大河原克行のキーマンウォッチ

価値を社会に提供できる企業になる――、Celonis・村瀬将思社長が進める「バリューパートナー」戦略

 プロセスマイニングのCelonisが、日本におけるビジネスを急速な勢いで拡大している。ARR(年次経常収益)は前年比3倍、新規顧客売上高は前年比6倍となり、顧客数も2倍に拡大している。パートナーの認定技術者も、2022年12月時点では約1000人だったものが、パートナー1社だけで延べ2000の認定資格を取得するケースがあるなど急拡大をしており、ここからも日本において、Celonisに対して多くの関心が集まっていることがわかる。そして、2023年2月からスタートしている同社新年度においては、「バリューパートナー」をキーワードに掲げ、さらなる事業拡大に挑む考えも明らかにした。

 Celonisの村瀬将思社長に、日本における成長戦略について聞いた。

Celonis株式会社の代表取締役社長、村瀬将思氏

日本でCelonisが急成長を遂げている理由は?

――日本において、Celonisが急成長を遂げています。なぜ、Celonisが注目されているのでしょうか。

 DXという言葉が一般的に使われるようになってから、すでに8年ほどを経過しています。当初は、デジタイゼーションからはじまり、それがデジタライゼーションとなり、デジタルトランスフォーメーションへと進展してきました。しかし、日本の企業は、ワークフローを変えたがらない傾向があり、結果として、デジタル化は進んだものの、業務プロセスには変化がないケースが多いのが実態です。デジタル化によって便利にはなったが、変革にはつながらないという企業が目立ちます。

 その一方で、コロナ禍を経て、なんとか変革につなげたいという危機感が高まり、プロセスマイニングがそれを解決できるのではないかという期待が高まってきました。DXのフェーズ2ともいえる時期に差しかかるなかで、プロセスマイニングに注目が集まっているというわけです。

 実はガートナーでは、2023年3月にプロセスマイニングツールのマジッククアドラントを初めて発表しました。プロセスマイニングというカテゴリーが、ひとつの市場として認識され、独立した分野として形成される規模となり、ツールとしての必要性が認められたともいえます。これも、プロセスマイニングが注目されていることを裏づける動きだといえます。

 Celonisの創業の地であるドイツでは、多くの人がプロセスマイニングに注目をしており、Celonisのチーフサイエンティストであり、プロセスマイニングのゴッドファーザーと呼ばれるWil van der Aalst教授の講義には、毎回800人以上が集まるそうです。プロセスマイニングを身につけると、ビジネスを拡大できたり、エンジニアは高い報酬が得られるようになったり、ということが理解されているからです。

 日本においては、わずか1年半前には、プロセスマイニングという言葉を知らない人の方が多かったものが、いまではITにかかわる人であれば全員が知っている言葉になりましたし、次に取り組まなくてはならない領域であるという意識を持っている人も増えてきました。ただ導入という点では、先行企業にとどまっている状況にありますし、それらの企業が先行者利益を享受しているにすぎません。Celonisとしては、プロセスマイニングの価値をもっと広げていかなくてはならないと考えています。

 まずは、プロセスマイニングに対する理解があり、お客さまとしてだけでなく、パートナーとしても連携ができる通信およびIT関連事業者のほか、Celonisの発祥の地であるドイツと同様に、日本の主要産業である製造業、IT投資に積極的な金融業といった3つの業界にフォーカスして、日本におけるプロセスマイニングの提案を進めてきました。もうしばらくはこの方針は変わりませんが、営業体制は前年比で2倍に拡大していますし、より多くの企業に対して提案できる体制を整えていきます。

――Celonisでは、これまでの1年間を、日本における「Data Execution元年」としていましたが、それは実現したのでしょうか。

 Data Executionの時代が、いよいよ日本でも始まったと認識しています。想定以上の速度で理解が進んだと思っていますし、データを活用し、アクションにつなげるという動きが、日本でも見られています。ただ、導入や活用が多いというわけではありませんし、先行している欧米に比べるとまだまだです。プロセスマイニングは、Data Executionを実現してこそ、初めて価値が出ます。そして、Data Executionを実現するには、プロセスマイニングと業務システムを常時接続するという次のステップへの取り組みも必要です。もちろん、常時接続して、データをリアルタイムで処理し、自動実行し、アクションを起こすという環境を実現するには、セキュリティ対応をはじめとして、解決しなくてはならない問題もありますし、時間がかかるのは明らかです。

