大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

HCIはひとつのステップにすぎない――、Nutanixが目指すエンタープライズクラウド戦略

目指しているのはHCIそのものではない

――ただNutanixは、HCIのベンダーとしてスタートしています。これからもそのスタンスには変わりはありませんか。

スミス氏:
 いえ、われわれが設立当初から目指しているのは、HCIそのものではありませんし、HCIベンダーになることでもありません。目指しているのは、エンタープライズクラウドプラットフォームを提供する企業です。

 インフラを見えなくする(インビジブル)ぐらいに、シンプルにすることで、利用者は、インフラを気にせずにアプリに投資をすることができ、それによってサービスを創出し、ビジネスに注力することができる。

 その支援をするのがNutanixであり、そのひとつのステップとしてHCIを出しているにすぎません。

米Nutanix APAC担当シニアSEディレクターのジェフリー・スミス氏

――エンタープライズクラウドプラットフォームの方向性は、設立当初から、明確に打ち出していたわけではありませんね。

スミス氏:
 仮に、事業を開始した時点でNutanixがエンタープライズクラウドプラットフォームというメッセージを打ち出しても、「Nutanixにそんなことができるのか」ということになっていたでしょう。誰も信じてくれなかったはずです。

 大きなビジョンがあったとしても、最初は、マーケットに受け入れられる、わかりやすいメッセージを発信することが必要です。HCIが受け入れられると、エンタープライズクラウドプラットフォームの考え方や方向性が、よりわかりやすくなります。

 それは、エンタープライズクラウドプラットフォームを実現する上で、HCIが大切なビルディングブロックになるからです。NutanixのHCIは、1万台のサーバーを、2、3人で管理できる環境をベースに開発したものであり、これは、FacebookやGoogleで用いているWebスケールの管理手法です。

 コモディティ化したハードウェアと、優れた運用管理技術の組み合わせによって実現することができます。これをひとつのインフラとして提供しているのがHCIです。マルチハイパーバイザーであり、ハードウェアのチョイスができる。さらに、ワンクリックでダウンタイムがないアップグレードが可能であり、専門家が集まってプランニングしなくて済み、アジリティを提供できる。

 つまり、管理者が抱えるリスクを抑えながら、エンタープライズクラウドを構築できるようになるわけです。最初は、NutanixのHCIの考え方を説明すると、「いやいや、われわれはGoogleほど大きいものはいらないよ」という声が多く聞かれました。

 しかしNutanixが実現するのは、Googleと同じスケールのものを提供するのではなく、Googleと同じ考え方のインフラを、エンタープライズの誰もが使えるようにしたという点です。

 しかも、そのビルディングブロックの組み合わせによって、スケールアップすることができます。多くの人が、パブリッククラウドだけの限界を感じ、あらためてプライベートクラウドの活用を考えるようになっています。そのときに、エンタープライズクラウドプラットフォームは、重要な解決策のひとつであり、HCIはそれを実現する要素になります。

――エンタープライズクラウドプラットフォームを実現するビルディングブロックのひとつであるHCIにおいて、Nutanixがこだわったのはどんな点ですか。

スミス氏:
 繰り返しになりますが、Nutanixが最初にHCIを開発したときに目指したのは、Googleなどが持つクラウドインフラを、どうやってエンタープライズで利用できるかということでした。

 つまり、Nutanixのもともとの発想が、エンタープライズクラウドに向かっていたわけです。最初のステップとして開発したHCIを、この考え方をベースにすることで、よりシンプルにすることにこだわっているのがNutanixの大きな特徴です。NutanixのHCIのアーキテクチャは、シンプルであり、拡張性があり、エンタープライズ環境の構築もスムーズに行えるといえます。

 例えば、他社のHCIに比べて、NutanixのHCIはパーツが少ない。これだけでも物理的な故障が少なく、開発が容易であるというメリットがあります。昨今、注目されているInfrastructure as Code(IaC)においても、シンプルであることが大きなメリットを生みます。

 私もこの産業の企業に長年勤務し、日本の企業で働いたことがありますが、過去の歴史から明白なのは、最もシンプルであるものが最後は勝つということです。通信プロトコルでも、ソフトウェアのAPIでも、結局は、機能が高くても、複雑なものよりは、最もシンプルなものが活用されています。

 HCIでも同じことが起こるでしょう。マッドマックスのトラックのようになってしまっては使いにくくて仕方がありません(笑)。その点で、Nutanixは優位なポジションにあります。

 一方で、アクセス頻度に合わせてSSDとHDDという2つのストレージを効率的に利用できる「データローカリティ」といった、Nutanix独自の機能による差別化や、3D XPointなどの新たな技術を柔軟に取り込んでいくことも特徴です。

 エンタープライズクラウドにおいては、今までの構成で新たな技術を活用して拡張できる、ということが重要な要素になります。例えば、AWSが新たな技術を実装すると、その技術は、これまでのアプリでも、そのまま活用できます。それと同じ概念を、Nutanixでも実現しているわけです。

 いろいろなものを組み合わせてプライベートクラウドを構築してはみたが、なかなか思い通りに動かないという声はよく聞きます。これをいかに簡単に、シンプルにするかということに力を注いでいるのがNutanixであり、プライベートクラウドの構築において、それぞれのスタックにおける専門知識を不要にすることができる。

 そこに他社との大きな違いがあります。Nutanixを導入したユーザーは、平均して9カ月以内にインフラを拡張するという結果が出ています。これもNutanixに対する評価を裏付けているのではないでしょうか。