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手のひら静脈認証の利用シーンを拡大――、富士通が認証統合管理製品「AuthConductor V2」を提供
2019年11月18日 13:16
富士通株式会社は18日、手のひら静脈認証によるビジネスの取り組みなどについて説明。新たに、手のひら静脈認証をはじめとするさまざまな認証方式を用いて、認証を利用するシーンを拡大するソフトウェア「FUJITSU Security Solution AuthConductor V2」を発表した。
静脈パターンを読みとり、個人を識別する富士通独自の認証技術
富士通の手のひら静脈認証「PalmSecure」は、静脈パターンを読みとり、個人を識別する富士通独自の技術。2004年から事業化しており、富士通ブランドの携帯電話やPCへ標準搭載するほか、グローバルでの導入実績も増加しており、現在、全世界60カ国で8600万人が利用しているという。
富士通 デジタルビジネス推進本部パームソリューション統括部の森樹久シニアマネージャーは、「パスワード認証は人の記憶に頼る必要があり、またカード認証には“モノ”が必要となる。それに対して生体認証は、忘れたり、紛失したりといったことがなく、自分の身体だけで認証が行えるというメリットがある」と前置き。
「この生体認証には、指紋や静脈、顔、虹彩、音声などがあり、それらを適材適所で使うことが適している。静脈認証は身体のなかの情報であるために盗まれにくく、安全性に優れているほか、手のひらには幹線の太い血管がメインに走っているため認証精度が高い。また、誰でもいつでも認証に使える部位であり、非接触で衛生的であり、誰でも抵抗なく使えるという受容性がある。金銭のやりとりを行うシーンなど、偽造が困難、認証精度が高いといった特長を生かせる領域での採用に適している」とする。
他人受入率が0.00001%以下と、手のひら静脈の認証精度は指紋認証や顔認証に比べて高いほか、実績ベースで見ても100%の人が利用できること、体感で1秒を切る認証速度を実現していることなどが大きな特徴。さらには、静脈パターンの再現が困難、体内情報のため外的要因を受けにくいといったメリットもあるという。
“手ぶらATM”や競馬のキャッシュレス投票など、さまざまな分野で採用
説明会では、具体的な導入事例を複数紹介した。
まず大垣共立銀行では、キャッシュカード不要の「手ぶらATM」を日本で初めて実現。50万人が登録しており、通帳やカードを持ち歩くことなく、金融サービスを利用できるという。「被災時や避難時でも手のひら静脈で金融サービスが利用できる」とした。
また日本中央競馬会(JRA)では、キャッシュレス投票サービス「JRA-UMACA」の認証に手のひら静脈を採用し、現金を使わない投票を可能としている。こちらには、馬券紛失リスクや換金する手続きが不要になるといったメリットがあり、2020年度第1四半期には全国展開が完了する予定。
それ以外にも、徘徊者身元特定サービスで採用されているとした。
このほか、海外での導入事例も紹介されており、韓国のセブンイレブン向けには、手ぶらショッピング「Hand Pay」を提供している。現金やカード、スマートフォンなどを所持していなくても、手のひらと電話番号だけで本人認証や決済が可能とのこと。
韓国空港公社では、韓国国内14空港での搭乗者確認サービス「Biometrics Ticket Check」に手のひら静脈を採用する。16万人が登録しており、国民IDカードがなくても手のひらで本人確認をして、飛行機に搭乗できるようになるという。
さらには、ブラジルでは年金不正受給対策に利用したり、米国では保険利用時の本人確認に利用したり、といった事例があるとのことだ。
認証環境の統合管理製品を強化
今回発表された新製品の「FUJITSU Security Solution AuthConductor V2」は、手のひら静脈をはじめとした、認証環境の統合管理を可能にするソフトウェア。企業内の認証方式を手のひら静脈認証に統一できるほか、PCのログオンでは、手のひら静脈認証に加えて、顔認証、指紋認証、さらにはマイナンバーカードに対応したICカード認証のなかから、最適な認証方式を選択して利用できるようになる。また、小規模での利用から、数万人の大規模利用にも対応できるとのこと。
富士通 ソフトウェア事業本部生体認証事業部ビジネス企画部マネージャーの森本陽介氏は、「新たに富士通研究所の顔認証に対応したほか、官公庁や自治体において本人認証ニーズが拡大しているマイナンバーカードにも初めて対応した。オフィス内のさまざまな用途を手のひら静脈認証に統一することによって、セキュリティ強化と利便性を向上させ、ストレスフリーなオフィスを実現できる。Windows対応の勤怠管理ソリューションとの連携も可能になり、手のひら認証による勤怠打刻を実現し、タイムカードを不要にしたり、不正打刻を防止できたりする」とした。
手のひら静脈のデータをサーバーで一元管理する仕組みにより、手のひら静脈を一度登録すれば、PCへのログオンや入退出管理、認証印刷など、用途ごとに登録することなく、認証方式を統一して利用できるのが特徴。さまざまなシステムにおけるセキュリティ強化につながるほか、利用者や管理者の利便性向上も図ることができる。
また、業務システムに手のひら静脈認証の機能を追加した場合の認証時間を、従来製品の約2分の1となる約1.5秒へ高速化。キャッシュレス決済などにおいても、手のひら静脈の利用提案ができるようになる。
「認証用途ごとに手のひら静脈を登録するのではなく、一度の静脈登録で複数の認証用途に利用できるようにしたいという新たなニーズが出てきた。さらに、多様化するニーズに対応するために、一般利用者の認証も簡単にできる製品が欲しいという要望が出てきた。FUJITSU Security Solution AuthConductor V2はこうしたニーズに対応したものになる」と位置づけた。
なお製品としては、2017年4月に発売した前バージョンの「AuthConductor V1」に、PCログオンソリューション「SMARTACCESS/SecureLoginBox」「PalmSecure LOGONDIRECTOR」を統合したもので、「豊富に実績を持つ製品の後継であり、複数の認証デバイスに対応し、幅広いニーズにも柔軟に対応できる」とした。
ラインアップは、小規模を対象にした「Basic Plus」、1万人以下の利用を想定した「Standard Edition」、数万人規模を対象にした「Enterprise Edition」、数十万人規模での利用を想定した「Enterprise Extended Edition」を用意する。
価格は、100台のPCに手のひら静脈認証のログオン機能を提供した場合で、320万円(税別)から。2019年12月初旬の出荷開始を予定している。
なお富士通では、関連ハードウェアやSIを含めて、今後3年間で150億円の販売を見込む。また、2020年度内にはグローバルでの展開を見込んでいる。