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東芝が化合物パワー半導体の開発・製品化を加速 データセンターや社会インフラでの活用拡大を見込む

 株式会社東芝は、パワー半導体への投資を継続的に行い、今後、データセンターなどでの活用が見込まれるSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体や、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体の開発・製品化を加速する考えを示した。

 これらの化合物半導体は、高耐圧や軽量化、高効率化、高電力密度化などにメリットがある。

 2021年度はSiCパワー半導体の産業向けラインアップを拡充し、本格的に外販を開始。GaNパワー半導体は2023年度の市場投入を計画している。

 東芝デバイス&ストレージ パワーデバイス技師長の高下正勝氏は、「パワー半導体は省エネを支えるキーパーツであり、カーボンニュートラルの実現を支える縁の下の力持ちになる。将来にわたり安定成長が期待される領域であり、今後もパワー半導体に注力していく」と述べた。

 2023年度上期には、加賀東芝エレクトロニクスで300mmプロセスによる量産ラインを稼働させ、既存のシリコンパワー半導体の生産能力を増強。旺盛な需要に対応していく計画もあらためて強調した。

東芝デバイス&ストレージ パワーデバイス技師長の高下正勝氏

東芝デバイス&ストレージが担当するパワー半導体事業

 東芝のパワー半導体事業を担当するのは、東芝デバイス&ストレージである。

 同社では、社会インフラ/産業向けソリューション、車載向けソリューション、データセンター/サーバー向けソリューションを展開。それぞれの分野において、パワー半導体を重要な製品に位置づけている。

 またデータセンターやサーバー向けでは、ニアライン大容量HDD事業も同社が担当している。

 2023年度下期に予定されている東芝の分社化では、デバイスを担当する新会社に移管することになる。

パワー半導体事業は東芝デバイス&ストレージが手掛けている

 東芝のパワー半導体は、MOSFETをはじめとするパワーデバイス、IGBTなどのハイパワーデバイスのほか、データセンターやサーバー電源、電力変換、車載用途などのアプリケーションで構成。「豊富な製品ラインアップとパッケージで、あらゆる電子機器をサポート。30年以上にわたりトップレベルの性能を維持している」と自信をみせる。

 自動車、電源、通信機器などに利用する低耐圧MOSFETの「U-MOSシリーズ」は、20~250Vの幅広い耐圧ラインアップと、表面実装型から自立型までさまざまなパッケージを展開。用途に合わせて選択が可能な点が特徴だ。今後は、さらなる微細化とセル設計の最適化を進め、より使いやすく、より高性能な製品をラインアップしていくという。

 また、サーバーや基地局向けスイッチング電源、ACアダプター、PVインバーターなどに利用する高耐圧MOSFETの「DTMOSシリーズ」では、高速スイッチング性能の実現やスイッチングロスのさらなる低減のほか、高速スイッチング特性によって、スイッチング損失を低減することで効率を高めており、高性能、高効率電源への応用が可能になっているという。

東芝デバイス&ストレージの取り組み~パワー半導体~

 さらに、産業インフラ機器などにも使用されているIGBT/IEGTでは、すべての接続を圧接により実現しているため、ハンダとワイヤボンディング不使用によって熱疲労に対する高い信頼性を達成。両面冷却によるスタック構造での高い放熱性、気密封止構造による高い耐候性に加えて、万が一製品が破壊した場合でもコレクターとエミッター間は短絡状態を保つため、直列使用時には装置の運転継続が可能になるという特徴を持つ。

 「電力の発電地と消費地の遠距離化が進み、送電コストが安価な直流送電が増加。従来の他励式直流送電に代わり、確実な受電が可能であり、設置スペースが削減可能な自励式直流送電が増加。高い信頼性をもとに、送配電システムでの採用が進んでいる」とした。

 東芝のIGBT/IEGTは、北海道・本州間直流連係設備に採用されているほか、中国の高電圧直流送電設備でも数多く採用されており、中国における東芝のシェアは25%に達しているという。

パワー半導体とは?

 東芝デバイス&ストレージの高下技師長は、「パワー半導体は、システムの中で、高電圧、大電流をオン/オフできる機能を持ち、人間の身体に例えるならば、血液を送り出す心臓や、身体を動かすための筋肉と同じような役割を持つ。目立たないものだが、これがないと動かない」と説明する。

 その上で、「一般的な半導体は、信号処理のためにウエハー表面を使用し、高速動作や低消費電力、高集積化をターゲットに開発しているが、これに対してパワー半導体は、縦型半導体と言われるように上下方向に電流が流れ、低損失、低ノイズ、大電流をターゲットに開発が進んでいる。ここには、特有の技術が必要になる」と、一般的な半導体との違いに触れた。

 そして、「スイッチング周波数を2倍にすると、きめ細かな制御ができるが、その分スイッチング損失が2倍になるデメリットもある。このバランスを取りながら、使いやすさや機能、損失を制御する。スイッチング損失や導通損失を少なくすることが差異化につながり、省エネ化の実現に貢献することになる」とも述べた。

