ニュース

日立が「2018中期経営計画」を発表、2018年度に売上10兆円・営業利益率8%目指す

 株式会社日立製作所(以下、日立)は18日、「2018中期経営計画」を発表した。それによると、最終年度となる2018年度に売上収益10兆円、調整後営業利益率8%超、EBIT率8%超、当期純利益は4000億円超を目指すという。

2018中期経営計画の目標

3年で1兆円の増収という認識

 日立の東原敏昭社長兼CEOは、「2015年度には10兆343億円の売上収益があったが、実質的には日立物流、日立キャピタルを除いた9兆円レベルからのスタートであり、3年で1兆円の増収という認識である。そのうち、5000億円程度は、M&Aで対応していくことになる。フロントを強化していくなかで、グループ再編はこれからもあり得る。また、営業利益率、EBIT率は8%をコミットする数値になる」などとした。

 そのほか、2018年度には、海外売上比率は48%から55%超に、営業キャッシュフローマージンは8.6%から9%超に、ROA(総資産当期利益率)は2.6%から5%超に拡大する計画も盛り込んだ。

日立 代表執行役 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

 「デジタル化の進行が進み、社会や産業の構造まで変えるパラダイムシフトが起きている。日立の特徴は、制御と運用のOT(オペレーショナル・テクノロジー)と、ITを持つこと。そして、プロダクト、システムを提供できる会社であることだ。こうした強みを持つ会社は、グローバルをみてもそれほどあるわけではない。この特徴をもっと前面に出してビジネスに生かしていきたい」と述べる。

 また、「これまでの社会イノベーション事業の取り組みは、個別最適に向けてITを活用することで、より高い付加価値を提供することであった。今後は、デジタル技術によって、これらをつないでいくことになる。例えば製造分野においては、工場のなかの最適化だけをやってきたが、今後は、eコマースや物流、金融までをつないだサプライチェーン全体の最適化を考えていくことになる。また、アーバンといった取り組みも導入していく。日立はこれまで、ビル、鉄道、デベロッパー、電力、自治体といった個別システムは納入してきたが、これをデジタル技術によってつなぎ、全体の最適化を目指す。人の流れによって、電車の運行ダイヤを変更したり、エレベータの動きを制御。エネルギーの最小化を図るといったことが可能になる。デジタル技術でつなぐことで、クオリティ・オブ・ライフの向上につなげることになる」とした。

時代に先駆けて取り組んできた社会イノベーション事業
社会イノベーション事業の進化(産業・流通分野)

 2018中期経営計画では、社会イノベーション事業において、「電力・エネルギー」「産業・流通・水」「アーバン」「金融・公共、ヘルスケア」の4分野を注力事業領域に位置づけた。

 「ITと連携させることで付加価値をさらに高める事業は、中核事業に位置づける。だが、プロダクトとして単独でやるものは非中核事業になる。さらに低収益事業のなかでも、重要なプロダクトになるものは、どこかと連携させることで強くしていくといったアプローチを行いたい。現時点では、どれが中核事業でどれが非中核事業であるということは、具体的にはいえないが、すべての事業分野において選別していくことになる。また、ビジネスユニットごとに課題を設定して、その指標に向けて展開していくことになる」とした。

社会イノベーション事業拡大のため注力分野を重点強化

新たなIoTプラットフォーム「Lumada」

 一方、5月10日に米国で発表した新たなIoTプラットフォーム「Lumada(illuminate data=ルマーダ)」が、2018中期経営計画の推進の上で、重要な役割を果たすことについても強調した。

 「デジタル技術を活用した社会イノベーション事業の進化には、IoTプラットフォームが大切になる。また、これを活用して、顧客の課題を、顧客と一緒に解決していくことができるフロント力も大切になる。プラットフォームは、フロントを支援していくものになる」と語る。

IoTプラットフォーム「Lumada」

 Lumadaは、アナリティクス、人工知能、セキュリティなどを基本機能と位置づけ、その上に、各種ソリューションを乗せていくプラットフォームになる。開発は米国のシリコンバレーで行い、ここにプラットフォームの本社機能を設置することになる。

