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ビッグデータの力で日本を元気に―― ヤフー、データソリューションサービスの提供を開始

 ヤフーは10月31日、検索や位置情報などヤフーが提供するサービスから得られるビッグデータを活用することで、企業や自治体が課題解決につながるインサイトを得るためのサービス「ヤフー・データソリューション」の提供を開始した。

 本サービスの発表を行ったヤフー 代表取締役 川邊健太郎氏は「ヤフーは100を超えるサービスを提供しており、そこから得られたビッグデータを社内で活用し、営業活動などに役立ててきたが、このノウハウを外部にも提供することで、日本のものづくり、まちづくりを元気にしていきたい。もちろんセキュリティやプライバシーへの配慮は大前提であり、パーソナルデータの提供は一切含まれない」と語り、統計データをもとにしたビッグデータ活用を通して、企業や自治体に新しい価値創出の可能性を示したいとしている。

ヤフー 代表取締役 川邊健太郎氏

ダッシュボードサービスとコンサルサービスを提供

 ヤフー・データソリューションには、ダッシュボードサービス「DS.INSIGHT」と、データ分析および事業支援コンサルティングサービス「DS.ANALYSIS」の2つのサービスが含まれる。

DS.INSIGHT

 ヤフーが提供する検索サービスと位置情報サービスから得られる各種ビッグデータをブラウザ上から調査/分析できるダッシュボードサービス。

 人気キーワードや特定のキーワードとそれに付随する情報(関連語、時系列推移、性/年代など属性)の分析を通して生活者の興味/関心を可視化する「DS.INSIGHT People」と、ヤフーに蓄積された位置情報データをもとに特定エリアにいる人々の属性や特徴、流出入人口の推移、検索傾向などを可視化する「DS.INSIGHT Place」の2種類が用意されている。

 サービスプランは1ライセンスあたり月額10万円の「スタータープラン」、10ライセンス月額50万円の「スタンダードプラン」、20ライセンス月額80万円の「プレミアムプラン」の3種類。

人の流れや場所ごとの関心をリアルタイムに可視化できる「DS.INSIGHT Place」は現在は市区町村までのサポートだが、近い将来にはカスタムエリア対応を実施するとのこと
人々の興味関心やトレンド、ニーズをキーワードから可視化するダッシュボードサービス「DS.INSIGHT People」
DS.Analysis

 ユーザー企業および自治体の個々のニーズに応じて、ツールとしては提供していないヤフーのビッグデータも含めた分析、およびそれをもとにした事業支援を行うレポーティングサービス。

 例として出店計画サポート、カスタマージャーニー分析、イノベーター分析、競合分析などダッシュボードではとらえきれない情報を提供する。利用料金は個別対応。

 なお、DS.INSIGHTに関しては11月5日からヤフー紀尾井町オフィスにおいて体験オフィス「DS.LAB」を設置、実際に画面上でキーワードを入力して試すことが可能となっている。

 現時点では2種類のサービス提供にとどまっているが、まずはこの2つのサービスの細かなアップデートを繰り返しながら、徐々に機能強化(API化、カスタマージャーニー、カスタムエリア対応など)を図り、中長期的にはデータサイエンス(レコメンド、予測、日本語処理など)に注力したサービスのラインアップ追加を行っていく予定だ。

 また、パートナー企業がDS.INSIGHTを提供するプラン「DS.INSIGHT for Partner」も近日中の発表が見込まれている。

データフォレスト構想の成果をサービスとして提供

 ヤフーはこれまで、検索やEC、メディアなど数多くの事業で培ってきた膨大なビッグデータとAI技術を組み合わせ、サービスの開発/改善や営業活動の推進に活用してきた。川邊社長はその一例としてスマートフォンによるキャッシュレス決済サービス「PayPay」のデータ活用を挙げている。

 「PayPayをキーワードに検索しているユーザーが、何を第2キーワードに指定しているかを調べると“マクドナルド”や“すき家”といった名前が出てくる。検索上位の企業や店舗がPayPayに対応していない場合は優先的に営業が向かう。また、PayPayが使える店舗を地域ごとに分析すると、全国的に見ればコンビニが多いが、北海道はガソリンスタンドが、都内であれば書店での利用が多い。そうしたデータをもとに効率的な営業を行っている」(川邊社長)。

