大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
日本マイクロソフト、教育・研究分野でのクラウド導入を加速 「ガバメントレディクラウド元年」を掲げる
2016年7月22日 06:00
大学でのAzure採用が相次ぐ
では、具体的な事例を通じて、Micrsoft Azureに対する教育・研究分野の導入成果をみてみよう。
横浜市立大学では、医薬品の飲みあわせなどによって生じる医薬品の有害事象予測を、Azure Machine Learning、Azure IaaSによって実現している。
これは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の委託事業として実施しているものだが、大量のデータ処理が求められるなかで、研究予算やITリソースが限られているほか、医療研究現場におけるITスキルを持った人材が不足しているという課題が発生していた。
ここにAzureを利用すると、大規模計算機を購入せずに大量のデータ処理を可能とすること、Azure Machine Learningによってアイコンを並べていくだけの操作で機械学習の機能を活用できること、共同研究先機関や学生に対してもクラウド経由で即時に情報を共有できること、などのメリットなどが得られたという。
「Micrsoft Azureで提供している機械学習は、月1万円から利用できるという低コストであること、Webブラウザによる使いやすい環境を提供していることなどが特徴。有害事象予測を超安価な機械学習で実現できるようになった」という。
2つめは、文教向けシステムの開発を手がけるこだまリサーチによる大規模動画教材配信、字幕の自動生成、そして多言語翻訳への取り組みである。
教育・研究の現場では、人材育成や確保の観点から、グローバル教材が必要とされているが、教材制作における字幕作成や翻訳に関わるコストが膨大になっているという。しかも、オンプレミスでは大規模な動画配信ができないという課題もあった。
同社では、Azure Media ServicesおよびAzure Media Analyticsを利用して、わずか3カ月でクラウド上に新たなシステムを開発。大規模教材配信に対応したほか、Azure Media Indexerを活用して、動画内の音声から字幕を自動的に生成した。さらに、50カ国語に翻訳できるMicrosoft Translatorを使用することで、字幕作成や翻訳コストを10分の1にまで引き下げることができたという。
「Micrsoft Azureは、ソチオリンピックにおいて大規模動画配信を行った経緯もあり、それに耐えうるインフラを持っている。ここでは、PC以外のスマホ、タブレットなどにも配信が可能であり、教材を共有するのに最適化している」という。
一方、東京工業大学では、研究室で開発したシミュレーションソフトをオープンソースで公開したものの、学外の研究者から、所有する環境ではコンパイルができないなどの問い合わせが多数寄せられ、研究所の本来の業務である研究作業に支障を来すほどになっていた。
そこで、シミュレーションソフトをMicrosoft Azureに移植して公開。InfiniBandで複数ノードを接続した大規模シミュレーションが可能になることから、世界中どこからでも、低遅延、広帯域での利用が可能になったという。
「自らのデータセンターでMicrosoft Azureの能力を活用することができる、ハイブリッドクラウドのバリューを提供。さらにInfiniBand搭載ノードは、非搭載ノードよりも1.44倍高速な結果を得られた。これはほかのクラウドサービスにはない圧倒的な強みになった」というわけだ。
また広島大学では、HPC用ハイブリッドクラウドの構築において、Microsoft Azureの基盤を活用。繁忙期にはリソースが不足していたり、ピーク時にあわせたコンピュータ購入が過剰投資になったりといった課題に対して、クラウドの活用により、設備投資の抑制や、急な研究ニーズにも柔軟に対応できる計算リソースを確保することができるようになったという。
「Microsoft Azureでは、HPC関連で16種類のテンプレートを用意。利用環境を迅速に構築できる点も大きな特徴になっている」。
東京大学においては、事務システムのクラウド化を実現。運用負荷の低減や災害対策、省電力化のほか、Azure AD Premiumによる多要素認証を取り入れ、学外からの利用を見据えた認証強化も実現してみせた。
教育分野においては、ミッションクリティカルシステムをクラウドに移行させるといった動きも出てきているというわけだ。
さらに教育・研究分野での取り組みとしては、日本マイクロソフトが、国立大学法人豊橋技術科学大学、ブロードバンドタワーと共同で行っている情報のリアルタイム翻訳提供サービスも、特徴的な取り組みだ。
2020年を目標に実用化を目指しているもので、自然言語処理分野で先行する豊橋技術科学大学の知見を活用しながら、翻訳サービスをクラウドで提供。この技術を活用すれば、海外からの来訪者に対して母国語での観光情報を提供するほか、滞在中に必要となる医療情報や災害情報といった緊急性が高いシーンにおいても、インターネットを通じて母国語での最新情報を提供できるようになる。