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頑丈ノートPCで21年連続トップシェアを守るパナソニックコネクトの「タフブック」、そのコダワリを見る

 フィールドワーカーのためのPCとして開発されたのが、パナソニックコネクトのタフブック(TOUGHBOOK)である。1996年に第1号製品を発売して以来、頑丈設計にこだわり続け、製造現場や物流現場のほか、建設や医療・福祉、小売、保守サービスなどの現場、そして、警察や消防、鉄道でも活用されている。

 埃(ほこり)まみれ、泥まみれの過酷な現場を支えるPCとして、世界中から高い評価を得ており、頑丈ノートPC分野で21年連続世界ナンバーワンシェアという実績からも、それが裏づけられる。

タフブックの初号機となるCF-25

 パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部技術総括部 プロジェクトマネジメント総括担当の長畑伸治氏は、「現場の声を聞きながら、進化をさせてきたのがタフブック。現場で働くプロフェッショナルのための頑丈設計を追求してきた製品である」と自信をみせる。

 タフブックの頑丈に対するこだわりを追ってみた。

パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部技術総括部 プロジェクトマネジメント総括担当の長畑伸治氏

過酷な現場での長期使用を想定したPC

 タフブックは、過酷な現場での長期使用を想定して開発されたPCである。

 例えば、長年に渡って活用されている事例のひとつに警察がある。

 パトカーに搭載し、大きな揺れや高温になりやすい環境での長時間使用にも対応するPCとして採用されており、北米・欧州のほか、国内の警察でも導入実績がある。

 かつて米国ニュージャージー州の警察署を取材に訪れたことがあった。30台のパトカーすべてにタフブックを搭載。捜査現場では、免許証のデータベースなどにアクセスして、相手の名前と顔を確認したり、銀行強盗が発生した際には情報をすぐに共有したり、パトカーのなかで報告書を書いたり、といった使い方をしていることを教えてくれた。

 その際、タフブック以外のPCを導入していた時には、すぐに故障したり、修理に時間がかかっていたりしたことを引き合いに出しながら、「タフブックは、警察が求める過酷な条件に、耐えうる仕様になっている」とコメントしていたのが印象的だった。

警察での導入のほか、保守や点検などのさまざまな現場で利用されている

 タフブックは、そのほかにも、屋外での点検保守での使用や、物流業者のドライバーが集配業務などで日常的に使用するケースが多く、直射日光下での視認性の良さや、高い場所から落下しても壊れない頑丈性が評価されている。また、多様なオプションを利用して、用途に最適化した仕様にできるのも特徴で、サーマルカメラによって熱が高い場所を検知し、故障を発見するといった使い方も行われている。

オプションが数多く用意されており、用途に応じて搭載できる
オプションはスロットに入れ替えて使用できる

 パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部マーケティング部 グローバルマーケティング課の山川彩氏は、「現場の仕事に集中してもらうことができるプロフェッショナルのための仕事道具である」と、タフブックの役割を位置づける。

 これまでに全世界累計で700万台を出荷。自動車業界では上位10社中8社、電力会社では9社、ガス会社では7社が採用。消防局では上位30局のうち21局に導入されている。

パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部マーケティング部 グローバルマーケティング課の山川彩氏

 現在、タフブックには、頑丈ノートPCとして、12型ディスプレイを搭載した「CF-33」、14型ディスプレイを搭載した「FZ-40」、最新の頑丈タブレットである「FZ-G2」、頑丈ハンドヘルドの「FZ-N1」をラインアップしている。ノートPCとタブレットはWindows 11を搭載し、ハンドヘルドはAndroid 11を搭載している。

CF-33
FZ-40
FZ-N1

 2023年10月下旬から出荷を予定しているFZ-G2は、インテル第12世代CPUを搭載し、microSDカードスロットを新たに追加したモジュラー構造を採用。Wi-Fi 6Eに対応するなど、通信性能を拡充している。「大容量データを扱う現場のニーズに応えるとともに、マルチタスクでも高いパフォーマンスを発揮し、現場DXの実現を支援とするタブレットになる」(パナソニックコネクトの山川氏)とする。

