大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

柏崎刈羽原発の安全強化に向け情報共有ツール整備に取り組む東京電力

停止中の原子炉格納容器内部も特別公開

 東京電力管内の原子力発電所では、新規制基準への対応、および福島第一原子力発電所の事故による教訓を踏まえた危険に備える対策に取り組んでいる。東京電力 柏崎刈羽原子力発電所では、こうした安全対策を強化する一方、耐震構造の緊急時対策所を常設し、情報共有ツールを活用。緊急時には、現場、緊急対策本部、東京電力本店対策本部のほか、国や関係機関とを結んだタイムリーな事故情報の共有、通信手段の多様化など、情報伝達および情報共有の強化にも取り組んでいる。東京電力管内ではもっとも進んだ情報共有の仕組みを持っていると自負する、東京電力 柏崎刈羽原子力発電所を訪れ、情報共有の取り組みを追った。

東京電力柏崎刈羽原子力発電所

1カ所の原子力発電所としては“世界最大”

 新潟県柏崎市にある東京電力柏崎刈羽原子力発電所は、上越新幹線長岡駅から車で約40分。柏崎市と刈羽村とをまたぐ形で立地している。

 もともと製油の地として知られ、明治33年(1900年)当時の柏崎町には、23社の製油所が進出。日本石油(現新日本石油)の本社も柏崎市に設けられていた。主力となる北越西山油田では、年間13万トンの原油を産出。当時の日本の原油産出量の約半分を占めたというから驚きだ。

 だが、1973年には最後の油田を閉山。それと並行するように、柏崎市議会や刈羽村議会で柏崎刈羽原子力発電所の誘致を決定した。1978年から第1号機の建設工事に着工し、1985年には第1号機の営業運転を開始している。

 柏崎刈羽原子力発電所の敷地面積は、約420万平方メートル(約127万坪)で、東京ドーム90個分に相当する。敷地の約70%(約310万平方メートル)が柏崎市で、約30%(約110万平方メートル)が刈羽村。1990年には刈羽村側の5号機が稼働。さらに同年には柏崎市側の2号機の運転を開始した。

 そして1993年の3号機、94年の4号機、96年の6号機、97年の7号機の稼働により、計画されたすべての発電設備が稼働したことになる。821.2万kWという出力は、1カ所の原子力発電所としては世界最大となり、ギネスからも認定されたほどだ。

 1~4号機までが柏崎市側、5~7号機までが刈羽村側に設置されているが、1号機は東日本大震災以降の2011年8月から停止。2~4号機が2007年7月の新潟県中越沖地震以降停止。5号機は2012年1月に、6号機は2012年3月、7号機は2011年8月に停止しており、現在は1台も稼働していない。

柏崎刈羽原子力発電所の構内図
柏崎刈羽原子力発電所の模型
柏崎刈羽原子力発電所の6号機、7号機の建設の様子。1988年の写真
現在の1号機から4号機の様子
こちらは5号機から7号機の様子

 だが、現在でも約6500人の従業員が勤務。稼働はしていないものの、原子炉の冷却作業などが継続的に行われているほか、さらに、政府が示す新規制基準において示された特定重大事故等対処施設の機能として、緊急時の減圧機能、注水機能、原子炉格納容器圧破損防止機能などを設置。防潮堤の強化をはじめとする津波による浸水防止対策や、電源機能の確保、原子炉建屋への浸水対策の強化、重要エリアへの浸水防止など、さまざまな対策強化を図っている。

 電源車や消防車などの緊急車両の独自配備のほか、現場に最も近い中央制御室の人員を従来の10人体制から18人体制へと増員。運転作業者だけでなく、保守要員も同時に配備することで、一刻を争う緊急時にも、初動に遅れがないような体制を整えているという。

6号機、7号機の原子炉の運転、監視を行う中央制御室の様子
2つのプラントがひとつの制御室で運転される
こちらは1~5号機までの運転、監視を行う従来型の中央制御室

 「緊急時には、自動的に原子炉を停止すること、非常用炉心冷却装置によって冷やし続けること、原子炉格納容器に閉じこめるという3つの要素のすべてが達成されて、初めて安全性が確保される。福島第一原発は、止めることはできたが、冷やすことができず、周辺環境への放射能物質を放出することにつながった。福島第一原発の経験を生かし、これまで以上のことが起こるということを前提として、対策に取り組んでいる」と、東京電力ホールディングス 柏崎刈羽原子力発電所の林勝彦副所長は語る。

