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NEC、価値創造モデル「BluStellar」を中核としたDX事業を強化 生成AI技術を活用しBluStellar Scenarioを高度化へ

業種シナリオの拡充やグローバル展開も推進

 日本電気株式会社(以下、NEC)は5月30日、価値創造モデル「BluStellar」を中核とするDX事業を強化することを表明した。生成AI技術を活用したBluStellar Scenarioの高度化と、製造業や航空宇宙産業、金融業、通信業、ガバメント領域などの業種シナリオの拡充を進める。また、グローバル展開にも本格的に乗り出す考えを示した。さらに将来的には、BluStellar事業の売上収益を1兆円、調整後営業利益率で20%を目指す考えを初めて明らかにした。

 NECの森田隆之社長兼CEOは、「BluStellarは、テクノロジーや社会の変化にあわせて継続的に進化させている。BluStellar 2025では、AIとセキュリティを進化させるとともに、BluStellar Scenarioを進化させる。DX事例から成功要因を抽出し、『型化』したシナリオを展開。民間企業、政府、自治体、公共団体までをカバーし、業種や業務に特化したシナリオを拡充する。さらに地理的なカバレッジを拡大し、グローバル展開をスタートさせる。シナリオは、お客さま視点や社会視点で課題を抽出し、コンセプトとして提示し、テクノロジーとサービスとしての集まりを通じて、価値創造につなげられる。また、必要なものはカスタマイズやアドオンで提供できる。お客さまの投資を最も効率的に生かすことができ、NECはお客さまの期待値に応えることに集中できるようになる」と述べた。

NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

 また、NECの吉崎敏文Corporate SEVP兼CDOは、「従来型ビジネスは、お客さまの要望を起点に、固有の事情に応じてカスタマイズしたSIを行い、お客さまの既存業務に最適化したシステムの利用を提案してきた。だが、BluStellar 2025では、お客さまの真の経営課題を起点に、SIの膨大な知見および実績をもとに、徹底した『型化』により、拡張性の高いサービスを用意し、全体最適をベースにした最先端のシステムを、安心で、最速で利用できるようにする。ビジネスモデルの根本的な変革に取り組むものになる」と位置づけた。

NEC 執行役 Corporate SEVP兼CDOの吉崎敏文氏

プロダクト&サービス、オファリング、シオリオの3層から構成されるBluStellar

 2024年5月に発表したBluStellarは、AIやセキュリティ、クラウド、ネットワーク、マネージドサービスなどの約500商材を用意する「プロダクト&サービス」、プロダクトとサービスをパッケージ化して、価値を付加して、ソリューションとして提供する約150セットの「オファリング」、経営課題をもとに整理し、エンドトゥエンドで最適なオファリングを組み合わせ、DXの成功要因をもとに型化した30セットの「シオリオ」で構成される。

 つまり、プロダクト&サービス、オファリング、シオリオの3層構造がBluStellarの姿となるわけだ。

 例えば、NECが持つ顔認証技術や画像解析ソフトウェアをプロダクト&サービスとして用意。それを活用したオファリングとして、顔認証を活用したデジタルIDによる入退オファリングとして用意する。さらに、シナリオでは、オファリングをエンドトゥエンドで組み合わせることで、働き方改革やスマートワークスタイルにつなげることができる。

BluStellarの構成要素

 吉崎CDOは、「最先端技術を活用し、お客さまとの共創事例や自主実践によるクライアントゼロの実績をBluStellar Scenarioのなかに込めている。また、市場投入したあとも、共創事例やクライアントゼロの実績をフィードバックして進化させていく。最先端、安心、最速で、お客さまのDXを支援できる」と述べた。

BluStellarのビジネスモデル

 また森田社長兼CEOは、「テクノロジーカンパニーであるNECは、先進技術の実装とDXの実践により、自らを変革し続け、お客さまと社会の変革をリードする存在であり続ける。それを実現するために、上流コンサルティングからシステム構築、組織、人材に至るまで、エンドトゥエンドで価値を提供する」とした。

 その上で「AIでは、NECが開発した生成AIであるcotomiと、世界ナンバーワンの生体認証技術に、業種および業務の知見を組み合わせて、AIの導入から運用までをワンストップで伴走支援する。セキュリティでは、国家レベルのセキュリティ技術と高度専門人材を通じて、企業や社会全体のデジタルインフラを守る役割を担う。また、NEC自らも先進技術を徹底的に活用し、失敗も含めて、知見として蓄積し、実践値をクライアントゼロとして展開することで、お客さまと社会のDXに反映させる。NEC自らの経験を生かした提案、実装を行っている点が、BluStellarを導入したお客さまから評価されている」と述べた。

