため、毎年方針を見直すローリング方式へと移行する考えを示し、新たに2023年度から2025年度のProject Moonshotを打ち出した。

 以前からの4つの重点戦略に加えて、「クラウド時代のDXプラットフォーム」に注力する姿勢を示しながら、「『やわらかいインフラ』の実現が、2023年度のシスコの重点戦略になる」(シスコジャパンの中川いち朗社長)としている。

シスコシステムズ合同会社 代表執行役員社長の中川いち朗氏

 また、2023年度のシスコジャパンのコミットメントとして、「信頼されるベンダーから、常に寄り添う戦略的ビジネスパートナーになる」ことを打ち出し、「顧客やパートナーの成功がシスコの成功である。もはやシスコはインフラだけを提供する会社ではない、ビジネスを支援する会社になりたい。ビジネスをデジタルによって長期的に支援する。これが、これからの30年間を見据えたシスコのコミットメントである」と宣言した。

2023年度シスコジャパン重点戦略

 「やわらかいインフラ」とは、ビジネスや環境の変化にあわせて、動的にインフラを拡張、運用できるものであり、これにより、企業のIT環境に俊敏性、強靭性、高い生産性を実現することを支援できるとしている。シスコジャパンのカスタマーエクスペリエンス部門の技術者が社内用語として使ってきた言葉だという。

 シスコジャパン カスタマーエクスペリエンス担当の望月敬介副社長は、「DXの世の中で何が足りていないかを言い表した言葉である。だが、それを構成する要素は新しいものではない」とし、「従来のITインフラは、5年以上維持することを前提として、サーバーやネットワークをデザインしている。これは変化には弱い。それに対応するために、シスコは、『やわらかいインフラ』を提供する。『やわらかいインフラ』によって、生産性向上や収益増加といったビジネスパフォーマンスの改善、ネットワークの運用費用の削減などにつながるネットワークの効率化といった効果に加えて、セキュリティリスクの低減、イノベーションの加速、ビジネスアジリティの向上が実現でき、DXの足かせを取り払うことができる」とした。

やわらかいインフラ実現による効果(1) 定量効果例
やわらかいインフラ実現による効果(2) 定性効果
シスコシステムズ 副社長 カスタマーエクスペリエンス担当の望月敬介氏

 また、「シスコは数々の買収によって、『やわらかいインフラ』を実現するためのテクノロジーや製品を準備してきた。クラウド時代の顧客を支えることをコミットし、それを自社製品でやれる競合はいない。また、カスタマーエクスペリエンス部門には、それぞれのエリアに深い知識を持った約800人の社員がおり、さらに、パートナーとの共創するためのデリバリーモデルの準備を開始した。パートナーとともに、より多くの顧客のインフラを『やわらかいインフラ』へとマイグレーションし、DXの加速に貢献すること、すべての顧客にライフサイクル型伴走サポートを提供し、クラウド時代にあった最高の顧客体験を提供する」と語った。

2023年度デジタル化を加速させるための2つの施策

 シスコジャパンでは、ネットワーク、セキュリティ、クラウド、コラボレーション、5Gの5つのテクノロジーで構成するDXプラットフォームを、2023年度にはクラウド型に進化させ、「アプリケーションの再構築」、「ハイブリッドワークの具現化」、「企業全体のセキュリティ」、「インフラストラクチャーの変革」の4つのプラットフォームに再編。「顧客視点で再統合したものであり、クロスアーキテクチャで利用してもらうことで価値を高めることができるスイートソリューションとして提供する」(シスコジャパンの中川社長)と位置づけた。

 これが「やわらかいインフラ」を構成するアーキテクチャになる。

 「アプリケーションの再構築」では、MerakiやDNA Center、SD-WAN、Thousand Eyesなどの管理系ソフトウェアを統合し、アプリケーションからネットワーク、クラウドに至るまでを可視化。「ハイブリッドワークの具現化」においては、コラボレーションだけでなく、ネットワーク、セキュリティ、デバイスをスイートとして、サブスクリプション型で提供する。また、「企業全体のセキュリティ」では、セキュリティクラウド構想を核に企業全体のセキュリティを担保。「インフラストラクチャーの変革」においては、CatalystとMerakiの統合連携ソリューションの提供や、ルーテッドオプティカルネットワーキングによる新たな取り組みを開始する。

シスコのプラットフォーム戦略

 また、マーケティング活動においても、これらの4つのプラットフォームに関する活動を強化。セキュリティに関しては、すでにSecure the Enterpriseキャンペーンを開始し、SASEやゼロトラスト、XDRにより、企業全体のセキュリティリスクを低減し、保護する提案のほか、これらをas a Serviceモデルであるシスコセキュリティクラウドで提供することになるという。

 シスコジャパンの中川社長は、「クロスアーキテクチャによって、統合DXプラットフォームを提供していく。世界的にはクラウドシフトが加速し、クラウドファースト時代が到来している。日本でも97%の顧客が、既存システムを、クラウド技術を活用した柔軟なITに移行したいと考えている。また既存システムにはたくさんの課題があり、それがDX化の足かせになっている。シスコは、提供するインフラを、クラウド時代のDXプラットフォームにマイグレーションすることを目指す。シスコが提供するプラットフォームの価値は、既存のIT環境全体を俯瞰しながら、ネットワーク、セキュリティ、最適化、自動化、監視する機能を統合的に提供することである」とした。