 柏崎刈羽原子力発電所においては、従来は、日本海で過去に発生した最大級の地震が発生した場合、想定される津波の高さを海抜3.3メートルとし、それにあわせた対策をとっていたが、福島第一原発の事故後、その事故を踏まえて海抜15メートル程度の津波が到達したとしても、重要な施設における安全性を高めるための取り組みを行っているという。

東京電力ホールディングス 柏崎刈羽原子力発電所の林勝彦副所長
海抜15メートルの防潮堤は2013年6月に完成。約1kmに渡るものだ

事故の教訓を生かしたさまざまな緊急対策を用意

 緊急時対応力の強化においては、ICTを活用した情報共有ツールの活用が不可欠だ。福島第一原発の事故以降、柏崎刈羽原子力発電所では、情報共有ツールの開発を加速。「福島第一原発の事故時において、発電所と本社の情報共有のみならず、国や関係機関に対しても情報提供が不十分であったことを踏まえて、柏崎刈羽原子力発電所が独自にいくつかのシステムを開発。これは東京電力管轄の原子力発電所のなかでも、最も進んだものになっている」と語る。

 柏崎刈羽原子力発電所では、2010年1月に、通信や電源などの重要設備を配置する免震構造の建物を建設。1フロアあたり2000平方メートルのスペースを活用して、ここに緊急時対策所を配置した。すべての情報を集約するとともに、災害時に所長をトップとする緊急対策本部を設置し、本部活動を行う拠点にも位置づけている。

 免震構造では、建物と地盤の間に積層ゴムを設置し、建物に対する地震のエネルギーを吸収。震度7クラスの揺れを、3分の1から4分の1程度に抑えることができるという。さらに一階部分には、水が入らないようにする防水扉と、10センチメートルの鉛による壁を配置し、放射線の影響を最小化することもできるという。

免震重要棟。ここに緊急時対策所を配置している
免震重要棟に津波の水が入らないようにする防水壁(左)と、放射線から守る鉛によるカーテン(右)も配備されている
線量計は常に使用できる状況に準備されている
緊急時対策所の様子
プラントごとや役割ごとに席が分かれる
椅子には役割ごとにビブスの色分けされており、緊急時にはこれを着用する
本部長(原子力発電所長)は緑のビブスを着用する
机の上にはPCやタブレットなどが配備されている

 緊急時対策所には、プロジェクタを活用して200インチのスクリーンを2面用意した。ひとつの画面ではプラントの状況をリアルタイムで確認したり、もうひとつの画面では4分割して、進入路のカメラ映像、炉心部分の映像、放射線量のモニタリングポストの情報、センサーなどによる火災状況といった情報を表示。緊急時対策所全体で情報を共有できるようにしている。

200インチのスクリーンに各種情報が表示されている
ひとつの画面にはプラントの状況を表示
もうひとつの画面は4分割して施設の状況、モニタリングポストの情報などを表示

 また、ガラス張りの本部室を配置した。部屋内は、各発電設備や業務ごとに机が分かれ、それぞれの責任者が本部室に入って状況報告や情報の共有、指示などを行うことになる。

 「迅速な意志決定下で復旧活動を実施するために、現場指揮マネジメントシステム(ICS)を導入。これまでは原子力防災管理者である発電所長のもとに、情報班や資材班など、12の機能を有する体制としていたが、新たな体制では、権限を移譲し、本部長は意志決定、指揮機能に集中させた。各プラント統括、計画・情報統括、対外対応統括、総務統括といったように各機能ごとに統括機能を置き、原子力防災管理者が監督する人数を3~7人に縮小。迅速な意志決定と業務遂行が行えるようにした」という。

緊急時に設置される本部室はガラス張りとなっており、中からも外の動きが確認できる

 また、緊急時の電源強化、通信手段の多様化にも取り組んでおり、ページング、PHS、携帯型音声呼び出し電話などの既設の通信手段に加えて、無線設備や衛星携帯電話の増設、トランシーバーの設置などにより、プラント監視および通信手段を強化。国や関係機関とを結ぶテレビ会議システムの導入、自治体への通信手段の多様化も行っているという。