3方向でBluStellarを進化

 一方、2026年度以降のBluStellarの進化についても言及。「BluStellar Scenarioの拡充」、「BluStellar Scenarioの高度化」、「成長を支えるコア技術の強化」に取り組む考えを示した。

2026年度以降のBluStellarの進化

 「BluStellar Scenarioの拡充」では、業種にフォーカスしたシナリオを強化。25年以上のパートナーシップを持つIFSとの戦略的提携を拡大して、IFS Cloudを安心、安全に利用するために、NECの印西データセンターを活用。両社のアセットを組み合わせるとともに、AIサービスの共同開発、デリバリー体制の強化を通じて、製造業に加えて、航空宇宙産業など、幅広い業種の顧客に展開を目指すという。

NECとIFSのプラットフォームを業種シナリオとして提供

 また、NECの海外グループ会社とのシナジーを進め、北米でのNetcrackerおよびアビームコンサルティングとの連携、欧州のAvaloq、KMD、NEC Software Solutionsとの連携に加えて、インドではNEC Corporation Indiaとの連携により、交通や流通分野に特化した取り組みや、リソースの集約によるデリバリー拠点として役割を持たせることになるという。「日本で型化したものを海外に展開するだけでなく、海外でシナリオ化したものを日本にも展開する。このループを回すことで、シナリオの価値を高め、日本企業の世界における事業展開に貢献できる」(NECの吉崎CDO)としている。

NEC海外グループ会社のアセット活用により、業種シナリオを強化

 「BluStellar Scenario の高度化」では、Agentic AIをシナリオに取り込み、顧客の業務を発展させることに貢献するという。NECでは、Agentic AIを活用において、業務強化と業種特化で15の領域を定めており、2025年度中には、すべての領域においてBluStellar Scenarioを展開する。「現時点では3つの領域でシナリオ化している。NECの経験が詰まった領域であり、複雑なプロセスを効率化・高品質化でき、圧倒的な生産性向上を実現できる」とした。

 NECでは、TNFDレポート(自然関連財務情報開示タスクフォース)の作成業務プロセスにおいて、Agentic AIを活用した効率化および高度化を実現。膨大な専門ガイダンスの読み込み工数を92%削減したほか、リスク評価、執筆/レビュー、広報といった実行を後押しする改善策を提示し、次のアクションへの移行を加速できているという。

Agentic AIをオファリングに組み込み、BluStellar Scenarioで展開予定

 「成長を支えるコア技術の強化」に関しては、AIの強化に取り組む。2024年度の生成AIおよびAgentic AIの活用によるアクション変革の提案に続き、2025年度は個社データや特化型Agentによるプロセス変革の提案に着手。

 「Agentic AIを活用するためのフレームワークと、データを活用するためのモデリングが重要になる。これらを2025年度に整えていく。また、セキュリティ技術が重要になる」とした。さらに、2026年度には、複数のAgentが連携したビジネスの変革へと進化させる。「これによって、ビジネス全体が変わり、DXがいよいよ本番を迎える。NECは、技術に立脚したロードマップを描き、シナリオを整備していく」と述べた。

BluStellarの進化を支えるコアテクノロジーの強化

 なお、BluStellarには「戦略立案力」、「技術・ノウハウ」、「組織・人材」の3つの強みがあるという。

 ひとつめの「戦略立案力」は、課題抽出のフェーズで生かされるもので、国内最大規模となる1万人(2025年度目標)のコンサルタントによって、取り組むべき経営課題を特定。経営戦略をデジタル戦略へと落とし込むという。

 ここでは、新たなコンサルティングサービスとして、Miroとの協業による「Human×AI コラボレーション」を発表した。NECのコンサルタント向けツールとして活用。NECのcotomiおよびAIエージェントサービスなどと、イノベーションワークスペースを提供するMiroを組み合わせて、顧客との対話を通じて創出したアイデアを具現化することになる。

 具体的には、NECの共創スペースである「NEC Future Creation Hub」やリモート環境などを活用しながら、顧客とコンサルタントがワークショップを行い、Miroを用いてアイデアや課題から構想を練り、NECのAIエージェントサービスによって呼び出したAIを駆使して、アイデアを量産。ドキュメントとしてまとめるとともに、モックアップやプロトタイプ(MVP)を作成して、システムインテグレーションまでを一貫して進めていくことになる。コンサルタントの創造的業務を、AIが自律的、効率的に支援して、業務の生産性や品質向上を目指すという。