FZ-G2

過酷な試験で頑丈性を確認

 頑丈性を高めるための試験も過酷だ。試験環境はモデルによって異なるが、耐衝撃性試験では、各面、辺、角の26方向において、120cm以上の高さから落下させる試験を実施。さらに、FZ-N1では、210cmの高さからコンクリートに対して、6方向の落下試験も行っている。

FZ-40は高さ180cmからの落下試験を行っている

 また、前後、左右、上下に1時間に渡って振動を与え続ける耐振動試験、PC内部を減圧して粉塵をかけ続ける防塵試験、全方位からジェット水流をかけ続ける防水試験、50℃からマイナス10℃という過酷な温度環境で動作させる耐高温/耐低温試験を実施している。米国防総省が定めるMIL規格に準拠するとともに、独自の試験によって、実際の現場での利用を想定したより高い水準での頑丈性を実現しており、こうした試験を繰り返すことで、過酷な現場業務を支えるデバイスを作り上げている。

防滴試験では1分間に1Lの水を3分間かけ続ける
耐振動試験は1時間に渡って振動を与え続ける

 「タフブックの性能は、現場の声が磨いたものである。利用者の生の声を反映して進化を遂げてきた」と、パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部技術総括部 プロジェクトマネジメント総括担当の長畑伸治氏は語る。

 水にぬれた手でタッチパネル画面を操作できるようにしたり、真夏の自動車のなかに放置しても稼働するようにしたり、雨の中でも利用できるように防水したりといった工夫が凝らされているが、これらもユーザーの声を反映して進化させたものだ。

 こんなエピソードもある。もともとタフブックには、黒基調のカラーしか用意されていなかったが、米国アリゾナ州の警察では、砂漠地帯で利用した際に、熱を吸収し筐体が熱くなってしまうという報告があった。そこで、その後の製品では、本体カラーをシルバー基調に変更したのだ。カラー変更ひとつをとっても、頑丈性の観点から検討が行われている。

 同社によると、実際の使用シーンをもとに顧客から得たフィードバックは、製品開発時のチェックリストとしてまとめられており、そのチェック数は1013項目にものぼるという。

 パナソニックコネクトの長畑氏は、「タフブックでは、300件以上の特許が使用されている。これにより、現場の仕事を止めず、安心・安全に長期間に渡って使えるPCを作り上げている」と、タフブックの頑丈性へのこだわりを強調する。

耐落下および耐振動対策

 タフブックの頑丈性へのこだわりをひとつずつ見ていこう。

 ひとつめは、耐落下および耐振動である。

 落下時に地面と当たりやすいコーナー部に緩衝材を用い、強度を確保するとともに薄型化を実現している。

 パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部技術総括部 タフブックプロジェクトマネージャーの松岡大輔氏は、「落下した際にはコーナー部に力が集中してしまうため、ここが衝撃に対して、最も脆(もろ)い部分になる。そこで、4つのコーナーには、樹脂のパーツの上に衝撃を吸収するラバーを独自の技術によって組み合わせている」という。

パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部技術総括部 タフブックプロジェクトマネージャーの松岡大輔氏
4つのコーナー部は樹脂パーツの上にラバーを組み合わせている
4つのコーナーに使用されているラバー

 また、コネクタ部にはフローティング構造を用いており、落下したり、車載時の振動が伝わったりした場合にも、コネクタ部がそれにあわせて動き、接続されているバッテリーなども微妙に移動して衝撃から保護しているという。

 「コネクタ部が固定されていると、落下時に接続されているバッテリーに負荷がかかり、損傷してしまう。フローティング構造により、落下時の接続の維持と損傷を防ぐことができる」(パナソニックコネクトの松岡氏)。

 コネクタ部は1mm程度動いて、振動を吸収する。「コネクタ部のフローティング構造にこだわりぬいた製品はタフブック以外にはない」と、パナソニックコネクトの長畑氏は胸を張る。

