イベント

第1世代にエンタープライズ向け要素を追加した――、“次世代クラウド”をアピールするオラクル

トヨタ、旭酒造、ANAなど数々のユーザー事例も紹介

 日本オラクル株式会社は、8月6~7日、クラウドソリューションに関するカンファレンスイベント「Modern Cloud Day Tokyo」を開催した。テーマは「次世代クラウドが変える日本のビジネス」。ここでは2日間の基調講演の模様をレポートする。

Modern Cloud Day Tokyo

 日本オラクル株式会社 取締役執行役社長 最高経営責任者のフランク・オーバーマイヤー氏は、データベース製品を主軸製品とするOracleの特質をふまえて、「インフラやプラットフォーム、データベース、アプリケーションという、つまり“データ”に関することで、ずっと企業のパートナーとなってきた」と述べ、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)では企業に選択肢を与えたい」と語った。

日本オラクル株式会社 取締役 執行役社長 最高経営責任者のフランク・オーバーマイヤー氏
Oracle Cloud Infrastructure(OCI)のさまざまな選択肢

「第1世代クラウド」にエンタープライズを追加

 米Oracle プロダクトマネジメント バイスプレジデントのヴィナイ・クマー氏は、OCIの全体像やサービス構成について解説した。

米Oracle プロダクトマネジメント バイスプレジデントのヴィナイ・クマー氏

 クマー氏はまず10年前の「第1世代クラウド」について言及した。「すぐに新しいことができ、これまで不可能だったことが可能になった。しかしエンタープライズには最適化されていなかった」とクマー氏。氏が問題点として挙げるのは、セキュリティや、予測可能な価格、予測可能な性能といったことだ。

 クマー氏は「そこで、第1世代の良いところを引き継ぎ、エンタープライズに必要なものを追加したものがOCIだ」と述べ、OCIこそが、エンタープライズでの利用を考慮した“次世代クラウド”であると主張した。

 また、既存の投資を守ることも考慮していると、クマー氏。既存アプリケーションのクラウドへのリフト&シフトから、クラウドに向けた改善、コンテナやサーバーレスのような新しいアプリケーションまで、さまざまな用途に対応するという。

「第1世代クラウド」と、エンタープライズのために作られた「次世代クラウド」の違い
OCIのサービス群

 ここからクマー氏はレイヤーごとにOCIを紹介した。まずはリージョン。世界各地にリージョンがあり、それぞれが複数の可用性ドメインからなる。

 2019年5月には東京リージョンも開設された。すでに500の顧客が利用しており、ほかのリージョンの3倍の速度で伸びているという。また、大阪リージョンも数カ月内に開設する予定であることをあらためてアナウンスしている。

 なお、SaaSについてはまだ東京リージョンで提供していないが、これも数カ月内に東京リージョンと大阪リージョンで提供開始するとのこと。

OCIの各地リージョン
東京リージョンの伸び

 2番目のレイヤーはコアサービスだ。ベアメタルや仮想マシン、コンテナ、ファンクション(FaaS)といったプラットフォームが用意されていることをクマー氏は紹介。中でもベアメタルに早くから対応したことや、そのベンチマーク結果をクマー氏は主張した。

 また、ストレージについても、「データベースの会社なので高信頼性と高可用性、高パフォーマンスを重視している」とクマー氏は述べた。そのほか、ネットワークやセキュリティについても紹介した。

OCIのコンピュート
OCIのストレージ
OCIのネットワーク
OCIのセキュリティ

 3番目のレイヤーはデータサービスだ。「われわれはなによりデータ管理を重視している」とクマー氏。管理性と可用性の2つの軸について、さまざまなデータベースサービスをアピールする。

管理性で見たさまざまなデータベースサービス
可用性で見たさまざまなデータベースサービス

 4番目は「次のレイヤー」のサービス。クラウドネイティブ分野のサービスで、フルマネージドKubernetesや、CI/CDパイプライン、ファンクション(FaaS)などがある。

 5番目のレイヤーは、パートナーエコシステムで、マーケットプレイスのOracle Cloud Marketplaceがあり、Oracleの製品や、Windowsを含むOS、データベース、セキュリティアプライアンスなどが購入できる。そのほか、日本やグローバルでのSIとのエコシステムもクマー氏は紹介した。

クラウドネイティブ分野のサービス
Oracle Cloud Marketplace

 さらにクマー氏は、Microsoftとのパートナーシップとして、Microsoft Azureとの相互接続を紹介した。OCIのアッシュバーンリージョンとAzureのUS Eastリージョンを高速に接続し、シングルサインオン(SSO)などアイデンティティー管理も相互接続する。

OCIとAzureの相互接続

 最後にクマー氏は、他社のクラウドサービスとOCIを比較し、OCIの優位を主張した。まずSLA。「OCIでは、可用性だけでなく、スケール変更などの管理操作に関する管理性のSLAや、パフォーマンスのSLAも定義している」とクマー氏。

