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NECが生成AI事業をアピール、「業界特化型の国産LLMが競争力の源泉」

 日本電気株式会社(以下、NEC)は20日、AI戦略について説明。NEC Corporate SVP兼AIテクノロジーサービス事業部門長兼AI Research Officerの山田昭雄氏は、「国産LLMを、透明性を持ち、垂直統合で開発し、提供できる企業がNECである。LLMのcotomiを基盤に、さまざまなお客さまと組んで追加学習を行い、それぞれの業界に特化したLLMを作っていく。ここが、NECのAIにとって主戦場になると考えている」とコメントした。

NEC Corporate SVP兼AIテクノロジーサービス事業部門長兼AI Research Officerの山田昭雄氏

 また、現在、v2が最新版となっているLLM(大規模言語モデル)「cotomi」については、「機能性を向上させたバージョンを近いうちにアナウンスできる状況にある」としたほか、「NECでは、医療、金融、製造の3つの業種を重点分野として、業務に特化したLLMを提供している。今後、専門的な言葉が多い業種を中心に、数業種をプラスαすることになる。大手企業グループ向けといった切り口からの提案も行っていく」などと述べた。

 先行している3業種については、「安全、安心が求められる医療分野では、一歩先んじて業種特化のAIを提供している。また金融分野では、多くのドキュメントがあり、それを確実に理解する必要があり、ここでもリーディングカンパニーとともに先行して取り組んできた。NECでは、金融分野を得意とする子会社がグローバルで事業を展開し、これらの企業とも連携する。そして製造業については、NEC自らが製造業の企業としてcotomiを活用し、プロセスの効率化を進めている。生成AI連携機能を搭載したPLM/PDMシステムのObbligatoを、間もなく提供開始する。また、政府や自治体、航空、宇宙、防衛など、ナショナルセキュリティが求められる領域においても、NECのAIは安全、安心に活用できる」と自信を見せた。

 NECでは、インフラ上に独自開発のLLMであるcotomiを配置。そこに追加学習の仕組みを作り、業界ごとに専門知識を備えたAIへと進化。さらに、アプリケーションを構築することで、最適化したAIによる企業利用を提案することになる。

 「NECは、高速、高性能、軽量というcotomiそのものが持つ強みだけでなく、cotomiをさまざまな業種に適したものに変えて、差別化することができるのが特徴である。ここでは、業種ノウハウをいかにデータとして取り入れることができるかが鍵になる。同じテータを使っても、加工の仕方、学習の順番、パラメータ設定の初期値の与え方などによって、できあがるLLMの性能には大きな差がある。また、この部分はオープン化されない部分である。業界に特化した部分がNECの主戦場であり、競争力の源泉だと思っている」とし、「業界の専門知識を学習するためのノウハウを多く蓄積しており、かなり自動化した仕組みを構築できている。注目を集めているAIエージェントの構築においても、このノウハウを活用できる」などと述べた。

 さらに、「NECが今後力を入れていくのは、アプリケーションの領域である。ここの計画を緻密に立てている。AIを活用した業種ごとのアプリケーションによる新たな提案を、短いスパンで発表したい。これは、BluStellarによって提供するオファリングと位置づけられる部分になる」と説明した。

 BluStellarは、価値創造モデルと位置づけるもので、2024年5月に発表。そこにおいて、AIは重要な役割を果たすことになる。

 「NECは、AIビジネスというとらえ方ではなく、BluStellarのビジネスとして、AIをとらえている。コンサルティングから始まり、顧客課題を解決するシステムを設計し、デプロイ、運用、メンテナンスまでを一貫して提供するなかで、AIを活用する。単に定型業務を置き換えるのではなく、複雑な高度な業務に対応できるのが特徴である」と語り、「NECのAIは、個人がチャットを利用するといった用途向けではなく、業務に特化したサービスとして提供することになる。キーワードはオートメーションであり、プロセスをまるごと自動化することである。そのためには安全、安心を担保することも重要になる」と位置づけた。

 企業へのAIの提案については、NECが展開してきた顧客ごとにカスタマイズして提供するシステムインテグレーション事業、アプリケーションによるオファリング提供を行うサービス事業、AIのテクノロジーを提供するライセンス事業によって推進することになるという。

 「NECはAI専業メーカーではなく、システムインテグレータとして、基幹システムをはじめとしたシステムとの連携を図ってきた。今後は、それらのノウハウも活用しながら、ロボティクスなどのフィジカル領域において、AIによる連携も図ることになる。この点でも強みを発揮できる」と胸を張った。

 NECでは、AIを推進する上で、いくつかの取り組みを行ってきた。

 2023年からスタートしたNEC Generative AI Advanced Customer Programでは、各業種において、リーディングカンパニーと位置づけられる企業など10社/団体と、先行する形で共創を推進。さらに、NEC自らが壮大な実験場となってAIを活用し、ここで実績を上げた成果をソリューションとして提供する、クライアントゼロにも取り組んできた。さらに、これらを支えるための人材育成に積極的に取り組んでいる。

 また、自動化や安全、安心に加え、グリーン化などを含めた効率化にも差異化技術を持っている点も強調した。

 中でもクライアントゼロは、「AIによる事業を推進する上では重要なキーワードになる」と位置づける。現在、NECグループの約6万人の社員を対象に、さまざまなAIサービスが公開されており、それをもとにしたアイデアの実装、サービスの組み立て、ポリシーやルールの整備などを進めている実績を紹介。

