クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

ハイパースケール向けDCでコロケーションも提供 MCデジタル・リアルティのNRT10

ハイパースケーラーが入っているデータセンターは、通常なかなか見せてもらえない。しかし、新規に作ったばかりでまだ本格稼働が始まる前ということで、MCデジタル・リアルティ(以下、MCDR)のNRT10の内部を見せてもらうことができた。デジタル・リアルティといえばハイパースケーラー向けというイメージだが、新しいNRT10では一般企業のコロケーションも受け入れる。 text:柏木恵子
NRT10の外観

首都圏に2拠点目のハイパースケール向けDC

 MCDRは、三菱商事と米国Digital Realty Trust Inc.の折半合弁会社として、2017年9月に設立された。首都圏に2カ所、関西に1カ所のキャンパスを持ち、現在合計6棟を運用している。

 2021年9月に開設したNRT10は、データセンターの集積地として知られる千葉県印西市にある。この「NRT」は成田空港の空港コードだが、MCDRでは海外の顧客が多いことから、首都圏・関西ともに近隣の国際空港のコードをデータセンターの名称として使っている。周囲には共同溝が整備されていて電力や通信ケーブルを埋設で引き込めるが、MCDRではこれが用地選定の条件のひとつという。

 建物は地上5階建てで建物免震。積層ゴムとダンパーというごく一般的な設備だが、地下の免震ピットは高さがあり広いことが目を引いた。

免震装置

 入館は24時間365日の有人受付で、事前申請し、窓口で顔と静脈を登録すると、顔写真付きのICカードが発行される。

有人受付窓口

 日本のデータセンターの多くは、共連れ防止のセキュリティゲートとしてフラッパーゲートを設置している。「進入禁止」と書いてあれば不足はないが、できるかできないかで言えば、無理やり飛び越えることは可能だ。しかし、グローバルで統一デザインのハイパースケーラー向けデータセンターは、それが「物理的に不可能」な設計のサークルゲートを採用している。NRT10も、デジタル・リアルティの共通デザインのセキュリティゲートだ。

セキュリティゲート

 建物自体の特徴としては、ラックにサーバーを搭載した状態で搬入されることが多いため、搬入時にできるだけ直線移動できる作りになっている。エレベーターも大型で、建物の入り口側とデータホール側の2面で出入りできる。

 また、ハイパースケール用のデータセンターということで、供給電力量が大きいのが特徴。サーバー用電源容量38MWは、MCDRのデータセンターの中で最大という(受電容量50MW)。受変電設備は、異なるフロアにA系とB系を配置して冗長構成をとっている。非常用発電機は敷地外縁部に配置されているが、防音壁で囲まれているため、前を通っても見えない。

ハイパースケール向け建物でコロケーションも提供

 延床面積は37850㎡で、地上5階建てのうち、データホールが入るのは4フロア。1フロアを4室に区切り、最上階のみ設備スペースがあるため2室、合計14室ある。ケーブル類はラック上部のラダーに収める仕様で、データホールにフリーアクセスはない。部屋が広くラック列が長くとれる、高集積のハイパースケーラー向けの作りになっている。

データホール

 データホールのうち、一部はコロケーションエリアとして一般のエンタープライズにも提供する。ラックサイズについてはカスタマイズが可能で、フルラック、ハーフラック、1/4ラックの他、ケージも提供する。

コロケーション用のラック

 データホールへの入室やラックの鍵をキーボックスから出すためには、ICカードや生体認証によるセキュリティチェックを行う。保守ベンダーなどラック契約者以外が開ける場合は、MCDRのリモートハンズのスタッフが開けるという運用になっている。

 北米地域の大規模データセンターで使用される標準的な配電システムは、277V/480Vの三相電力システム。ハイパースケーラーは日本国内でもこの配電システムでの提供を求めるため、NRT10のデータホールには海外製の配電盤が設置されている。単相200Vや日本で一般的な単相100Vも提供できるよう見慣れたキャビネットもあるが、並べてみると一回り小さく、スペースを有効活用できるのもメリットになる。デザインもブルーとグレーを基調にした、スタイリッシュなものだ。

海外製の配電盤は国内で一般的な物より一回り小さい

 ラックに提供される電力は、平均で実効10kWと、コロケーションでも高集積で電力をたくさん使う場合に競争力がある。

壁面からの横吹空調、ネットワークはキャリアニュートラル

 空調は、ホットアイルコンテインメントで、壁面からの横吹である。暖まった空気は天井に抜けて、空調機械室に戻る仕組み。床下から冷気を吹き上げるのに比べて、物理的に効率がよく、長いラック列でも奥まで冷やせる。

壁面空調

 ネットワークはキャリアニュートラルで、敷地内には3カ所から入線している。異経路、複数キャリアによる冗長化が可能。外から2カ所のPOPルーム(MDF室)へのケーブルや、POPルームからデータホールのミートミールームへのケーブルはケーブリング配管の中を通し、外からは見えないようになっている。

