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DeNA社内はクラウドかオンプレミスかで激論――、南場智子会長がクラウドシフトの経験を語る
メルペイ、ガンホー、ファミリーマートなど、ゲスト企業の講演を一挙掲載
2019年8月8日 11:45
グーグルジャパンによるGoogle Cloudのカンファレンス「Google Cloud Next '19 in Tokyo」が、7月30日~8月1日に開催された。
本稿では、7月31日と8月1日に開かれた基調講演から、ユーザー企業やパートナー企業のゲスト講演の模様をレポートする。
DeNA社内、クラウドとオンプレミスとで激論
Google Cloud利用企業として登壇したDeNA 代表取締役会長の南場智子氏は、同社がクラウドシフトした経験を語った。
同社では、1日に50億リクエスト、1秒に数万リクエストを受け付ける3千台のサーバーを、数十人のエンジニアによりサーバーダウンゼロで運用しているという。「おそらく日本でもトップクラスのインフラ技術力ではないか」と南場氏。
そうしたオンプレミスの運用に実績を持つDeNAで、社内の技術陣が「オンプレミスかクラウドか」の議論となった。両者とも譲らず、経営側としてはどちらを受け入れるべきか困ったという。
特に話が分かれたのがコストだった。それまで、コストを削減して運用していたため、同じ使い方でクラウドに移行するとコストが3倍になるというのだ。ただし、「クラウドを使い倒すことに血道をあげれば同じぐらいのコストにできる」こともわかった。
クラウドシフトに最も決定的だったのは、運用の中で、創造的でない仕事に人材の工数をとられていたことから、「創造的な仕事にフォーカスさせたい」という点だったと南場氏。現在では「クラウドシフトについて、いい決定をしたなと、曇りなく思っている」と語った。
Google Cloudの活用については、BigQueryも取り上げられた。「DeNAは“ロジカルモンスター”で、分析に力を入れている」と南場氏。そこから、長く愛されるゲームが生まれているという。
さらに「(2019年夏リリース予定の)『ポケモンマスターズ』もオールクラウドで開発を進めている」と紹介した。
最後に「20年間、勝手にGoogleをライバル視してきた。Googleを超えるようなインパクトを目指していて、それをGoogleとのパートナーシップで実現できるのはすばらしい」と南場氏は語った。
GCPを使って15カ月で開発し安定稼働しているメルペイ
金融業界の事例としては、株式会社メルペイ 取締役CTOの曾川景介氏が登壇した。
メルペイは、メルカリの売り上げを使えるスマホ決済サービス。メルカリは年間約5000億円の売上があり、メルペイはメルカリの決済機能にもなっている。
メルペイの開発におけるチャレンジとして曾川氏は「大きかったのは3つ」として、15か月でサービスの立ち上げ、マイクロサービス化、高い安全性が必要な金融関連事業であることを挙げた。
プラットフォームとしては、スケーラビリティと耐久性、可用性からGCPを採用。GCPのGKEでKubernetesを利用することで、Kubernetesの上だけに注力できたという。
また、グローバル分散データベースのCloud Spannerにより、専用エンジニアを配することなくバックエンドを構築できたという。
こうしたプラットフォームを活用してサービスを開発した結果、大規模なキャンペーンでも安定したサービスとなっていると曾川氏はまとめた。
なお、Google Cloud Next '19 Tokyo会場で行われたプレスラウンドテーブルで、メルペイの高木潤一郎氏が語ったところによると、Cloud Spannerは初採用だったため、ほかのデータベースと比較して検討したという。
慣れたMySQLを自分たちで運用する方法は、不安があるため不採用。またCloud SQLは、コアとなるサービスで書き込み性能が足りなかったため不採用。結局、性能や運用の楽さでCloud Spannerに決めたという。高木氏は、「特に、ノードを増やすだけでなく、止めずに減らせるのがいいですね」と語った。
フルクラウドの金融プラットフォーム「MAINRI」
アクセンチュア株式会社 代表取締役副社長の関戸亮司氏は、第1次オンラインから進化してきた金融システムについて、「今こそゼロベースで次世代の金融系システムを作るときが来た」と語った。
