特別企画

OpenWorld Asia 2019でOracleが示した、クラウドとAutonomous Databaseのメッセージ

 Oracle OpenWorld Asia 2019が、3月26・27日の2日間、シンガポールのマリーナベイ・サンズ コンベンションセンターで開催された。

 Oracle OpenWorldは、毎年秋に米国サンフランシスコで開催されており、直近では、2018年10月に開催されている。ただし2019年に限っては、その後、ロンドン、ドバイでも各リージョン向けのイベントを開催。今回のシンガポールでの開催が、この一連のイベントの最後となった。

 アジアでは日本やインドなどでOracle OpenWorldが開催されたことはあったが、シンガポールでの開催は今回が初めて。アジア各国から、パートナーおよびユーザー企業など約5000人が参加している。

シンガポールのマリーナベイ・サンズ コンベンションセンターで開催されたOracle OpenWorld Asia 2019
コンベンションセンターはマリーナベイ・サンズ ホテルに直結している

 新たな製品やサービスが発表されたわけではなかったが、会期中の3月27日に、Autonomous Databaseの出荷開始からちょうど1年を経過したことにあわせて、これまでの成果などが事例を通じて発表された。

 このほかOracle Cloudについては、会期1週間前となる3月19日から米国ラスベガスで開催された「MODERN BUSINESS EXPERIENCE」において、「Oracle ERP Cloud」などの機能強化を発表。これらについてあらためて説明を行うなど、同社のビジネスアプリケーションの進化を強調するものになった。

「なぜクラウドなのか」「なぜOracleなのか」「なぜいまなのか」

 開催初日の目玉は、米Oracle オラクルアプリケーション製品開発担当のスティーブ・ミランダ(Steve Miranda) エグゼクティブ・バイスプレジデント(EVP)の基調講演。この日は、同氏が担当するビジネスアプリケーションに関する話題が提供された一日となった。

米Oracle オラクルアプリケーション製品開発担当のスティーブ・ミランダEVP

 基調講演では、「なぜクラウドなのか」「なぜOracleなのか」「なぜいまなのか」という3つの観点から、Oracle Cloudの優位性について説明。「企業が変化に追従していくためには、クラウド活用が必須である」と語った。

 今回のOracle OpenWorld Asia 2019では、ミランダEVPが初めて日本のメディアのインタビューに応じる場が設定されたが、そこで同氏は、基調講演のテーマを踏襲した形で質問に答えながら、「Oracleは、ビジネスアプリケーションのすべてをクラウド化することが理想だと考えている」と発言。

 「環境の変化に迅速に対応するためには、オンプレミスでは限界があり、もはや選択肢はクラウドしかないといえる。オンプレミスでは顧客自らが競争力を発揮できない」とする。

 また「SaaSは、オンプレミスよりもアプリケーションを改善する速度が速く、導入効果の測定に対してもスピードも速い。保守的な企業でもアグレッシブな企業でも、スピードに対するプレッシャーは大きい。スピードのプレッシャーに対応するにはSaaSしか選択肢がない」と、繰り返し強調してみせた。

 これが、ミランダEVPが示した「なぜクラウドか」という点での回答になる。

 さらにミランダ氏は、MODERN BUSINESS EXPERIENCEにおいて発表された、Oracle ERP Cloudや「Oracle SCM Cloud」「Oracle HCM Cloud」「Oracle CX Cloud」の機能強化について、基調講演の場で説明。それぞれの製品において、数多くの機能強化が行われたことを具体的な数字で示しながら、ビジネスアプリケーションの進化を示して見せた。

 例えばOracle ERP CloudおよびOracle EPM Cloudでは、18Bにおいて310機能、18Cでは245機能、19Aでは199機能、19Bでは128機能を新たに追加。Oracle ERP CloudおよびOracle EPM Cloudにおいては、機械学習をベースとした進化を遂げ、経費レポートやプロジェクト管理におけるデジタルアシスタント、購買支出および経費精算に関するプロセス統制監視、プロジェクトと連動したサプライチェーンマネジメントのリスク管理などを強化したと説明する。

