インタビュー
Copilot for Microsoft 365は企業が生成AIを適用する際の1丁目1番地に――、日本マイクロソフト 岡嵜禎執行役員常務
2023年12月19日 06:15
日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏が、メディアの合同取材に応じ、日本における生成AIの取り組みの現状などについて言及。「生成AIは、テクノロジーの話だけでなく、経営の観点から議論が進む段階に入っている。経営層も生成AIに取り組まなくてはならないという考えを持っている。チャットボットなどの用途にとどまらず、業務のコアとなる部分に適用するといった動きが増え、今後は、企業全体で、より効果的に生成AIを利用できるようにするための支援が重要になる」などと述べた。
また2023年11月に、米国シアトルで開催された年次テクニカルカンファレンス「Microsoft Ignite」、および12月13日に日本で開催した「Microsoft Ignite Japan」について、「生成AIに必要なアプリケーションからインフラまで、あるいは設計および開発からテスト、利用に必要なツールが出そろい、お客さまのさまざまなニーズに応えることができるフェーズに入った」と総括。「マイクロソフトが提供する生成AIを使ってもらうことで、お客さまのトランスフォーメーションを支援するための選択肢が拡充した」と位置づけた。
合同取材では、Microsoft Asia セールスイネーブルメント&オペレーションズ Asia Azure GTMチーム Data&AI GTMマネージャーの小田健太郎氏も同席した。
生成AIの“ステップ2”への動きが加速
日本マイクロソフトの岡嵜執行役員常務は、同社2024年度上期(2023年7月~12月)の取り組みを振り返り、「上期は、Copilot for Microsoft 365に最も力を入れてきた」とコメント。「多くのお客さまが、日常的にWordやExcel、PowerPoint、Teamsを使っている。しかも一部門でなく、全社規模で利用している。この部分が生成AIによって革新されれば、最も効果が出やすいのは明らかである。Copilot for Microsoft 365は、企業が生成AIを適用する際の1丁目1番地になる。ここで、しっかりと価値を提供することは、日本マイクロソフトが顧客に最も貢献できる部分であり、強みになる」と述べた。
Copilot for Microsoft 365を先行利用する「Copilot for Microsoft 365 アーリーアクセスプログラム」には、日本では40社が参加。「日本のお客さまのニーズを、本社開発部門にフィードバックし、11月1日に正式公開した日本語版に反映することができた」とする。
下期(2024年1月~6月)においては、「Copilot for Microsoft 365やAzure OpenAI Serviceの適用を加速するためのお客さま支援を強化する。それにより、実際のユースケースを増やしていくことに力を注ぐ」と述べた。
これまでは、チャットボットなどでの利用が先行していたが、業務のコア領域にも生成AIを適用するユースケースが増加しつつあり、この流れを加速させる考えだ。
「生成AIの最初の一歩として、チャットボットから利用するケースが多い。いまのトレンドは、そこからシフトが始まり、どんな業務に活用していけるかというところに議論が広がっている。また、組織横断や企業全体で生成AIを使うことを考えているケースも増え、どこに生成AIのキラーユースケースが創出できるか、といった議論へと発展している。パートナーにおいても、業務での利用を提案する動きが見られている」としながら、「Azure OpenAI Serviceを活用することで、企業の業務効率化やプロセスの自動化、顧客対応の自動化を実現することが、その先にある、他社との差別化につながることになる。生成AIは、まずはやってみることが、知見の蓄積につながるという認識は広がっているが、日本の企業は『型』があると導入が速い。ユースケースを仕組みとして提案することが重要だと考えている」とする。
Microsoft Asiaの小田氏も異口同音に、「2023年春からチャットボットによる生成AIのPoCを始めた企業が、夏ごろに本番利用を開始し、その成果をもとに、派生シナリオが秋口ぐらいから出始めてきた。言い換えれば、ステップ2への移行が始まっており、そこに踏み出す企業が増えている。これは、想定よりも早く動いている」と指摘する。また、「リーダー企業が使いはじめた業界では、業界全体への広がりが速い。ドミノのように広がっている。特に、金融分野はそうした動きが顕著である」と述べた。
Microsoft Ignite Japanで紹介されたユーザー事例のなかで、かつては多かったチャットボットの事例が皆無だったことも、ステップ2への動きが加速していることの裏づけといえそうだ。
一部調査などでは、米国に比べて生成AIの実装が遅れているとの結果も出ているが、岡嵜執行役員常務は、「日本では、クラウドの進展は遅れたものの、生成AIでは遅れているという感触はない。生成AIは、すでに、テクノロジーの話ではなく、経営の観点から議論が進む段階に入っている」と述べ、「今後は、企業全体で、より効果的に生成AIを利用できるようにするための支援が重要になる」と語った。
日本マイクロソフトでは、同社下期において、ユースケースの広がりに力を注ぐことになるが、それにあわせて、「企業が生成AIをしっかりと実装し、活用できるところまでを支援することが重要になる」(岡嵜執行役員常務)と語る。
「生成AIは、多くの人が利用できるテクノロジーであるという側面はあるが、一方で、使い方によって、その効果に差が出やすいという特性もある。『ゴールデンプロンプト』と呼ばれるように、それぞれの部門や個人が利用する際に、最も効果的な使い方ができるプロンプトやユースケースを蓄積し、それらを共有することで、組織全体がより効果的に生成AIを利用できるようになる。日本マイクロソフトでは、生成AIを実行させる機能の強化だけでなく、Copilotの機能として、プロンプトのノウハウを共有する仕組みやモニタリング機能を強化。さらに、Copilotを定着させていくための機能や仕組みも用意している。これもマイクロソフトならではの強みになる」と述べた。
