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シスコ、2021年度の重点戦略は「ニューノーマルへの対応」と「日本のデジタイゼーション支援」

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は8日、2021年度(2020年8月~2021年7月)の事業戦略説明会を開催した。「お客様の『ニューノーマル』への対応」「日本のカントリーデジタイゼーション」の2つを重点戦略とし、日本のインクルーシブ(包括的)な未来を目指すという。

 代表執行役員 社長のデイヴ・ウェスト氏は冒頭、グローバルのCiscoの中で最も収益を上げた『シスコ カントリー オブ ザ イヤー』を、シスコの日本法人が2019年に引き続き、2年連続で獲得したことを紹介。また、このように業績が好調であったことの要因として、パートナーと一緒に顧客の要件を確実に実行してきたこと、イノベーション推進に最適なソリューションを提供してきたこと、日本のデジタル化や新しいワークスタイルに貢献してきたことを挙げた。

シスコ 代表執行役員 社長のデイヴ・ウェスト氏

 さらに、新しいワークスタイルをサポートするハイブリッドクラウド化の支援、クロスアーキテクチャソリューションを加速、継続的なサービスを提供するリカーリングオファーの提供、マネージドサービスの提供能力拡大などシスコ自身もビジネスを変革しているとウェスト氏は説明する。

 クロスアーキテクチャソリューションは、ハードウェアだけではなく、ソフトウェア、あるいはソフトウェアとハードウェアを組み合わせたものとなっており、すでに売上の30%はソフトウェアが占めているという。

 また、ソフトウェア売上の78%はサブスクリプションとして提供されており、2018年度の50%だったことを考え合わせると、リカーリングのビジネスが浸透してきていることがわかる。

シスコのビジネス変革

 2020年度に重点戦略として掲げた「お客様・パートナーとの関係性深化」「日本のデジタイゼーション」「ライフサイクル全体のエクスペリエンス」について、ウェスト氏は「確実に成果が上がっている」と述べ、さらに新型コロナウイルス感染症の拡大という危機的な状況においても、東京オリンピック対応としてテレワークなどの準備を進めてきたことで、速やかに困難に対応することができたという。

2020年度の重点戦略については、確実に成果が上がっているという。

 2021年度の重点戦略を策定するにあたり、シスコでは顧客の課題やニーズを「ハイブリッドワークスタイル」「高い価値とROI」「ユーザーエクスペリエンスの可視化」「セキュリティ脅威への対応」「今後の災害への備え」であると分析している。

 ハイブリッドワークスタイルは、テレワークとオフィス勤務の組み合わせを意味しているが、従来からの課題であった働き方改革の一環であることはもちろん、新型コロナウイルスや自然災害を経験した企業にとっては、事業継続という観点からも重要課題であることは間違いない。また、ビジネスのデジタイゼーションを推進するにあり、高いROIを備えたソリューションや、ユーザーエクスペリエンスの可視化が重要になる。そしてこれらのベースには、セキュリティ脅威への対応が不可欠だ。

2021年度の重点戦略策定の前提となった顧客の重要課題

 顧客の重要課題を理解した上で、シスコは2021年度の重点戦略を「お客様の『ニューノーマル』への対応」と「日本のカントリーデジタイゼーション」としている。

 これらの戦略を実現するための土台としてウェスト氏は、「テクノロジーリーダー、営業、マーケティングなどさまざまな人材が、シスコで働きたいと思えるような素晴らしい職場であり続けることが重要」と述べ、シスコ自身が働きがいのある職場であることの重要性をアピールした。その上で「ネットワーキング」「データセンター」「セキュリティ」「コラボレーション」「サービスプロバイダー」などさまざまな領域において、新しいイノベーションやケイパビリティをプラットフォームベースのサービスとして提供していくという。

 「優れた人材とアジャイルなプラットフォームベースのサービスを組み合わせ、お客さまの『ニューノーマル』対応を支援していく。そしてシスコは今後も日本社会のデジタイゼーションをサポートしていくことをコミットする。私たちが目指しているのは、シスコのテクノロジーやイノベーションが、日本のインクルーシブ(包括的)な未来に貢献すること。難易度の高いテーマだが、できることをすべて実行してコミットしていく」(ウェスト氏)。

