MicrosoftのAzureを提供する富士通のクラウド「FGCP/A5」


富士通 サービスプロダクトビジネスグループPaaS事業部長兼SaaS事業部長兼Webソリューションセンター長の佐竹功二氏と、米Microsoftのサーバー&クラウド部門 Windows Azure Platform Appliance ゼネラルマネージャーのエリック・キッド氏

 富士通株式会社は6月7日、Microsoftが展開しているクラウドサービス「Azure」を日本国内のデータセンターで提供すると発表した。このサービスが、「FGCP(Fujitsu Global Cloud Platform)/A5 powered by Windows Azure」(以下FGCP/A5)だ。

 富士通は、米MicrosoftからWindows Azure Platformの提供をうけ、館林に設置されている富士通のデータセンターに設置して、日本国内のデータセンターとして初めて、Windows Azure Platformを提供することになる。

 今回は、FGCP/A5の提供を始める富士通 サービスプロダクトビジネスグループPaaS事業部長兼SaaS事業部長兼Webソリューションセンター長の佐竹功二氏と、米Microsoftのサーバー&クラウド部門 Windows Azure Platform Appliance ゼネラルマネージャーのエリック・キッド氏に話を伺った。

 

基本機能はWindows Azureと同じ、ただし富士通ならではの特徴を提供する

――今回、富士通が提供するFGCP/A5は、昨年、MicrosoftのWorldwide Partner Conferenceで発表されたWindows Azure Platform Applianceを使っていると思うのですが、MicrosoftのWindows Azureと、機能的に違いがあるのでしょうか?

FGCP/A5では、MicrosoftからWindows Azure Platform Applianceの提供を受け、富士通のデータセンターから、Windows Azureのクラウドサービスを提供する

佐竹氏:基本部分に関しては、Windows Azureと違いはありません。Windows Azureが提供しているCompute機能、Storage機能、Appfabric機能、SQL Azure機能など、Windows Azureと全く同じモノが提供されています。

 現状では、Windows Azureが提供しているCDN機能やマーケットプレース機能などは、FGCP/A5では提供されていませんが、この部分に関してもお客さまのニーズを把握して、必要であれば、比較的早い時期にサポートしていきたいと思っています。

 Microsoftが提供しているWindows Azureとの差は、富士通が今までWindows Serverで提供してきた、Systemwalkerなどの管理ツールや、ビジネスアプリケーション基盤のInterstage、プログラミング言語COBOLを提供するNetCOBOLなどをFGCP/A5上に用意しています。

 さらに、富士通グループとして考えれば、Windows上に膨大な数のソフトウェア資産があります。こういったソフトウェア資産をFGCP/A5上でも提供していく考えです。

 Microsoftと同じWindows Azureというプラットフォームを提供はしていますが、富士通独自のミドルウェアや開発環境を提供することで、お客さまにとって使いやすい環境が提供できると考えています。


FGCP/A5の特徴としては、Windows Azureが国内のデータセンターで提供されることだ。もちろん、富士通のきめ細やかで高いサポートが提供されるのも大きなメリットとなる

 もう1つ重要な点は、富士通のデータセンターにFGCP/A5を設置するため、日本国内のデータセンターからWindows Azureのクラウドサービスを提供できるということです。多くのお客さまが、Windows Azureに興味をお持ちでしたが、海外にデータセンターがあるということだったり、サポートに関して不安感をお持ちでした。

 しかし、FGCP/A5は、富士通のデータセンターでWindows Azureを提供しています。つまり、日本国内のデータセンターでは唯一のWindows Azureを提供しています。このことは、法令上の問題や企業内のルールにより、海外のデータセンターで提供されているクラウドサービスが利用できない企業や自治体・政府機関などにとって、大きなメリットがあるでしょう。

 また、日本国内にWindows Azureのデータセンターが設置されることで、ネットワークの距離的にも、非常に近いため、遅延(レイテンシー)なども問題ならないでしょう。

 もちろん、富士通がサービスを行うということで、日本品質の高いクオリティのサポートや監視体制、セキュリティなどが提供できると思います。

 コスト的にもWindows Azureの部分に関しては、MicrosoftのWindows Azureと全く同額にしています。富士通としては、独自に提供しているSystemwalkerなどの管理ツールやビジネスアプリケーション基盤のInterstageなどの各種サービスは、オプションとして提供していきます。また、システムインテグレータとして、FGCP/A5をベースとした案件を扱っていきたいと考えています。


富士通が持つさまざまなソフトウェアを提供していくFGCP/A5の基本サービス価格。Windows Azureの基本部分は、Microsoftが提供している価格を踏襲している

 

オンデマンド仮想システムサービスとの違いは?

 

――富士通でも「オンデマンド仮想システムサービス」というクラウドサービスを提供されていますが、このサービスとFGCP/A5は、どのように差別化されていくのですか?

