大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
日本マイクロソフトがAzureの日本リージョンを開設した真の狙いとは?
A5を展開する富士通との関係はどうなるのか
(2013/6/4 06:00)
日本マイクロソフトが、Windows Azureのデータセンターとして、新たに日本リージョンを開設する。規模や仕様、サービスメニューなどの詳細な内容については、今後発表されることになるが、関係者の発言などをまとめると、日本リージョンの開設は2014年になる可能性が高い。
Windows Azureの導入を検討するユーザーなどから、日本へのデータセンター開設を求める声が高まるなかで、ようやく実現された格好だ。では、なぜ日本マイクロソフトは、この時期に日本リージョンを新設することを決定したのか。そして、日本のデータセンターを利用したAzureサービスを提供している富士通との関係はどうなるのか。その狙いを追った。
バルマーCEOが電撃的に発表
Windows Azureの日本リージョンの開設発表は、5月23日にわずか1日だけ来日した、米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが行った、報道関係者対象の講演のなかで行われた。
「新たに日本リージョンを開設する。これは首都圏と関西圏の2つのサブリージョンで構成される。日本リージョンの開設により、Windows Azureのサービスに関して、容量の拡大、柔軟性の提供とともに、日本におけるデータ管理が可能になる。日本国内において、エンド・トゥ・エンドでWindows Azureの展開を行えるようになる」とバルマーCEOは語り、日本におけるリージョン開設が、今後のWindows Azureのビジネスを加速することを示してみせた。
4月16日には、Windows AzureのサービスをIaaSまで拡大しており、ここにもエンド・トゥ・エンドという言葉が意味する部分がある。
これまで日本リージョンが開設されなかった理由とは?
日本リージョンの開設は、日本マイクロソフトにとって悲願であった。
金融機関や政府、自治体をはじめ、データを海外に置きたくないというユーザーにとって、国内にデータセンターがないWindows Azureは、最初から検討のまな板にも乗らない状況となっていたからだ。
国内データセンターを活用する回避策としては、富士通が群馬県館林のデータセンターで展開するFGCP/A5 Powered by Windows Azure(5月から「FUJITSU Cloud PaaS A5 Powered by Windows Azure」に名称変更)を利用することができたが、これは富士通のサービスメニューであり、厳密には、日本マイクロソフトが提供するサービスメニューとは異なるものとなっている。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、Windows Azureのサービスを開始する前から、日本におけるデータセンター開設を米本社に申し入れていたが、それがなかなか実現しない状況にあった。
では、これまでなぜ日本リージョンの設置が実現しなかったのだろうか。
Windows Azureのデータセンターは、米国、欧州、アジアの3つのリージョンで構成されており、日本のユーザーは、アジアリージョンを構成する香港およびシンガポールのサブリージョンを利用するケースが多かった。
だが、アジアリージョンのデータセンターが、同社の既存オンラインサービスのデータセンター施設をそのまま利用していた経緯からもわかるように、新規のデータセンター開設は、アジアにおけるWindows Azureのビジネス拡大次第といった要素があった。
つまり、今回の日本リージョンの設置は、アジアおよび日本でのWindows Azureビジネスが順調に拡大していることの証しであり、だからこそ、スティーブ・バルマーCEOが来日した際に、自らの口でそれを公表したともいえる。
実は、来日前日、バルマーCEOは中国に立ち寄っている。日本のメディアでは報道されていないが、中国でも新たなデータセンターを設置することを、このとき、バルマーCEOは発表している。中国国内でのサービスであること、パートナーとの連携によるデータセンター設置という中国特有の事情があるため、Windows Azureのリージョンという表現はしていないが、やはりこれも、アジアにおけるWindows Azureの成果を背景に、新たに事業を拡大したものだといえる。
そして、同社は、オーストラリアリージョンの新設も同時に発表している。こちらも日本と同じくオーストラリア国内に、2つのサブリージョンを新設する内容となっており、国内だけでのディザスタリカバリ構成が可能だ。
日本、中国、オーストラリアの3つのデータセンターの設置で、数億ドル(数百億円)を投資することが米本社のブログで公表されており、アジアにおけるWindows Azureビジネスの体制強化のなかで、日本リージョンの設置が行われることになる。
都市型データセンターで展開か?
