大河原克行のキーマンウォッチ

すでに1+1以上の成果を出した――、ビットアイル統合後の新生エクイニクス・ジャパングループの取り組み

古田敬社長に聞く

 2017年1月に、新生エクイニクス・ジャパンがスタートして、5カ月を経過しようとしている。

 2015年11月に、米Equinixがビットアイル・グループを子会社化。それに伴い、日本における事業統合への取り組みを開始し、2017年1月1日付けで、コロケーションやインターコネクションなどのデータセンターサービスを行う「エクイニクス・ジャパン」、マネージドサービスやアウトソーシング、モニタリング/セキュリティサービスなどを行う「エクイニクス・テクノロジー・サービス」、データセンターに関する運用サービスを行う「エクイニクス・ジャパン・エンタープライズ」の3社に再編。これらの企業が一体化して、日本における事業を加速することになる。

 エクイニクス・ジャパンをはじめとする3社の社長を兼務する古田敬氏は、「新生エクイニクス・ジャパンの成長は、すでに1+1以上の成果が出ている。グローバルとローカルの強みを生かす一方、今後、日本から新たなビジネスモデルを世界に発信していくこともできる」と意気込む。

 新生エクイニクス・ジャパンの取り組みについて、古田社長に聞いた。

エクイニクス・ジャパン 代表取締役兼EQUINIX北アジア統轄の古田敬氏

ひとつの“新生エクイニクス・ジャパン”へ

――2015年11月に、米Equinixがビットアイル・グループを子会社化し、2017年1月からは、新生エクイニクス・ジャパンとしての事業がスタートしました。この間、どんなことに取り組んできましたか。

 まず、米Equinixがビットアイル・グループを子会社化し、それを統合するまでの期間を2年間と定めました。つまり、2016年と2017年の2年間を統合のための期間としたわけです。日本の企業との統合ですから、米国のように急いで統合するのは得策ではないと考え、その点は本社側にも理解をしてもらいました。

 前半となる2016年は、「並走」しながら、一緒にできることからやっていこうという段階でした。具体的には、営業部門が一緒に動き、クロスセリングを行うところからスタートしています。

 そうした成果をベースに、統合期間の後半となる2017年には、法人格を整理することから始めました。もともと5社だった法人を3社に再編したという点では、あまり統合されているような印象がないかもしれませんが(笑)、実は法人格とは別に、組織としては完全に一本化しています。

 法人格は米本社の意向もあり3つに分けていますが、これは実態を示しているものではありません。社内の組織図は、法人格というものを超えた形で、エクイニクス・ジャパンと旧ビットアイルの組織、社員が統合され、それをベースにして事業運営を行っています。人事制度も給与体系も原則ひとつの組織として統一したものを採用しています。

 この法人格と組織体制は、欧米的合理性に基づいたもので、外から見るとわかりにくいかもしれませんが、外資系企業にはよくあるもので、事業活動の迅速性などを高める意味でも、この体制は、私自身合理的だと考えています。

 一方で、経営指標についても、2016年までは、それぞれの会社の数字として見ていましたが、2017年からは、ひとつの経営指標に統合した形で見ています。第1四半期(2017年1月~3月)は、経営指標の観点からも、初めて統合した数字として見た期間でしたし、社員全員が、この新たな組織になじむということが重要な課題だと位置づけました。

 この結果、売上高の規模は、米国、英国、日本、ドイツという順番になり、本社への影響力が、これまでにないほど大きくなったといえます。アジアパシフィック全体の中では、従来は5分の1程度の事業構成比でしたが、新たな体制では、日本が約3分の1を占めるようになり、この地域の中では最も大きな事業規模を持つ国になりました。

 GDPをベースに考えれば、本来あるべき姿の規模にまで近づいてきたといえるかもしれません。

 先ごろ米本社が発表した2017年度第1四半期の業績は、売上高が前年同期比12%増の9億5000万ドルとなり、57四半期連続での増収を達成しています。日本も、その成長に貢献したといえます。

最大限可能な範囲で日本の手法を採用

――グローバルで見れば、ビットアイルを買収するのは「大が小を飲み込む」ということになりますが、日本だけを見れば、エクイニクス・ジャパンよりも、ビットアイルの方が、規模が大きく、逆の形になります。統合においてこだわったのはどんな点ですか。

 当然、米国企業ですから、その手法を用いた統合を進めるわけですが、最大限可能な範囲で日本の手法で進めることにこだわりました。先にも触れたように、2年という期間を設けて統合を進めているのは、その最たる例です。

