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顧客のシステム主権の確保を支援したい――、NTTデータ、KVMベースの仮想化基盤管理サービス「Prossione Virtualization 1.0」を提供開始
2025年8月6日 06:00
NTTデータは7月31日、オープンソースソフトウェア「KVM(Kernel-based Virtualization Machine)」をベースにした仮想化基盤管理サービス「Prossione Virtualization 1.0」の提供を開始した。
同サービスに関しては、すでに2025年3月に提供方針が明らかにされていたが、約4カ月の準備期間を経ての一般提供開始となる。
NTTデータ 執行役員 テクノロジーコンサルティング事業本部長 新谷哲也氏は「3月にProssione Virtualizationの方針を説明後、非常に多くの顧客/パートナー企業から反響をいただき、あらためて仮想化基盤を自国/自社で管理したいというニーズがあることを確信した。また、システム主権の確保を求める流れからオープンソースの仮想化基盤であるKVMへの注目度が高まっている。Prossione Virtualizationの提供を通して、仮想化基盤における顧客の選択肢を増やしていきたい」と語り、急速に変化する仮想化基盤市場において一定のシェア確保を狙っていく。
3月の発表内容にもあった通り、Prossione VirtualizationはKVMをベースにした仮想化基盤環境の管理/運用をサブスクリプションで提供するサービス。今回発表されたProssione Virtualization 1.0では、コアとなる仮想化基盤管理ソフトウェア「Prossione Virtualization Manager」にドキュメントへのアクセスとプロダクトサポートを加えたメニューが提供される。
メニューは、NTTデータが提供する「Prossione Virtualizationサブスクリプション」(90万円/台/年から)と、パートナー企業のサイバートラストがAlmaLinux OSサポートサービスを付加して提供する「Prossione Virtualizationサブスクリプション with AlmaLinux」(96万円/台/年)の2種類が用意されており、サイバートラストは2025年秋から提供を開始する予定。また、オプションメニューとしてシステムインテグレーションやトレーニングなども用意されている。
NTTデータ ソリューション事業本部 OSSソリューション統括部長 濱野賢一朗氏はProssione Virtualization 1.0の特徴について「仮想化基盤管理サービスとして、ユーザーが欲しいと思う機能を凝縮したエントリーレベルのサービス」と表現する。
本サービスは、ユーザーがすでに自前で構築済みのLinux(現時点の対応OSはRed Hat Enterprise Linuxのみ)およびKVM仮想化基盤環境上に、ホストサーバー用の「PVM Agent」、管理サーバー用の「PVM Controller」というコンポーネントをインストールすることで仮想化基盤の管理/運用に必要な操作を実行する。
バージョン1.0で利用できる機能は「複数のホストサーバーや仮想マシンを単一の画面から直感的に管理」「ライブマイグレーションなどホストサーバー/仮想マシンの運用作業を簡易化」といった仮想化基盤管理の基本機能を一元的かつ容易に実行することに特化しており、仮想マシンの高可用性実現や既存の仮想化基盤からのデータ移行、ストレージ/ネットワークの管理などは、2026年春以降に予定されている「Prossione Virtualization 2.0」での提供を予定しているという。
「今回のバージョン1.0では仮想化基盤管理のベーシックな部分に特化したが、仮想化基盤管理サービスとしてより多くの機能を市場が求めていることは十分に理解している。バージョン1.0は、物理サーバー3台程度の小規模な環境ながらKVMの基本機能をしっかりと使い込んでいる企業、あるいは大規模な仮想化環境を構築しているが、昨今のインフラ事情でコストが見合わなくなり、移行先を検討している企業などをターゲットに想定している。まずはこちら(バージョン1.0)で様子を見ながら検討してもらい、バージョン2.0以降では既存の仮想化基盤からの移行などの要望にも応えていきたい」(濱野氏)。
“VMwareオルタナティブ”のニーズに応える選択肢のひとつ
