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日本マイクロソフトが“AIエージェント”の展開を加速、多様なニーズとレベルにあわせて提供

 日本マイクロソフト株式会社は18日、AIエージェントに関する取り組みについて説明した。同社では、AIエージェントを、「自律性、目標指向、高度な推論という3つの特徴を持ち、用途により特化し、AIに任せられる範囲を拡張させたサービス」と定義。また、マイクロソフトでは、「ビルトイン型エージェント」、「サードパーティ型エージェント」、「カスタマイズ型エージェント」の3つを通じて、多様なニーズとレベルにあわせたエージェントを提供する方針を示した。

AIエージェントの特徴

 日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「2025年に向けて、AIエージェントの実装はさらに加速する。また、生成AIは実験段階から本格的な適用、運用を行う段階に入る。だが、本格実装には、最新かつ包括的な技術運用基盤と、組織や人材基盤整備が必須となる。日本マイクロソフトでは、AIエージェントを導入するお客さまにスピーディーかつ多様な実現手段を提供できるのが特徴である。ノウハウやサービスを提供できる点が大きな差別化のポイントである」などと述べた。

日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏

 2024年11月に米Microsoftが開催した「Microsoft Ignite 2024」では、サティア・ナデラCEOが、「これからのコンピューティングは、“Agentic world(エージェントの世界)”の時代である」と発言。同社のAI戦略の新たな方向性を打ち出しており、パーソナルエージェント、組織のためのエージェント、ビジネスプロセスのためのエージェント、組織間を超えたエージェントがそれぞれ存在し、特定の目標達成に向けて、考えて動作することになるほか、こうしたエージェント化が加速することによって、AIドリブンなビジネス変化が、より加速。圧倒的な従業員体験の変革や、顧客との関わり方の再構築、ビジネスプロセスの再考、通常の進展曲線を超えるイノベーションの進化などを促すことができると位置づけた。

Agentic worldの幕開け

 また岡嵜執行役員常務は、「マイクロソフトでは、SaaSからIaaS、デバイスまでのさまざまなスタックを提供し、すぐに使いたい、すぐに創りたいといったニーズに対応できること、Copilotがフロントとなり、日々の業務で利用できる環境にAIを実装していること、セキュリティおよび責任あるAIの実装が進んでいることが、他社のAIエージェントとの差別化になる」と述べた。

 特にCopilotは、AIを活用する際のユーザーインターフェイスとしての役割を果たし、マイクロソフトが打ち出した3つのAIエージェントの実現においても重要な役割を果たすことを強調した。

AIのユーザーインターフェイス(UI)となるCopilot

 ひとつめの「ビルトイン型エージェント」では、Agents in Microsoft 365を提供。Facilitator agent、Project Manager agent、Employee Self-Service agent、SharePoint agents、Interpreter agentにより、知識やスキルを組み合わせることで、特定のタスクやシナリオを実行することになると述べた。

 中でも、SharePoint agentsは、すでに一般的提供を開始しており、例えば、製品メンテナンスエージェントとしての活用では、フォルダに格納された製品メンテナンスに関する情報を活用して専用AIエージェントをワンクリックで構築。製品メンテナンスに関する社員からの質問に回答することができるという。さらに、Interpreter agentでは、Teamsの会議などにおいて、リアルタイムに多言語通訳を行い、話者に近い音声で発話してくれる機能も搭載している。

ビルトイン型エージェントを使うAgents in Microsoft 365 Facilitator
製品メンテナンスエージェントとしての活用をデモ
Interpreter agentでは、リアルタイムに多言語通訳を行う

 2つめの、「サードパーティ型エージェント」では、サードパーティが提供する外部エージェントとの連携を強化。AdobeやSAP、ServiceNowなどが、それぞれに提供するAIを、Copilotを通じて利用できる。1400以上のコネクタを用意しており、連携の幅を拡張しているのが特徴だ。

サードパーティ型エージェントとの連携

 3つめの「カスタマイズ型エージェント」では、一般ユーザー向けエージェント作成基盤の「Copilot Studio」と、開発プロ向けエージェント作成基盤「Azure AI Foundry」を用意した。

 前者では、ノーコードおよびローコードで構築可能なエージェントビルダーによって、チャット形式のやり取りでエージェントを作成でき、「届いたメールの内容に応じて処理が行えるようになる。クレームの内容であれば、それに対応し、その結果をメールで返信するといった自律的、自動的な処理も可能になる」という。

エージェントビルダーによって、チャット形式のやり取りでエージェントを作成できる
エージェントはCopilot Studioで構築可能

 後者では、専門性を持ったアプリケーションの開発が可能であり、顧客自らのCopilotを開発できるのが特徴だという。「新入社員が入社した際に、使用するデバイスの手配やアプリケーションの設定、オリエンテーションのスケジューリング、歓迎メールの送信など、一連のタスクを、AIエージェント同士が連携し、プランして、実行することが可能になる。また、買い物を支援するAIエージェントを構築し、音声や映像を交えた新たなショッピング体験に変えることができる。マルチモーダルを活用して専門性を持ったAIエージェント同士が連携し、人と融合しながら、社内業務の改善を支援するといった活用が可能になる」と述べた。

Copilot = UI + Frontline Agents
新入社員の入社に関する一連のタスクを、AIエージェント同士が連携して実行する

 また、岡嵜執行役員常務は、これからの生成AIの利用が、人によるチューニングやプロンプトを駆使した利用から、モデルやツールを使い、定義した動きを行う単一型エージェントに進化するとともに、予期せぬことにも柔軟に対応できる自律型エージェントへと発展することを指摘。「その先には、多様で分散しながら動作するエージェントが互いに協業しあう世界がやってくる」と予測した。