 その一方で、Data Executionの実現に向けては、欧米の企業が苦労してきた課題を、日本の企業はスキップして、メリットを得られるという利点がありますから、そこはうまく生かしたいですね。Data Executionの時代をさらに加速させるための取り組みは、これからが本番になると思っています。

――ドイツのCelonis本社は、日本市場への投資をどう考えていますか。

 2019年2月に、日本法人を設立して以来、日本市場にはフォーカスしており、いまでもドイツ本社に直接レポートする体制となっています。日本市場を重視していることの証しですし、そのフォーカスはますます強くなっています。昨年度は、大手顧客を支援するプログラムにおいて、日本の企業数が最多となり、それに伴い予算も増やしてもらっています。日本に対する支援は、けた違いになってきたというのが正直な感想です。

 個人的な話ですが、私は、30年間、IT業界で仕事をし、経営にも携わってきましたが、前年比実績としてはキャリアハイとなりました。特に、新規顧客売上高は12月時点では、ポジティブに見積もって前年比5倍になると明言していたのですが、2023年1月期決算を締めてみると、それを上回る6倍になりました。2023年2月に、全世界のCelonisのリーダーが集まる新年度のキックオフミーティングをニューヨークで開催した際に、日本がThe Dream Team Awardを獲得し、さらにサステナビリティにおけるコンペティションでもトップとなりました。攻めて良し、守って良しというのが、この1年間の日本法人の実績でした。

FY23のビジネスサマリ

顧客やパートナーをつなげていく“Connect戦略”

――日本において、事業を推進する上で重視している点はなんですか。

 Celonisは、日本を元気にする方策として、Celonis EMS(Execution Management System)を提供。サイレントキラーと呼ばれる見えない非効率性を可視化し、ビジネスのパフォーマンスを無限大に開放することを目指しています。それを実現する上で重視している取り組みのひとつが、Connect戦略です。これは、お客さまやパートナーとのつながりを重視した取り組みで、エグゼクティブ情報交換会と位置づけ、2022年1月からスタートしているCxO Clubでは、Celonisユーザーだけでなく、非Celonisユーザーを含めて、ビジネス変革の中枢を担う人たちに参加してもらっており、課題解決に向けた情報交換や、国内外の最新事例の共有などを行っています。

 また、企業の導入リーダーを対象として、現在5社に限定して参加してもらっているCelonis Champion Clubでは、経験やチャレンジの共有、最新のCelonis EMSに関わる情報の提供、製品やソリューションに対するフィードバックの場を提供。海外顧客との交流の機会なども設けて、日本におけるプロセスマイニングの導入リーダーをサポートしています。今後、参加企業を増やしていくことになります。

 CxO Clubにも、Celonis Champion Clubの方々に参加をしていただき、講師を行ってもらったのですが、事例の広がりやその成果について、大きな衝撃を受けた参加者も多かったようです。また、ここには、Celonis本社からもVIPが参加したのですが、参加者たちが真剣に聴講し議論する姿に驚いたようで、各リージョンに対して日本を見習えという通達が出ています(笑)。

 また、Celonisユーザー会であるCeloUG(セログ)では、四半期ごとに開催しているイベントに毎回約100人が参加しており、ユーザー同士での積極的な情報交換が行われています。

Celonis Japanが支援するConnect

 パートナーを対象にしたCeloPegでは、毎回100人弱のパートナー企業が参加していますが、これまでオンラインで開催していたものをリアル開催へと移行し、プロセスマイニングという新たな領域において、パートナー同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、お互いに成長するための取り組みがより積極化しています。パートナー同士が得意分野を生かしてエコシステムを形成するといった動きにも期待しているところです。

