ニュース

リコーの2025年度上期連結業績、オフィスサービスの成長と経費コントロールの継続で増収増益を達成

 株式会社リコーが発表した2025年度(2025年4月~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比1.7%増の1兆2224億円、営業利益が同420.6%増の354億円、税引前利益は同184.1%増の374億円、当期純利益は同165.2%増の245億円の増収増益となり、増収増益だった。

連結損益計算書

 リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏は、「米国関税政策や、欧州を中心とした海外の景況が低迷するなか、オフィスサービスの成長と経費コントロールを継続したことで、増収増益を達成した。営業利益では想定よりも100億円上振れしている」と総括。「前年同期には、一過性のマイナス要因があったが、それを除いても増益になっている」と補足した。

リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏

 米国関税影響は44億円(第1四半期で8億円、第2四半期で36億円)のマイナス影響があったという。「中国生産品の一部については、タイ、マレーシアに移管が完了し、量産を開始している。また、生産国や競合環境を考慮し、価格転嫁や販売促進策を実施している。米国関税政策の影響は引き続き注視し、事業環境の変化に応じた必要な対応を機動的に実施していく」という。

セグメント別の業績

 セグメント別では、リコーデジタルサービスの売上高が前年同期比1.8%増の9398億円、営業利益は前年同期から87億円増の117億円となった。

 「オフィスプリンティングは、日本ではハードの台数増加や売価マネジメントの効果により計画を達成。A4 MFPのポートフォリオを強化したことによって、一括案件の獲得数が増加し、A3 MFP案件の獲得にも寄与している。だが、欧州は景況の低迷、米州は第2四半期に米国関税政策の影響を受けた。ITサービスは、PCのリプレースにあわせて、サービス・サポート契約を獲得し、いい数字を出している。セキュリティや働き方改革関連の需要が強いのに加えて、自治体向けソリューションが伸長している。アプリケーションサービスでは、Microsoft 365やストレージサービスなどの情報系アプリが好調に推移し、RICOH kintone plusの契約数および顧客数も順調に増加している」という。

リコーデジタルサービスの概況

 オフィスサービスでは、日本におけるストック売上の成長が加速。また、ワークプレイス一元管理ソリューション「RICOH Spaces」の提案、RICOHオンプレLLMスターターキットの発売によるAIソリューションの強化、欧州でのDocuWareの販売体制の増強、子会社化した独natif.aiによるAIの強化のほか、これらを他地域に展開したことが功を奏しているという。

 「オフィスサービスのストック売上高は2025年度には3800億円を目指していたが、2024年度にこれを達成している。2025年度上期実績は、前年同期比5%増の2001億円であり、2025年度通期では4000億円を超え、さらに高めることで、2026年度以降の利益につなげる」と述べた。

 日本におけるオフィスサービスの売上高は前年同期比23.2%増の2520億円である。また、スクラムシリーズの合計では、前年同期比29%増の1054億円。そのうち、スクラムアセットは同45%増の655億円、スクラムパッケージは同9%増の399億円。スクラムパッケージの販売本数は同14%増の4万9529本となった。

リコーデジタルサービス オフィスサービスの概況(日本)

 欧州のオフィスサービスの売上高は、前年同期比3.5%減の1216億円。「スペイン、イタリアでITサービスが伸び、買収したアイルランドのPFHも好調である。また、DocuWareのクラウドサービスが牽引し、natif.aiも貢献している。だが、注力したいと考えているワークプレイスエクスペリエンス(WE)が、先行き不透明感から投資の様子見が継続し、減収となっている」という。

 米州のオフィスサービスの売上高は前年同期比1.6%減の835億円となった。為替を除くと実質では増収だが、関税影響などによる先行き不透明感から投資の様子見が続いているという。

リコーデジタルサービス オフィスサービスの概況(欧州)
リコーデジタルサービス オフィスサービスの概況(米州)

 リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年同期比24.6%増の802億円、営業利益が前年同期から33億円増の173億円。米国関税政策対応等での生産量変動はあったが、上期は計画通りの進捗だったという。また、リコーと東芝テックによる合弁会社としてスタートした複合機の生産会社であるエトリアは、2025年10月から、沖電気工業(OKI)が参画。プロジェクトは着実に進展していると説明した。

 「エトリアの効果がしっかりと出始めている。開発や拠点戦略では前倒しで施策を実行している。新たにOKIのLED技術を活用することで、小型、軽量、低騒音のメリットを取り込み、エンジンをさらに強化していく。トナーの品種統合も進めており、将来のエトリアの収益に貢献することになる」と語った。

リコーデジタルプロダクツの概況

 リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年同期比5.6%減の1323億円、営業利益は49億円減の58億円。商用印刷および産業印刷ともに、主力となる米国市場において設備投資が弱含みとなったことが影響した。欧州や日本は想定並みで推移したという。

 リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年同期比11.2%減の510億円、営業利益は前年同期から31億円増加し12億円の黒字に転換した。サーマルが、米国で関税政策などによる物流需要減の影響が続いており減収となった。欧州は価格対応製品の投入策が貢献して増収。日本は剥離紙レスラベルが好調だったという。産業プロダクツでは、オプティカル事業譲渡の影響を除くと売上は前年並みになったという。

 そのほかでは、売上高が前年同期比12.9%増の189億円、営業損失は前年同期から26億円改善したが、マイナス2億円の赤字となった。カメラ事業が新製品の貢献によって好調だったという。

 一方、2025年度(2025年4月~2026年3月)通期業績見通しは据え置き、売上高は前年比1.3%増の2兆5600億円、営業利益は同25.3%増の800億円、税引前利益は同17.0%増の820億円、当期純利益は同22.5%増の560億円。「期初に掲げた営業利益800億円は、何が何でもやり切る」と述べた。

FY2025見通し<主要指標>

 なお、セグメント別では、上期の為替影響の増益を反映したリコーデジタルプロダクツが上方修正。米国関税影響によって、リコーグラフィックコミュニケーションズは下方修正。リコーデジタルサービスも関税影響の項目変更で営業利益だけ下方修正した。

企業価値向上プロジェクトの進捗を説明

 このほか決算説明会では、リコーの大山晃社長 CEOが、「企業価値向上プロジェクト」の進捗状況について説明した。

リコー 代表取締役 社長執行役員 CEOの大山晃氏

 リコーでは、デジタルサービスの会社へのシフトを進めており、その取り組みを5つの領域から解説している。

 1つめの「オフィスプリンティング」では、市場全体の縮小が進むなか、収益力の強化を進める姿勢をあらためて強調。エトリアを通じて、エンジンにおける市場シェアの拡大、それに伴う消耗品の拡大に取り組んでいるほか、「リコー、東芝テック、OKIの3社の技術を組み合わせたゼロベースの新規エンジンを開発するステージにいよいよ入ってきた」と発言。「効率化や競争力がこれまでとは格段に違ってくる」と自信を見せた。また、PFUのスキャナーを搭載した複合機を発売しており、新たなソリューションの提供につながっていることも示した。

オフィスプリンティング領域の成果

 2つめの「オフィスサービス」では、グローバルの顧客接点を生かして、ストック収益を積み上げていく方針を継続。2024年度には、2022年度よりも282億円の利益増となっていることを示しながら、「ストック収益をさらに積み上げていく一方で、アイルランドのPFHや、DocuWareに接続できるnatif.aiの成長が貢献している。日本においては、AI分野での顧客価値創造を強化する。図表や非定型データが入り混じった日本語ドキュメントを読み解きたい、あるいは機微な情報をオンプレミスで安全に扱いたいといったニーズに対応したLLMを、リコーの技術によって提供していく」と語った。

オフィスサービス領域の成果

 3つめの「商用・産業印刷」では、画像、印刷、インクジェットヘッドなど、リコーが持つ既存技術を生かして、アナログからデジタルへのシフトを支援。「デジタル化の動きをとらえた商品ラインアップの強化とともに、新機種の開発にも投資を行っている。いくつかのセグメントではトップシェアを獲得し、2024年度の利益は、2022年度と比較して、86億円増加している。2026年度以降は、これまで行ってきた新機種への開発投資を回収することになる」と語った。