 フローティング構造は、ファーストバッテリーのコネクタだけでなく、セカンドバッテリーや各種オプションを追加できるポートでも採用している。

 さらに、バックフリップタイプと呼ばれるコネクタを採用している点も特徴だ。一般的に利用されているフロントフリップタイプに比べると、振動が発生した際に、FPC(フレキシブル基板)ケーブルがコネクタから外れにくい構造となっている。具体的には、FPCケーブルの反対側にレバーがあるため、FPCに振動が加わった際にも、ケーブルを押さえているレバーには振動の影響が伝わりにくく、外れづらくなる。現場で発生していた事象をもとに改良を加えて、たどり着いた構造だという。

 「コストは高くなるが、落下や振動への耐久性へのこだわりからバックフリップタイプを採用している。現場では落下が起こりやすいが、これらの取り組みにより、落下による故障が減り、修理にかかる時間とコストを低減することにつながる」(パナソニックコネクトの山川氏)という。

FZ-40の内部構造
フローティング構造のコネクタにバッテリーなどを接続した様子
コネクタ接続に採用しているバックフリップタイプ
形状を工夫するなど、液晶ディスプレイが割れにくくするための取り組みも行っている

耐水・耐温度対策、長期使用リスクへの対応

 2つめは、耐水および耐温度への取り組みだ。

 ここでは、DCジャックスライドカバーが挙げられる。

 DCジャック部の防水性や防塵性を高めるために、ゴムのカバーをつけるケースが一般的だが、長期使用しているとゴムのカバーが劣化してちぎれてしまうほか、ケーブル接続時には開けたカバーが邪魔になるといった不満が出ていた。

 「プラスチックのふたを付けるという仕組みもあったが、それでは開けた時にふたが邪魔になる。スライドさせる仕組みにしたことで、本体内にカバーが収まり、この課題も解決した。スライド方式にすると、防水状態を維持した組み立て精度が求められるが、自社工場で生産している強みを生かすとともに、組み立てたものは閉じた状態で光を当てて、防水性を検査してから出荷している」(パナソニックコネクトの松岡氏)という。

DCジャックスライドカバーの開閉時の様子

 もうひとつがシーリング設計である。筐体部の溝に、耐水や耐熱、経年劣化にも対応したシリコンを注入し、水漏れによる故障を防いでおり、長期間に渡る防水性を実現している。

 「シリコンの素材は、25年以上に渡る経験をもとに最適なものを採用している。生産工程ではボトムケースにシリコンを塗布。円形部分の急カーブや、高低差がある複雑な形状においても、一定の厚さとスピードで塗布できるロボットを自社工場内に導入している」(パナソニックコネクトの山川氏)という。

ロボットによりシーリング素材を塗布している様子
ふちに沿って複雑な形状で塗布されているのがわかる

 3つめは、長期使用リスクへの対応だ。

 例えば、I/Oポートは、水が入りやすく故障の原因になりやすいが、この部分にふたをするI/Oポートカバーを用意。樹脂のカバーの内側には、温度変化や摩擦に強いシートを採用し、カバーの開閉時に発生するコネクタの接触摩擦にも耐えられるように設計しているという。「高温下での使用や、長年の使用による摩擦によってシートが劣化すると、すき間ができて防水性が落ちてしまう。何度開閉しても、長期間使用しても、防水性が維持できる素材を採用している」(パナソニックコネクトの山川氏)という。

I/Oポートカバーで水が入りにくくしている
カバー部に使用しているシートは劣化しにくい素材を使用

 また、バッテリーの安全設計についても、タフブックならではのこだわりがある。

 タフブックで採用しているセーフティセル構造は、バッテリーセルが発火した際などに、類焼を防止する構造であり、ノートPCとしては珍しいものだ。バッテリーセルの間に防火バリアを配置しているため、バッテリーセルのひとつが発火した際に、隣のセルに火が移らないようにしており、火災の影響を最小化する。

