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日立、「2018中期経営計画」の目標達成に向けた各BUの成長戦略を説明
IoTプラットフォーム「Lumada」が重要な役割を果たす
2016年6月2日 12:35
株式会社日立製作所(以下、日立)は1日、アナリストおよび報道関係者を対象にした「Hitachi IR Day 2016」を開催。情報・通信システムセグメントの取り組みについて説明した。
今回の事業説明は、今年度からスタートした「2018中期経営計画」に基づいたものとなり、日立全体では、2018年度には売上収益10兆円、調整後営業利益率8%超、EBIT率8%超、当期純利益は4000億円超を目指す。
重要な役割を果たすIoTプラットフォーム「Lumada」
冒頭に挨拶した日立の西山光秋執行役専務CFOは、「2018中期経営計画を推進する上で、5月10日に発表した新たなIoTプラットフォームであるLumada(ルマーダ)が重要な役割を果たすことになる」と述べた。
Lumadaは、日立が推進するデジタルソリューションにおける協創モデルの基盤となるもので、日立グループに蓄積したアナリティクス、人工知能、共生自律分散、セキュリティといった基本機能群を活用。顧客とパートナーのシステムをつなぎ、顧客の課題分析や仮説の構築、プロトタイピングと価値検証、ソリューションの提供および運用を行うことで、ソリューションを迅速に、協創できるプラットフォームになると位置づける。
「これまで日立が社会イノベーション事業として開発してきたソリューションをもとに、ソリューションコアと呼ぶテンプレートを用意。これをフロント側で、カスタマイズやマッシュアップ、あるいは組み合わせることで、迅速にソリューションを開発でき、さらに複数の事業分野で利用できるのが特徴」(日立 執行役専務 サービス&プラットフォームビジネスユニットの小島啓二CEO)という。
米国のシリコンバレーにグローバル本社を設置し、全世界6000人規模で事業体制を構築。日本、欧州、アジア・中国などを結んだ開発を進めている。
2016年度には、電力・エネルギー向けの「Micro-Grid」「Smart Energy」、産業・流通・水向けの「Optimized Factory」「Smart Logistics」、アーバン向けの「City Data Exchange」「Public Safety」、金融・公共・ヘルスケア向けの「Digital Payment」「Clinical Repository」、そして、あらゆる業界での利用を想定した「Predictive Maintenance」の9つのテンプレートを展開していくという。
「Lumadaは、次の事業成長に向けて、業種、業界を超えた連携を、真剣に考えている企業に対して有効なプラットフォームになる。それぞれの業界には優れたプラットフォームが存在しており、Lumadaの活用により、これらをベースに社会イノベーションにおけるエコシステムを構築できる。政府が提唱するSociety 5.0を実現するものになる」(小島氏)としたほか、「顧客のシステムはそのままにデジタルソリューションを追加、拡張することができるのがLumadaの特徴である。ビッグデータ処理やアナリティクス、リアルタイム制御など、実績があるOTおよびIT技術で、安心、安全なデジタルソリューションの実現に貢献する」と語った。
また、「他社のIoTプラットフォームは、機器をより良く使うためのものであるが、Lumadaは、経営課題をデジタル技術で解決するという点が大きく異なる。日立グループが持つ長年のSIの経験と、高度な研究開発力によって実現したものである」とも強調している。
フロント、プラットフォーム、プロダクトの3層構造
日立 執行役専務 システム&サービスビジネス統括責任者の塩塚啓一氏は、同社が2018中期経営計画で打ち出した、Lumadaを軸とするプラットフォーム、それに結ぶフロント、プロダクトの「3層」の関係について説明した。
「2018年度に向けては、フロント、プラットフォーム、プロダクトの3層構造のなかで、フロントが、サービスを開発し、それを提供する役割を担い、売上げ、収益の拡大を牽引することになる。フロントは、電力・エネルギー、産業・流通・水、アーバン、金融・公共・ヘルスケアといったそれぞれのビジネスユニットの領域において、マーケットニーズを先取りしたデジタルサービスを提供することになる。また、プラットフォームでは、ソリューションを迅速に開発し、提供するための共通基盤として、全社の成長エンジンとしての役割を担うことになる」と説明。
