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NECの価値創造モデル「BluStellar」、シナリオを軸とした提案へとシフト 海外展開も推進へ
2025年3月3日 06:15
日本電気株式会社(以下、NEC)の吉崎敏文Corporate SEVP兼CDOが共同取材に応じ、同社の価値創造モデルである「BluStellar」の進捗状況などについて説明。新たな方向性として、オファリングによる提案から、シナリオを軸とした提案にシフトしていることを強調する一方で、2025年度以降、海外においてBluStellarを推進する姿勢を明らかにした。
また、2024年度のBluStellarの売上収益目標の上方修正については、「現時点では公表できない」と言葉を濁したが、「順調に推移していることについては確信がある。エンタープライズおよびパブリックが好調であり、シナリオベースの提案によって、収益性が改善している。既存のSIとは異なる新たなSIのアプローチを行い、さらに、グローバルに展開を進めていく」などとし、BluStellarの今後の方向性について語った。
BluStellar事業は、前身となるNEC Digital Platformおよびコンサルティング起点ビジネスにおいて、2022年度に初めて黒字転換し、2024年度には売上収益が4265億円、調整後営業利益率が7.9%、2025年度には売上収益は4935億円、調整後営業利益率で11.4%を目指している。
2024年度第3四半期累計実績では、国内ITサービスの売上収益が1兆1414億円となり、その3分の1をBluStellarが占めていることを明らかにしており、逆算すると、約3700億円規模が推定され、2024年度通期の目標は確実に達成することが見込まれる。
吉崎CDOは、「BluStellarはNEC全体の業績に対する貢献が高く、成長エンジンとなっている。BluStellarの利益率はITサービス全体の利益率を超えており、前年同期比で利益率が3ポイント向上している。NECの利益改善のほとんどはBluStellarである。BluStellarそのもののポートフォリオを変えながら、利益率を改善している」と、その成果に自信を見せた。
NECでは、2024年度の通期業績見通しで、国内ITサービスの売上収益を600億円増額し、1兆7100億円に上方修正。仮に、BluStellarが3分の1という構成比を維持すれば、5600億円の水準となり、2025年度の目標についても、1年前倒ししながら、その目標値も大幅に上回ることになる。このことからも、BluStellarが想定を上回る成長を遂げていることがわかる。
さらに、BluStellarの海外展開については、2025年度からは、海外のある地域や、ある業界、あるソリューションを決めてBluStellarを一部展開し、2026年度には、BluStellar Globalとして、フルに海外展開を進めるという。「国内市場での成長はまだまだ高い。その成長を維持するには、グローバルの知見が必要である。国内市場の伸びしろをさらに高めるために、グローバル展開を進めることになる」とした。
また将来的には、ITサービス全体の50%をBluStellarに拡大させる方針や、利益率をさらに高める考えも示した。
BluStellarの新たな方針については、2025年5月にも発表する予定だ。
なおBluStellarは、「お客様を未来へ導く価値創造モデル」と定義されており、2024年5月に発表された。顧客が持つ経営アジェンダに従って解決するエンドトゥエンドのアプローチであり、ビジネスモデルである「BluStellar Agenda」、テクノロジーである「BluStellar Technologies」、1万人以上のDX人材とナレッジによって課題を解決する組織および人材の「BluStellar Programs」で構成している。
吉崎CDOは、2019年度にDX専任組織を立ち上げた時には600人体制だったものが、2024年度には3万6000人と、陣容は60倍に拡大していることに触れながら、「2019年度からオファリングを作り、共通プラットフォームを構築し、『売り物改革』を推進してきた。2020年には戦略コンサルティングチームによるアプローチを開始し、現在では、上流を担当するコンサルタントとして、約100人のAIコンサルタントを含めて700人にまで体制を強化した。さらに、グローバルアライアンスを進めたほか、2024年にはBluStellarを発表した」と振り返る。
また、「2025年度には、4万人近い体制になる。世界中で見ても、4万人でSIを行える企業は類を見ない。それを必ず成功させる。GAFAに代わる、日本型の新たな付加価値創造企業が生まれることになる」と力強く語った。
第三者機関による調査では、BluStellarの認知度が、富士通のDXブランドであるFujitsu Uvanceを僅差で上回る結果となっており、役員層などでの認知度が高いという。
「BluStellarというブランドが登場してからは1年を経過していないが、取り組みは6年前から進んでいる。中身をきちっと整備した上で、最後にブランドを付けるというのはNECらしいやり方である。社長以下、社員全員で取り組んでおり、認知度は想定以上に高まっている。今後、さらにマーケットシェアとマインドシェアを高めていく」と語った。
BluStellarの取り組みにおいては、シナリオへの集約が重要なポイントになっていることを強調する。現在シナリオは、共通領域で14件、業種領域で11件を用意し、あわせて2025年度までに1000人以上の戦略コンサルタントを配置するという。