 日本の市場においては、パートナーの力がとても重要であり、Celonisの中長期の成長戦略においても大きな意味を持ちます。パートナーシップの強化としては、パートナー向け教育プログラムの整備や、パートナー向け教育トレーナーの採用、認定資格の普及促進などを通じて、戦略パートナーとのエコシステムを強化しています。なかには、1社で2000以上の認定資格を取得したパートナーもありますし、中途採用を含めて入社した社員全員がCelonisの3日間の講習を受講することに決めているパートナーもあります。昨年秋には、パートナーからの受講申し込みが殺到して、パンクするという事態に陥ったほどです。

 Celonisの認定資格は、2022年5月にプログラムを改定し、Level 3と呼ばれる13種類の認定資格を用意していますが、日本における取得総数は、現時点で6000に達しています。直接比較はできませんが、改定前には1000弱であったことに比べると、大幅に増加しており、この勢いは、グローバルで見ても日本がずばぬけています。

 アクセンチュアや富士通、日立システムズ、CTCなど、戦略パートナーとの連携を強化していますし、2023年2月には、NTTデータが、日本初となるPlatinum Partnerの認定を獲得したこともパートナーシップ強化のひとつのケースです。

多くの戦略的パートナーがパートナーシップをアナウンス

事業の成長を追うだけでなく、お客さまの価値を実現する

――日本でのビジネスが急成長するなかで、その成長の高さが反動になったり、悪影響となったりしている部分はありませんか。

 確かに、日本では、本社の想定を大きく上回る成長を遂げているのは事実です。ただ、ドイツでも高い成長を遂げてきた経験がありますから、お客さまをしっかりサポートすることが大切なのは本社も理解しており、日本でも、そこに多くの投資をしています。

 この1年で社員数は3倍に増やし、体制も強化したのは、その取り組みのひとつですが、最も力を入れているのが、Lighthouse customerプログラムの強化です。これは本社と連動しながら進めているもので、国内の重要な戦略顧客のCelonisイニシアチブの支援を行います。具体的には、欧州で先行顧客や大手顧客を担当していた人材をアサインし、次々と日本に来てもらい、Celonisを導入したお客さまのもとで、ベストプラクティスの導入支援や、国内企業への適用支援などを行い、導入していただいたお客さまが、しっかりと価値を体感してもらえるようにしています。

 Lighthouse customerプログラムでは、価値創出の機会特定と、その実現に向けた方策を定義する「バリューギャップアセスメント」、早期に「価値出し」が可能になるユースケースを選択して、Celonisが導入まで対応することで、迅速な価値実現を行う「Quick-Winユースケース」、継続的なインプリのレビューやサポートにより、価値実現を加速する「インプリの加速」、Celonisで最も成功している顧客とのユースケースや業界知識の情報共有の機会を提供する「Celonisコミュニティへの誘致」で構成しています。

 まだ、プログラムの実行はフェーズ1の段階ですし、本社からは、Lighthouse customerプログラムには、いくらでも投資をしていいと言われていますから(笑)、さらに体制を強化していきますし、事業の成長を追うだけでなく、お客さまの価値を実現するところにもしっかりと投資をしていきます。

Lighthouse customerプログラム

――これまでは海外の導入事例ばかりが紹介されてきた印象がありますが、日本の導入事例で公開できるものはありますか。

 実は、この1年で、日本の企業における事例が数多く紹介できるようになりました。会社名までは明らかにできないケースもありますが、CxO ClubやCeloUGでも、日本の企業の事例が数多く紹介され、情報を共有しています。

 2023年3月に行われた5回目のCxO Clubでは、大手企業の保守サービス部門の事例が紹介されました。現場では効率化に向けた数多くの改善が進められてきているということだったのですが、Celonisで可視化してみると、わずか数週間で数々の改善点を浮き彫りにできました。保守部品の緊急配送の状況を、さまざまなデータを組み合わせて可視化してみると、部品はコストをかけて当日に届けているのに、CEが現地に訪れるのが3日後といったことが頻発していたり、トラブルの影響を分析できているオペレーターは最適な量の部品を配送手配するのですが、そうでないオペレーターは予備のために大量の部品を送り、それが使われないまま戻ってくるため、配送コストや在庫を増やす結果になっているということがわかったりしました。まだPoCの段階で、5カ月を経過したところですが、すでに7000万円のコスト削減が可能になっています。年間では1億円以上のコスト削減が可能になると見ています。