そこで、GKEや、グローバル分散データベースのCloud Spanner、データ分析のBigQueryを使ってマイクロサービスによるフルクラウドの金融プラットフォーム「MAINRI」を開発したことを紹介した。
そのMAINRIをベースに次世代バンキングを研究・開発するのが、ふくおかファイナンシャルグループのゼロバンク・デザインファクトリー株式会社だ。
同社 取締役COOの永吉健一氏は、1994年のビル・ゲイツの言葉「銀行機能は必要だが、今の銀行はいらない」という言葉を引用しながら、マルチクラウドによる金融機関向けコアバンクシステムの必要性を語った。そして、そのために金融でマイクロサービスをどれだけスケールできるかが課題だとし、それができるのがGCPのサービスだとした。
Cloud SpannerやBigQueryを活用するガンホー
業界別ソリューションの名で、ゲーム業界の事例として登壇した、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社 CTOの菊池貴則氏は、自社のGCP利用事例を語った。
同社では、モバイルゲームの対戦プラットフォーム「mspo(エムスポ)」で初めてGoogle Cloudをフル採用したという。「当初は不安だった」と菊池氏。
菊池氏は、GCPを選んだ理由として、「広告サービスとの親和性」「分析サービスの強さ」「拡張性の高さ」の3つを挙げた。
また菊池氏は、GCPでメリットを感じたサービスとして2つを挙げた。1つめは、グローバル分散データベースのCloud Spanner。2つめはBigQueryで、広告やゲームのデータを集約しているという。
最後に菊池氏は、今後のビジョンとして、分析・AIへの取り組みと、海外展開の強化を挙げた。
すでにAnthosの事例が動くNTT Com
ハイブリッドクラウドのプラットフォーム「Anthos」のアジア太平洋地域初のパートナー企業として登壇した、NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com) 第五営業本部長の工藤晶子氏は、GKEやAnthosを利用したビジネスについて語った。
工藤氏は、柔軟かつスピーディーな開発力を実現するのがGKEだと説明。クラウドサービスEnterprise Cloudや、自然言語解析のCotoha API、WebRTCプラットフォームSkyWayの基盤で採用していると紹介して、「20%のリソース削減を実現した」と語った。
そして、「日本企業のお客さまではオンプレミスがまだ多い」として、NTT ComのソリューションにおけるAnthosのメリットを挙げ、「Anthosと当社のセキュアなインフラとの組み合わせを提供する」と語った。
同社には、すでにAnthosの引き合いが来ているという。その一例として、データによるリハビリテーションプログラムの品質向上に向けた実証実験が紹介された。臨床データをセキュアに分析して一人一人に合わせた治療計画の立案を実現するというPoCだ。閉域ネットワーク上の基盤にAnthosの「GKE On-Prem」を構築してデータ分析を提供するという。
JR東日本、GoogleをAIを使った予防保守の実証実験
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本) 取締役副会長の小縣方樹(おがた まさき)氏は、同社のグループ経営ビジョン「変革2027」を中心に語った。
変革2027で語られる「STTT(Shorter Total Trip Time)モデル」は、「すべての交通機関が協力すればトータル時間を短くできる」という、MaaSにつながる考えだという。
また「ただのインフラではだめ」として、「『MTOMI(マネジメント、テクノロジー、オペレーション、メンテナンス)モデル』によりお客さまに価値を与える」とした。
こうしたインフラのオペレーションとメンテナンスについて「ICTとPT(公共交通)は相性がいい」と小縣氏。そして、GoogleのAIを使った線路などの予防保守の実証実験を紹介した。一定期間ベースでなくコンディションベース(CBM:Condition Based Management)による保守が実現できるという。
そのほか顧客体験の向上として、Google PayとSuicaの連携(2018年開始)や、Googleアシスタント対応(2019年10月開始予定)などを小縣氏は紹介した。
ファミリーマート、G Suiteで社内コミュニケーション改革