人間の体に例えるなら、心臓+筋肉に相当するパワー半導体
システムの中で高電圧、大電流をオン・オフできる機能を持つ

 パワー半導体は、インバーター機器向けには、状況に応じた周波数可変によるモーター回転数の最適化を行い、運転全体を通して省電力化を実現する。EV向けのオンボードチャージャーやモーター駆動システムのほか、クルマに搭載されているさまざまなモーターでも利用されているとする。

 「近年は省電力化の要請が高まり、モーターでの応用に向けた需要が拡大。xEVのモーター駆動システムなどでの需要増を見込んでいる」としたほか、「パワー半導体は、今後は車載需要に牽引され、年平均成長率は8.3%が想定されている。中でも、ハイパワーや高信頼性が要求される低耐圧MOSFET、高耐圧MOSFET、IGBTが成長すると見込まれており、東芝は、ここに力を注いでいく。また、2030年にはSiCやGaNといった化合物半導体が上積みする形で市場を拡大するとみており、この分野への投資も行っていく」とした。

近年は省電力化の要請の中でモーター応用向けの需要が拡大

 SiCでは、熱特性に優れた特長を生かし、ハイパワー領域での高効率、高出力化が求められる機器への応用が進むと想定。高周波特性に優れたGaNはkWクラスまでの高効率、小型化が求められる機器への応用が期待されるという。

 「SiCでは、電力損失が1桁以上低減できるため、シリコンが持つ課題を解決できる。またGaNでは、電源回路の小型化、高効率化でメリットを生むことができる」とし、「データセンターでは、高効率電源が求められ、大容量化やコンパクト化のニーズ、建設条件緩和などにより、化合物半導体を活用できる場が広がる。冷房の風速低減、温度設定緩和による電力削減が可能になることで、メモリー電力比での冷却電力を軽減できるほか、電源の高出力化によって、敷地面積あたりのデータセンター処理能力が向上。設置に自由度を生まれることから、データセンターの都市近郊での稼働や緊急時対応強化、サーバーの初期コストやランニングコストの削減、環境負荷軽減などに貢献できる」とした。

 また、化合物半導体を利用することで、xEVでは軽量化と走行距離の延長、EV充電スタンドの充電能力向上のほか、洋上風力発電では変換ロス低減と軽量化への貢献、高速鉄道では走行電力の削減と軽量化が図れるという。

 「SiC半導体市場は、第2世代から第3世代に入ろうとしている。世代が進化することで、20~30%の性能向上が見込まれる。また、SiC化により、高耐圧領域まで、低オン抵抗と高速スイッチングを両立できる」などとした。

対象のアプリケーションと、化合物半導体の応用が期待される分野
小型化、高効率化によってデータセンターの効率化も見込まれる

 一方、GaN半導体では、モバイル急速充電器向けで市場が拡大し、その後、テレコム分野やサーバー電源向けにも市場が拡大すると予測。「GaNはパワーデバイス性能指数が高く、スイッチング損失が低いため、最も高周波スイッチングに向くデバイスといえる。周辺回路の小型化ね可能になり、高信頼性が求められる領域に使われていくことになる」とし、「東芝では、GaN半導体を大電力化の拡張性、シンプルな回路、設計容易性といった特長を生かし、高効率、高電力密度化を推進する本命デバイスに位置づけている」とした。

 サーバー向け電源では、GaN電源によって高出力化できることから、CPUやGPUのスペースを拡張でき、演算能力を高めるといった活用も可能だ。

 「東芝では、ノーマリーONの製品を2023年に市場投入する計画であり、さらに、ノーマリーOFFの製品を現在、研究開発中である」とした。

GaN半導体の特徴

300mmプロセスの量産ライン立ち上げを計画

 また、すでに発表している300mmプロセスの量産ラインの計画についても説明した。

 「これまでのパワーデバイスは、多種少量のビジネスであったが、近年の旺盛なパワーデバイスの需要に対応するために、次世代技術を組み込んだ300mm量産ラインを立ち上げる。300mmの投資に耐えられる需要があると判断した。また、同時に200mmの能力も増強していくことになる」とする。これらによって、生産能力は1.9倍に拡張する予定だ。

 「300mmプロセスでのバラつきの低減、生産能力や品質の強化を進めていく。300mmプロセスによって、加工性の向上、ラインの自動化によるダスト低減、処理能力向上や装置自体のスループット向上、AI導入による高度生産管理によるスマートファクトリー化も同時に進めていく」などとした。

300mmプロセスによるパワーデバイスの性能・品質の強化

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 政府は、「2050年カーボンニュートラル」を宣言。それに向けて、グリーン成長戦略を打ち出している。この中で、半導体・情報通信産業では、2040年までにカーボンニュートラルを目指すことになり、成長分野に位置づける14分野の中でも、早い段階での達成が求められている。

 中でも、今後、国内データセンターの拡大が見込まれる中で、データ通信の低遅延化の実現とともに、電力コストの削減、省エネ化の実現が課題だ。グリーン成長戦略でも、2030年までに新設するデータセンターのすべてにおいて、30%以上の省エネ化を実現するとともに、脱炭素化を目指すことが掲げられている。

 これらの目標達成に向けても、パワー半導体への期待が高まっている。