 また、ある製造業では、海外法人におけるSAPでのプロセスを可視化してみると、7割が標準プロセスから逸脱したものであることが、2週間で可視化できました。間接購買の効率化や在庫の最適化など、すでに16件の改善テーマに拡大し、アクションを起こしています。

 そのほかにも、車載システムメーカーでは、大規模なソフトウェア開発においてCelonisを活用し、タスクの滞留や手戻りの原因などを可視化し、属人化の排除とともに、30%の効率向上を実現し、人員を付加価値の高い業務を移行できました。

 また、通信事業者では運用・保全業務の可視化によって、年間15~20%の効率改善を行うとともに、基地局建設の効率化にもCelonisを適用しています。さらに、SIerにおいては、プロセスマイニングを組み合わせることで、ソリューションの価値を高めることができたり、DXの推進テーマを探索するためにCelonisを活用したりすることで、「時々、クリティカルヒットが生まれる」といったユニークな声も出ています。

第5回CxO Clubから―Celonis活用事例

 Celonisは課題を可視化し、それを解決するため、守りのDXというイメージが持たれているかもしれませんが、ここにきて、攻めのDXのために活用するケースが増えています。攻めるには、まずは守りが大切です。DXをやろうにも、現場では現業を抱えていて、DXが推進できないという声はよく聞きます。Celonisによって現業が可視化され、効率化されれば、攻めのDXに打って出ることができます。また、データを活用することで新たな洞察が生まれます。Celonisによって、DXの新たな種を生むこともできます。

エンタープライズソフトウェアベンダーからバリューパートナーへ

――2023年2月からスタートした新年度は、どこに力を注ぎますか。

 Celonisは、ソフトウェアを提供するだけの企業ではなく、「バリューパートナー」として、価値を社会に提供できる企業になりたいと考えています。ソフトウェアベンダーは、よいテクノロジーを提供し、ライセンスの更新に注力するというビジネスモデルです。それに対して、「バリューパートナー」とは、お客さまにソフトウェアを活用してもらうことで、生産性やパフォーマンスを管理し、そこから価値を生み出すことを支援するのが役割になります。継続的にお客さまとエンゲージメントし、お客さまが価値を実感してもらうことが、Celonisのビジネスだと考えています。

Celonisビジネスの変革

 日本の企業には、部門ごとに展開してきたSoR(System of Record)やSoE(System of Engagement)のシステムが多数存在し、現場で改善活動を進めてきました。これは個別最適にはいいのですが、全体最適においては課題が生まれ、特にDXを推進する上では大きな足かせになっています。中期経営計画を策定しても、既存システムが壁となって、計画が遂行できなかったり、現場の改善活動が進まなかったりといったことが起きています。また、個別最適のシステムが定着すると、それに沿ってビジネスオペレーションも個別最適となり、村社会のようなものが生まれてしまいます。生産性や効率性が悪いため、個人の努力に頼らざるを得ず、見えない非生産性といったものが現場に押しつけられるという状況を生みます。

 Celonisは、この課題を解決できます。さまざまなシステムからデータを収集し、インテリジェンスを活用したプロセスマイニングによって、無駄やムラを発見し、それを解消するためのアクションを実行することができるからです。また、Celonisは、パフォーマンスを管理するSoP(System of Performance)というレイヤーを新たに定義しています。これによって個別最適のシステムを管理し、ビジネス戦略にひもづいたKPIを設定することで、全体最適を行うための戦略が、システムやデータを活用して、どれぐらい実行できているのかを可視化します。

 複数部門に渡るプロセスになるほど、改善の効果は高くなり、そこには、改善による効果を生む「金脈」があるともいえます。ここが、Celonisの効果が最も発揮できる部分です。高い視座からの全体最適を図ることができ、現場における村社会からの脱却が可能になるというわけです。これは、多くの経営者がやりたいと考えていることであり、そこにCelonisのプロセスマイニングが注目されている要因があります。