オファリングは、ハードウェアやソフトウェア、サービス、技術などの組み合わせによるパッケージングを通じてソリューションを提供する仕組みであり、NECからオファーすることになる。これに対して、シナリオは、顧客のアジェンダをとらえ、課題の優先順位をもとにオファーの内容を顧客ごとに変更。同時に、オファリングを構造化したものとも位置づけ、徹底的な標準化を進めることも重要性であるとした。
吉崎CDOは、「2019年にはNECのなかでオファリングという言葉を誰も知らなかった。それを社内に説いて回った。100件を超えるオファリングを用意したものの、結果として、まったく評価されないオファリングが生まれ、これを見直し、100件以下にするといったことを行ってきた。だが、オファリングだけでは限界があると考えて、シナリオに集約した。価値を決めるのはNECではなく、お客さまである。お客さまに価値を認めてもらわなくてはならない。課題に対してシナリオを作り、戦略コンサルティング、サービスデリバリー、運用・保守までを用意し、価値を提供することになる。シナリオベースの提案は、日本の市場に最適なものであるという手応えを感じている」とする。
BluStellarでは、シナリオによるベストプラクティスのフレームワーク化を進めており、コンサルティングからデリバリー、運用へと連鎖する「シナリオ連鎖型」、モデル化したシナリオを横展開する「シナリオ水平展開型」、働き方改革のような切り口から入り、それを別のシナリオ提案にも広げていく「シナリオ発展型」があり、経営課題解決に向けたコンサルティング起点アプローチと、実績ベースのアセットをシナリオに集約。ここに、標準化されたオファリングと、高いSI力の知見をSIモデル化して組み合わせていくことになる。
AIに特化していくことになる700人のNECのコンサルタントと、DXなどを中心に展開をしていく8300人のアビームコンサルティングの社員、そして、実績に基づくSI、デリバリー、運用の実績、社内検証済みのシステム提供が可能になるという。
ある大手銀行の事例では、従来は個別案件の提案であり、機能や構築を行っていたものの、運用が不明確という課題があったり、個別SIの提案となるため、大規模および広範囲を対象とし、運用を含めた継続的な提案が難しかったり、案件ごとに見積もる体制であるため、SIにおける利益率確保が難しいといった課題があった。
だが、BluStellarでは、シナリオベースの提案により、ナレッジと業種ナレッジを組み合わせた実績に基づく具体的な移行提案を行うことができ、コンサルティングによる運用の設計を行って、継続性のあるビジネスの立ち上げに成功したほか、これをほかの複数銀行に向けた別の提案にも活用して、新規受注を獲得したという。
吉崎CDOは、「私が統括している範囲は、NECのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークに加えて、デリバリー部門もある。これらを統括していることから、ポートフォリオの選択と集中をしている。PaaS/AI、コンサルティング、セキュリティなどの高収益商材へのシフト、SIモデルの変革を進めている」と語った。
また、「プラットフォームに加えて、人材によるスキル、AIを活用したハイブリッドモデルが、これからは重要になる。これが、日本型の新たなハイブリッドモデルになり、他社に比べて大きな強みになる」とした。
一般的にハイブリッドモデルというと、クラウドとオンプレミスの組み合わせといったとらえ方が多いが、BluStellarでは、プラットフォーム、人材、AIの組み合わせによるSIをハイブリッドモデルと位置づけており、この強みを生かした提案を加速していくという。
なおBluStellarでは、AI for all processの考え方を打ち出しており、戦略コンサルティング、サービスデリバリー、運用・保守のすべてのプロセスにAIを活用し、顧客価値を最大化。企画/要件定義、設計、実装・構築、テスト、保守運用、マネジメントの領域において、AIを活用することで、平均で約30%の生産性向上などの効果があると試算。「AIを活用することで、SIビジネスを変えることができる。AIが伸びる領域はSIである。NECにとって、これが、グローバルでの勝ち筋になる。それがいよいよ見えてきた」などと語った。
一方で、AIの開発においては、研究所と製品サービス部門がシームレスに連携し、一体化する取り組みを進めていることを強調。「AIへの投資を加速するだけでなく、市場に対して素早く対応することを目指している。お客さまから見ても、スピードを感じてもらえるようになっているだろう」と前置き。
その上で、「LLMの信頼性を向上するハルシネーション対策機能の提供を開始したが、これは開発から製品化まで1年から半年程度かかると想定されていたものが、約1カ月で実現できた。LLMでは、約20件の新機能をリリースしており、正確性が求められる業務、生成AI活用が難しいと考えられていた現場におけるAI活用の促進のほか、さらなる業務変革を支援したり、AIエージェントの活用によって、高度な専門業務を自動化し、生産性の向上を実現したりといった成果があがっている」と述べた。
さらに、BluStellarは、価値ベースのバリューベースドプライシングを採用していることについても説明した。吉崎CDOは、「課題に対して、結果が出た成果に支払うという仕組みである。成果単位でバリュープライシングを行う。価格を下げずに、価値を上げていくのが基本であり、3カ月単位での成果に対する費用や、成果が出た金額に対するパーセンテージで対価を受け取るという仕組みになっている」とした。