G Suiteの導入例として登壇した株式会社ファミリーマート 代表取締役社長の澤田貴司氏は、2年ぶりのGoogle Cloud Next登場となった。
澤田氏は社内改革として、店舗オペレーション改革や、商品・マーケティング改革、社内意識改革、コミュニケーション改革を進めてきたことを紹介した。このコミュニケーション改革でG Suiteが役に立ち、「本当に使ってよかった」という。
G Suiteの全社導入は2017年10月に開始された。例えば、Googleフォームで加盟店向けにオペレーションに関するアンケートを随時実施するほか、澤田氏自ら出演して動画によるオペレーションマニュアルを社内SNSに掲載する「Sawastagram」、各地域での取り組みを社内SNSで共有することなどにより、本部と全国の加盟店の距離を縮める工夫をしているという。
中小企業にG Suite
日本商工会議所もG Suiteの導入事例として紹介され、日本商工会議所 IoT活用専門委員会 委員長/株式会社NTTデータ 相談役の岩本敏男氏が登壇した。
日本の中小企業の問題として人手不足があり、それがITやIoT、AIで活性化すると岩本氏は言う。
ただし、中小企業がITを使いこなせていないのが課題で、低コストや、専門知識が不要なこと、高いセキュリティ、使いやすさなどが求められる。「そのためにはクラウドが最適だと考えている」と、岩本氏はG Suite導入理由を説明した。
そのほかに岩本氏は、クラウドサービス利活用による生産性工場・経営効率化を表彰する「全国中小企業クラウド実践大賞」創設についても紹介した。
アサヒビール、GCPでカテゴリーマネジメントのシステム開発
アサヒビールなどを傘下に持つアサヒグループホールディングス株式会社 執行役員IT部門 セネラルマネージャーの知久龍人氏は、データ分析の事例として登壇した。
その役割は「お客さまへの売り方ではなく、事前にどうやって買っていただくかを考える」と知久氏。さまざまなデータを活用して、市場ニーズ・変化よりも速く答えにたどりつくよう施策をとるという。
ただし課題として、オンプレミス運用でコストがかかっていることや、開発・データ処理・検索のスピードが必要なことがあったという。
そこで、カテゴリーマネジメントのシステムを開発した。要素技術としては、GCP上で、BigQueryやGKEを利用し、処理をすべてマイクロサービス化した。
今後の展望として知久氏は、マルチクラウド化や、SoRの再定義による攻めの領域へのシフトを語った。
GCPを使ったDMPやメッセージ管理のソリューション
データ分析の事例として登壇した、株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員/デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 専務取締役CMOの徳久昭彦氏は、GCPを使った各種マーケティングプラットフォームを紹介した。
徳久氏は生活者データドリブンマーケティングの開発や実践における課題として、大量のデータ処理や、強固なセキュリティ環境、新しいクラウド技術を活用したマーケティング施策最適化を挙げた。
そこでGCPのBigQueryやDataprep、DataLabなどのデータ分析プラットフォームを使うことで、エンジニアに頼ることなくプランナーが分析できると語った。
また、同社がGCPを使って開発したソリューションとして、メッセージング管理ソリューション「Dialog ONE」や、企業向けのプライベートDMPを紹介した。
そのほか、例えば新元号発表のときのようなピークに対応するために、Kubernetesによるマイクロサービス化が非常に有効だと徳久氏は語った。
保険証券を40秒で見積もるツールなどSOMPO Sprintの成果
SONPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務の楢崎浩一氏は、保険業界のデジタルディスラプションの時代に対応するための施策として、アジャイル開発チーム「SOMPO Sprint」を紹介した。メンバーは25名で、2018年の成果は58件のPoCと10件のプロダクションがあったという。
そこで作られた例として、Google Vision APIの文字認識を使って保険証券を40秒で見積もるツールが紹介された。
また、介護士にリアルタイムでわかるスマート介護システムでは、FirebaseとCloud Runを利用し、Cloud Run上のSwaggerサーバーで多数のAPIを共有したという。