 今回の統合では、コスト削減というシナジーはまったく見込んでいません。もちろん、国内におけるデータセンターの規模が約2倍と大きくなったことで、電力会社とまとめて交渉することによって、電気にかかるコストは安くなりましたが(笑)、統合によって間接部門の人員を削減したりといったことは一切行っていません。

 一方で、成長率という点では、2016年の1年間にわたって「並走」し、お互いに協力できるところは協力するといった取り組みを行ってきたこともあり、予想以上の効果が出ています。

 特に旧ビットアイルの数字が予想以上になっている点は、いい意味での驚きでした。そして、エクイニクス側も成長を遂げています。いい案件を獲得することができていますし、クロスセルもうまく行っています。1+1が2以上の効果となっているというわけです。

統合によるさまざまな強み

――統合したことによる強みはどんなところに発揮されていますか。

 ひとつは、データセンターとしての規模による強みです。

 東京9カ所、大阪2カ所の11カ所のデータセンターを持ち、その規模は、合計1万2000ラック、40MWに達しています。ラック数では国内でトップ5には入りますし、ひとつの大きなデータセンターキャンパスとしてみた場合に、これまで以上にさまざまな提案ができるようになりました。

 例えばエクイニクスの価値は、ネットワークの密度が高い場所にデータセンターを配置してきた点にあるわけですが、旧ビットアイルのデータセンターに、その価値が加わることで、既存のビットアイルのユーザーに対しても新たな需要を喚起することができたといえます。

 また、クラウドプロバイダーやネットワーク事業者などが、ビットアイルのサービスに注目しはじめるという動きも出ています。旧ビットアイルのデータセンターの運用者からは、「これまでは来なかったような英語をしゃべる顧客がたくさん訪れるようになった」と、驚きの声が出ていますよ(笑)。これも相乗効果のひとつです。

 2つめが、セキュリティやモニタリング、アウトソーシングを含むマネージドサービスのメニューが増え、これがエクイニクス・ジャパンにとって成長の柱になっているという点です。

 もともと旧ビットアイルがやってきたサービスですが、すでに、日本における売り上げの約25%を占めています。これまでのエクイニクスでは提供できなかったオファーができるようになっています。これは、グローバルのEquinixでも試行はしていますが、踏み込めていない領域です。つまり、Equinixの事例として、マネージドサービスの成果を日本があげているともいえ、それがグローバルでの先行事例と位置づけられています。

 マネージドサービスは、ブラジルやオランダ、あるいは英国で買収したTelecityが付随したサービスとして行っている程度であり、全世界におけるマネージドサービスの売り上げの約半分は日本からあげているのではないでしょうか。日本では、これからもアクセルを踏んでいきたい領域ですね。

 そして、3つめには、これらのサービスが、Equinixのグローバルプラットフォームの上に乗っているという強みです。先ほど、日本では、小さい規模が大きい規模の企業を買収することになるという指摘がありましたが、私自身、そうしたことはあまり考えたことがなく、グローバルにおける買収、統合という観点でとらえています。

 インターネットインフラはグローバルプラットフォーム化しており、グローバルのハイパースケーラーが、日本のデータセンターに対する投資を、ここ2~3年、驚くほどの勢いで進めています。

 これは、日本における事業拡大という側面があるのは当然ですが、基本的な考え方は、グローバル全体のサービスにおける一部として、日本のデータセンターに投資をしているといった方が適切です。

両社の相乗効果で新たなユーザーを獲得

――エクイニクスとビットアイルの相乗効果によって、どんなユーザーを新たに獲得できているのでしょうか。

 注目すべき動きは、エクイニクスのクラウドエクスチェンジを利用する一方で、ビットアイルのレンタルサーバーやマネージドサービス、モニタリングを利用し、場合によっては、エクイニクスのコロケーションサービスを利用するといったような組み合わせでの活用を行う企業が増えてきた点です。

 当社にとっても、マネージドサービスを含めて幅広い組み合わせで提案ができるようになったといえます。ビットアイル側のユーザーも、これにメトロコネクトと呼ぶデータセンター間接続を組み合わせることができます。顧客にとっても選択する材料が増えており、結果として、システムを構築する側の考え方にも広がりが生まれ、クラウドオリエンテッドなアーキテクチャの考え方へと変化を促すことにもつながっています。

 1件あたりの商談規模が大きくなる傾向が出ているとも言え、また、同時に新たな顧客を獲得するといった動きも出ています。小さくビジネスをはじめてもらい、その後、事業の拡張にあわせてサービスを拡張するといった動きです。クラウドネイティブ型の企業やディスラプターと呼ぶ企業はもちろん、大手企業、中堅企業などが増加していますね。IoTの観点から製造業の企業が新たに契約するといった例もあります。