 ただ、これを実現するには、テクノロジーだけでは不十分であり、やはり人が重要になります。テクノロジーを活用して、ビジネスを変えたいと考える人たちの存在が不可欠であり、Celonisは、そうした人材の育成や文化の醸成にもフォーカスをしていきます。そのための施策のひとつがConnect戦略となります。

お客さまやパートナーが価値を共有する場を広げていく

――Connect戦略を含めて、新年度の具体的な取り組みについて教えてください。

 フォーカスするのは、「Connect」、「Value」、「Large deal」、「Talent」の4点になります。

FY24 Celonis Japan Strategy Focus

 「Connect」では、CxO ClubやChampion Club、CeloUG、CeloPegの継続と拡大に取り組みます。お客さまやパートナーが価値を共有する場をもっと広げていきたいですね。また、2023年6月には、国内最大規模のプロセスマイニングイベントとなる「Celonis World Tour」を開催し、前年度の2倍となる1000人弱の参加者を見込んでいます。

 さらに、ミュンヘンとニューヨークにあるEBCをフル活用し、ユーザー企業の社長、副社長、CFO、CIOをお連れし、2日間に渡るセミナーなどを通じて、プロセスマイニングに対する理解を深めてもらっています。EBCを訪問する前と後では、考え方が大きく変化するエグゼクティブが多いことを実感しています。本年度も、年間10回ほど、EBCにお客さまをお連れしたいと考えています。CEOを対象にしたグローバルビジターも、2カ月に1回ぐらいのペースで実施したいですね。

お客さま、パートナー、グローバルメンバーをConnect

 さらに、本社VIPが、四半期に一度以上のペースで来日し、日本のお客さまやパートナーとの連携を深めたり、意見交換を行ったりする場を設ける予定です。7月と11月には、共同創業者の2人がそれぞれ来日することも決まっています。

6つのテーマでバリューの提供に力を注ぐ

 一方、「Value」については、企業の関心が高い「サプライチェーン」、「財務」、「シェアードサービス」、「プロセスエクセレンス」、「システム変革」、「サステナビリティ」という6つのテーマをもとにバリューの提供に力を注ぎます。

ユーザー企業において関心の高い6テーマ

 サプライチェーンを可視化することで、本来、在庫はどのぐらい必要なのか、予定通りに入荷しないのはどこにボトルネックがあるのといったことが見えるようになります。また、財務部門ではキャッシュフローを可視化し、期間を設定しながら、改善につなげることができますし、そのほかにも、購買サイクル時間の短縮化、DXの推進や業務プロセスの改善による差別化の支援、サステナビリティ戦略をアクションに移行するための支援などを行うことができます。

 あるお客さまでは、Celonisを通じて、システム全体を可視化したところ、アドオン機能の49%が一度も使われていないことがわかり、年1回の処理にとどまっている機能を含めると全体の79%に達していることがわかりました。約8割が使われていない機能であり、これはシステムの外に出すことができるわけです。システム変革においても、Celonisは貢献することができます。

 もうひとつ重要なのは、Celonisの手法は、お客さまとともに価値をコミットするものであるということです。例えば、コスト削減やスピード向上、品質向上といったビジネス価値を数値化し、1年間で50億円のコスト削減ができる、100億円の改善効果があるといったことを示すことができます。

 このように、具体的なコミットができるからこそ、Celonisは自らを「バリューパートナー」と呼ぶことができます。Celonisは、業務システムを提供しているわけではなく、業務システムから収集したデータを活用し、そのパフォーマンスを管理しているからこそ、価値を数値に変えて、コミットできるのです。

 また、重要なのは、価値を特定し、実現に至るまでの方法論である「Celonisバリューフレームワーク」を持っており、机上論ではない提案が可能であるという点です。

 ここでは、最初に、全世界2000社以上の導入実績をもとに、どれぐらいの価値を創出できるのかといった「価値特定(VALUE IDENTIFIED)」を行い、どこから取り組んでいくかといった優先順位づけも行います。次に企業が持つデータを活用して、Celonisで可視化すると、どれぐらいの効果が出るかということを算定する「価値証明(VALUE FRAMED)」を行います。Celonisの視点から、具体的なコスト削減効果を示すことができます。

