大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

日本マイクロソフト、教育・研究分野でのクラウド導入を加速 「ガバメントレディクラウド元年」を掲げる

 日本マイクロソフトは、2016年7月からスタートした2017年度において、教育・研究分野におけるクラウド戦略を加速する。同社は、2017年度末までに、売上高の50%をクラウドビジネスにする姿勢を示しているが、この実現に向けて重要な意味を持つのが、教育・研究分野におけるクラウド事業の拡大である。

 その背景には、教育・研究分野において、急速な勢いでクラウド活用に対する関心が高まっていること、さらに、日本マイクロソフトのMicrosoft Azureが教育・研究分野に最適化したサービスへと進化していることが見逃せない。また、日本マイクロソフトが、2017年度を「ガバメントレディクラウド元年」と位置づけるのも、こうした教育・研究分野におけるクラウド戦略の強化を抜きには語れない。

 日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター担当の織田浩義氏に、日本マイクロソフトの教育・研究分野における取り組みについて聞いた。

日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター担当の織田浩義氏

一転してクラウドへの関心が高まる

 2015年後半から、政府や教育分野をはじめとする公共領域において、クラウドに対する関心が急速に高まっているという。

 その背景にあるのは、2015年5月に発生した日本年金機構における個人情報の大量流出事件である。

 日本マイクロソフトの織田執行役員常務は、「もともとクラウドは危険ではないかという考え方が根底にあり、政府や公共機関では、情報システムの刷新などにおいて、検討の対象外とする場合が多かった。日本年金機構からの情報流出によって、さらにその傾向が加速する可能性があると考えていた」と前置き。

 その上で、「だが結果としては、情報流出以降、むしろ逆の方向に動きだした。オンプレミス環境においてサイバー攻撃への対応を強化するには、多くの投資が必要であり、高いスキルを持った人材を採用する必要がある。そこに限界を感じはじめていた公共機関が多かった。特に教育・研究分野においては、先端技術に対する関心が高く、クラウドがサイバーセキュリティに対して有効であるとの認識を持っていたことで、いち早くクラウド採用の検討を開始し始めた」と語る。

 さらに、教育・研究分野では、クラウドを活用する必要にも迫られていたことも、それを加速することにつながったといえる。

 実は日本は、かつては研究大国と言われたものの、ここ数年、論文発表の数が減少したり、日本から発表された論文への参照数が減少したり、といった課題が発生していたという。

 「教育・研究の機能強化を促進し、知の創造や科学イノベーションを創出したり、社会的・科学的な課題解決を目指すには、研究情報基盤の充足度を高める必要がある。しかし、多くの予算をかけて、オンプレミスで導入したシステムを刷新することができず、研究情報基盤の性能が不十分なままという状況が、教育・研究現場に生まれていた」と、織田執行役員常務は指摘する。

 さらに、「研究者をシステム調達やシステム運用といった業務から解放したい、情報システムへの設備投資を抑制したいといった要望も現場からは挙がっていた。こうした課題を解決できるクラウドに対する関心が自然と高まってきた」というわけだ。

 このほかにも、オンプレミス環境ならではの課題がいくつか噴出していた。

 教育・研究現場において、オンプレミスを共有基盤として利用している場合、入試や学会の開催前などには多くのリソースが必要とされ、それに対応できずタスク実行待ちが発生するという課題があること、実験や解析などの処理速度に課題があること、セキュリティ対策などに必要なスキルを持った人材を確保できないことなど、さまざまな課題が出ていたという。