Copilot for Microsoft 365を大規模先行導入企業の1社である本田技研工業では、社内に生成AIの活用に関する情報共有コミュニティを設置しているという。また、他社の事例では、社内研修を通じて、生成AIの活用に関する知見やノウハウを共有している例もあるという。
「日本マイクロソフトは、そうしたコミュニティ形成や研修をサポートしている。一般的には、3割のアドバンスドユーザーによって、ナレッジを蓄積し、それを4割のユーザーが活用し、残りの3割のユーザーに広げていくということになる。生成AIを全社員が利用することで、1人あたり1日1時間分の生産性が高まれば、大きな効果につながる」と語った。
安心・安全への取り組みやデベロッパー向け施策を強化
また、生成AIの広がりに向けて、安心安全の取り組みを強化していることも示す。
「機能を強化するだけでなく、責任あるAIや、安心安全に利用できるようにするためのフレームワークづくり、さらにセキュリティの強化にも、同時に取り組んでいる。この整備を同時に行わないと、生成AIの普及にブレーキがかかることになる。パートナーとともに安心安全の取り組みを、引き続き強化していくことになる」とした。
ここでは、Copyright Commitmentの取り組みについても触れ、「生成AIで作成したコンテンツの著作権保護を心配することなく利用できる。マイクロソフトが提供するCopilot製品だけでなく、Azure OpenAI Serviceを通じて作成したコンテンツにも対象を拡張しており、これも安心安全に生成AIを利用できる環境づくりの支援につながる」と述べた。
一方、下期は、デベロッパー向け施策を、さらに強化する。
岡嵜執行役員常務は、「GitHub Copilotを中心に、開発プロセスを次世代化するための支援を行う。エンドユーザーやサービスプロバイダー、パートナーの開発者に対しても、開発生産性を高めることを支援する。さらに、ローコードでの開発が可能なMicrosoft Copilot Studio を使い、SAPなどとの連携を容易にすることも示していく。生成AIによって、企業のDXをより促進する環境が整うことになる。さらに、さまざまな業務領域に対して生成AIを実装するための開発支援も行う」とした。
2023年11月に米シアトルで開催された年次テクニカルカンファレンス「Microsoft Ignite」および、12月13日に大阪で開催した「Microsoft Ignite Japan」に関しては、「生成AIに必要なアプリケーションからインフラまで、あるいは設計および開発からテスト・利用に至るまで、必要なものが出そろい、お客さまのさまざまなニーズに応えることができるフェーズに入った」と位置づけた。
Microsoft Igniteでは、100以上の新たな機能が発表され、「お客さまのトランスフォーメーションを支援するための選択肢が拡充した」と述べた。
お客さまの用途を想定したシナリオベースによる提案が必要になる
だが、その一方で、マイクロソフトから提案する選択肢の広がりが、生成AIの導入を検討している企業にとっては、「どれを利用していいのか」といった混乱を招く場面も生まれている。
Microsoft Asiaの小田氏は、「これまでは生成AIを利用するという場合には、Azure OpenAI Serviceを選べばいいというシンプルな選択肢だったともいえた。だが、Microsoft 365のライセンスを持っているのであれば、Copilot for Microsoft 365で利用するといった選択肢も生まれている。実際、ChatGPTを使えばいいのか、Azure OpenAI Serviceを使えばいいのか、あるいは開発の際にはMicrosoft Copilot Studioを使えばいいのか、Azure AI Studioをいいのかがわからないといった声も聞く。そこに課題感がある」とする。
その上で、岡嵜執行役員常務は、「今後は、お客さまの用途を想定したシナリオベースによる提案をしていく必要があるだろう。お客さまのゴールは、どのテクノロジーを選択するかではなく、生成AIをいかに業務に活用し、効果をあげるかということである。課題解決に向けて生成AIをどう活用するのかといったソリューションの提案と支援が、これから重要になる。そうしたフェーズに入ってきたと認識している」と語る。
またパートナーにおいても、選択肢の拡大に伴い、最適な生成AIサービスを適用するためのコンサルテーションの強化や、パートナー自らがSaaSに生成AIの機能をいかに追加するかが重要になるとする。「パートナーにとっても、生成AIを活用していかないと、自らの得意領域に、他社が入り込む余地を許す可能性がある」と警鐘を鳴らす。
富士ソフトでは、全社員がCopilot for Microsoft 365を導入し、従来型の開発から脱却し、ソフトウェアへの生成AIの実装や、開発テストなどでの活用を行っているという。
「生成AIを前提とした開発プロセスを実装しなくてはならない段階に入ってきた。これはISVやSIerにとっても、新たな開発投資といえる分野である」とした。
日本マイクロソフトでは、生成AIの事業化を支援するパートナープログラム「Microsoft AI Partners」を展開。すでに100社以上が参加しており、そのうち約10社が、リファレンスモデルを開発し、それをデリバリーする役割を担うアドバンスドパートナーに認定されている。Microsoft Ignite Japanの展示会場では、Microsoft AI Partnersのなかから、NTT西日本、電通国際情報サービス、アバナード、富士通、ソフトバンク、JTPの6社がAzure OpenAI ServiceやCopilot for Microsoft 365などを活用したソリューションを展示していた。
「パートナー各社の強みや得意分野を生かしながら、生成AIを活用していくという動きが加速することになる。日本マイクロソフトのパートナー支援も、それを視野に入れた取り組みを進めることになる」(岡嵜執行役員常務)と述べた。