「現行の仮想化基盤の維持コストが激変し、システム更改を検討しているが選択肢がない、だから一緒に考えてほしい――。そういう顧客の声を、業種・業界を問わずたくさん聞いてきた。そうした悩みを抱える顧客に対し、まずは仮想化基盤管理製品として使える選択肢を我々が提供し、様子を見ながら検討してもらいたいと考えている」。NTTデータがProssione Virtualizationの開発を進めてきた背景を、濱野氏はこう説明する。
周知の通り、BroadcomによるVMware買収と、それに伴うVMware製品の大幅な値上げにより、日本を含めた世界中の多くの企業が自社のインフラ基盤を見直さざるを得ない状況に追い込まれており、現在も2、3年後のVMware製品の契約更改時期を見据えながら別環境への移行(またはVMware製品の継続利用)の検討を続けている企業は少なくない。
Prossione Virtualizationはそうした“VMwareオルタナティブ”のニーズに応える選択肢のひとつであり、新谷氏は「個人的な願望」と前置きしながらも、「将来的には国内における仮想化基盤市場で最低でも20%くらいは獲得したい」とシェア獲得に強い意欲を見せる。
もっとも、現在の仮想化基盤市場はVMwareからの移行をターゲットにしたNutanixやRed Hat、またはオンプレミス環境そのもののパブリッククラウド移行を推奨するハイパースケーラーなど数多くの競合がひしめいている。
そうしたなかでProssione Virtualizationの競合優位性としてNTTデータが強調するのが「システム主権(ソブリンティ)の確保」と「KVMを含むオープンソース開発/サポートの体制」だ。世界情勢が激しく変化する現在、多くの日本企業がシステム基盤の継続的利用に関するリスクに直面しているが、日本のシステムインテグレータであるNTTデータの仮想化基盤管理サービスを利用することにより、日本企業は「重要なインフラを自国/自社でコントロールする」というシステム主権の確保に近づくことになる。
また、システム主権の確保にあたってはソフトウェアの透明性確保のため、オープンソースの利用が推奨されるケースが多いが、新谷氏は「NTTデータはKVMを使ったシステムを国内外の顧客に多数提供してきており、金融機関など長く使い続けないといけないシステムで数万VMを安定して運用してきた実績がある。また、NTTグループにはKVMを含むさまざまなオープンソースのコミッターが数多く在籍しており、オープンソースに関する深い知見と経験を生かしたサポートやナレッジを提供できる」と、オープンソース開発/サポート体制が充実している点をあらためて強調する。
「仮想化基盤ソフトウェアとしてのKVMは高い評価を得ているが、実際にユーザー企業がKVM環境を自力で構築することは簡単ではなく、高度なスキルを要する。KVMを使いたいが自力では難しいという企業にとって、オープンソースの実績が豊富なNTTデータが提供するProssione Virtualizationはひとつの選択肢となりうると考えている」(濱野氏)。
しかし、前述の濱野氏の言葉にもあるように、今回リリースされたProssione Virtualization 1.0は、仮想化基盤管理サービスとしては機能的にもサポート的にも“エントリーレベル”の段階にある。例えばバージョン1.0では、ユーザー側が仮想化環境(RHEL + KVM)とProssione Virtualizationを別々に調達し、それぞれのライフサイクルを管理する必要がある。
濱野氏は「こうした不便な状態はNTTデータとしてもなんとかして解決したいと思っている」とコメントしているが、今回同時に発表されたサイバートラスト提供の「Prossione Virtualizationサブスクリプション with AlmaLinux」は、そうしたユーザー側の運用負荷を軽減するためのパートナーソリューションと位置づけられる。
NTTデータは2026年春リリース予定のProssione Virtualization 2.0までに、サポートする機能の拡充とともにパートナーシステムの強化も進めていきたいとしており、特にサイバートラストのように、オープンソースで実績のあるパートナーとの連携は大いに期待されるところだ。2026年以降、国内でもより本格化すると見られる仮想化基盤の移行ニーズに日本のインテグレータとして応えていくためにも、仮想化基盤管理の基本機能に特化したProssione Virtualization 1.0は重要な試金石となりそうだ。