 「バッテリーが延焼することで、大きな火災につながるリスクを、セーフティセル構造によって防ぐことができる。また、バッテリーを格納しているボトムケース部分には、スリットを用意している。通常時は、防水のためにシートで覆われているが、バッテリーが発火した際には、防水シートが溶けて、スリットが開き、発生した高温のガスを外に逃がし、類焼を防ぐことができる。特許を取得している仕組みである」(パナソニックコネクトの松岡氏)という。

 そのほかにも、バッテリーセルの電流、電圧、温度などを把握して異常状態を検出し、予測診断を行う自動予測モニタリング、バッテリーの劣化度合いに応じて充電電圧を制御するアクティブスマート充電技術などのソフトウェア面からの安全対策も行っている。

セーフティセル構造。セルの間に防火バリアを用意している
黒い防水シートで覆われている部分は発火すると溶けてスリットがあらわれる
ボトムケースのバッテリー部分のスリットの様子

軽量化とサステナブルへの取り組み

 頑丈性が優先されるため、軽量化の取り組みについては、あまり話題にはならないタフブックであるが、実はここにもこだわりがある。

 パナソニックコネクトの長畑氏は、「タフブックは、毎日、現場で持って使用する人が多いデバイス。軽量化は重要なテーマである」と前置きし、「頑丈ノートPCモデルでは、前世代モデルよりも、少しでも軽量化することを目指して開発しており、頑丈性を維持しながら、さらなる軽量化をクリアし続けている。タブレットも同じ方針であり、素材にマグネシウムを採用したり、不要な部分は薄くしたり、肉抜きを行ったりといった地道な努力をしているものの、高性能化に伴う放熱の課題、バッテリーの課題があり、軽量化への挑戦が難しくなっている。だが、タブレットも軽量化は重要なテーマとして取り組んでいる」という。

 頑丈ノートPCでは、従来モデルのCF-31から、現行モデルのCF-33への進化において、基本仕様で比較すると、約20%の軽量化を実現しているという。また、ハンドル形状も持ちやすく改良することで、持ち運びの際の利便性を高める努力も行っている。

軽量化のために肉抜きを行うといった取り組みも行っている

 一方、タフブックは、サステナブルの観点からも配慮しているという。

 生産拠点では、CO2排出量を32%削減したり、太陽光パネルの設置によって再生可能エネルギーを活用したりといった取り組みのほか、製品のCO2排出量を可視化して、利用する企業を支援。2023年度には、EPEATシルバーを取得する予定だという。さらに、タフブック特有のモジュラー構造により、必要な機能を追加できるため、本体を買い替えることなく用途にあわせた強化ができるほか、リサイクル面でも環境配慮に貢献ができると述べた。

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 先にも触れたように、タフブックは、顧客の声をもとに進化を続けてきた。

 その仕組みを構築している点も、タフブックの大きな特徴だといえる。

 日々の営業活動を通じて顧客の声を収集するだけでなく、サービス部門においては、CSパトロールと呼ぶ仕組みを採用。米国、カナダ、欧州でツアーを組んで、1週間の日程で、各地域の主要顧客をそれぞれ5~8社訪問し、使用状況の確認や不具合の発生状況、それへの対策方法などについての情報交換を定期的に実施しているという。

 また、各地域でイベントを開催し、新製品の紹介などを行いながら、不満点を聞いたり、改善ポイントを見つけ出したりといった活動を行っている。

 「新製品の開発時は、お客さまの要望を取り込むことができるチャンスでもある。開発チームを立ち上げた際には、企画、設計、営業が欧米のお客さまを訪問し、モックアップを持ち込みながら、意見を聞き、開発に生かすといった活動も行っている」(パナソニックコネクトの長畑氏)という。

 頑丈に特化したPCづくりは、こうした顧客との緊密な関係をベースに進められている。その地道な活動が、頑丈ノートPCで、21年連続トップシェアという実績を下支えしている。