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日本企業が主権を確保できる仮想化基盤を――、NTTデータ、KVMベースの仮想化基盤サービス「Prossione Virtualization」を提供開始

 株式会社NTTデータグループは12日、オープンソースの仮想化ソフトウェア「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」をベースにした仮想化基盤のマネージドサービス「Prossione Virtualization」の提供開始を発表した。

NTTデータグループが発表した仮想化基盤管理のマネージドサービス「Prossione Virtualization」の概要。ハイパーバイザーにオープンソースのKVMを採用し、そのサポートを同社のオープンソースエキスパートが担当する。提供開始は7月から

 NTTデータ 取締役常務執行役員 テクノロジーコンサルティング & ソリューション分野担当 冨安寛氏は「日本のシステムは可能な限り日本人の手で守りたい、データやシステムの主権(ソブリンティ)は自社で確保したい、というニーズに応えられる安定したシステム基盤を長期的に提供したい」と語っており、VMwareに代わる仮想化基盤を検討中の企業をターゲットに、2025年7月から顧客へのサービス提供を開始する。

NTTデータ 取締役常務執行役員 テクノロジーコンサルティング & ソリューション分野担当 冨安寛氏

 Prossione Virtualizationは、KVMを活用した仮想化起案を管理/運用するNTTデータのプロダクト「Prossione Virtualization Manager」をサブスクリプションで提供するサービス。Prossione Virtualization Managerの利用ライセンスに加え、ナレッジドキュメント、サポート(技術問い合わせ対応)が含まれる。

 現時点では提供価格は非公開(別途問い合わせ)となっているが、NTTデータグループ 技術革新統括本部 プリンシパル・エンジニアリングマネージャ 濱野賢一朗氏は「提供開始の7月近くになれば、価格やライセンス体系についてもう少し詳細を説明できるかと思う。市場の動向にもよるが、オープンソースのメリットを生かした、手を出しやすいリーズナブルな価格帯で提供したいという思いはもちろんある」とコメントしている。

NTTデータグループ 技術革新統括本部 プリンシパル・エンジニアリングマネージャ 濱野賢一朗氏

 濱野氏によれば現在、NTTデータグループ内で社内基幹ネットワークなどへのProssione Virtualization Managerの適用を進めており、7月のサービスローンチまでに機能やサービスメニューを固めていく予定だ。

自国/自社でコントロール可能なシステム基盤を提供する

 BroadcomによるVMware買収と、それに伴うライセンス体系の大幅な変更(永続ライセンスの廃止、サブスクリプション契約への移行、4種類のみのライセンスメニューなど)、値上げを受け、VMwareにオンプレミスの仮想化基盤を依存していた企業の多くが、次のシステム更改に向けてなんらかの見直しを検討しているといわれている。

 冨安氏は「日本企業にシステムインテグレーションを提供している企業として、買収という外的要因で日本企業のシステム基盤の主権が揺らいでしまうのはよくないと考えている」と語り、経済安全保障の観点からも自国/自社でコントロール可能なシステム基盤が必要という認識をあらためて示している。

 NTTデータは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといったパブリッククラウドのパートナー企業である一方、同社自身が開発/運用するコミュニティクラウドサービス「OpenCanvas」を提供しているが、Prossione Virtualizationはそのオンプレミス/仮想化基盤バージョンといえる。プロプライエタリ製品のインテグレーションとは別に、同社が開発/運用する仮想化基盤のマネージドサービスを提供することで、日本企業によるシステム主権の確保を推進していきたい構えだ。

NTTデータが主張する、“主権(ソブリンティ)”を確保したシステム基盤の重要性。同社は外資系パブリッククラウドやVMware製品の提供も行う一方で、同社自身が開発/運用するシステム基盤を提供していく

 Prossione VirtualizationのコアテクノロジーであるKVMは、VMwareからの移行先候補としてよく名前が挙がるソリューションのひとつだ。オープンソースで透明性が高く、ベンダーロックインの影響を受けないというメリットがあるが、開発/運用に高度な専門スキルが求められることから、エンタープライズでの導入実績はこれまであまり多くなかった。

 Prossione VirtualizationはこのKVMの導入障壁を解消するためのサービスで、PostgreSQL(データベース)やOpenJDK(Java)などのオープンソースプロジェクトで数多くのスペシャリストを擁する、NTTデータならではのオファリングといえる。

 「KVMの開発/運用は(エンタープライズでは)難しいというのがこれまでの一般的な認識だったが、NTTデータにはKVMのコミッタも在籍しており、専門技術者によるプロダクトサポートを提供できる。KVMの運用に不安を覚えている企業にも安心してもらえるのでは。また、Prossione Virtualizationの提供を通して蓄積したKVMのノウハウやベストプラクティスはアップストリームのオープンソースコミュニティに還元していく」(濱野氏)。

