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「AIファースト」戦略を展開する企業にとって、より重要になる「クラウドストレージサービス」の採用

 人工知能(AI)は、さまざまな業界のビジネスを変革する可能性を秘めた技術としてメディアをにぎわせています。企業からも、新たな事業機会を見いだし、業務効率と収益の向上に役立つ技術として、広く受け入れられるようになってきています。こうした効果は、AIが(最も基本的なレベルでは)、入力された情報を分析して「インテリジェント」なアウトプットを生み出すことによってもたらされます。

 AIは、データに依存しています。入力された情報を分析して、予測、プロセスの自動化などさまざまなタスクを実行するためのパターンを特定する機械学習アルゴリズムを訓練するには、大量の高品質なデータが必要です。つまり、各業界におけるAIアプリケーションの計り知れない影響力とその恩恵は、すべて、これらのシステムが利用できる情報次第と言えるのです。

 AIを訓練するために用いられるデータが完全であるほど、アウトプットの価値は高まります。Google DeepMind社の開発した囲碁AI「アルファ碁ゼロ(AlphaGo Zero)」は、超人的なレベルに到達するために、2,000万局もの自己対戦をしなければなりませんでした。しかし、予測の根拠となるデータがなければ、AIのアウトプットにも価値はありません。人間の思考と同様です。

 オープンAI社の生成AI「ChatGPT」は、ある程度のクオリティでシェイクスピアの「ソネット集」を書くことができます。その他のAIも、希少疾患のゲノムマーカーを見つけたり、石油やガスの鉱脈を探知したり、ハリケーンや異常気象の発生予測や地震・火山・噴火の可能性の警告、産業機器の故障予測や製品の欠陥通知をしたりしています。こうしたAIの貢献のすべてが、データなしには不可能です。

 AI導入の成否がアクセスできるデータ量に左右されることを考えると、企業はオンプレミス、クラウド、ハイブリッドクラウドシステムなどのデータストレージの選択肢と、それらがAI導入にどのような影響を与えるのかを熟慮しなければなりません。

AIを組織のニーズに合わせてカスタマイズ

 企業はAIのために多くのデータを保存する必要があるだけでなく、ニーズに合わせてAIをカスタマイズするために、独自に収集したデータを保存・管理しなければなりません。AIを活用すれば人事担当者は、数年分の社内アンケートのデータをわずか数分で分析し、新たな方針や組織変更などのさまざまな発表に従業員がどのように反応するかを予測できるようになるかもしれません。同様に、AIシステムは企業の成長や経済のデータを分析し、それを主要な意思決定に役立てることができるかもしれません。

 独自データを利用すれば、AIによる予測の精度や適合性が向上するため、より良い意思決定と結果を導くことができるでしょう。つまり、独自データを使用してAIアプリケーションをカスタマイズすることで、競争力を高めることができます。そのためには、こうしたデータを安全に保管することが必要です。

 オンプレミスデータストレージ、つまり各企業によって所有・管理されているローカルハードウェアにデータを保存する場合、ストレージリソースの確保とシステムの保守が必要になります。クラウドベースのストレージに比べると、増大するデータ量への対応が困難なうえにコストもかかります。オンプレミスのストレージでスケーラビリティを確保しようとすると、ハードウェアの更新サイクルも考えなければなりません。

 Wasabiのパブリック ストレージ利用に関する調査「2023年Global Cloud Storage Index」(Wasabiが委託し、英国の市場調査企業Vanson Bourne社が実施)によると、84%の企業が今後12カ月間にパブリッククラウドに保存するデータ量の増加を見込んでいます。データストレージのコストは劇的に低下しており、特にハードドライブやソリッド ステート ドライブ(SSD)をベースとする「ホットストレージ」のコストは下がっています。ストレージ価格の低下と、非常に高性能なCPUリソースの利用は、AIアプリケーションのブームを支えており、ほとんどはすでにクラウド上で運用されています。データがクラウド上に適切に保存されていれば、企業は需要に応じて利用するクラウドストレージ容量を増減させることができ、AIを企業のさまざまな局面で調整し、導入することが容易になります。

AIの価値を保護

 しかしながら、AI導入を成功させるためには、正しいデータを適切に保護する必要があります。データが改ざんされると、企業は誤った情報に基づいた判断をすることになり、ビジネスに深刻な影響を及ぼしかねません。AIはまだ発展途上の技術であるため、企業はAIを慎重に扱い、情報漏えいや脅威が発生していないことを、定期的に確認する必要があります。

 残念ながら、テクノロジーが成長と進化を続けるのに伴い、サイバー攻撃の脅威も増しています。サイバーセキュリティ攻撃の件数とコストは今後5年間で急増し、2022年の8兆4,400億ドルから2027年には23兆8,400億ドルに増加すると予想されています。AIシステムは、このような脅威から十分に守られる必要があります。

 企業データに不正アクセスする可能性のある脅威からデータを守る最善の方法は、AIシステムのデータのセカンドコピーを書き換えできない形で持っておくことです。クラウドストレージには、イミュータブルストレージ、つまりデータの変更や削除を防いで、一歩上のセキュリティを提供する機能があります。包括的なバックアップ戦略とイミュータブルストレージを組み合わせ、元データが不正アクセスされたり削除されたりした場合に備えて完全なバックアップを保存しておくことにより、クラウドストレージのプロバイダーは、可用性を確保し重要なデータの損失を回避し、高いデータ・セキュリティを提供します。

 さらに、クラウドへのデータ保存には、オンプレミスのデータストレージとは異なるユニークな利点があります。それは、最もハッキングされがちなユーザーアカウントに接続されていないということです。また、システムが悪意のある第三者に侵入されたとしても、クラウド上のAIデータの不変コピーが攻撃されたり削除されたりすることは決してありません。IT部門の責任者にとってクラウドストレージは、安心感を得られるソリューションと言えるのではないでしょうか?

 しかしながら、ランサムウェア攻撃の大半は、人為的なミスによって発生していると言っても過言でありません。人々は詐欺に引っかかったり、だまされて認証情報を教えてしまったり、マルウェアをインストールしてしまったりします。セキュリティ業界は主に侵入防止と検知に重点を置いていますが、企業はサイバーセキュリティのベストプラクティスに関するトレーニングを、従業員に定期的に受けさせる必要もあります。その他の対策としては、新人の入社時にサイバーセキュリティ教育を優先すること、インフラを定期的にチェックすること、ハッキングされた前提でデータ復旧シナリオをテストすること――などが挙げられます。リカバリテストとリカバリプラクティスの実施を通して、サイバーセキュリティプロトコルについて従業員の認識を改めることができます。これらは、データに容易かつ手ごろな価格でアクセスできる低コストのストレージを使用することによって、はるかに簡単に実施できるようになります。

 企業にとっては、利便性の向上と潜在的なコスト削減に資することが期待できるAIを、上手に取り入れることが競争力を維持する上で重要になります。クラウドストレージソリューションを採用すれば、AIの能力を存分に活用してビジネスを成功に導くことができるようになるだけでなく、より優れたスケーラビリティとセキュリティも実現することができるでしょう。