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「Microsoft Tech Summit」が開幕、企業のITに求められるセキュリティ、管理、イノベーションを支える技術や製品を紹介
2016年11月1日 19:19
日本マイクロソフト株式会社が開催する技術者向けのイベント「Microsoft Tech Summit」が1日、東京・台場のヒルトン東京お台場で開幕した。開催は2日まで。初日の午前中に行われた基調講演では、企業のITに求められる「セキュリティ」「管理」「イノベーション」をテーマに、マイクロソフトの新たな技術や製品を、デモや事例を交えながら紹介した。
Microsoft Tech Summitは、主に企業や組織のIT導入運用に関わる技術者および意思決定者に向けて実施される、有料のエンタープライズ技術カンファレンス。米国で9月に開催された「Microsoft Ignite」で提供された最新情報から厳選した内容を、日本市場向けにアレンジして紹介する100以上のセッションが行われる。
基調講演の最初に登壇した執行役員デベロッパーエバンジェリズム統括本部長の伊藤かつら氏は、「地球上のすべての個人とすべての法人が、より多くのことを達成できるようにする」というマイクロソフトのミッションを紹介。このミッションを言い換えれば「ITでよりよい世界を作りたい」ということになるが、これはマイクロソフトだけで実現できるものではなく、インフラエンジニアやセキュリティエンジニア、ネットワークエンジニアなど、多くのエンジニアによって実現されるものだとした。
マイクロソフトでは、ITで世界を変えていく「デジタルトランスフォーメーション」を推進しており、「革新的なパーソナルコンピューティング」「プロダクティビティとビジネスプロセス」「インテリジェントクラウド」の3つの領域で世界を変えていくと説明。この取り組みはすでに始まっているとして、よりセキュアな環境を実現する製品としては、Windows 10のアクティブデバイス数は4億台、Office 365の商用ユーザー数は7000万アカウント、Azure ADには毎日10億ログインされているといったデータを紹介した。
マイクロソフトテクノロジーセンターセンター長の澤円氏は、イベントのテーマである「セキュリティ」「運用」「イノベーション」は、多くの企業が悩んでいる問題でもあるとして、事例とともにマイクロソフトの製品やサービス、技術を紹介した。
澤氏は、テクノロジーは高速に世界を変えつつあるが、同時に犯罪者もそこを狙っているとして、サイバーアタックによるリスクは年間3兆円、サイバー犯罪はインターネットにより生み出された価値の15~20%を不正取得、1億6000万の顧客情報が流出しているといったデータを紹介。企業内の人とデータを安全に保つことは、企業にとっても大きな課題になっているとした。
企業のセキュリティを強化するテクノロジーについては、米Microsoftでワールドワイドチーフセキュリティーアドバイザーを務めるJonathan Trull氏が紹介した。現在、マイクロソフトでは、これまで蓄積してきたセキュリティに関するデータを1つにまとめて可視化する「マイクロソフトインテリジェンスセキュリティグラフ」の取り組みを進めており、この情報を使ってサイバー攻撃を把握することに利用していると説明。また、企業がセキュリティに関して最初にやるべきこととしては、複数かつ綿密な防衛戦略を立てることと、最も新しい製品を使うことを挙げた。
具体的な例としては、ウェブブラウザー経由でのマルウェア感染のシナリオで、Windows 7では防げなかった攻撃でも、Windows 10ではサンドボックス内での実行になるため感染が防げるといったデモを披露し、最新の製品であるWindows 10にすることで、最新の技術によって企業の大事な情報を保護できるとした。
このほか、最新のセキュリティ機能としては、Windowsのパスワード情報を取得しようとする攻撃を防ぐWindows 10のクレデンシャルガード機能や、攻撃を受けてしまった場合にも、そのマシン上で何が起こったのかを詳細に確認できる「Windows Defender ATP」、Microsoft Azure上で動作する仮想マシンのセキュリティ状態を管理できる「Azure Security Center」などのデモを披露した。