 2つめの「技術・ノウハウ」では、課題解決の最適解を提供するために、AIとセキュリティを軸にした約150セットのオファリング、30セットのシナリオを活用。技術や実装ノウハウをシステムに落とし込むことができるとする。

 また、NECが開発した大規模言語モデルであるcotomiと、それを活用したAIエージェントサービスを提供。シスコとの協業により、Cisco AI Defenseを組み合わせたAIガバナンスサービスも提供している。

 NECの吉崎CDOは、「自社で大規模言語モデルを開発することで原理や仕組みを理解したり、お客さまにソリューションをいち早く届けることができたりする。シスコとの協業では新たなハルシネーション対策や、Agentic AIの活用におけるリスクへの対応策も検討していく」とした。

 さらに、NECでは、「.JP(日本のサイバー空間)を守る」という新たなスローガンを打ち出すとともに、独自のサイバー脅威インテリジェンスの提供と、国産AI技術の活用、グローバルでの推進体制によって、日本のデジタルインフラの安全性確保に貢献し、顧客の安定的な事業およびサービス提供に貢献する姿勢を明確化している。

 具体的な取り組みとして、Cyber Intelligence & Operation Centerを2025年下期から稼働させる計画であり、これもBluStellarの技術やノウハウとして活用される。「国の重要インフラを守り続けてきたNECの経験と実績、サイバーセキュリティとAIの専門家集団を持つNECのノウハウを生かしたものになる。これも『型化』した提供を行う」とした。

課題解決における安全・安心なDXを支える最先端のAIとセキュリティ

 3つめの「組織・人材」では、1万2000人(2025年度目標)の自社DX人材、540社、4万2000人に提供してきたDX教育プログラムの実績をもとに、経営と業務部門をつなぎ、顧客企業において、全社でDXを完遂する体制構築を支援。成果創出に貢献するとともに、現場の継続的な自走力向上をサポートする。

 「継続的な実装を推進するためには、人材の底上げが大切である。お客さまとともに人材育成のエコシステムを構築していきたい」(NECの吉崎CDO)と語った。

成果創出において、DXを支える高度な専門人材や推進人材を育成

 なおBluStellarは、2024年度実績で売上収益が5424億円、調整後営業利益率が12.2%となり、当初計画を大幅に上回る実績となっている。また、国内ITサービス事業の売上収益の32%を占めた。2025年度の見通しは、売上収益が6240億円、調整後営業利益率が13.2%としており、国内ITサービスの37%を占める計画だ。

 森田社長兼CEOは、「NECにおけるITサービス全体の営業利益率は11%であるのに対して、グローバルのトップクラスの企業では15~16%となっている。NECでは、先行投資や従来型SIサービスの提供もあり、BluStellarで20%を目指すことで、グローバル水準の利益率に引き上げていくことになる」と述べた。

BluStellar事業全体で当初計画を上回る成長

 BluStellarのシナリオベースの提案では、営業利益率が3~5%高くなっており、これを5~7%高い水準にまで引き上げていく考えも示しており、NECの収益改善の切り札にもなる。

 NECは、全体的に第4四半期偏重型のビジネスモデルであり、2024年度実績でも、第4四半期には、従来型SIの構成比が増加し、BluStellarの比率が減少している。NECでは、2030年度以降には、BluStellarによる構成比を国内ITサービスの7割にまで引き上げる考えを示しているが、BluStellarの構成比を高めていくには、第4四半期における構成比を高めることで、年間を通じて構成比を安定化させることが鍵になりそうだ。

 このほか今回の説明会では、BluStellarの具体的な事例についても紹介した。

 セブン-イレブン・ジャパンでは、戦略コンサルを起点に課題を抽出。課題解決において、サービスデリバリーなどの標準化した構築サービスを活用して、シオリオベースによる業界初の大規模モダナイゼーションを実現。次世代店舗システムを実装したという。約2万1000店舗、約30万台の次世代店舗システムを、業界初のフルクラウドで構築。障害情報や問い合わせを一元化した総合運用管理体制を実現しており、労働力不足や人件費の上昇にも対応したという。

 官庁および自治体向けには、53案件を対象にガバメントクラウドのシナリオを提供。独自のテンプレートを活用することで、最短5日間で環境を構築できるほか、AWSとの戦略的な協業により、日本初となるWS専門家の専任サポート体制を構築することで、実装まで伴走して、クラウド化を加速できるという。「パブリック領域におけるシナリオの横展開の事例になる」(NECの吉崎CDO)と位置づけた。

BluStellarの強みを活かした価値創造シナリオ(官公庁)