川邊社長が挙げたヤフー内部のビッグデータ活用事例。PayPayではともに検索されるキーワードに注目し、優先的に営業する加盟店を探っている

 「こうしたビッグデータ活用をヤフーグループ内だけに閉じるのではなく、企業や自治体といった社外にも広げることで、商品開発や都市開発などで新しい価値を創出でき、日本をより元気にできるのではないか」(川邊社長)という考えのもとに、2018年11月にヤフー 執行役員 チーフデータオフィサー(CDO) 佐々木潔氏が発表したのが「データフォレスト構想」である。

ヤフーが保有するビッグデータは100以上のサービス、月間5000万以上のログインユーザー、月間700億以上のページビューから生成される
ヤフーの各種サービスから生成される膨大なビッグデータと、企業や自治体のデータを横連携させたエコシステム「データフォレスト構想」に基づき今回のデータソリューションサービスの発表に至っている

 客観性、種類の多さ、そしてリアルタイム性という特徴を備えたヤフーのビッグデータと、企業や自治体がもつデータを組み合わせ、より大きな価値創出につなげていくことをめざしていくというデータフォレスト構想のもと、ヤフーがデータ連携の実証実験を呼びかけたところ、200以上の企業/自治体から応募があったという。

 その中から約60の組織とともに実証実験を展開、三越伊勢丹や京都市、ANAなどが具体的な成果を得るに至ったことから、今回のデータソリューションサービスのローンチに踏み切ったとしている。

 例えば三越伊勢丹では子育て中の女性の服装に関するトレンドや悩みをヤフーのビッグデータから分析、新商品のロングスカートを開発し、9/25から販売したところ、過去一番に売り上げたスカートよりも初週の売り上げが約2.6倍に向上している。

三越伊勢丹がヤフーのビッグデータ活用を通して開発した、育児中の女性向けのスカート。「抱っこひもをするとポケットが使いにくい」「自転車に乗りにくい」などの悩みを解決し、約2.6倍の売り上げを記録した

 佐々木氏はヤフーのビッグデータを活用するメリットとして、「キーワードの深堀りのしやすさ」と「組織規模を問わない使いやすさ」を挙げている。単にいち企業がアンケートなどをベースに消費者の声を集めるよりもはるかに対象範囲が広い、数千万人単位のデータを使うことができるため、バイアスがかかりにくく、キーワードに付随する情報も多い。したがってアンケートの設問を細かく設定するよりも、早く簡単にキーワードの深堀りができ、早いサイクルでニーズを把握することが可能になる。

 また、大企業だけでなく、中小規模の組織でもブラウザ上で簡単にビッグデータへのアクセスができる点も、多様なデータ活用を促進する効果が高い。

 佐々木氏は「現時点でのデータソリューションサービスはヤフーから企業や自治体へ1対1でのビッグデータ提供となるが、徐々に組織間の連携も含めたビッグデータ活用のエコシステムを構築していきたい」と語っており、データフォレスト構想の拡大に意欲を見せている。

ヤフー 執行役員 チーフデータオフィサーの佐々木潔氏

 なお、データソリューションサービスのコアとなるビッグデータに関して川邊社長は会見中に何度も「匿名加工情報を含むパーソナルデータは一切提供しない」と言及しており、あくまで統計情報に基づいた、エンドユーザーのセキュリティとプライバシーに配慮したデータビジネスである点を強調している。

 「あたりまえのことであるからこそ、プライバシーに配慮している点は何度でも言う。現在、世界的にデータのプライバシーと利活用のバランスが問われているが、ヤフーはプライバシーやセキュリティを第一に置いたビッグデータビジネスを展開していくことをあらためて表明したい」(川邊社長)。

会見中に川邊社長が何度も言及したのがプライバシーの徹底的な優先。匿名加工情報を含むパーソナルデータは一切本サービスに用いず、統計情報のビッグデータのみを扱うと明言

 「Zホールディングス(10/1からスタートしたヤフーの持株会社)は現在、eコマース、FinTech、統合マーケティングソリューションを事業の3本柱にしているが、今回のサービスローンチをきっかけにデータソリューションを4本目の柱に育てていきたい」という川邊社長。ヤフーブランドが長年に渡って蓄積してきた膨大な“ビッグデータ”を武器に、エコシステム構築を進めながら国内市場におけるデータビジネスのリーダーポジションを狙っていく。

記者会見では、記念撮影も行われた