 「個人が日々行っている業務を効率化したり、組織全体の業務効率化を向上させたりしている。サーチエージェントでは、やりたいことを入力し、戦略を立ててくれるように依頼すると、市場の状況を把握し、それに対する回答が出てくる。多くの社員が利用し、アクセスも多い」とし、ここから得られたノウハウをLLMの開発、学習、アプリケーションの整備につなげていることをあらためて示した。

高い効果の期待できる領域を狙ってQuick Winで実現、価値を積み上げ

 また、「NECでは、受発注業務の自動化においてマルチエージェントを採用しており、学術的にも評価されている仕組みを持っている。マルチエージェント時代においても、NECは先行できる」とした。

NECの社内ポータルと社外情報をシームレスに検索して回答を返すAgentic AI(AIエージェント)を使用開始

 さらに、NECのAIエージェントの強みについて、「Planning」、「Understanding」、「Action」の3つの観点から言及した。

 「Planning」では、あいまいな指示に対して、賢く、効率よく業務を分解する能力を持ち、過去の応対結果を用いて、自律的な成長を行う能力を持つこと、ほかのAIエージェントと交渉を行い。応答結果をもとに意思決定を行う能力を持っているという。

 また「Understanding」では、Webおよび社内から適切な文書を取得する能力、図表を含む文書を賢く理解する能力、センサー情報をはじめとしたIoT関連データに対して適切に理解する能力を持っていることを示した。

 さらに、「Action」では各種ITシステムとの連携により、それぞれを適切に動作させる能力、物理世界の制限を考慮した上で、適切に動作を行う能力を持っていることを強調した。

 「特に、図表を理解する能力は先行していると考えている。NEC社内で運用してわかったのは、利用している文書の多くは、テキストだけという状態のものはほとんどないということである。リーフレットのように、必ず図表が入っているものばかりである。必要なのは、単に図表を読み取るだけでなく、図表が示している意図を理解することである。そこにNECの独自性を生かすことができる」と語った。

 図表で示された意図を人は自然に理解することができるという。例えば、折れ線グラフや棒グラフで示された図表の多くは、左から右へと時系列で推移することを示す場合が多く、それを瞬時に理解し、図表を読み解くことができる。だが、AIにこれを理解されるのは困難だという。このように、人が自然に理解できる図表の意図を、正確にAIに理解させるノウハウにおいて、NECは先行しているのだという。

 加えて、「NECのAIの強みは、AIから答えが返ってくるまでのレイテンシ、顧客が期待する環境において、閉じた形で運用ができるセキュリティにある」とも語った。

 最新の事例についても触れた。NECでは、東北大学病院と共同で、国立情報学研究所主催のコンテスト「NTCIR-18」において、医療言語処理タスクで1位を獲得したことを新たに発表。肺がんの診断レポートから進行度を判定するテストを行い、81.48%の精度を持ち、その点が評価されたという。

 「医療分野では、専門用語が多いだけでなく、日々新たな研究レポートが発表されており、そうしたものにも対応していく必要がある。この技術はすでに現場での活用がはじまっている。NECの電子カルテとシームレスにデータ連携を行い、AIが医療文書作成を支援することにより、文書作成の作業時間の短縮を図っている。医師をアシストできるAI技術であり、これにより、デジタルによる医療業務の効率化や業務の質的向上など、医療DXの実現に貢献できる」とした。

NECと東北大学病院、国立情報学研究所主催のコンテストNTCIR-18の医療言語処理タスクで第1位を獲得
電子カルテとシームレスにデータ連携し、AIが医療文書作成を支援することにより、作成時間の短縮を図る

 また、大塚商会では、cotomiを搭載した生成AIサービスを新たに提供。オンプレミスで運用できる環境を実現する「美琴powered by cotomi」として発表した。国産オンプレミス生成AI環境を構築し、安全性が保たれたなかでの運用が可能になるという。

大塚商会が提供する生成AIサービスにcotomiを搭載

 さらに、さくらインターネットでは、生成AI向けプラットフォームで利用可能なLLMとしてcotomiを搭載。今年春から第1号ユーザーへのサービス提供を開始することも明らかにした。

さくらインターネットと生成AIプラットフォーム領域で協業

 一方、AI市場全体の最新動向についても解説。山田Corporate SVPは、「2024年は、AIエージェントの登場が大きなトピックスであり、今年から来年にかけては、これが大きな市場に成長することになるだろう」としてが、その一方、「言語モデルについては、規模を追求する競争から、規模を小さくした上で性能を高め、特定の領域における知識を持ち、業務に活用するという動きが出てきている」点を指摘。

 「Open AIでは数十億のAIエージェントが連携し、業務を行うことを目指し、deepseekでは、小さなAIを集めて、低コストで高性能なAIを作りあげることになる。SLMへの流れは世界的なトレンドである。パラメータ数やデータ数を増やすことで性能を高める方向は、頭打ちの状態になってきた。また、規模を拡大するとエネルギー消費の拡大にも直結し、そうした課題についても議論が始まっている。GPUを多く持っている企業が優位という構図は変わってきており、パラメータを少なくしたまま、性能を高める競争が始まっている。しかも、パラメータ数を徐々に減らすのではなく、一気に小さくし、携帯電話にも搭載できる領域に入ってきている。こうした動きがさらに加速すると、汎用LLMは開発競争をする領域ではなく、協調する領域になるかもしれない」と語った。