 「重要情報の収集に向けては、プラント情報を収集するために宿直体制を2人増員した。プラントパラメーター伝送システムが停止しても、重要な計器などの情報を確実に収集できるようにしている。今後は、衛星回線を利用した一斉同報FAXを導入し、自治体への通信手段の多様化も図る」などとした。

ホットライン室。政府や自治体、関係省庁などに向けて複数の通信手段で連絡が取れるようにしている
緊急時に使用する携帯電話およびPHS
衛星電話も配備されている
防災ネットワーク通信機器が入るラック
マニュアル類はすべて1カ所に保管されている
緊急の際に使用するアクシデントマネジメントの手引き集
緊急時の意志決定迅速化に向けた体制強化
通信手段およびプラント監視の多重化への取り組み

ICTを活用した情報共有ツールで緊急対応力の強化を図る

 柏崎刈羽電子力発電所では、こうした設備や体制強化に加えて、情報共有ツールの開発、活用にも積極的に取り組んでいる。

 ひとつは、チャットシステムの導入だ。

 これは、緊急時におけるキーマンの発言内容を関係者がリアルタイムに共有するシステムで、発話内容を時系列で表示することができる。同原子力発電所内のファイルサーバーに情報を蓄積。WindowsベースのPCやタブレットを使用して、発話内容を全体表示するほか、特定の発話に絞って閲覧するなど、6つの区分での表示が可能だ。

 重要情報記録の電子化につながるとともに、福島第一原発の事故時に、本店や政府からの問い合わせへの対応に時間が割かれ、現場での作業の遅れにつながった反省を生かし、本店などからは問い合わせを行わずに、このチャットシステムを通じて発話内容を確認して状況を確認するという狙いもある。

チャットシステムの発話内容の表示。これは本社や国、関連機関などが直接閲覧できる
チャットシステムの発話入力画面

 2つめがDEC管理表である。DECとは、設計拡張状態(設計ベースを超える状態)を指し、Design Extension Conditionの略語だ。緊急時対策所に、プラントの主要データをリアルタイムで送信する通信設備が喪失した場合にも、重要パラメーターを手動で入力し、情報共有が可能なフォーマットを用意した。これがDEC管理表と呼ばれるものになる。プラントごとに、原子炉の状況だけでなく、注水の状況やそれのもとになる水源の状況、またはプラントの電源の状況および外部電源確保、電源車の準備などについて、ここで把握することが可能だ。「その場しのぎでの水源確保、電源確保だけでなく、二の矢、三の矢を用意することまで視野に入れた判断が可能になる」という。

 今後は、センサーを通じた情報収集を強化することで、DECへの情報反映を増やしていくことになるという。

ノートPCの画面に表示されたDEC管理表

 3つめが、自治体派遣者などに対する情報提供手段の確保である。

 緊急時には、自治体に対してプラント情報の説明を行うために、東京電力の担当者が、原子力発電所の近隣自治体に派遣されることになる。このときに、派遣者に対して、緊急時対策所と同等の情報共有を行うために、タブレットやスマホに、DEC管理表やチャットシステムの情報をメールで提供。これによって、自治体との高いレベルでの情報共有が可能になるという。

 チャットシステムの担当者が定期的に最新のチャットシステムデータを取得し、発話全体や発話者ごとにデータを加工。これを自治体派遣者にメールで送信。自治体派遣者は添付されたパスワード設定のあるExcelファイルを開いてチャットシステムのデータを確認し、自治体への情報提供に活用するという仕組みだ。

 4つめが、聖徳太子システムと呼ばれるものだ。これは、システムといいながらも、かなりアナログ的なものである。

 緊急時には、各プラントの班長と当直長が、PHSや携帯電話をつなぎっぱなしにしながら情報交換を行うことになるが、これらの会話内容が、緊急時対策本部の本部長席の前に設置された複数台のスピーカーから聞こえてくるように設置。本部長は、同時に複数の会話を聞きながら、原子力発電所緊急時活動レベル(EAL)や、DECなどを先読みして判断することができるという仕組みだ。

 複数の会話を同時に聞き取り、判断することから聖徳太子システムと呼ばれている。柏崎刈羽原子力発電所には、7つの原子力プラントがあるので、本部長は、最大7台のスピーカーから発せられる言葉を聞き取ることになるというわけだ。すべての会話を詳細に聞き取ることはできないにしても、なにが起こっているのかといったことを早い段階で確認することができる。