2つめのテーマである運用については、最新のサーバーOSであるWindows Server 2016の機能を紹介。Windows Serverをコンテナ向けに軽量化した「Nano Server」や、オンプレミス環境でもAzureと同様の操作でリソースの作成やアプリケーションの展開を行える「Azure Stack」、サーバーの状態をビジュアルで分かりやすく表示する「Operation Management Suite」などのデモを披露した。
3つめのテーマであるイノベーションについては、開発担当者と運用担当者が連携して開発を進めるDevOpsの事例として、NECソリューションイノベータ株式会社が、マイクロソフトのValue Stream MappingとDevOpsプラクティスにより、ソフトウェアリリースのリードタイムを9カ月から1週間に短縮したことを紹介。「こうした大企業がDevOpsを取り入れるのはまだあまりない事例だが、これからどんどん増えていってほしい」(澤氏)とした。
開発環境については、クラウド開発ツール「VisualStudio Team Services」を紹介。チームでのコードの共有やコミュニケーション機能、バージョン管理、テスト管理、自動ビルド、自動テスト、自動デプロイなど、開発からデプロイまでをサポートし、各種言語の利用、AndroidやiOSアプリなどの開発にも対応。開発環境から品質保証環境を経て、本番環境に導入といった、一連の流れの管理にも対応しており、日本の会社にも有用に使っていただけると思うとした。
澤氏は、Windows 10もまさにDevOpsによって作られており、新しい機能を速やかに顧客に提供していると説明。Windows 10の新しい機能として、付箋紙アプリにペンで書かれた内容をCortanaが読み取り、理解し、ユーザーに必要と思われる情報の候補を紹介する機能を紹介。現在は英語版のみの対応だが、日本語にも対応していく予定だとした。
次に登壇した執行役員最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏は、さらに未来の企業に影響を与えるテクノロジーとして人工知能(AI)を挙げ、マイクロソフトではAIのパワーを誰にでも使えるようにする「AIの民主化」に取り組んでいると説明した。
AIを使うエージェントの領域では、Windows 10に搭載されたパーソナルアシスタントのCortanaが、すでに1億3300万人に利用され、120億件の質問に回答。この繰り返しにより、コンテキストを理解し、より適切な回答を行うよう、学習を続けているとした。
アプリケーション領域では、Office 365がユーザーの日々の仕事を分析し、ユーザーがどのようにつながっているのかをグラフ化する機能を紹介。AIにより、ユーザーが次にどのような仕事をするのかを予測し、先回りしてユーザーにアドバイスするような世界になるとした。また、Dynamics 365についても、これまでのCRMはビジネスのみの観点だったが、ビジネスの外側の情報もリンクできれば、より多くの機会を提供できるようになるとした。
サービス領域では、チャットボットを構築できる「Bot Framework」や、自動応答システムの構築などに活用できる「Cognitive Services」などのデモを紹介。また、インフラ面でもAIの活用のためには高速化が求められているとして、AzureではCPU、GPUに加えて、FPGAを用いた深層学習の高速化にも取り組んでいるとした。
講演の最後には、代表取締役社長の平野拓也氏が登場。これからの技術として、現実世界と3Dホログラムの世界を融合したMR(Mixed Reality)の世界を実現する「Microsoft HoloLens」を挙げ、日本の開発者に向けたニュースとして、Microsoft HoloLensを日本でも提供することを発表。2016年内には開発者・法人向けのプレオーダーを開始し、価格やプレオーダーの開始日については近日中に改めて発表するとした。
平野氏は、基調講演で紹介したさまざまなテクノロジーを振り返り、「こうしたテクノロジーの変化が企業のビジネスを通して、我々の世界をさらに良くするものであると信じている。始まりはまさにこれから。このテクノロジーを活用するのは、まさにエンジニアの皆様であり、一緒に素晴らしい未来を作っていきたい」と語り、講演を締めくくった。