大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

IoT、人工知能を活用したソリューションで社会を変革 日立の最先端研究開発への取り組みを見る

経営支援にも人工知能を活用する時代に

 人工知能を活用したソリューションのひとつとして展示したものに、ディベート型判断支援人工知能がある。これは、企業経営などにおける意思決定を支援するため、大量の文書から、理由や根拠を伴う意見を生成するもの。意思決定に伴う利益、不利益を比較して、より確かな判断に導くという。

 「経験や暗黙知に頼る部分があった企業経営を、データ解析に基づく、科学的判断へと進化させ、企業経営にイノベーションを起こすことができる」とした。

 たとえば、再生可能エネルギーを導入すべきかという課題に対して、ディベート型判断支援人工知能は、議題解析、記事検索、価値決定、文抽出、文統合といったプロセスを通じて、賛成意見として「環境をクリーンに保てる」という意見を出す一方で、反対意見として「コストがかかる」という結果を提案する。

 同社では、「対話型人工知能における位置づけは、価値判断型人工知能となり、判断支援に活用するものになる」としており、今回のプロトタイプでは、さまざまな価値と議題の関連度を示しながら、複数の価値で利用と根拠を提示することができることが特徴だとする。また、価値体系辞書により、人間社会と価値観を共有し、賛否両面から理由や根拠を複数提示することが可能。賛成、反対をそれぞれ3~6種類を表示できる。

 「人の多様な価値観を理解し、賛否両面から根拠を提示する。世界中のデータを活用した企業経営判断支援を目指す」(日立 基礎研究センタ長の山田真治氏)。

 なお、この技術は、深層学習を用いた文法依存の小さい言語理解技術となっていることから、各国語への対応が可能というのも特徴のひとつだとしている。

日立独自の顧客協創方法論「NEXPERIENCE」とは

 そして、日立が開発した顧客協創方法論「NEXPERIENCE」についても展示、説明を行った。

 NEXPERIENCEは、顧客とともに、事業機会を探索、発見し、新事業コンセプトを創生し、ビジネスモデルを検討するための手法、ITツール、空間を体系化して提供するもので、「将来の事業機会の発見、経営課題分析、事業価値のシミュレーション、サービスアイデアの創出、ビジネスモデルの設計といった協創プロセスにおいて、方法論を構築。その効果として、デジタル化されたワークショップの効率化、蓄積、整理されたリファレンス、サービス事業アイデアの創出の増加、ワークショップを支えるファシリテータ(facilitator)の育成などにつながっている。2014年には、29人だったクリエイティブファシリテータは、2015年には60人に増加した」(日立 東京社会イノベーション協創センタ長の鹿志村香氏)という。

(右から)日立 東京社会イノベーション協創センタ長の鹿志村香氏、日立 執行役常務 CTO兼研究開発グループ長の鈴木教洋氏、日立 研究開発グループ技師長の矢野和男氏、日立 基礎研究センタ長の山田真治氏

 NEXPERIENCEを活用することで、電力エネルギー分野では、発電事業者や電力小売事業者とともに需要予測技術を活用した需給管理ソリューションを開発。高精度な需要予測に基づいて、合理的な電力調達を支援できるとした。

 また産業・流通・水分野では、行動予測技術や環境推定技術を活用することで、現場と経営、企業と企業を結ぶスマート製造を実現。製造現場において、ニーズに即応した高品質製造と、サプライチェーンの最適化を実現できるという。

 さらに、アーバン分野においては、IoTの活用によって、人流の可視化を実現。この技術を活用することで、鉄道・物流関連会社とともに、人流解析による駅ナカ総客ソリューションを提供している。このソリューションでは、駅の人の流れを制御して、混雑を緩和しながら、駅ナカでの買い物への興味を喚起し、収益を向上させるといったエリア価値の最大化に向けて、NEXPERIENCEを活用する。

 そして、金融・公共・ヘルスケア分野では、複雑な病院業務をNEXPERIENCEによって可視化するとともに、企画立案、具体化することで、最適な病院運営の改善施策を提案するための病院改善シミュレーションを提供できるとのこと。

 このように、「NEXPERIENCEによって、IoT、ビッグデータ、AIを活用したソリューションの推進につながっている」としたほか、「次のステップとして、業種をまたいでシステムをつなぎ、分野横断型のソリューションに拡張することで、スマート社会の実現に向けて、新たな価値を提供していくことになる」とした。

IoT時代のイノベーションパートナーを目指す日立

 日立は、目指す姿として、「IoT時代のイノベーションパートナー」を掲げている。デジタル技術の活用によって実現するデジタルソリューションによって、社会を変革するとともに、日立グループ全体の成長を牽引していくことになるのが、その言葉に込められた意味だ。

 今回の研究開発インフォメーションミーティングを通じて、日立が持つ最先端技術の数々が、IoT時代のイノベーションパートナーの実現に重要な意味を持つことを感じた。