 ネットワーク(コネクト)では、BYODやIoTデバイス、5G、エッジといったあらゆる接続ニーズに対応。セキュリティ(セキュア)では、複雑化するITシステムのなかで、セキュアなインフラ基盤の確立や、安全の確保に対応。最適化(オプティマイズ)においては、アプリケーションやクラウドの構造が動的に変化することにあわせて、最適にチューニングすることが必要であり、自動化(オートメイト)では、運用の自動化による省力化、オペレーションミスの低減を実現。そして、監視(オブザーブ)においては、可視化や自律運転により、障害時の対応やビジネス変革のスピードに対応するという。

やわらかいインフラストラクチャ

 望月副社長は、「『やわらかいインフラ』を実現する機能の約8割はソフトウェア製品で賄う。更新や機能拡張が動的に行われる。ここでは、カスタマーサクセス(伴走型)モデルが必須になる。2025年度までにすべての顧客に対して、ライフサイクル型伴走サポートを提供する」と述べた。

Project Moonshot、初年度の成果は?

 一方、中期経営計画であるProject Moonshotで取り組んできた初年度の成果についても説明した。シスコジャパンの中川社長は、「Project Moonshotは、多くの成果をあげ、堅調な成長を遂げている。半導体不足の影響はあったが、2022年度第4四半期の受注額は、四半期ベースでは過去最高になるなど、年間を通じて安定的に成長を遂げている。2022年度の実績は、コロナ前の2019年度の水準を超えている」と、2022年度を総括した。

 4つの重点戦略として、「日本企業のデジタル変革」、「日本社会のデジタイゼーション」、「営業/サービスモデル変革」、「パートナーとの価値共創」を挙げており、これは、2023年度からの新たなProject Moonshotでも継続的に取り組むことになる。

 「日本企業のデジタル変革」では、Webexに加えて、ネットワーク、クラウド、セキュリティなど、真のハイブリッドワークに必要なテクノロジーをエンドトゥエンドで提供できる会社であることが浸透したこと、IT部門だけでなく、経営企画部門、人事部門、事業部門に対しても総合的に働き方改革を支援してきたことを強調。さらに、中堅中小企業のDXにも注力し、具体的な取り組みとして、サイバーセキュリティ対策支援センターの設置や、NTT東日本とのパートナーシップの強化を挙げた。

 「日本社会のデジタイゼーション」では、グローバルでの戦略的投資プログラムであるCDA(カントリーデジタイゼーション・アクセラレーション)を通じた支援を加速。日本では、カーボンニュートラル、デジタルソサエティー、デジタルヘルスケア分野にも投資を進めたという。

 「営業/サービスモデル変革」においては、中堅中小企業向けのタッチポイントの多様化に取り組み、シスコ製品を簡単に購入できるデジタルエクスペリエンスを強化し、オンライン販売で扱う製品数は70品目に拡大。出荷実績は1.5倍に成長したという。また、ソフトウェアの包括契約であるエンタープライズアグリーメントを日本でも開始。「件数、規模ともに大きく拡大し、リカーリング型ソフトウェアビジネスは毎四半期成長を遂げた」と報告した。

 「パートナーとの価値共創」では、クラウドサービスを拡大し、各種マネージドサービスを提供。KDDIやNTT東日本によるWebex Callingを活用したクラウド型固定電話サービス、パートナー各社とのプライベート5Gの提案などを行ってきたことに触れた。2022年7月には新たなパートナープログラムを発表。GXやIoT、医療などの特定領域でユニークなアプリケーションを持ったパートナーとの協業も推進しているという。

 また、ローカル5Gでは「Cisco Private 5G」を発表。Calling、Meeting、Messagingなどの機能を統合した「Webex Suite」の発表や、キャンパスネットワーク製品の「Catalyst」とクラウドネットワーク製品の「Meraki」の連携、SASEやゼロトラストなどをシンプルに提供するシスコセキュリティクラウド構想を発表したことにも触れた。

 一方、1992年5月22日に、日本シスコシステムズとして日本法人を設立してから、今年は30周年の節目を迎えていることにも触れ、社員数は創立当初の8人から、1300人以上に、13社のパートナーは950社以上に拡大。事業規模は約200倍に成長してことを紹介。「1992年は日本初の商用インターネットサービスが開始され、インターネットがビジネスに活用されるようになった時期である。シスコジャパンの歴史は、日本のインターネット発展の歴史そのものである。日本の働き方や生活の仕方、学び方、遊び方も変えてきた30年である」とした。

日本法人設立から30周年を迎えたという

 また、現在では「すべての人にインクルーシブな未来を実現する(To Power an Inclusive Future for All)」をパーパス(存在意義)に掲げていることを示し、「だれもが分け隔てなく、受け入れられ、認められていることが実感できる社会を、デジタルで実現することがシスコの使命である。インターネットは全世界で37億人が利用しているが、半分の人たちはまだインターネットにアクセスできていない。一方で、日本では、コロナ禍で急速なデジタルシフトが起きたものの、企業、行政、医療、教育のデジタル化の遅れが露呈した。シスコは日本において、いまこそ、このパーパスを実現するときであると考えており、デジタルの恩恵を受ける人と、受けづらい人たちの格差を解消し、誰一人取り残されない社会を作る大きなチャンスであると考えている」と述べた。

 さらに、「シスコの特徴は、テクノロジー企業でありながらも、導入後のライフサイクル全体から、顧客のビジネスに対する貢献に力を注いでいる点、売上構成比の50%以上がソフトウェアとなっているが、ネットワークをはじめとしたコアコンピテンシーをしっかりと持ち続けていること、サービスビジネスを拡大しながらも、パートナーとのコラボレーションを大前提として、ビジネスを推進している点にある」と語った。