 「ひとつのプラットフォームに複数のソリューションが乗るため、デジタル技術でつながるという点で効果を発揮する。またオープンアーキテクチャにより、パートナーも利用できるオープン性を実現し、共生自律分散技術により、このプラットフォームにつなげて価値の分析が可能になる。日立のこれまでの経験を生かして、高い信頼性を提供できることが特徴であり、顧客は、デジタル技術によるイノベーションを早く手に入れることができるようになる」と語ったほか、「Lumadaは、GEのPredix、IBMのBluemixにも、つながることができるものであり、日立がデータを抱え込むというものではない。抱え込まれることを好まない顧客に適している」とした。

 また、「GEも、シーメンスも、ハードウェア寄りのアプローチであり、IBMなどはITが主体のアプローチとなっている。それに対して日立は、制御や運用OTとITと、プロダクト、システムを持っている。さまざまな要求に対して具体的な提案が可能であり、これをグループのなかだけで対応できる。ここが他社との大きな違いとなる。オーケストラの指揮棒は、日立が振りたい。そのためのプラットフォームがLumadaになる」と語った。

 プラットフォームの売上収益は、2015年度の2786億円から、2018年度には3300億円に拡大し、営業利益率は8.4%から11%に拡大することになるが、「Lumadaはオープンであり、Lumadaそのもので売り上げを立てようとは思っていない。フロントのソリューション事業で伸ばすことになる。今後3年でIoTプラットフォームの基盤を築いて、Lumadaを核に位置づけ、ソリューションで収益を得られるようにしたい」と述べた。

「フロント」という考え方を導入

 一方、2018中期経営計画のスタートにあわせて、日立では、同社が主軸とする社会イノベーション事業を加速するために、4月から、製品や技術を中心としたカンパニー制を廃止し、顧客セグメント別に構成する12のビジネスユニットに再編。地域拠点を加えた「フロント」という考え方を用い、フロント、プラットフォーム、プロダクトという3階層の構造体制に組み替えた。

 フロントは、顧客との議論のなかで課題を見つけ、日立の技術、ノウハウをまとめて、サービスとして提供する役割を担う。

 「2015年度のフロントの売上収益は3兆5969億円。2018年度には4兆円を目指すことになる。売上構成比は、2015年度の36%を40%に拡大。営業利益率は、5.6%から8%への拡大を目指す」(東原社長)とした。

 さらに、「フロントにおいては、2018年度までに2万人の人員増強を図る。なかでも、海外のフロント強化が焦眉の急である。国内3000人、海外1万7000人を計画しており、合計で13万人体制とする。国内については、すでにマイナンバー対応を背景にした金融、公共分野の需要拡大に向け、日立ソリューションズの4000人をフロントに配置している」とした。

 グローバル人材の雇用拡大のほか、M&Aで獲得した海外企業の顧客に対する社会イノベーション事業の展開、3年間で1万9000人を対象にした特別研修プログラムによる人材育成にも取り組む。「日立の社員のマインドセットも変えていかなくてはいけない。どうやったら顧客の課題を理解できるのか、どうやって解決していくのかということを考えることができる人材育成を進めたい」という。

日立の技術・ノウハウをフロントがまとめてサービス提供
フロントの人員を2万人増強・強化
サービスを開発・提供するフロントが売り上げ・収益の拡大をけん引

 また、フロント強化を支える研究開発体制については、「顧客の近くで研究開発を推進していく」とし、全世界550人体制で、各地域の顧客ニーズにあわせたサービス開発を行う「社会イノベーション協創センタ」をスタート。プラットフォームやプロダクトにおけるグローバルナンバーワン技術の確立を行う「テクノロジーイノベーションセンタ」、将来の社会課題解決に向けた「基礎研究センタ」など、2015年度からの研究開発体制の強化に取り組んでいることを示した。

フロントの強化を支える研究開発

 さらに、産業機器、自動車部品、材料事業などの「プロダクト」の強化では、「デジタルでつながる製品によって、プロダクトを強化していく。イノベーションを支えるプロダクトを拡大。グローバル競争力のあるプロダクトへ重点投資する考え」だとした。

 産業機器、昇降機、自動車部品で構成される主要プロダクトだけで、1兆8000億円規模の売上収益となり、利益率は7.9%。また、プロダクト全体では、2015年度には7兆3893億円だった売上収益は、6兆8200億円に減収。営業利益率は7%から5.5%に落ち込む見通しだ。

 プロダクトに含まれるアプライアンス(白物家電)事業については、「利益率が3~4%のままであれば、再編を考えなくてはならないが、アプライアンスは人の生活に一番近いところである事業である。エアコンでは、センサーによって、冷たい足下を探して、足下を暖かくさせることができ。これを使えば、人の顔色が悪いということもわかる。クオリティ・オブ・ライフを向上させるためには、つながっていくことが必要であり、それによって、家電も変わっていくだろう。この1、2年で、その可能性を見極めていくことになる」と語った。