 ただ、ここまではCelonisの視点での提案ですので、効果などは「絵に描いた餅」といえる状況かもしれません。そこで、それぞれの現場を対象にしたビジネスケースの確認および合意として「価値合意(VALUE COMMITTED)」を行います。これは、入手可能な対象システムのデータを活用して導き出した洞察を、ビジネス側やプロセス精通者と確認し、より高い精度での合意を図ることになります。より具体的で、精度の高い目標が数値で示され、それをコミットするわけです。

 そして、最後が、実際にCelonisを導入し、価値を刈り取っていく「価値実現(VALUE REALIZED)」となります。毎月あるいは四半期といったサイクルで、具体的にどれぐらいの価値を創出できたのかといったことを、数値をもとに検証することができます。IT部門だけでなく、現場を巻き込み、それぞれがこのフレームワークを共通言語として理解した上で、価値を実現することが、Celonisバリューフレームワークの大きな特徴になります。

Celonisバリューフレームワーク

日本法人の独自ロゴを制作

――3つめの「Large deal」や、4つめの「Talent」についてどんな取り組みを行いますか。

 「Large deal」では、グローバル2000社のうち、日本の社会に影響を及ぼす大手企業100社を対象に事業を展開していきます。そののちに、ここで培った実績や事例をもとに、日本の中堅中小企業へと展開していくことになります。また、この1年で、アカウント営業の人員を倍増することで、お客さまのビジネス価値の刈り取りにフォーカスしていきます。

 また、「Talent」では、社内に「奇跡的なほどやりがいのある仕事」を実行する文化の醸成や、社内でのxFunctionイニシアチブによる人材育成などにも取り組みます。xFunctionイニシアチブは、現場の社員だけで構成し、さまざまな部門の社員が参加した活動で、社内コミュニケーション、社外コミュニケーション、SWAGに取り組んでいます。若い人たちが、こうした活動を通じて、リーダーとしての経験を積むことができる機会にもなります。Celonisが日本において中長期で成長を遂げるには、人材の育成が重要です。xFunctionイニシアチブの活動をはじめ、次世代リーダー育成のための取り組みに力を注いでいきます。

 実は、今年に入って、Celonisの日本法人として独自のロゴを作ったんですよ。

――そんなことが許される会社なんですね(笑)。

 ロゴは、日本の社員が、本社のブランドチームと一緒になって制作しました。スタートアップ企業ですから、自分たちの文化を作りたいという気持ちがあり、ロゴにはTOKYOの文字とともに、富士山やスカイツリーなどを描いています。国内でのイベントで利用するほか、ロゴが入ったシールやノート、カーディガン、バッグを作って、社員みんなが使っています。社員が率先して、日本におけるCelonisの文化を作り上げる活動であり、私は、何も口を出さずにお金を出すという立場です(笑)。日本が独自のロゴマークを作った後に、ほかのリージョンでも、独自のロゴマークを作るといった動きが出ています。

日本法人の独自ロゴ

 私自身、Celonisに関わることが「奇跡的なほどやりがいのある仕事」になると思っています。日本の企業の生産性を上げ、日本の社会の生産性を上げ、その結果、日本経済の復活に貢献できると考えているからです。また、生産性を上げ、ビジネスの価値を最大化すれば、人生価値も最大化できると思っています。仕事が効率化すれば、プライベートも楽しめる時間が生まれるからです。人生価値を高めることを支援できる企業であるという点も、Celonisの特徴だといえます。

 余談ですが、CelonisにはCelopolyというボードゲームがあるんですよ。想像がつくとは思うのですが、モノポリーをもじったタイトルで(笑)、このゲームを通じて、プロセスマイニングを実体験してもらうことができます。2時間以内にホテルからオフィス、空港に行くというミッションを果たすために、移動手段になにを使うか、それによって、時間とコスト、CO2排出量はどうなるのかといったことがわかり、さらに移動するなかでは、さまざまなインシデントも解決しなくてはなりません。ゲームのなかでは保険に加入することもできますし、うまく進まないと同じ場所を繰り返しまわってしまうといったことも起こります。Celopolyのボード上にあるQRコードをスマホのアプリで読むと、Celonis EMSによって分析が行われ、最も効率的に移動できた人が勝者になります。