商用・産業印刷領域の成果

 また、4つめとして、「機能する印刷の提供価値拡大」を挙げ、インクジェット印刷を紙以外の領域に活用。具体的には、ペロブスカイト太陽電池に活用し、同太陽電池の生産性を高めるとともに、形状の自由度を支援することができるという。

 さらに、「新たな領域に、新たなサービスで価値提供」を行う領域として、リコーが持つマルチモーダルLLMの技術を生かして、「GENIAC」の開発プロジェクトに参画。「ここで開発したエンジンは無償公開するため、より多くの顧客との接点を生み出すことにつながる」とした。

新規の領域の取り組み

 なお、「企業価値向上プロジェクト」は、2025年度上期だけで182億円の効果を創出し、「想定通りの効果を出している。事業の選択と集中の施策が着実に進捗しており、2つ事業を売却し、1つの事業を終息した。今後も継続して取り組む」(リコーの川口CFO)と述べた。

 リコーは、2025年11月5日に、米国でのマネージドITサービスの売却を発表している。「米国ではこの事業を継続することにメリットがないと判断した。この資源をほかに生かしていく」としている。

 リコーの大山社長 CEOは、これまでの取り組みを振り返り、「コロナ禍で、プリントボリュームのベースが大きく下がり、コロナ後も、それが回復する気配はなく、むしろ減少している。この状況に対応するために、中期経営計画には入っていなかった企業価値向上プロジェクトを開始した。固定費の圧縮だけでなく、事業の選択と集中を進め、リソースを成長領域にシフトし、そこで利益成長を加速させることを目指した」とした。

 その上で、「残っている課題もいくつかある。中期経営計画では、想定していたROEの目標には至らなかった。また、オフィスプリンティングの落ち込みを補完する事業基盤の構築も道半ばである。オフィスサービスの収益は伸びているが、まだ目指した水準には届いていない。ストック収益の積み上げを、より加速していく必要がある。さらに、グローバルで標準化を進め、利益性を高めること、買収した企業とのシナジー効果も追求する」と語った。

 また、「いまは、魅力的なA4 MFPを投入することができているが、もう少し早く投入したかったという反省がある。A3 MFPとA4 MFPのミックス商談が多く、勝率を上げきれなかった。また、A4 MFPを必要とする代理店チャネルでの競争力を高めることができなかった。エトリアの新たな共通エンジンによって、これから巻き返していく」としたほか、「米国関税への対応のほか、デフレが続いていた日本市場においては、インフレにあわせた基本動作に変えていく必要がある」とも指摘した。

現中期経営戦略における残課題

 さらに、大山社長 CEOは、「2026年度以降は、ROEの改善に確実に取り組む」とし、次期中期経営計画の方向性についても言及。

 「オフィスサービスは事業成長と収益性の向上を両立する。収益性の高いストックの積み上げを加速し、グローバル標準サービスの展開、収益性が高い自社ソフトウェア事業の強化を進める。また、オフィスプリンティングでは、エトリアの競争力強化、シェア拡大、効率化、消耗品ビジネスの拡大、チャネル戦略の見直しも図る。商用・産業印刷では、収益性が高いハイセグメント機、カラー連帳機の市場稼働率を高め、新製品への開発投資のリターンを獲得する」という。

 効率を重視した体制への見直し、資産の圧縮を行い、継続的なコスト削減、体制改革により、構造改革を次のステージへ進める考えも示した。

 加えて、オフィスプロダクトにおける生産設備を持ったビジネスから、オフィスサービスによるアセットライト経営へとシフト。ROIC経営のさらなる強化、株主還元の推進にも取り組むという。

 「中期経営計画は、当初の目標には届かなかったが、次期中期経営計画では、資本収益率の改善に向けて、確実に取り組んでいく」と宣言した。

持続的な企業価値向上に向けて