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クラウドは"New Normal"から"Super Power"へ、「AWS re:Invent 2016」でジャシーCEOが見せた王者の貫禄

AWS re:Invent 2016 キーノート

シェーブシフティング:ハイブリッドクラウド、IoT、ストレージもそのかたちを変えていく

 最後のSuper Powerとして紹介されたのは「シェープシフティング(Shape Shifting)」、いま定義されている技術は、時代の流れとともにその形態を変えていくという意味で使っている。

 その筆頭としてジャシーCEOが挙げたのが"ハイブリッドクラウド"だ。AWSはこれまでVPC(Virtual Private Cloud)やDirect Connectなど数多くのハイブリッドクラウド対応サービスを提供してきたが、どうしても崩せない牙城として、膨大なインストールベースをもつVMwareのプライベートクラウド環境が存在していた。

 2016年10月、AWSはVMwareと戦略的提携を発表、競合ではなくパートナーとしてVMwareと協業していく方針を発表し、世界を驚かせた。

 AWSがみずからベアメタルのハードウェア環境をVMwareに提供し、VMwareのユーザーがその上でvSphereベースのプライベートクラウド環境を構築できるようにしたのである。ジャシーCEOはキーノートであらためてこの提携の意義を強調、ゲストとしてVMwareのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger) CEOが登壇している。

 ゲルシンガーCEOは「すでにMcDonald、Amadeus、Syscoといった大企業がVMware on AWSを導入しており、ビジネスで大きな成果を出している」と語り、今後もさらに両社のパートナーシップを発展させていくことをジャシーCEOとともに強調している。

VMwareのパット・ゲルシンガーCEOがキーノートに駆けつけ、両社のパートナーシップ強化をアピールした

 オンプレミスの呪縛から解けていない技術はハイブリッドクラウドだけではない。ジャシーCEOは、IoTデバイスの多くがいまだにオンプレミスな環境での稼働に閉じているとし、デバイスによるクラウドへのアプローチを容易にするサービスとして「AWS Greengrass」のプレビュー版を発表している。

 ひとことで言えば"IoTデバイスに組み込めるLambda"で、デバイスメーカーやサービス事業者がGreenrassの実行環境をデバイスに組み込んで顧客に提供するかたちとなる。デバイス上でLambdaファンクションが使えるので、センシングデータなどをデバイス側で一次処理してからクラウドに送信する、といったさまざまなローカル処理をリアルタイムに実施できるほか、Lambdaでプログラミング(現時点ではJavaScriptのみ)できるので、非常にシンプルなデバイスプログラミングを実現できる。

 AWSクラウドとの接続が切れたとしてもオフラインで動作し、再接続時にはすぐに同期可能だ。ジャシーCEOはGreengrassのユースケースとして、スマートホームや農業、製造業での導入が拡がることを期待しているという。

LambdaをIoTデバイスに組み込むことで、エッジ側のコンピューティング処理を容易にするAWS Greengrass。クラウドとIoTデバイスの間にあるバリアを一気に取り払う

 そしてジャシーCEOのキーノートで最後の発表となったのが、昨年発表されたデータ転送アプライアンス「AWS Snowball」のアップデートだ。

 日本ではまだ正式にGAとなっていないサービスだが、大企業を中心にSnowballへのニーズは高く、特に「もっと大容量のデータを扱えるようにしてほしい」という声が大きかったという。

 Snowballでは1アプライアンスあたり50TBのデータが格納できたが「それでは足りない」というリクエストに応じて、今回登場したのが「Snowball Edge」、容量が100TBまで拡張された"オンボードストレージ"である。

 クラスタリングすることでペタバイトスケールの転送がより容易になるほか、S3をエンドポイントにすること可能。また同時に発表されたGreengrassが組み込まれているので、輸送中のSnowballのデータを確認することもできるという。

1台あたりの容量が100ペタバイトまで増量されたSnowball Edge。日本での早い時期でのGAも期待される

 Snowballに関してはもうひとつ、米国限定のサービスとして超大型トレーラーに実装された「AWS Snowmobile」が発表されている。エクサバイト級のデータをクラウドに移行したいというニーズに応えたもので、実物のトレーラーがキーノート会場に入場してきたときはいっせいにスマートフォンのシャッターが切られた。

 日本ではこのトレーラーが走る姿を見ることはおそらくできないだろうが、データのクラウド移行へのニーズはこれほどまでに高まっていることを、あらめて実感させられる。

キーノート会場に登場したAmazon Snowmobileは、エクサバイト級のデータ移行を可能にする巨大トレーラー。現時点では米国限定のサービス

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 ジャシーCEOのキーノートが終わった後、会場全体は軽い興奮状態に包まれていた。3万2000人を超える参加者のほとんどが、これほどまでにAWSが新サービスをたたみかけてくるとは正直思っていなかったのではないだろうか。

 もちろんAIやデータベース関連で大きな発表があることはある程度予想がついていたが、決して競合の後追いではなく、GPUやFPGAを含む新インスタンス、Amazon AIやAmazon Athenaなど、時代を先取りし、既存のサービスを大きく凌駕するレベルのアップデートをこれだけそろえてきたのは、やはりクラウドの王者たる貫禄を見せつけられたとしか言いようがない。

 怒涛のように発表されたアップデートの最後、超大型トレーラーのSnowmobileが登場したことで、その圧倒的強さが決して揺るがないという事実をあらためて突きつけられた感すらある。

 ジャシーCEOが語った5つのSuper Power、それはAWSクラウドのユーザーやパートナーだけでなく、AWS自身もみずからを変化させているパワーの源泉だと言える。AWSの顔であるジャシー氏がSVPからCEOとなってはじめてのre:Inventだったが、Super Powerによりクラウドに新しい時代が到来したことを感じさせられたキーノートであった。