プロダクトの強化

今後3年間での1兆円の投融資を実施へ

 一方、「経営基盤の強化として、経営のスピードアップのために、現場の情報を吸い上げ、迅速な意思決定をすることが大切。現場の声を吸い上げるのは私の責任。階層を減らしていきたい。4月から、CEOとビジネスユニット長を直結する仕組みとした。これまでは、グループ長、カンパニー長がいたが、今後は、私と現場が直接対話して解決できる。それでも、現場との距離はまだある。現場の状態がBUのトップに、どれだけタイムリーに、正確に入るかが大切である」とする。

 さらには、「グローバル事業を伸張させるために、地域総代表を中心になって、地域のパートナーを増やしていく。低収益事業の見直しを徹底していくと同時に、成長事業への投資を行う考えであり、3年間で1兆円の投融資を行う。また、2011年から、年間1000億円規模のコスト削減を実現してきたHitachi Smart Transformationをもう少し進化させ、コスト構造を意識した取り組みにするほか、IT活用による生産リードタイムの短縮、棚卸資産の圧縮に加えて、これまでは自分たちの事業部、ビジネスユニットの工場であるという意識を変え、他のビジネスユニットでも使うことができる仕組みとし、工場間での生産設備の共用を行っていく」と述べた。

 新たなHitachi Smart Transformationでは、IoTプラットフォームのLumadaを、日立自らが利用して、改善につなげるとともに、ノウハウを身につけていきたいとした。

経営のスピードアップによる成長と収益の拡大
Hitachi Smart Transformationの進化

 今後3年間での1兆円の投融資については、約6割をフロントに、約4割をプロダクトの強化に投融資する考えであり、「これまでのM&Aのやり方にも改善の余地があると考えている。また、フロントへの投資で時間がかかるものは、プロダクトと組み合わせ、早期にキャッシュを創出することが大切である。キャッシュポートフォリオを意識したM&Aを行っていく」と語った。

投資の方針

 さらに今後は、「THE FUTURE IS OPEN TO SUGGESTIONS」をキャッチコピーとすることに言及。「未来はオープンであり、アイデアによって、未来を変えていく、という意味を持たせた。顧客やパートナーとの協創によって、社会の新たな価値を創造していく。日立は、IoT時代のイノベーションパートナーを目指し、進化した社会イノベーション事業でお客さまとの協創を加速していく」と語った。

6%の営業利益率となり「ある程度の体力がついてきた」

 また、2015年度を最終年度とした「2015中期経営計画」についても総括。2015年度の売上収益は前年比2.7%増の10兆343億円、営業利益は同1.0%減の6348億円、税引前利益は同0.4%減の5170億円、当期純利益は同20.8%減の1721億円になったことを示しながら、「利益は当初の計画には届かなかった。だが、6%の営業利益率となったことで、ある程度の体力がついてきたと考えている。2014年度からキャッシュフローを重視する『キャッシュ経営』についても、成果があがってきた」と述べ、一定の評価をした。

 また、「この3年間は、社会インフラとITを組み合わせて、より高度な社会インフラを提供する社会イノベーション事業に力を注いできたが、この方向には間違いがなかったと自信を持った。今後3年間も、社会イノベーション事業に集中投資をしていく。鉄道やアナリティクス分野での買収によって、年間6000億円の売り上げが増加。一方で、火力事業や海外空調事業などにおける資本提携で、年間9000億円の売り上げが減少。さらに、日立物流や日立キャピタルの影響を加えると年間1兆1000億円の売り上げ減少となる。しかし、売上高のダウンはあまり気にしていない。構造改革をどんどん進めたい」とした。

 さらに、「為替変動が激しいという影響があったほか、海外大規模プロジェクト管理においてロスコストを出したことは大きな反省。得意分野に集中することで対応していく。また、通信、ストレージ市場の変化への対応が遅れたことも反省材料。経営のスピードアップに注力したい」と語る一方で、「この3年間で、情報・通信システム事業はかなり変わった。システムソリューション事業は利益率が改善しており、2桁に近い利益が出ている」と評価した。

2015中期経営計画の実績
2015中期経営計画の総括と今後の方向

大河原 克行