 また価格については、AWSと直接比較して安価であること、さらに東京リージョンではAWSは割高になることを示して、「オラクルは世界中どこでも1サービス1価格」と述べた。

OCIのAutonomous Databaseの最新機能を紹介

 米Oracle データベース・サーバー技術担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのアンドリュー・メンデルソン氏は、ソフトウェアであるOracle Database、ハードウェアアプライアンスであるExadataの最新情報を紹介したうえで、OCIのマネージドデータベースサービスであるAutonomous Databaseについて解説した。

米Oracle データベース・サーバー技術担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのアンドリュー・メンデルソン氏

 まずOracle Database 19c。このバージョンからバージョン番号が年号になった。新機能としては、IoT向けのメモリ最適化や、オブジェストレージへのSQLクエリ、マルチテナントの強化、パーシステントメモリ(Intel Optane)のサポートなどをメンデルソン氏は紹介した。

 続いてExadata X8。メンデルソン氏は新機能として、アクティブでないデータを高速ではない低コストストレージに保存するStorage Server Extended(XT)などを紹介した。

Oracle Database 19c
Exadata X8

 そのうえで、OCIのマネージドデータベースサービスであるAutonomous Databaseが紹介された。メンデルソン氏は、手作業でチューニングする従来のクラウドデータベース管理は「DIYクラウドデータ管理」だとし、それに対してAutonomous Databaseは自己稼働でエンタープライズに対応すると主張した。

従来のDIYクラウドデータ管理とAutonomous Database

 Autonomous Databaseには、分析ワークロード用の「Autonomous Data Warehouse(ADW)」と、トランザクション処理用の「Autonomous Transaction Processing(ATP)」の2種類がある。

 メンデルソン氏はAutonomous Databaseの日本での導入事例として、POSシステムの管理基盤にATPを採用したベリトランス株式会社と、アドネットワークのプラットフォームとして他社クラウドからATPに移行した株式会社ファンコミュニケーションズの例を紹介した。

分析ワークロード用の「Autonomous Data Warehouse(ADW)」
トランザクション処理用の「Autonomous Transaction Processing(ATP)」
ベリトランス株式会社のATP採用事例
株式会社ファンコミュニケーションズのATP採用事例

 Autonomous Databaseの新機能としてメンデルソン氏は、まず、専用のExadata Cloudインフラを利用できるAutonomous Database Dedicatedを紹介した。ATPでは6月に提供開始、ADWは年内に向けて提供予定だという。

 次の新機能としては、ATPの自動インデックスが紹介された。バックグラウンドでテストして自動的に適用し、スピードが低下した場合は古いプランに戻すといったことまでやってくれるという。

専用のExadata Cloudインフラを利用できるAutonomous Database Dedicated
ATPの自動インデックス

 そのほか、データベースのデータを読み書きするアプリケーションを簡単に作るAPEX(Oracle Application Express)のAutonomous Database版も紹介された。

 壇上ではブライアン・スペンドリーニ氏がその場でAPEX for Autonomous Databaseをデモした。題材は、進行管理のスプレッドシートを各自がコピーしていて混乱するのを、データを集約して解決するアプリケーション。

 まずスプレッドシートのデータをロードし、必要な項目を指定するだけで、コードは書かずにアプリケーションができる。このアプリケーションで、スプレッドシートにあったデータが見え、フィルターをかけたり、ダッシュボードでグラフ化したり、「予算オーバーのプロジェクトを調べる」といった条件で絞り込んだり、レポートを作製したりするところまでがデモされた。

APEX for Autonomous Database
ブライアン・スペンドリーニ氏がその場でデモ
スプレッドシートのデータをロード
アプリケーションを作製
フィルターをかけて表示
ダッシュボードでグラフ化

 そのほか、近日登場予定のものとして、「Autonomous Database at Customer」が紹介された。Autonomous Databaseをオンプレミスで使えるもので、管理はOCIパブリッククラウドコントロールプレーンから行うという。

Autonomous Databaseをオンプレミスで使える「Autonomous Database at Customer」

トヨタや旭酒造、ソーシャルゲームまで各社からのゲスト講演

 基調講演には、さまざまな顧客やパートナーの企業からゲストが登壇した。

 トヨタ自動車株式会社 コーポレートIT部長の中野巌氏は、販売店向けの施策として、顧客やスタッフなどのスコアリングシステムをOCI上で開発した事例を紹介した。

トヨタ自動車株式会社 コーポレートIT部長の中野巌氏
スコアリングシステムをOCI上で開発

 西日本電信電話株式会社(NTT西日本) ビジネスデザイン部 部長の猪倉稔正氏は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)をライフログから検知するシステムをOCIで開発した事例を紹介した。