NTTデータグループにはオープンソースのエキスパートが数多く在籍しており、専門組織も設置されている。運用に高度な専門スキルを求められるKVMに関してもすでにいくつかの案件で導入の経験があり、自社の基幹ネットワークの仮想化にも適用している

 具体的な顧客ターゲットとして濱野氏は「統合バンキングクラウドなどの大規模な仮想化基盤と、物理マシンが3台程度の小規模な仮想化基盤」の2つを挙げているが、NTTデータは自社システムにおけるKVMの適用に加えて、統合バンキングクラウドやJA業態の中継系システムといった金融業界のいくつかの案件でKVMの導入を進めている。スペシャリストによるサポート体制とKVM活用の経験値をもとに、オープンソースベースの安定した仮想化基盤の提供を目指す。

Prossione Virtualization Managementの特徴

 濱野氏は、Prossione Virtualizationの主要コンポーネントであるProssione Virtualization Managementの仮想化基盤管理/運用における特長として、以下の4点を挙げている。

1.ホストサーバー/仮想化マシンの一元管理
複数のホストサーバーや仮想マシンを一元的に管理、ストレージやネットワークの管理も集約、管理用のインターフェイスとしてWebベースのGUIと自動化に適したREST APIを提供、複数のゲストOSへの対応など

2.高度な運用作業の実現
仮想マシンやシステムを停止せずに別のホストサーバーへ移動(ライブマイグレーション)、ホストサーバーの構築/アップデートを一貫して実行、リソース利用状況の自動取得など

3.高可用性構成を標準的に実現
ホストサーバーの故障を検知後に仮想マシンを別ホストサーバー上で再起動(VM-HA)、本番や開発などの用途ごとにホストサーバーをグループ化、特定の仮想マシンによるリソース占有の回避など

4.継続的なソフトウェアアップデート
迅速なセキュリティアップデートや新機能の順次リリース、安定運用が重視されるユースケースにはメジャーバージョンごとの長期サポートオプションを提供予定

仮想化基盤管理製品としてのProssione Virtualization Managerの4つの特長

 これらの特長は、VMwareの仮想化製品群と比較して顧客の目にどう映るのか。濱野氏は「NTTデータは(Prossione Virtualizationでもって)仮想化基盤市場に参戦し、顧客に選択肢を提供する企業のひとつとなる」と明言する一方、「すでに市場にある既存製品(VMware vSphere)と同じものを目指したいとは思っていない」と語る。

 Prossione Virtualizationの競合サービスとなるVMware vSphereは、ハイパーバイザー(ESXi)だけでなく、管理プラットフォームのvCenterやライブマイグレーション機能のvMotionなど、ソリューション全体の完成度が非常に高い。

 これに対し濱野氏は「Prossione Virtualizationが想定している顧客は“システムの主権を自分たちで持ちたい”という企業。自分でシステムをコントロールしたいと願う企業に対して、彼らが使い続けたいと思うシステムをきちんと提供していきたい。もちろん、製品/サービスとしてのエクスペリエンスを高める努力は続けていく」としており、機能的にVMware製品群と同じレベルを目指すというよりも、プロプライエタリベンダーの都合に振り回されない、ユーザーが主権を確保できる仮想化基盤の提供が重要だと語る。

 今後の予定としては、7月のローンチに向けて仕様やサービスメニュー、価格体系を固めていくことに加え、2026年3月ごろに予定しているバージョン1.2がひとつの大きなマイルストーンになると濱野氏は語る。

 「(仮想マシンの可用性向上やデータ移行をサポートする)バージョン1.2をひとつの完成形とすると、バージョン1.0の完成度は75%ほど。今後はProssione Virtualization Managerの機能拡充に加え、(VMware環境など)既存の仮想化基盤からの移行支援ツールなども整備していきたい」(濱野氏)。

Prossione Virtualizationの製品ロードマップ。7月のバージョン1.0のローンチ後、徐々に機能を拡張し、2026年3月に予定しているバージョン1.2である程度の完成形となることを想定している

 BroadcomによるVMware買収完了直後の2023年12月、一方的とも言えるVMware製品のライセンス体系の変更が発表され、世界中の多くの企業が影響を受けた。もともと、仮想化基盤市場は成熟した市場でもあり、イノベーションが起こりにくく、新規参入が少ないこともあって、エンタープライズの約9割がVMwareに仮想化基盤を依存していたとされている。

 一方、VMwareのライセンス変更は多くの企業にあらためて自社システムの主権を考えさせるきっかけとなったことは疑いなく、日本においても今回のライセンス変更により、次の契約更改となる3年後、5年後を見据えた基幹システムの移行を検討している企業は少なくない。

 オープンソースに強みを持つNTTデータのソリューションが、システムの“主権奪還”を願う日本企業にとって魅力的な選択肢となるのか、これから数年をかけて証明していくことになる。

NTTデータグループがProssione Virtualizationの提供で目指すのは、KVMの導入障壁の解消と日本企業の主権確保。システム基盤製品として採用されるために、長期的に安定して運用できることを今後証明していく必要がある