さらに、「日立の強みはITと社会インフラの両方を持っている点。だが、持っているだけでは強みを発揮できない。フロント、プラットフォーム、フロダクトのそれぞれの機能の間を、いかにつなぐかが大切であり、システム&サービスビジネス統括が、この3つの層をつなぐ機能を持つことになる。ビジネスをスピーディに立ち上げる接着剤としての役割を果たし、フロントのニーズを、プラットフォームとプロダクトで受け止められるようにし、これをまたフロントにフィードバックする。この仕組みにより、デジタル技術を活用した社会イノベーション事業を加速することができる」とした。
また、ITプロダクツにおいては、フラッシュストレージや運用管理ソフト、クラウド基盤などにリソースを集中。データライフサイクル管理をはじめとしたデータマネジメント、データセンターの効率運用などのアプリケーションマネジメントなどを強化。サービス部門でのソフトウェア開発技術者の活用、IoT関連部門での通信ネットワーク技術者の活用などの配置転換の成果も出ているという。
情報・通信システムセグメントの事業方針
情報・通信システムセグメントの事業方針については、日立 執行役専務 システム&サービスビジネス統括責任者の塩塚啓一氏が説明した。
塩塚執行役専務は、2015年度の情報・通信システムセグメントの売上収益が2兆1093億円、営業利益率は6.7%、EBITマージンは5.2%になったことに触れながら、「2015中期経営計画においては、フロント機能の最適化による収益性向上、月3万人のSEリソースを投入した基幹系大規模案件のプロジェクト管理の成果、通信ネットワーク機器では9割を終息させるといった通信ネットワーク事業の構造改革や、フラッシュに集中する形でのストレージ製造拠点集約といった成果があがっており、3年間の増収増益を達成した。だが、営業利益などは目標に到達しておらず、ブロダクト事業を中心に課題を残した」と総括。
その一方で、2016年度には売上高2兆400億円、営業利益は1430億円、営業利益率は7.0%、EBITは840億円、EBITマージンは4.1%を計画。2018年度には、売上収益で2兆2000億円、営業利益は2200億円、営業利益率は10.0%、EBITは2200億円、EBITマージンは10.0%を目指すとした。海外売上収益比率は37%を目指す計画だ。
「2016年度に一時的に減収となるのは、前年度までのシステムインテグレーションにおける大口案件のピークアウトが始まるのが原因。だが、2018年度に向けては、フロントビジネスおよびITプラットフォーム&プロダクツの売上収益の増加により、10%の営業利益率を目指す」とした。
国内システムインテグレーションおよびプロダクト保守、システム運用をベース事業とし、「ここでは収益性に徹底的にこだわる」とする一方、情報系プロダクトは、「構造改革を進めている領域。ここでは、サービスを支えるプロダクトに集中し、それ以外は撤退を図ることを検討していく」と位置づけた。牽引事業として、「グローバル」、「デジタルソリューション」をあげ、業務サービスとそれを支えるIoTプラットフォームにより新市場を開拓。顧客協創型サービス、交通や防災などの社会インフラ向けサービス、人工知能やビックデータ分析などを活用したデジタルソリューションを強化する考えを示した。
「日立は、IoT時代のイノベーションパートナーになることを目指す。ITを武器に仕立て上げ、社会イノベーション事業を加速する」とした。
情報・通信システムセグメントに分類されるビジネスユニットのひとつである金融ビジネスユニットでは、2015年度の売上収益が3798億円の実績。2016年度には3700億円と減少する計画。前年度に大手金融機関の案件やマイナンバー案件があったことから、その反動で落ち込むことになる。だが、2018年度には3850億円を目指し、海外売上収益比率は、2015年度の10%の構成比を、2018年度には21%にまで拡大させる。
2018年度に向けては、先端ITを活用したフィンテック関連の新たなビジネスの立ち上げや、国内外での顧客協創による新たな金融サービス事業の立ち上げ、アジアを中心としたグローバル事業の拡大に取り組む。