聖徳太子システムのスピーカー。現場の声が聞こえる

 5つめが、手書きパットの開発である。

 これは本部における情報共有の速報性向上を狙ったもので、手書きパッドを活用し、当直長から示されるプラントの状況報告内容を各号機の班長がメモ。メモ内容は、本部室にいる本部長にタイムリーに提供される。離れた場所にいる班長による手書き情報が共有できることから、最新のプラント情報の確認や、対応の先読みなどに利用できるという。

手書きパッドの画面。書いた情報は本部でも確認できる
班長は現場から手書きで情報を入力
各プラントごとに班長が手書きした情報がすぐに確認できる
Excelを使用して各プラントの様子を一覧できるようにしている
進ちょく状況についてはプロジェクタで表示する

 こうした情報ツールの整備は、柏崎刈羽原子力発電所が独自に行っており、情報投資予算も独自に計上しているとのこと。ほかの原子力発電所でも独自のものを導入しているが、柏崎刈羽原子力発電所はその取り組みで先行しているとした。

 ただ、今後は、成果を生みそうな情報ツールに関しては、原子力発電所をまたいだ活用が検討されるべきであると感じた。

各層の防護に失敗しても次の層で事態の悪化を食い止める「深層防護」

 福島第一原子力発電所での事故以降、原子力発電所の安全に対する考え方は大きく進展した。

 その最大の変化が、「深層防護」の考え方を、さらに強化しているという点だ。

 深層防護とは何重にも防護策を講じ、各層の防護に失敗しても、次の層で事態の悪化を食い止め、影響を最小限に留めるという考え方である。

 柏崎刈羽原子力発電所では、第1層の異常発生の防止、第2層の事故への拡大防止、第3層での炉心損傷の防止、第4層の炉心損壊後の影響緩和、第5層の放射性物質の影響から人と環境を守るという、各階層での役割を明確化。既存設備の地震、津波、対策強化などによる「強化」、異なる方式の対策を用意する「多様化」、同じ方式の対策を複数用意し、さらに位置分散を考慮した「多重化」という考え方に基づき、各層の対策に厚みを持たせているという。情報ツールの整備、活用も、こうした考え方にのっとって進められている。

 また、2013年7月に従来の規制基準が見直され、新規制基準が施行。地震や津波などに対する基準が大幅に強化され、自主的に実施してきた重大事故対策も規制の対象になった。

 柏崎刈羽原子力発電所では、6号機、7号機において、2013年9月に、新規制基準に基づく適合性申請を行い、原子力規制委員会による審査が継続的に実施されている。同発電所では、まずは6号機、7号機での再稼働に向けた準備を進めているというわけだ。

 「かつては、これまでに起きたことを前提にした対策を行ってきた。だが、いまでは、どんなことが起こるかわからないということを前提に考えている。そして、いまの対策状況が最終の姿だとは思っていない」と、東京電力ホールディングス 柏崎刈羽原子力発電所の林勝彦副所長は語る。

 柏崎刈羽原子力発電所は、これからも安全に対する取り組みを強化し、その上で、情報共有ツールの活用に対しても、投資と進化を続けていく考えである。

6号機および7号機の見学レポート

今回見学することができた6号機および7号機の模型
原子炉圧力容器の模型。実際の5分の1だという
原子炉圧力容器を囲む格納容器の遮蔽壁は1.9メートルもの厚さがある
原子炉建屋内に入るには、エリアによって防護服などに着替える必要がある
手袋を装着し、靴下は着替えなくてはならない
6号機の原子炉建屋内の使用済燃料貯蔵プール(右)と機器仮設プール(左)
原子炉建屋の天井の様子。奥にある大型クレーンのレールも補強し、原子炉に落ちないようになっている
こちらはかつて運転していた当時の6号機の原子炉建屋内の様子
取材当日にも防護服を着て作業を行う姿が見られた
重要エリア内への浸水防止のための扉
原子炉格納容器の内部に通じる通路
特別に公開された原子炉格納容器の内部
7号機の原子炉格納容器は日立製作所の製造
タービン建屋に設置されたタービン発電機
ガスタービン車。移動型発電の仕組みを用意することで多重の電源確保を行う
3台のガスタービン車とは別に25台の電源車を用意している
新規制基準への対応のために防火帯を設置した
非常時のがれき撤去の訓練を行っていた