 20分ぐらいで終わるゲームなのですが、プロセスマイニングとはどういうものなのかといったことが、直感的に理解できます。グローバルの大手保険会社では、200人の幹部にCelopolyを体験させたという例もありますし、私も、社員と一緒にやってみましたが、理解のしやすさを感じました。次のCxO Clubでは、参加者を対象にCelopolyをやってみようと思っています。ちなみに、Celonisを導入すると、Celopolyもプレゼントする予定です(笑)。

Celopoly(例:グローバル大手保険会社TOP200召集)

新技術への取り組みは?

――Celonisは、2022年11月に、次世代プロセスマイニングとして、Celonis Process Sphereのコンセプトを発表しました。今後、どんなロードマップを予定していますか。

 グローバルでも、いまはβ版の状況です。日本において、β版を活用しているお客さまはまだいません。Celonisにとっても重要な旅路となる製品ですから、これからの発表を楽しみにしていてください。

――昨今では、新たな対話型AIが注目を集めています。Celonisでの活用においては、最適な技術のように感じますが。

 例えば、ChatGPTに、「〇〇のプロセスを可視化できないか」と入力すれば、Celonisが収集するデータを活用して、可視化して、ChatGPTで返すといった使い方は魅力的ですね。具体的に開発を進めているわけではありませんが、社内のオールハンズのなかでは話題になっています。私自身も、プロセスマイニングと新たな対話型AIは、親和性のある技術だと思っています。

 一方で、日本でも間もなく提供を開始する予定のCelonis Business Minerは、非技術系ビジネスユーザーのためのコラボレーティブ・プロセスマイニングであり、Q&A形式によって、直感的で新しい探索方法を採用しています。洞察の取得や共有、既存および新規ユーザーとのコラボレーション、ビジネスユーザー向けの導入、設定をガイドする機能などを搭載しています。このように、利用者に対して、プロセスマイニングの敷居を低くするためのテクノロジーの提供は引き続き行っていきます。

――新年度の事業計画では、日本ではどんな成長を描いていますか。

 さすがに前年比6倍という成長にはなりませんが(笑)、引き続き、高い成長を目標にしています。少なくとも売上高は2倍以上に成長させていきたいと思っていますし、それは確実にやれると思っています。ただ、昨年度の実績でも、新規顧客売上高が6倍であるのに対して、顧客数は2倍という成長であったことからもわかるように、お客さまの数を増やすよりも、1社あたりのビジネスを増やし、しっかりと価値を享受していただくことに力を注ぐつもりです。

 最も重視するのは、最大限の価値をお客さまに提供するという点です。Celonisが「バリューパートナー」になるためには、いかに「価値出し」をできるかが鍵になります。今後、2~3年は、この部分にフォーカスをしていきますし、「バリューパートナー」というメッセージは、ずっと続けていくことになります。お客さまが価値を感じていただければ、そこからさらに口コミで広がりますし、CxO ClubやChampion Club、CeloUG、CeloPegなどの活動を通じて、成功事例を共有するという動きも加速することができます。しかも、Celonisの場合は、速ければ数週間で価値を実感してもらえますから、広がるスピードも速いと思っています。「バリューパートナー」として、お客さまに価値を感じていただくことに、さらに力を注ぐ1年を目指します。

――課題はなんでしょうか。

 日本におけるブランド力が、まだ弱いという点は課題です。これはグローバルでも共通したテーマともいえます。実績を着実に積み重ねて、もうひとまわり、ふたまわり大きくなったところで、グローバルでブランド戦略を強化することになると思いますが、いまは開発投資を優先しています。景気停滞の局面のなかで、今後の景気回復のタイミングを推し量りながら、開発投資を強化し、成長に向けた準備をしているところです。

 経営というのは、必ず山と谷があります。谷が来たときに、その時間を短くするためにはどうするかといったことがかじ取りでは重要になります。それを支えるのが人材であり、パートナーとの連携強化ということになります。そこに向けた準備もしっかりとしていきます。