「フィンテック関連では、今年4月に北米に金融イノベーションラボを設置。ブロックチェーン技術の共同開発プロジェクトにも参画している。さらに、日立モバイル型キャッシュカードサービスの販売を開始するなど、先端デバイスを利用した金融チャネルソリューションを立ち上げている。また、三井住友銀行と共同で、ベトナムにおける非現金決済サービスの普及に向けた調査も行っている」(日立 金融ビジネスユニットCEO兼公共ビジネスユニットCEOの山本二雄氏)という。
また、公共ビジネスユニットでは、2015年度の売上収益が2189億円。2016年度には2100億円、2018年度には2100億円を目指す。
カメラやスマートデバイス、自動車などから収集する映像、位置情報や地図情報などを活用した現場職員との情報共有、情報連携など、交通、防犯、防災などに関連する社会インフラシステムを通信制御技術と情報技術を融合して高度化。クラウドを活用したサービス型ITインフラ基盤を活用することで、官公庁職員のテレワークの提案のほか、スーパーコンピュータのノウハウや、科学技術計算のノウハウを活用したビッグデータ分析クラウド基盤の提供など、サービス事業の拡大に取り組む。
また山本氏は、「金融分野においては、銀行、保険、証券における顧客基盤や、大規模基幹系システムの構築実績がある。また、公共分野では日本の社会制度を支える大規模行政システムの構築実績が強みとなる。国内システムインテグレーション事業でしっかりと収益を確保しながら、金融ITイノベーション・サービス・グローバルおよび社会インフラ・サービス・グローバルで事業を牽引していくことになる」と説明。
金融分野における金融ITイノベーション・サービス・グローバル事業比率は、2015年度の25%から2018年度には40%に拡大するほか、公共分野における社会インフラ・サービス・グローバル事業は、2015年度の11%の構成比から2018年度には20%に拡大するとし、「システムインテグレーション事業を基盤として、サービス、グローバル分野へと事業ポートフォリオを転換。収益性向上を図る」と話している。
産業・流通BUは「デジタル技術を活用した社会イノベーション事業に踏み出す」
経営支援ソリューション、プラントエンジニアリング、制御ソリューションなどに取り組む産業・流通ビジネスユニットにおいては、従来からのシステムインテグレーション、EPC(エンジニアリング・プロキュアメント・アンド・コンストラクション)、SCMやMES、ERPなどによるプロダクト事業をそれぞれ進化させることで、「デジタル技術を活用した社会イノベーション事業に踏み出す」(日立 執行役常務 産業・流通ビジネスユニットの宇川祐行CEO)とする。
Lumadaの基本機能である人工知能、アナリティクスといったノウハウを活用することで、経営支援サービス、保守・運用サービスを提供するほか、顧客の新事業、サービス創生に向けた日立独自のサービスを提供する姿勢を示す。ここでは、SAP関連ビジネスでは国内トップの水準にある強みを生かす一方、LumadaとSAP HANAとの連携提案も進めていくことになるという。
産業・流通ビジネスユニットでは、2015年度実績で売上収益が4592億円、産業・流通事業に取り組む日立ソリューションズを含めると、産業・流通事業分野での売上収益は7146億円となる。2016年度には、産業・流通事業分野の売上収益は6900億円と減少するが、営業利益は250億円を、前年度の95億円の赤字から黒字化を図る。また、2018年度は売上収益が7400億円、営業利益560億円を目指す。海外売上収益比率は19%を見込んでいる。
「2016年度は、赤字および低収益事業からの撤退の完遂を図るなど、利益重視とするために、一度、売上収益が下がるが、確実に黒字化させる。デシタル技術を活用した社会イノベーション事業へのリソースの集中を図る」という。
Lumadaを活用した顧客協創、実証成果のサービス事業化によるデジタルサービス型事業への転換により、サービスの売上収益比率を2015年度の61%から66%へと拡大。自動車や医薬などの成長分野への傾注や、ERPなどのコアソリューションを核にした周辺ソリューションの拡大、現場系モノづくりを起点としたトータルエンジニアリングを通じた業種対応ソリューション事業の拡大により、2018年度には売上収益は約500億円、営業利益は200億円を目指す。また、異業種をつないだバリューチェーンやサービスモデルの創出によるロジスティクスソリューション事業の取り組みを強化する考えも示した。