 POPルームとミートミールームはあらかじめ光ファイバーでケーブリング済みなので、ネットワークの開通に物理的な工事は必要ない。使いたいキャリアを指定してミートミールームで接続設定すれば、2営業日を待たずに利用開始となる。

 データホール内では、天井から吊られているケーブルラダーやファイバーガイドにすべてのケーブルを収める。通信キャリアがデータホール内で作業することはなく、MCDRのリモートハンドチームだけが配線や設定を行う。抜線の事故などを防ぐため、ラックへのケーブルなど単線のものはガイドに収め、きちんと整理している。

ケーブルラダーとケーブルガイド

 また、通信キャリアの各種回線サービスやインターネット回線サービスの他、以下のようなサービスを提供している。

・クロスコネクト
 構内やキャンパス内を接続する相互接続。

・サービスエクスチェンジ
 NRT10内のMegaportのスイッチを経由して、MCDRの海外拠点や他社データセンター、各種クラウドサービスなどと接続するDC間接続。

・メトロコネクト
 NRT10のコロケーションサービスローンチに合わせて、NRTとKIX(大阪キャンパス)で同時にローンチした、クロスコネクトと同程度の費用感で東京・大阪中心部のDCに接続が可能なサービス。NRTから豊洲、KIXから堂島への接続を、100Mbpsから100Gbpsの帯域で提供し、冗長ルートの利用が可能。

メトロコネクト

その他のサービス

 設備監視は、24時間365日の体制で行っている。オペレーション室はNRT10内の他大阪のKIXにもあり、グローバルコマンドセンターが米国にある。東京が夜間でも米国は昼間なので、リモート監視が途切れることはない。オペレーション室にはリモートハンドのスタッフも常駐しており、24時間365日で対応する。

 また、データセンターにしては広い休憩室があり、利用者が軽食をとることやコーヒーを飲むことが可能。内装はカフェ風なしつらえとなっている。

休憩室

コロケーションはこんなニーズにお勧め

 NRT10のコロケーションを利用するのに適しているのは、例えば以下のような場合と考えられる。

①ハイパースケールのクラウドと接続してハイブリッドクラウドで利用したい

 大手クラウド事業者が入るデータセンターの中に自社のサーバーを置くことで、構内配線でハイブリッドクラウドが実現できる。もちろん、サービスエクスチェンジを使えば他のロケーションにあるクラウドとの接続も可能。

②HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)で利用したい

 供給電力が大きいため、スパコンやHPCでもスペース効率よくラック利用できる。実際に、先にコロケーション提供を始めていたKIXでは、HPCのパブリッククラウドを提供するエクストリーム-Dという企業が入っている。

③古いサーバーをコンソリデーションして高密度化したい

 業種業態を選ばないのが、サーバーの集約。高性能で電力効率のいい新しいサーバーに移行したいが、実はラック当たりの供給電力のせいでスペース削減できないというケースもある。NRT10のコロケーションなら、ラックにサーバーをギチギチに詰め込んでも問題ない。

 印西は、強固な地盤や水害リスクが少ないことは周知で、そのため多くのデータセンターが集まっている。このため、電力インフラも整備された。さらに、土地に余裕があることから、拡張性が担保できる。ハイパースケーラーにとって、需要の伸びに合わせて遅滞なく拡張できることは、データセンター選定のうえで重要なポイントとなる。

 NRTキャンパスでも、近隣に既にデータセンター用地を取得しており、周辺一帯に100MW超のデータセンターキャンパスを構築する計画だ。首都圏で、自社でもハイパースケールクオリティのデータセンターを使いたいという場合は、検討するといいだろう。

MCDR NRT10データセンター設備概要
所在地千葉県印西市
開設2021年9月
建物仕様 構造鉄骨造
     階数地上5階
     延床面積37,850㎡
     床荷重データホール(サーバールーム)標準仕様2,000kg/㎡
     免震構造積層ゴム+ダンパーによる建物免震
受電設備本線予備線受電
非常用電源設備ガスタービン発電機(N+1)、48時間無給油運転可能、A重油緊急供給契約
UPSブロック冗長方式
空調設備横吹き空調、冗長構成N+2
火災対策設備N2ガス消火、超高感度煙検知設備
認証方法生体認証×カードリーダ×物理鍵を組み合わせたセキュリティ設計
その他セキュリティ24時間有人監視、受付、警備
ラック供給電力8~9kW/ラック
ネットワークキャリアニュートラル、クロスコネクト、キャンパスコネクト、インターネット接続、サービスエクスチェンジサービスエクスチェンジ(powered by Megaport)(DC間/クラウド接続)
その他サービス24時間/365日リモートハンドサービス、会議室、休憩室