 また、地方自治体が住民サービスの強化のためにクラウドを活用するといった動きもあります。旧ビットアイルのパートナーを通じて提案も増えていますから、そうした動きも新たな顧客層を獲得する上でプラスになっています。

 もうひとつ増えていているのは、ハイパースケーラーの次の規模の、クラウドプロバイダーの活用です。また、パブリッククラウドへのシフトが加速する中で、徹底したパブリッククラウド環境の構築と、コロケーションによる運用という中間にあたるようなソリューションを、エクイニクスとビットアイルが提供できる動きにも注目が集まっています。これはハイブリッドクラウドであったり、セミプライベートクラウド、セミハイブリッドクラウドといえるもので、ここに対するニーズが増えはじめています。

――こうした動きは、エクイニクスにとっては、マイナスにはならないのですか。

 確かに、パブリッククラウドが成長すれば、コロケーションビジネスは減る可能性がありますが、その一方で、ハイパースケーラーを対象にしたパブリッククラウドのビジネスは成長します。

 ただ、パブリッククラウドもある程度のところまで規模が拡大すると、今度は、自分たちでやった方がいいというコロケーションへと移行する動きも想定されます。その点では、どちらの動きが増えても、エクイニクスにとっては、ビジネスチャンスになると考えています。

 そしてエクイニクスの最大の特徴は、クラウドサービスにおいても、ITエンタープライズにおいても、ネットワークのハブとして役割を果たすことができる点であり、この強みは変わりません。ネットワークが集まり、クラウドが集まると、マルチクラウドやハイブリッドクラウドが構築しやすい環境につながります。

 Equinixがグローバルで展開するIBX(International Business Exchange)データセンターの強みは、これからますます発揮されることになります。

――いま、エクイニクスに求められている要素とはなんでしょうか。

 ネットワーク化された、あるいはクラウド化されたインフラがどんどん進化しており、そこのハブとして、エクイニクスを使うケースが増えています。エクスニクスの価値が、ネットワークハブであるという根幹には変化がありませんが、企業との間を結ぶソリューションやマネージドサービスが加わることで、今までのエクイニクスからは見ていなかった顧客層にまでアプローチできるようになったといえます。

旧ブランドは維持の方向で

――一方で、社名はエクイニクスに統一したわけですが、サービスにはビットアイルの名称が残っています。今後、そのあたりはどうしていきますか。

 会社としてのブランドはひとつですが、ご指摘のように、ビットアイルが提供してきた「ビットアイルクラウド」、「サイトロック」、「ビットサーフ」といった固有のサービスについては、ビットアイルのサービス名を維持しています。

 先日も、ビットアイルクラウドには追加投資を承認したばかりですから(笑)、しばらく、このサービスブランドは維持していきますよ。これは、これからも残る方向で考えていてください。

 サービスブランドとしての名称が浸透しているということもありますし、これまでエクイニクスがやってこなかった領域のサービスでもありますから、そのサービスがこれからも継続的に提供されることを訴求する意味でも、残した方が得策だと考えています。

 そして、仮にエクイニクスというサービスブランドを採用した場合には、グローバルの顧客からは、「なぜ日本だけでやっているサービスなんだ」という誤解を生みやすいことにもつながります。

 こうしたことを考えると、ビットアイルがこれまでやってきたサービスは、日本固有のサービスということを示すためにも、ビットアイルのサービスブランドを活用した方がいいでしょう。

 もちろん将来的に、Equinixがグローバルで同様のサービスを開始するということになれば、その時点でサービスブランドも考えていく必要があるでしょう。しかし、マネージドサービスであれば、それぞれの国に特有の要件がありますので、グローバルで統一したサービスをやるというのは、労多くして益少なしになる可能性もあります。

 いまの時点では、グローバル統一のサービスの実現に投資をするよりも、データセンターそのものの拡張に投資する方を優先するのではないでしょうか。

Verizonのデータセンター事業を買収

――グローバルでは、Verizonのデータセンター事業の買収など新たな動きが出ていますが。

 Equinixは、第2四半期(2017年4~6月)に、Verizonから、北米および中南米を中心に29のデータセンターを買収する予定です。

 これまでにもTelecityの買収などによって、欧州におけるデータセンターの拡張に取り組み、日本でもビットアイルの買収により、データセンターを拡張してきましたが、グローバルでの規模拡大に対しては、積極的に投資をしています。

 それにあわせて、社内システムの統合にも取り組んでいます。Verizonの買収では、マイアミのデータセンターを強化することができるメリットがあります。マイアミは、中南米の窓口として、ネットワークのハブとなっています。ここを強化することは、中南米へのアプローチを強化でき、グローバル展開でも重要な意味があります。