「バリューチェーン全体で情報を共有化、可視化、最適化することにより、多様なサービスを提供し、セキュアな環境で、アナリティクスを活用することができる。また、数千社のグループ企業やパートナーが利用できるような提案も可能である。本田技研工業では、同一設計クラウド環境を提供することで、グループ全体の設計作業を高位平準化。樹脂部品の開発工程における解析モデル作成工数を約30%削減し、開発期間の短縮につなげている。また、医薬開発では、人工知能をはじめとした多様なデータ解析、BIツールの活用により、経営指標を可視化。設備効率の最大化や最適な診断支援、培養設備設計の高度化などの成果が出ている。さらに、ロジスティックソリューションでは、交通流を踏まえたシミュレーションによって、最短時間および最小コストの最適配送を実現することで、ドライバー不足、トラック不足の課題解決などに寄与している」(宇川氏)などとし、「これらの取り組みを通じて、お客様とともに新たな価値を創造する産業・流通分野の協創パートナーを目指したい」と述べた。
Lumadaの上でデジタル技術を活用したソリューションを提供
一方、エネルギーソリューションビジネスユニットでは、「アナリティクス、人工知能、共生自律分散、セキュリティを基本機能として構成するIoTプラットフォームのLumadaの上で、マイクログリッド、設備状態監視システム、広域系統安定化システム、意思決定支援システムといったデジタル技術を活用したソリューションを提供するとともに、コンサルティング、保守なども事業化を進めていくことになる」(日立 執行役員常務 エネルギーソリューションビジネスユニットの野本正明CEO)という。
ビッグデータ解析技術を活用したエネルギー需要の予測などを通じて、エネルギーバリューチェーン上の様々な課題を解決するソリューションを北米市場を中心に事業拡大に取り組むなど、「ITとOTを組み合わせたデジタル技術を活用。今後のエネルギーシステム改革に向けたソリューションに注力していく」(日立 執行役常務 原子力ビジネスユニットの長澤克己CEO)と述べた。
また、アーバンソリューションビジネスユニットでは、Lumadaを基盤としたアーバンサービスプラットフォームを活用。ビル管理データや鉄道データ、交通データ、都市データと、人間行動データを組み合わせたビックデータ分析を実現。運用管理業務の効率化、故障によるサービス停止の回避、混雑緩和、インバウンド需要の獲得などにつなげ、ビル、駅・街、住宅の価値を最大化するための提案を進めるという。日立 執行役常務 アーバンソリューションビジネスユニットの小林圭三CEOは、「アーバンソリューション分野において、今後の成長の鍵となるのはIoT。これを活用することで、ユーザーニーズに対応した高付加価値サービスの実現に貢献したい」と語った。
ビル管理では、監視カメラからの人の動きを検知して、人流を解析してサービスに活用。「不審者や不審物の発見による安全確保、状況に応じた案内・誘導によるサービス向上、エレベータの運行制御による待ち時間の短縮や、売り場配置計画支援による収益向上などに寄与できる」(日立 執行役専務 ビルシステムビジネスユニットの佐藤寛CEO)とした。
さらに、水ビジネスユニットでは、浄水、配水、下水処理といった水に関わるサイプライチェーンにおいて、Lumadaを活用。監視制御や運転・保守支援、需要予測・分析などを通じて、遠隔保守支援やCAPEXおよびOPEXの削減、さらには点検作業でのAR活用などにも取り組むという。日立 執行役常務 水ビジネスユニットの酒井邦造CEOは、「コストの最適化、継続的なサービスが求められるなかで、IoTプラットフォームと高効率運営ノウハウを活用したサービスを提供。高収益な事業モデルの確立を目指す」と語った。
ヘルスケアビジネスユニットでは、IoTプラットフォームをヘルスケア分野に適用。「すでに、高精度での検知が可能なMRI故障予兆診断サービスや、クラウドを通じて検診車から医療画像を健診施設へ転送するサービスを提供しているが、今後はLumadaの体系化により、デジタルクリニック、データヘルス、地域包括ケア、遠隔医療、意思決定支援などの領域でアプリケシーョンを構築していく。今後は、ヘルスケア分野においても、デジタルが勝負になる」(日立 執行役常務 ヘルスケアビジネスユニットの渡部眞也CEO)と述べた。