業種を超えてAzure AIの利活用が広がっている

 一方、日本におけるAzure AIの利活用が増加しており、業種や業態の枠を超えた利活用が進展していることに触れながら、AIエージェントの活用事例についても説明した。

 トヨタ自動車パワートレーンカンパニーでは、生成AIエージェント「O-Beya」を構築し、熟練エンジニアのノウハウの継承に活用している。車体やエンジンなど、複数の専門性を持った9種類のエージェントが用意され、それらが連携して、ニーズや用途にあわせて選択できるようにしており、これまでに800人のエンジニアが利用しているという。

トヨタ自動車パワートレーンカンパニーの事例

 ソフトバンクでは、コールセンター業務において、AIエージェントが連携しながら、自律的に思考して、顧客からの問い合わせに対して、適切なデータソースから情報を得て、回答することができる仕組みを構築。AIエージェントが人に代わって、音声で対応する業務の自動化を目指している。

ソフトバンクの事例

 JR西日本では、鉄道業界特化型 AIエージェント「Copilot for 駅員」により、駅員の業務負荷低減と提供サービスの品質向上を実現している。 駅での顧客対応に活用。そのために必要となるデータを整備するためのAIエージェントも稼働させているという。

JR西日本の事例

 さらに、ベルシステム24では、通話データからナレッジベースを自動生成する機能を搭載した、コンタクトセンター自動化ソリューション「Hybrid Operation Loop」を開発。富士通では、難易度の高い業務を自律的に、人と協調しながら推進する「Fujitsu Kozuchi AI Agent」により、会議AIエージェントなど、数100のエージェントを社内で活用。大和証券では、AIオペレーターがマーケット情報や一般的な手続きの問い合わせに対応する回答AIエージェントを構築。さらに、モニタリングAIエージェントを用意し、回答AIエージェントが、応対内容に問題がないかをチェックする仕組みも構築している。

 「実業務に近いところで実践的に利用されているケースが増えている。また、AIエージェントが自律的に動き、AIに任せる領域が増加している」と述べた。

AI開発・運用を効率的に行う基盤が必要性になる

 岡嵜執行役員常務は、AIエージェントの本格適用段階において、企業が準備すべき内容についても示唆した。

 「AIによる変革をスピーディーに行うためには、AIの開発スピードを最大化するAI開発および運用基盤が必要である。今後は、すべてのビジネスプロセスにAIエージェントが組み込まれ可能性があり、そのための基盤が大切になってくる。また、AIは技術進化だけでは導入が進まない。企業にとっては、AIを導入するための仕組みや方法論が重要である」と提言した。

 これまでのAI導入は、シングルモデルでシンプルな業務フロー、PoCが多かったのに対して、現在では、マルチモデルの採用や自律的なワークフロー、継続的な開発や運用を進めることが重要になっていることを指摘。「それを実現するためにマイクロソフトが用意したのが、Azure AI Foundryである。デベロッパーが使い慣れているVisual Studio CodeやGitHubを利用できる仕組みとなっている。また、Azure OpenAI Serviceだけでなく、MetaやMistral AI、Cohereなど、1800以上のモデルが利用できる。マイクロソフトリサーチが開発した140億パラメータのSLM(Small language models)のPhi-4も利用できる。Phi-4は、複雑な推論に特化したSLMであり、数学的な推論タスクにおいてはGTP-4oよりも高い性能を誇る」とした。

Azure AI Foundry

 さらに、「OpenAIのフラッグシップモデルとなる複雑な問題解決に特化したOpenAI o1や、高品質な動画生成を可能にする革新的モデルのSora Turboも、Azure AIでの利用が可能になる。NTTのtsuzumiをはじめとして、多様な国産モデルのサポートも行い、20以上のパートナーインダストリモデルを提供している」と述べた。

 また、Azure AI Agent Serviceにより、プロ開発者がエージェントを迅速に開発可能な仕組みを提供。「複数のモデルを選択できるだけでなく、専門的な情報を連携するためのナレッジや、顧客システムとの連携を行うアクションを通じて、業務に最適なAIエージェントを開発できる」としたほか、AIエージェントの動きを監視したり評価したりするGenAIOpsにより、開発から運用のフェーズまでマネジメントする仕組みを提供することや、Microsoft Purviewによるデータ保護、Azure AI Content Safetyによる安全システムの実現、HiddenLayer Model Scannerを通じたセキュリティ対策、画像へのリスク安全評価機能を追加するRisk and safety evaluations for imagesを提供していることも強調した。

GenAIOps実現に必要な機能を提供

 岡嵜執行役員常務は、「エージェント化を支えるための技術的ブレークスルーが進展している。テキストだけでなく、マルチモーダルでの対話が可能になるUniversal Interface、推論精度が高まり、AIが考えて行動するReasoning & Planning、個人などの状況を理解して、対応するためのMemory & Contextといった領域の技術が重要になっている」とした上で、「組織として、AIの導入をスケールさせなくてはならない時期に入り、それに伴い、AIを開発し、運用し、管理することがますます重要になっている。日本マイクロソフトでは、導入を推進するために、AIに特化した組織的なガイダンスであるMicrosoft Cloud Adoption Frameworkと、AIの設計、構築、テスト、管理の推奨事項をまとめたアーキテクチャであるAzure Well-Architected Frameworkを提供する。AI戦略やユースケースの選択方法、AIガバナンスの整備方法、推奨するリソースなどについても提案することができる」と、技術的優位性だけでなく、運用、管理における強みについても強調した。

AI導入方法論:包括的なAIのガイダンスとアーキテクチャの提供