さまざまな機能強化が行われたという

 また、Digital Assistants for ERPとして、Expense Reporting AssistantおよびProject Management Assistantといった機能を新たに提供。経費項目を自動認識し、自動で分類しマッチングさせることで、経費精算プロセスを合理化したり、時間やタスク進捗などのプロジェクト状況を瞬時にアップデートでき、しかもこれをモバイル環境でも利用できるとアピールした。

 そし、このような説明の後、「Oracleは、幅広い業種に対応する広さと、業界特有の要件や世界各国の規制に準拠した深さを兼ね備えている。こうした知見と新たな機能によって、財務および管理会計領域にイノベーションをもたらすことになる」と述べ、長所を強調していた。

 さらに、財務および管理会計以外にも、今回のビジネスアプリケーションの進化は大きな影響を及ぼすとし、人材採用の業務に関しては、AIを活用して最高の候補者をマッチングできるようになるほか、マーケティングにおいては、次の新たな行動に対する最適な提案を行うことができるようになるなど話している。

 「Oracle Cloudに、AIがパーペイシブに実装されている。つまり、顧客はAIを意識しなくて利用できるという点が重要である」(ミランダEVP)。

 これが「なぜOracle」という設問に対する回答だという。

 そしてミランダEVPは、四半期ごとに行われるアップデートによって、顧客が機械学習やブロッックチェーン、IoTといった最新の技術を活用し、革新的なクラウドとアプリケーションスイートを利用できるようになることもOracle Cloudのメリットとして挙げた。

 「いまOracleのクラウドに移行すれば、企業は最後のアップグレードを完了することができる。あとは、Oracleが四半期ごとにアップデートすることになる。余計な仕事に捉われず、顧客は機械学習から学び、それによってビジネスプロセスを常に改善していくことができる」とする。

 これが、最後のテーマである「なぜいまなのか」という理由だ。

 ミランダEVPは、「昨年(2018年)、OracleはAutonomous Databaseを投入し、これがデータベースの大きなマイルストーンになった。今回の発表は、ビジネスアプリケーションにおけるマイルストーンとまでは言えないが、AIの実装などによる進化は、単なるアップグレードというには大きな進化である。その中間的な位置づけになるだろう」とする。

 一方、「Oracleは、製品の会社からサービスの会社へ移行している。そして、多くの人が思っているよりも早く、100%クラウド化された世界が訪れると考えている。Oracleが果たせる役割は、完全で、セキュアで、革新のスピードがあるSaaSアプリケーションを提供することであり、企業がいち早く革新的なことに取り組める土壌を作っている。すでに多くの企業がSaaSを利用している。SaaSのメリットはこれらの企業によって実証されており、SaaSの導入を恐れる必要はない。それを理解し、俊敏に動かなくてはならない。顧客は、Oracleをパートナーに選べば、どのシステムを選択すべきか、ということを考えたり心配したりすることなく、イノベーションに取り組むことができる」と提言してみせた。

DBAの仕事を、より高い価値が発揮できるものへとシフトする

 会期2日目の基調講演では、米Oracle テクノロジー&システム担当のアンドリュー・サザーランド(Andrew Sutherland) シニアバイスプレジデント(SVP)と、米Oracle Oracle Cloud担当のスティーブ・ダヒーブ(Steve Daheb) SVPがホスト役となり、ユーザー事例を交えながら、「Oracle Autonomous Database」や「Generation 2 Cloud(Gen2 Cloud)」、それらを支える「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」などについて説明した。

 また本稿の冒頭でも触れたように、この日が、Oracle Autonomous Databaseが出荷されてからちょうど1年の節目であったことから、その成果などについても説明が行われた。

米Oracle テクノロジー&システム担当のアンドリュー・サザーランドSVP(右)と米Oracle Oracle Cloud担当のスティーブ・ダヒーブSVP

 サザーランドSVPは、「データは自分の足で立って、自ら管理する時代が訪れた。Autonomous Databaseによって管理コストは80%削減でき、自動的なスケールアップやスケールダウンによって70%のランタイムコストを削減できる。さらに、85%の脅威に対して侵入を事前に防ぐことができ、新たな脅威に対しても100%の完璧性を実現している」とコメント。Autonomous Databaseが持つ自動稼働(Self-Driving)、自動保護(Self-Securing)、自動修復(Self-Repairing)の3つの機能によるメリットを強調した。