 もうひとつは、ワシントンD.C.のデータセンターの強化。政府系の顧客に対して、重要な意味を持ちます。ワシントンD.C.のデータセンターの強化としては、Equinix独自にも新たなIBXデータセンターの開設を計画しています。

 一方で、今回のVerizonのデータセンターの買収のほかにも、CenturyLinkがデータセンター事業を売却するなど、通信会社がデータセンターを売却する動きを加速しています。これはひとつのトレンドだともいえます。グローバルでは、通信会社の戦略の中に、データセンタービジネスが入らなくなりはじめているともいえるのではないでしょうか。

――2017年の計画では、ワシントンD.Cのほかにも、シリコンバレー、アムステルダム、フランクフルト、サンパウロでIBXデータセンターを新設することを公表しています。今後、日本でのデータセンターの開設はどうなりますか。

 TY11の新設計画は進めているところで、2017年には、次のデータセンターとして、この詳細を発表することができると思っています。現時点では、1万2000ラック、40MWという規模がありますが、2018年や2019年にはキャパシティを拡張しないと追いつかない状況が考えられます。

 ただ、これまでのエクイニクスおよびビットアイルのデータセンターは、規模が小さいものが多い。もっと効率をあげるには、できるだけ大きくしたいということは考えています。一度にカットオーバーするかどうかは別にして、拡張性を持ち、一定規模を持ったデータセンターを開設することを視野に入れています。

 関西のデータセンターについては、いまのキャパシティをさらに拡張できますので、すぐに新たなデータセンターを開設する予定はありませんが、関西のデータセンターに対するグローバルのハイパースケーラーのニーズは非常に高い点は特筆できます。これはディザスタリカバリとしてのニーズではなく、一定規模を持つハイパースケーラーにとってみれば、利用者に近いところにデータセンターがあった方がメリットが大きく、複数箇所からサービスを提供するというのは当たり前、という発想がベースにあります。

 エンタープライズにおいても、本来、2カ所以上からオペレーションできる体制を構築するというのが正しい発想だといえるのではないでしょうか。こうした気運が高まれば、さらに関西のデータセンターに対するニーズも増えてくると考えています。コスト削減の観点から1カ所で運用するエンタープライズ企業が多いですが、1カ所で運用する怖さやデメリットといったものをもっと考える時期に入ってきたともいえますね。

包容力のある「ワンエクイニクス」へ

――2017年はエクイニクス・ジャパンにとって、どんな1年になりますか。

 先ほどお話したように、ビットアイルとの統合が終了する1年となります。グローバルへのインパクトを考えると、事業規模の拡大に伴って、期待値に応じたスピードを持った拡張をしていかなくてはなりません。

 日本では、グローバルの成長率を上回る数字を目標にしています。会社が動くスピードが速いですから、それに人をどうあわせていくかが、この1年における重要なテーマだと考えています。

 「ワンエクイニクス」として、しっかりと統合し、これまでのものをすべて取り込んだ排他的ではない新たな組織体を作っていきたいですね。包容力のある「ワンエクイニクス」というものを目指すつもりです。

 その一方で、「闘争心」を持つことも徹底したいと考えています。企業はあくまでも競争しているわけですから、ここで勝っていくことが大切です。これはけんかをするとか、相手を否定するというものではなく、正々堂々と勝ちにいく戦略を立てて、それを実行していくことに挑みたい。この意識を持つという点では、日本人が弱いところでもあります。

 私は、今年4月に入社した新入社員に対しては、変化に強くなること、常に頭を活性化させておくこと、そして、闘争心を持つことを話しました。企業が置かれた立場は大きく変化します。いま、最も勢いがある企業が30年後には無くなってしまうことも考えられます。

 それは過去の歴史でも同じでした。鉱山がエネルギー産業を牛耳っていた時代がありましたが、その会社はすでにありません。しかも、その時代よりも、いまは変化が大きい。これまで以上に変化に強い人になり、会社にならなくてはいけません。また、落語には、三題噺(ばなし)というのがあるのですが、それを出題されたときに、すぐに対応できるように落語家は常にトレーニングしています。それと同じように、常に頭を活性化し、変化や課題に対応できるようにしておかなくては生き残れません。

 私は、この20年ほどが、むしろ過剰に変化が少ない30年だったのではないかと思っています。そのしわ寄せがこれから一気に出るのかしれません。そうした時代に生き残り、成長することができる人材もエクイニクス・ジャパンから育てていきたいですね。