大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

法人向けアプリをテストできる「Windows 8アプリ検証ラボ」の成果

 日本マイクロソフトは、2013年3月末までの設置を予定していた「Windows 8アプリ検証ラボ」の運用期間を延長することを決定した。

 同ラボは、Windows 8搭載タブレットの法人向け導入を支援するために、ソフトウェアの動作検証などを目的に設置した施設。これまでの稼働率は8割以上に達しているという。今後、カスタムアプリケーションの検証案件の増加などが見込まれることから、同ラボの運用延長を決め、法人へのWindows 8導入を下支えする考えだ。

 日本マイクロソフト Windows本部 Windowsコマーシャルグループの西野道子シニアエグゼクティブプロダクトマネージャーと、寺田和人シニアマネージャーに話を聞いた。

日本マイクロソフト Windows本部 Windowsコマーシャルグループの西野道子シニアエグゼクティブプロダクトマネージャー
日本マイクロソフト Windows本部 Windowsコマーシャルグループの寺田和人シニアマネージャー

法人向けアプリの開発・検証用施設として開設

日本マイクロソフトの大手町テクノロジーセンターが入る大手センタービル
大手町テクノロジーセンターは大手センタービルの1階にある

 Windows 8アプリ検証ラボは、日本マイクロソフトの大手町テクノロジーセンター内に、2012年12月から設置された施設だ。当初の計画では、2013年3月末までの期間限定での運用を予定していた。

 主な役割は、Windows 8を搭載したタブレットPCにおける、法人向けソフトウェアの開発動作検証の場とすることだった。

 同ラボを利用できる企業は、「法人市場向けWindows 8アプリを開発中のパートナーおよびアプリケーションベンダー」、「法人市場におけるWindows 8アプリに関する実案件およびアプリケーションに関する具体的な販売計画のあるパートナー」、「事前にWindows 8アプリ開発に関するトレーニングに参加。もしくは同等の知識があるパートナー」としており、コンシューマ向けアプリケーションの開発パートナーなどは対象外となっている。

 「Windows 8の特徴のひとつに、さまざまなフォームファクタを持ったデバイスが用意されている点がある。法人ユーザーにとっては選択肢が増える一方で、ISVやシステムインテグレータといった開発パートナーにとっては、さまざまなデバイスでの動作検証が必要になる。特にタブレットに関しては、タッチ操作やゼンチャー動作を含めて、検証できる環境が必要だと考えた」と、西野氏は、Windows 8アプリ検証ラボ設置の狙いを語る。

 Windows 8アプリ検証ラボは、大手町テクノロジーセンター内に2部屋用意され、ISVやシステムインテグレータなど、法人向けアプリケーションを開発する際の検証に活用できる。

 部屋は、機密性を維持するために、専用のカードキーが配布され、その鍵でないと入室はできない。日本マイクロソフトの社員IDカードでは、大手町テクノロジーセンターに勤務する社員でも入室できないようになっている。

 「2部屋をそれぞれ使用しているISVがライバル会社である場合も想定される。開発中の情報が外には漏れないような環境を用意している」(日本マイクロソフト Windows本部Windowsコマーシャルグループの寺田和人シニアマネージャー)というわけだ。

 Windows 8アプリ検証ラボを品川本社ではなく、大手町テクノロジーセンター内に設置したのも、もともとこうした機密性の高い環境が用意されていたからだ。

部屋ごとの専用カードでないと入室できない

パートナーのコンバーチブルPCやタブレット端末4機種を用意

 Windows 8アプリ検証ラボとして用意された部屋は、「White Room」と呼ばれる。2部屋ともほぼ同じ広さで、6人程度が座れる環境がある。

手前の2部屋をWindows 8アプリ検証ラボとして使用
検証ルームは「WhiteRoom-1」と「WhiteRoom-2」を使用
Windows 8アプリ検証ラボの様子
最大で6人程度が入れる

 OEMメーカーの協力を得て、ラボ内に常設されているのは、パナソニックのコンバーチブルPC「Let'snote AX2」、富士通のコンバーチブルPC「STYLISTIC QH77/J」および防水対応タブレットPC「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」、日本エイサーのタブレットPC「ICONIA W700」の4機種。さらに、デルの23型マルチタッチディスプレイも用意されている。

 これらのデバイスを使用して、それぞれのデバイスにおけるアプリケーションの動作確認、パフォーマンス検証をはじめ、クラウドサービスなど、マイクロソフトのソリューションとの連携を含めた検証を実施できる。またWindows 8導入を検討している法人は、タブレットデバイスや、最適化された業務アプリおよび連携ソリューションを検証できるので、短期間に、円滑に導入できるようになるというわけだ。

 「同じタブレットPCでも、搭載しているCPUの違いで動作のイメージが異なる場合があり、それにあわせてパフォーマンスをチューニングできる。法人ユーザーに持ち込む前に、タブレットで動作させる上での操作上の課題を改善するといった使い方も行われている」(寺田氏)。

 また、「申請すれば外部のインターネット環境とも接続できるため、特定の法人ユーザー向けカスタムアプリでは、ユーザーの実データを用いた検証も行われていたようだ」と西野氏が話すように、深いレベルの検証でも使われていた。

パナソニックの「Let'snote AX2」
富士通の「STYLISTIC QH77/J」
富士通の「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」
日本エイサーのタブレットPC「ICONIA W700」
デルの23型マルチタッチディスプレイ