佐竹氏:やはりFGCP/A5とは、システムが大きく違うと思います。オンデマンド仮想システムサービスは、IaaSとして仮想マシンを提供しています。この上で、お客さまがシステムを構築していくことになります。

 FGCP/A5は、Windows Azureなので、さまざまなサービスが最初から提供されています。お客さまとしては、FGCP/A5はパブリックなクラウドサービスを利用するイメージになるでしょう。オンデマンド仮想システムは、基幹業務が動作するよりプライベートで、ユーザーのカスタマイズができるプライベートクラウドといったイメージになると思います。

 最終的には、お客さまが、FGCP/A5とオンデマンド仮想サービスのどちらが使いやすいかを判断していただければいいと思っています。それぞれのシステムに、それぞれの良さがあります。

 また、お客さまが必要とするサービスによって、使い分けができると思います。オンデマンド仮想サービスで動いているWindows Serverの案件を、FGCP/A5に移行するような施策を用意しているわけではなりません。お客さまには、Windows Serverのシステムだから、FGCP/A5を使うというのではなく、それぞれのメリット、デメリットを考えて、バランスよく選択していただければと思っています。

 

最新のWindows Azureの機能を提供

――Windows Azureは、クラウドサービスという特徴から、日々システムのアップデートが行われています。今回、富士通が提供するFGCP/A5も、最新のWindows Azureと同じようにアップデートが行われ機能が強化されていくのでしょうか?

キッド氏:Microsoftでは、Windows Azureは全世界で同じものを提供していくコンセプトです。このため、Windows Azure Platform Applianceであっても、きちんとMicrosoftが管理して、アップデートしていきます。これにより、Windows Azureというプラットフォームには、機能的に違いはありません。Windows Azure Platform Applianceであっても、最新のWindows Azureの機能が提供されることになります。

 Windows Azureは、どのような提供形態でも、きちんとした一貫性が保たれたクラウドサービスなのです。これにより、開発者は、MicrosoftのWindows Azureで開発したアプリケーションを、富士通のFGCP/A5などのパートナーが提供しているWindows Azure Platform Applianceにコードを変更せずに移行できます。

 このことこそが、開発者にとって重要なことだと思います。MicrosoftのWindows AzureのパートナーのWindows Azure Platform Applianceで機能差やプログラムに違いがあるようでは、開発者やインテグレータが苦労することになります。こういうことを起こさないようにしているのです。

 

――8月1日からFGCP/A5のサービスを開始されるそうですが、最初はどのくらいの規模でサービスを開始されるのでしょうか?

FGCP/A5としては、まずは日本国内のお客さまに展開していきたい。富士通が持つさまざまなWindowsベースのソフトウェア資産を武器にして、日本マイクロソフトと協力して企業にアプローチしていく

佐竹氏:FGCP/A5は、4月21日から限定されたお客さまやグループ内部でトライアルサービスを開始しています。実際にサービスを提供するのは、8月1日からになります。規模としては、当初は数千ほどの仮想インスタンスを提供していこうと思っています。

 もちろん、お客さまからのリクエストが大きければ、増設を考えていかなければいけないでしょう。われわれとしては、お客さまのニーズに合わせて適正な規模のシステムを提供していきたいと思っています。

 もう1つ重要なのは、東日本大震災が起こったので、日本国内に1カ所のデータセンターでいいのかということです。現在は、館林にある富士通のデータセンターにFGCP/A5を構築していますが、将来的には西日本などにも拠点が必要になると思っています。ディザスターリカバリやBCPという観点からも、Microsoftと話し合いながら、日本国内の拠点に関しては拡充していきたいと考えています。

 

海外展開も視野に入れて展開を

――すでにMicrosoftが、Windows Azureを海外で展開されていますが、FGCP/A5自体の海外展開に関してはどうでしょうか?

日本国内にWindows Azureのデータセンターが展開されるということで、多くの企業から注目されている

佐竹氏:日本国内のお客さまなどが、ワールドワイドでシステムを展開する場合、考えなければいけないことだと思っています。このことは、Microsoftとも話し合いながら進めていきたいと思っています。

 すでにMicrosoftが展開している地域に、FGCP/A5を展開する意味があるのかということもあります。ただ、日本のお客さまとしては、ワールドワイドで利用するシステムを一括管理したいというニーズもあるので、国内はFGCP/A5で、海外はWindows Azureでと窓口が別々になることは、いいことではないでしょう。こういった場合は、富士通が一括してシステムを管理して、必要に応じて、FGCP/A5とWindows Azureを利用することになるのでしょう。われわれとしては、Windows Azure上に、われわれ独自の付加価値を築いていきたいと考えています。

 Windows Azureとの関係でいけば、FGCP/A5はWindows Azure Platformをベースにはしていますが、別のクラウドサービスと考えてください。FGCP/A5の管理コンソールからWindows Azureのデータセンターを指定して、システムがマイグレーションするということはありません。ただ、プラットフォーム基盤が同じため、システムの移行は行えるとは思います。

 

――富士通がFGCP/A5で、日本国内にWindows Azureのデータセンターを構築されたということは、Microsoft自身が、Windows Azureのデータセンターを日本国内に設置しないということですか?

クラウド市場における富士通とMicrosoftの協業の意味。共に新しいクラウド市場を開拓・創造していくために協業を行った

エリック氏:われわれとしては、お客さまの声を大事にしたいと思います。お客さま側からWindows Azureのデータセンターを日本国内に設置してくれという声が大きくなるようなら、その声に耳を傾けなければなりません。ただ、現時点で、日本でデータセンターをどうするかということに関しては、何も発表することはありません。

 今回、富士通が提供するFGCP/A5は、価格面でも、機能面でもMicrosoftが提供しているWindows Azureとまったく違いはありません。そういったことでも、お客さまが選択していただければと思います。

 Windows Azureというクラウドサービス自体も立ち上がったばかりです。今後は、パートナーと協力して、Windows Azureというクラウドサービスを多くのお客さまに利用していただけるようにする必要があると思います。

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