2021年度の重点戦略

日本のカントリーデジタイゼーション

 重点戦略のひとつでもある日本のカントリーデジタイゼーション支援については、代表執行役員 会長の鈴木和洋氏が説明している。

シスコ 代表執行役員 会長 鈴木和洋氏

 Ciscoでは昨年度から、カントリー デジタイゼーション アクセラレーション(CDA:Country Digitization Acceleration)と呼ばれるプログラムを、グローバルで展開している。Ciscoが事業展開している各国において、デジタル化を加速し、その国の抱える課題解決や経済成長に積極的に関与・貢献していくという。特に日本のCDAでフォーカスしている取り組みについて鈴木氏は、「ニューノーマル下におけるさらなるデジタル化の加速、新たな産業の創出、人材育成、教育」と述べる。

Ciscoのグローバルプログラムであるカントリーデジタイゼーション

 また、注力分野として、「トラベル、ツーリズム&トランスポーテーション(TT&T)」「デジタルワークプレイス」「パブリックセーフティ」「インダストリー4.0」「デジタルスクール」「5Gインフラ」という6つを挙げ、それぞれの自治体や企業と戦略的なパートナーシップを提携しているという。

日本のカントリーデジタイゼーション

 TT&Tの事例として鈴木氏は、「Tokyo Data Highway」基本戦略に位置付けられている「東京スマートポール」の実証実験の協力事業者に選定されたことを明らかにした。スマートポールとは、5Gアンテナ基地局、Wi-Fi、デジタルサイネージなどの機能を搭載した多機能ポールで、新しい地域サービスのインフラとしての活躍が期待されている。なお、スマートポールの実証実験は、11月より西新宿エリアにて開始予定だ。

11月から実証実験を開始するスマートポール

無線アクセスネットワーク市場に“風穴を開ける”

 2020年度、シスコの全セグメントの中で最も成長したのは、サービスプロバイダー事業であり、中でも5G関連の売上が非常に好調であった。5Gビジネスについての詳細は、副社長 情報通信産業事業統括 中川いち朗氏が説明した。

シスコ 副社長 情報通信産業事業統括 中川いち朗氏

 5G関連売上が大きく伸びた背景として中川氏は、「5Gは4Gまでとは一線を画したユーザーエクスペリエンスを実現するため、ネットワークインテリジェンスはコアネットワークからエッジへと、よりユーザー側にシフトする。それはIP化の拡大であり、シスコのテクノロジーが寄与できるマーケットが大幅に拡大するということを意味している。その結果、国内のサービスプロバイダー向けルータ市場シェアは、この1年で約10%拡大し、マーケットシェアは75.1%となった。調査会社のIDCからは、シスコのワンマンショーと言われている」と述べ、好調な業績をアピールした。

5G展開支援の状況。

 その上で、2021年度における5G関連ビジネスの重点施策について中川氏は、「IPネットワーク イノベーション」「ネットワークオペレーションの変革」「無線アクセスのオープン化」の3つを挙げている。いずれも企業が本格的に5Gをビジネスで活用するための施策であると同時に、新しいマーケットを創出してビジネスを拡大する戦略でもある。

 IPネットワークイノベーションとしては、コロナ禍や5Gにより、トラフィック需要は今後も増え続けることが予想され、通信インフラは400Gの時代に突入する。今のIPレイヤーでは処理しきれなくなるため、シスコは自社で開発した最新の10Tbpsシリコンを搭載したルータ「Cisco 8000シリーズ」を市場に投入し、圧倒的なトラフィック需要に対応する。中川氏は「専業ベンダーが担っていた伝送レイヤーもIPレイヤーに取り込み、コスト構造を改善する」と説明した。

 ネットワークオペレーションの変革は、5Gになってますます大規模で高度化するIPネットワークの運用の自動化を支援する。ドメイン単位ではなく、サービス単位での運用自動化を支援する種製品を投入し、アプリケーションレベルでの可視化やパフォーマンスチューニングをクラウド/オンプレミスを問わずに実現するという。

 そして無線アクセスのオープン化について中川氏は、「これまで専業ベンダーが担ってきたRAN(無線アクセスネットワーク)市場に『風穴を開ける』取り組みである」と説明した。

2021年度5Gの重点施策

 さらに中川氏は、「5Gネットワークを構築することだけがシスコの目的ではなく、いかに5Gを『使っていただけるが重要』になる」と述べ、さらに「新しい5Gを実現するには、これまで個別に運用してきたエンタープライズネットワークだけでなく、モバイルネットワークとのシームレスな連携が必要になる。両方のネットワークを支援してきたシスコだけが実現できる」と述べた。

5Gデジタルトランスフォーメーション