Autonomous Databaseの3つの特長

 これまでの環境では、開発部門はメンテナンスのために70%の時間を利用し、イノベーティブなことに時間をかけられないといった課題や、39%のDBAが50以上のデータベースを管理していること、95%のDBA(データベース管理者)がデータベースのアップデートをマニュアルで行っているという現状を解決できることを示しながら、「これは大きなマイルストーンであり、まさにゲームチェンジャーになる技術である」とした。

 Autonomous Databaseでは、データウェアハウス(DWH)向けの「Autonomous Data Warehouse(ADW)」と、トランザクション処理向けの「Autonomous Transaction Processing(ATP)」が提供されている。

 インタビューに応じた米Oracle Autonomous DBプロダクトマネジメント担当のジョージ・ランプキン(George Lumpkin) バイスプレジデントは、「2019年3月にはクローニングの機能を追加するなど、これからも随時、進化を図ることになる。この製品は、いつになっても完成といえるものにはならない」としたほか、「運用管理が不要であること、高可用性があり、セキュリティを確保できることが大きなメリットになる。そして、わずか6分間でプロビジョニングができる。この1年間で、顧客の声を反映した進化を遂げてきた」とも語る。

米Oracle Autonomous DBプロダクトマネジメント担当のジョージ・ランプキン バイスプレジデント

 加えて、「できるだけ多くの人にAutonomous Databaseの良さを知ってもらえるように、世界各国でハンズオン型のセミナーを展開し、どんなメリットがあるのか、ベネフィットはなにかということを理解してもらった。その成果が出ている。また、これまでは現場のスタッフがどんなに要望を出しても、企業全体の投資の優先度から開発が後回しにされるなど、開発部門とスタッフの間には厳しい緊張感があったが、Autonomous Databaseの導入によって開発部門がエンパワーされ、新たな開発案件に迅速に着手できるようになってきた」などとした。

 その一方で、Autonomous Databaseが投入されてから、この1年の間、常に議論されてきたのが、DBA不要論である。

 それについて、ランプキン バイスプレジデントは、「データベースの運用という点では、DBAは不要になる」と断言する。

 しかし、それはDBAの役割がなくなるということではない。ランプキン バイスプレジデントが、「実は、いまから1年前に、ラリー(Oracleのラリー・エリソン会長)に、『DBAの仕事は、Autonomous Databaseに置き換えられてしまうのか』と質問したが、それに対するラリーの回答は明確だった。『そんな考え方をするのはクレイジーだ』」と言われたのだという。

 「現在、データベースを活用したソリューションの開発者が足りておらず、そのための開発者を増やさなくてはならないこと、あらゆる企業において、バックアップにかかる時間や工数の負担が大きく、DBAがそれらの作業から解放されること、その結果、ソリューション開発に注力できるようになることを示した。その言葉は正しかった。今回のOracle OpenWorld Asia 2019で、私たちはDBAに対して、『DBAは、運用からアプリケーションにフォーカスをシフトすべきである』とのメッセージを強く発信した」(ランプキン バイスプレジデント)。

 高いスキルを持ったDBAの仕事を、より高い価値が発揮できるものへとシフトすることがAutonomous Databaseの本質であり、それに対する理解を一層深めることができる機会としたのが、Oracle OpenWorld Asia 2019の隠れたテーマだったといえる。

 今回のOracle OpenWorld Asia 2019では、Oracle CloudおよびAutonomous Databaseにおいて、同社のメッセージをより明確に発信するとともに、より深堀した内容を示すものになった。

 また、セミナーなどを通じて、エアアジアやサイアム商業銀行、Grabなどのアジアの主要企業における導入事例が、活発に紹介されていたことも印象深い。

 毎年秋、サンフランシスコで開催されるOracle OpenWorldに比べると規模は小さく、新たな発表案件はなかったものの、Oracleのいまを浮き彫りにし、顧客やパートナーの双方向から、数々のメッセージが発信されるイベントになったといえよう。

 次回は、日本でのOracle OpenWorld Asiaの開催を期待したい。