西日本電信電話株式会社(NTT西日本) ビジネスデザイン部 部長の猪倉稔正氏
軽度認知障害(MCI)をライフログから検知するシステムをOCIで開発

 リコーITソリューションズ株式会社 代表取締役 社長執行役員の石野普之氏は、複合機の価値を継続的に高める仕組みとして、クラウド型AI帳票認識OCRや、複合機のソフトウェアアップデートを例示。そのためのマルチクラウド+ハイブリッドクラウド環境のためにOCIを検証し、東京リージョン開設に合わせて非機能要件も検証したところ、予想以上の結果になったと報告した。

リコーITソリューションズ株式会社 代表取締役 社長執行役員の石野普之氏
OCIの評価

 パートナーとして登壇した株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 取締役常務執行役員 木谷強氏は、ミッションクリティカルシステムのために同社のデータセンターとOCIとを連携したハイブリッドクラウドを説明。Exadataをクラウドに移せないかという金融機関の例や、大阪リージョンでDRをしたいという顧客の例、NTTデータとOCIのコネクティビティなどを紹介した。

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 取締役常務執行役員 木谷強氏
NTTデータのデータセンターとOCIとを連携したハイブリッドクラウド

 同じくパートナーとして登壇した株式会社野村総合研究所 常務執行役員 マルチクラウドインテグレーション事業本部長の竹本具城氏は、ExadataによるソリューションなどOracleとのこれまでのつきあいを紹介し、これからのOCIへの取り組みとして自社データセンターとの接続やSaaSのOCI対応などを紹介した。

株式会社野村総合研究所 常務執行役員 マルチクラウドインテグレーション事業本部長の竹本具城氏
OCIへの取り組み

 ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター兼アタバー準備室長の津田佳明氏は、ANAでイノベーションを起こすためのデジタル・デザイン・ラボを紹介。その中で、同じ悩みや課題を持つ人が仲間となって旅行する「Journey+」で、OCIのAutonomous Databaseを採用した事例を紹介した。

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター兼アタバー準備室長の津田佳明氏
Journey+でAutonomous Databaseを採用

 日本酒の獺祭で知られる旭酒造株式会社 代表取締役社長 桜井一宏氏は、人手をかけた酒造りと、データドリブンなノウハウ蓄積の組み合わせを紹介。そして、2018稔の西日本豪雨をきっかけに、「このときは運よく無事だったが、ラッキーが2度続くとは思えない」ということでOCIにデータを移したと語った。

旭酒造株式会社 代表取締役社長 桜井一宏氏
データドリブンなノウハウ蓄積

 株式会社INDETAIL 代表取締役社長 CEO/ISOU PROJECT事務局長の坪井大輔氏は、北海道の過疎地域である厚沢部町でのMaaS「ISOUプロジェクト」を紹介した。過疎地域で、市街地から住居が遠いことや、役場に人が来ないこと、病院や保育所が1カ所しかないことなどの問題を、住民の足が鍵になると考え、ブロックチェーン(OCIを利用)による地域通貨で利用できるMaaSを実証実験しているという。

株式会社INDETAIL 代表取締役社長 CEO/ISOU PROJECT事務局長の坪井大輔氏
ISOUプロジェクトのサービス図

 AI inside株式会社 代表取締役社長CEOの渡久地択氏は、AIを使ったOCR「DX Suite」を紹介した。欠けや取り消しなども対応し、書類のレイアウトも学習して認識させられるという。機械学習を、OCIを利用してKubernetesのGPUクラスターを動かしている。

AI inside株式会社 代表取締役社長CEOの渡久地択氏
DX Suiteの工程とシステム

 株式会社GAUSS 代表取締役社長の宇都宮綱紀氏は、AI競馬予測「SIVA」や、企業向けのAIプラットフォーム「GAUSS Foundation Platform」を紹介した。データ収集や、クレンジング、学習、デプロイ、CIにそれぞれサービスメニューを用意しているという。OCIの上でKubernetesやベアメタルGPUインスタンスなどを利用している。

株式会社GAUSS 代表取締役社長の宇都宮綱紀氏
GAUSS Foundation Platformのシステム構成

 株式会社マイネット 取締役 コーポレート本部長の澤野真実氏は、ソーシャルゲームを運営するうえでのクラウドサービス選定について語った。ソーシャルゲームの売り上げは基本的に右肩下がりとなるため、データドリブンによる利益維持により、ユーザーの居場所を維持するという。

 実例として、リアルタイムGvGではバトル時間帯にピークが来るのでスポットインスタンスで対応した、カードバトルではパワーはいらないが施策をたくさん打たなければいけないのでサーバーレスを採用した、アクティブバトルRPGでは高I/OのためOCIに移管中、といった事例が紹介された。

株式会社マイネット 取締役 コーポレート本部長の澤野真実氏
ソーシャルゲームのクラウドサービス選定事例