日本国内に、2つのサブリージョンを設置するのは、日本マイクロソフトがこだわった点である。
1カ所のデータセンター設置では、国内だけでディザスタリカバリ構成が不可能となり、どうしても海外のデータセンターにバックアップを置かなくてはならない。
2カ所のサブリージョンは、日本のユーザーの“国内にデータを置きたい”というニーズに対応するには、不可避な取り組みだといえる。
日本マイクロソフトの樋口社長は、「データ統治権を担保しつつ、データやアプリケーションを日本国内に保持できるようになる。日本にデータを置きたいという企業や政府機関、金融機関などのニーズに対応でき、さらに転送速度が速くなることから、リアルタイムレスポンスのニーズにも対応できる」とする。
2014年の開設が見込まれる日本リージョンは、首都圏と関西圏にサブリージョンを配置するとしているが、リリースでは「東阪」という表現を用いており、東京、大阪への設置が有力だ。関係者などによると、Windows Azureのデータセンターとして有名な、ダブリンの自社投資型の超大型データセンターのような形態ではなく、コロケーションによる都市型データセンターの設置が有力とみられる。
バルマーCEOは、「データセンターならばすぐに開設できるが、クラウドサービスを提供するという観点で考えれば、データセンターだけでなく、管理用インフラ、ネットワークのパイプの太さ、キャッシングやデータ格納、ストレージ展開などのほか、香港、シンガポール、米国のサブリージョンとつなげることも必要である」とし、稼働まで一定の時間が必要であることを示す。それが、2014年以降の開設になるという理由だ。
パートナー戦略も加速することに
今回の日本リージョンの設置によって、パートナー戦略が加速されることになるのは明らかだろう。
国内にデータセンターがないために、提案の決定力に欠けていたWindows Azureにとって、最大の課題が解決され、パートナーも提案メニューを拡大することができる。
さらに、クラウド提案だけにとどまらず、ユーザー企業が持つオンプレミスと、日本リージョンの連動提案といったことも可能になる。
現在、国内には、48社のWindows Azureパートナーが存在。そのうち、26社がグローバルのAzureパートナー組織であるWindows Azure Circleに参加している。
同社では、日本リージョン開設に伴い、さらにパートナー数が増加すると予測しており、PaaSだけにとどまらず、IaaSによる展開も加速されることになりそうだ。
富士通とのパートナーシップはどうなるか?
気になるのは富士通とのパートナーシップの行方だ。
富士通は、Windows Azureをベースにしたパブリッククラウドサービスを同社の群馬県館林市のデータセンターを活用し、「FGCP/A5 Powered by Windows Azure」として提供してきた経緯がある。これを5月にはFUJITSU Cloud PaaS A5 Powered by Windows Azureに名称変更している。
そのため、一部には、日本マイクロソフトの日本リージョンの開設によって、富士通との競合が懸念されるとの声が出ている。
しかし、関係者の声を聞くと、両社の関係はむしろ強固なものになりそうである。
では、どんな形にパートナーシップが強化されるのか。それは2つの観点から見て取ることができる。
ひとつは、日本マイクロソフトのリリースに書かれた文言だ。日本リージョンに関する日本マイクロソフトのニュースリリースのなかには、「両社のサービスの連携を、強化したものへと進化させていく」と書かれている。
重要なのは「サービスの連携」という言葉だ。これまでA5のサービス内容は、日本マイクロソフトのWindows Azureの基本機能を活用するものの、サービス内容は、富士通独自の異なるものだった。つまり、Azureにおける富士通との関係は、パートナーとしての連携ではあったが、サービスの連携ではなかった。
今回のリリースでは、パートナー連携からサービス連携へと大きく歩みを進めたことを示しており、日本マイクロソフトの樋口社長も、日本リージョンの発表にあわせて、「双方のサービスの価値を統合したような形で、日本の顧客に、より最適なクラウドソリューションを提供する方向へと提携を進化させる」とコメントしている。
具体的な内容については、後日明らかになってくるだろうが、両社のサービス連携によってサービスメニューが強化されるのは明らかだ。このなかには、当然、A5のサービスと日本リージョンを連携させた提案なども含まれることになる。
これを裏付けるのが、もうひとつの観点だ。
それは、富士通側でも、日本マイクロソフトとの連携を加速させる姿勢をみせている点である。
富士通が静かに示した日本マイクロソフトとの連携強化
富士通は5月14日、Fujitsu Cloud Initiativeを発表した。これは、クラウドに関する製品、サービス群を体系化したもので、「今後、当社のクラウド製品およびサービスは、FUJITSU Cloud Initiativeをベースに開発していくことになる。クラウドにおける最適解を追求する継続的な取り組みと位置づけ、富士通が持つデバイスから運用まで、また、垂直統合から水平連携までのクラウドサービスを提供することになる」(富士通 クラウド事業本部の岡田昭広事業本部長)とする。
この水平連携という言葉に、日本マイクロソフトとの連携が含まれるのだ。
振り返れば、この会見で使用された資料のなかに、気になる1枚があった。
それは、「Windows Azureをベースとしたハイブリッドクラウド」とする資料だ。
これまで富士通がA5で提供していたのはパブリッククラウドサービスであり、ハイブリッドクラウドの展開までは視野には入れていなかった。
だが、この資料で示すように、今後は、パブリッククラウドであるWindows Azureを活用したA5と、Windowsホスティングによるプライベートクラウドにより、アプリケーションとデータ連携を可能にしたハイブリッドクラウド環境の構築にも踏み出すという姿勢を明確化している。
富士通がWindowsホスティングという言葉を使いながら、A5との連携を明らかにしたのは、これが初めてのことである。ここに、両社がWindows Azureをベースにして、サービス連携を図るという意味が隠されていたというわけだ。
このように、パートナー連携から、サービス連携へ踏み出す両社のパートナーシップは、より強固なものになりそうである。
日本マイクロソフトによるWindows Azureの日本リージョン開設は、われわれが思う以上に、日本におけるWindows Azure事業を大きく加速させるものとなりそうだ。