 さらにこの検証環境では、Xeon X5675(3.06GHz、6コア)搭載した2ソケットの物理サーバー2台に、仮想サーバーとしてマイクロソフトのサーバー製品をインストール。Windows Server 2012 Active Directory、Exchange Server、SharePoint Server、Lync、SystemCenterを活用できる。

 ラボを利用したシステムインテグレータのなかには、この環境を利用して、特定の法人ユーザー向けに開発したSharePoint Serverとの連携アプリケーションの検証なども行っていたという。

 機密性の高い場所で、開発中のアプリを、異なるデバイスで動作確認できるという環境は、ISVやシステムインテグレータにとっては有効なものだといえよう。

 なお、Surface RTに関しては、販売ルートを量販店に限定しており、法人市場向けではないという理由で、Windows 8検証ラボには置かれていない。

マイクロソフトのサーバー製品をインストールしたサーバー

貸出プログラムとの並行実施で落ち着いた検証が可能に

 Windows 8アプリ検証ラボでは、当初、3月末までの期間中に、40案件の検証を予定していた。しかし、これまでに同ラボを使用したのは、10数社にとどまっている。

 一見すると目標にははるかに及ばないように見えるが、実はこの裏には、2012年11月の発表当時とは状況が異なり、ラボを有効に活用しながら、より効果的に開発支援を行うという体制へとシフトした経緯がある。

 同社では、2013年1月から、社内で「貸出プログラム」と呼ぶ制度を並行して開始した。

 これは米国本社の支援のもとにスタートした仕組みで、日本国内に貸し出し可能なWindows 8搭載PCを約100台用意。約1週間をめどに、ISVやシステムインテグレータに貸与するというものだ。機種数はタブレット端末を中心に10機種以上にのぼるという。

 「まずはこの貸出プログラムによって、実機を用いた検証をしていただき、より深い検証を行う場合に、Windows 8アプリ検証ラボを活用していただくことにした」(西野氏)というわけだ。

 この貸出プログラムを利用したパートナーは30社以上にのぼるようで、これを加えると当初の計画数に到達することになる。

 一方で、Windows 8アプリ検証ラボでは、当初の予定では、最大でも4日間での利用に限定していたが、貸出プログラムを並行して実施したことで余力が生まれ、1社あたりの利用期間を1週間~2週間へと拡大することができるようになったという。

 「特に開発後期における深い検証を行いたいという要望に対して、応えることができるようになった。その点では、ラボを利用するパートナーからも高い評価をいただいている」(西野氏)。

 実際、検証ラボを利用した開発パートナーからは、「時間的な余裕ができ、じっくりと検証できた」といった声のほか、「複数のデバイスを用意したこうした検証施設があることで、効率的に評価作業が行えた」、「この施設がなかったら、もう少し開発時間がかかったかもしれない」といった声があがっているという。

 さらに、大手町テクノロジーセンターのエンジニアによって、技術的な質問にも対応できる体制を構築。ラボでの検証中に発生した疑問だけにとどまらず、ラボを使用していない開発パートナーからの問い合わせにも対応していた。

 「約3人のエンジニアがWindows 8に関する問い合わせに対応した。ラボでの一時検証が終了し、その後、エンジニアとのやりとりで開発を進め、再び、ラボで最終的な検証を行うといったケースも出ていた」(西野氏)という。

 1社あたりの利用期間が延長したこともあり、約10社の利用でも、結果として、Windows 8アプリ検証ラボの稼働率は80%を突破。アプリケーション開発を促進する重要な役割を果たしたといえよう。

2013年4月以降の運用延長が決定、6月末までを目処に

 こうした成果もあり、Windows 8アプリ検証ラボの2013年4月以降の運用が、このほど決定した。

 期間は、日本マイクロソフトの年度末となる2013年6月末を、ひとつの目安にする。

 「法人においては、Windows 8搭載タブレットを導入するための検証がこれから本番を迎える。特に、特定法人ユーザー向けのカスタムアプリケーションの検証を行いたいというケースが増えてくると想定される。期間延長はそうした開発パートナーの利用増を見越したものになる」と、西野氏は語る。

 Windows 8搭載タブレットの場合、iPadやAndroid端末と異なり、カタログビューアやメール閲覧などのコミュニケーション端末といった利用にとどまらず、社内システムとの連動を前提とした活用が目立つという。

 基幹システムと連動させるといった業務利用においては、開発後半における検証は重要な意味を持つ。「こうした動きはますます増えていくことになり、検証ラボの活用も増加する」と予測する。

 また、すでにWindows Storeに登録された法人向けアプリケーションの検証が同ラボで行われた実績もあり、国内のISVがタブレットPCでの動作検証を行うために利用する、といったシーンもこれから増えそうだ。

 同社では、貸出プログラムも継続的に展開していくほか、技術Q&Aの体制も維持。さらに大手町テクノロジーセンターでは、Windows 8向けアプリケーション開発のためのセミナーを随時開催して、開発パートナーを支援していく姿勢だ。

 「Windows 8アプリ検証ラボの活動を通じて、法人向けのアプリケーション開発を支援できているという手応えがある。今後も開発パートナーを支援する体制を維持することで、Windows 8の法人利用をサポートしていきたい」と、西野氏は語る。

 日本マイクロソフトにとって、クライアント向けアプリケーション開発をサポートする唯一の施設が、このWindows 8アプリ検証ラボとなる。

 期間延長した今後3カ月間の活動も、法人市場におけるWindows 8の活用促進に向けて、重要な意味を持ちそうだ。

大手町テクノロジーセンターでは、Windows 8に関する技術セミナーも随時開催されている

(大河原 克行)