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OpenAI Japanがローンチ、元AWSジャパン長崎忠雄氏が社長就任 顧客との対話を通じて生成AIの普及を図っていく――
2024年4月17日 06:00
米OpenAIは15日、同社にとって初のアジア拠点となる東京オフィスの開設を発表した。日本法人となるOpenAI Japanの代表取締役社長には、3月までAWSジャパンの社長を務めていた長崎忠雄氏が就任。同日行われた報道関係者向けの説明会で「日本における生成AIの普及を拡大しながら、社会全体の生産性を向上させていきたい」と、生成AIの普及に強い意欲を見せている。
米国サンフランシスコに本社を置くOpenAIにとって、東京オフィスはロンドン、ダブリンに次ぐ3つ目の海外拠点、アジアでは最初の拠点となる。
日本法人ローンチイベントのために来日したOpenAI 最高執行責任者(COO) ブラッド・ライトキャップ(Brad Lightcap)氏は「グローバルカンパニーとしてOpenAIが成長を加速していくためには、ここ日本で信頼を勝ち得ていくことが欠かせない。2022年11月にChatGPTを市場に投入して以来、世界中の人々や企業にAIツールを通してパワーを届けることをめざして活動してきたが、テクノロジや文化の発信で世界をリードし、200万人のChatGPTアクティブユーザーがいる日本での成功は、我々のミッションである“すべての人々に利益をもたらすAGI(汎用人工知能: Artificial General Intelligence)”の実現にとって非常に重要だ」と語り、日本市場へのコミットメントを強調する。
また、会見ではOpenAI CEOのサム・アルトマン(Sam Altman)氏から「日本は公共の利益のために人々と技術が協力してきた豊かな歴史をもっている。我々はAIによって日本の人々がさらに創造的になり、生産性を向上して、世界の進歩に貢献していくと信じている」「我々が日本の人々からパートナーと迎えていただき、AIが前例のないイノベーションと社会変革の触媒となる未来に向けて周発できることを感謝する」など、日本市場のポテンシャルを高く評価するビデオメッセージが公開された。
ライトキャップ氏は続けて、日本市場に対する具体的なコミットメントとして、企業向けに「GPT‐4 Customized for Japanese」の提供を発表している。これはOpenAIが提供するマルチモーダルな大規模言語モデル「GPT-4」を日本語に特化して最適化したモデルで、日本語のテキスト翻訳/要約のパフォーマンスおよびコスト効率を大幅に向上させ、前モデル(GPT-4 Turbo)に比較して最大で約3倍のパフォーマンス向上を実現するという。OpenAIによれば、同モデルは数カ月以内にAPIとしてリリースされる予定だ。
長崎社長がOpenAIを選んだ理由は?
OpenAI Japanローンチのニュースにおいて、国内のIT関係者から特に注目を集めたのが、AWSジャパンの前代表取締役社長であった長崎忠雄氏がトップに就任したことだろう。2011年8月にAWSジャパン(当時はアマゾン データ サービス ジャパン)に入社して以来、日本のクラウドの黎明(れいめい)期から業界を牽引し、2024年3月11日に退任するまで数多くの企業のクラウド導入をリードしてきた長崎氏が、なぜ生成AIという分野で新しいキャリアを歩むことを決めたのか。
長崎氏は会見で「現在の生成AIの状況はインターネットやクラウドが登場したときとよく似ている。我々の生活を変える可能性を十分にもっているが、そのためには顧客と対話を重ねて浸透させていく必要があると思っている。世界でも日本でもまだ始まったばかりの分野だが、生成AIの大きな可能性を正しく社会に届けていくために、私が(AWSで)これまでやってきたことが役に立てるのではと思っている」と入社の理由を語っている。
また、ブライトキャップ氏は「我々が日本法人のトップに長崎氏を選んだ理由は大きく2つある。ひとつは彼のクラウド業界での実績とバックグラウンドで、新しい技術である生成AIと日本社会のエンゲージメントをリードしてくれることを期待していること。もうひとつは、政府や企業トップなど日本のリーダーと対話できるコミュニケータとしての能力だ。彼らが望んでいることを、長崎氏なら確実にくみ取ってくれるだろう」と述べ、長崎氏がAWS時代に培ってきた業績を高く評価している。
長崎氏は今後、日本市場における営業と事業開発をリードし、あわせて渉外、製品/サービスの企画、コミュニケーション、オペレーションなどを担うチームを編成していくことになる。日本法人の規模は当面は十数名ほどで、まずは主要な顧客企業や政府/自治体、研究機関などとの対話とフィードバックの反映を繰り返しながら、日本における生成AIのベストプラクティス構築をめざしていく構えだ。
特に、今回発表された日本語カスタムモデルのブラッシュアップは同社の技術力だけでなく、顧客やパートナー企業との連携が欠かせないことから、長崎氏がいうところの「対話を重ねていく」プロセスがより重要になるとみられている。また、日本でのサーバー設置に関してブライトキャップ氏は「重要な課題だと認識している。日本企業のコンプライアンスに必要ということであれば、前向きに検討していきたい。また、我々がパートナーシップを組むMicrosoftとも協力しながら日本への投資を進めていく」とコメントしている。
「私がテクノロジの業界に入って25年が経つが、新しいテクノロジが登場するたびに日本の顧客にどうやって使ってもらえばいいのか、さまざまな顧客と対話を積み重ねながら、自分なりにその方法を模索してきた。いま、日本企業でOpenAIのことを正確に理解しているところは少ない。特にエンタープライズ企業にはなかなか理解されることが難しいと感じている。日本の社会全体の生産性を向上し、ありとあらゆる産業を良い方向に導くためにも、研究に裏打ちされたOpenAIの技術のすばらしさを、対話を通して知ってもらう、それが私の仕事だと思っている。まだスタートしたばかりだが、いまだかつてなかったような事例を数年かけて自分なりに作っていきたい。今日はその第一歩」という長崎氏。
日本企業のクラウド化を大きく前進させた手腕を生成AIという新しい分野でどう発揮していくのか、引き続き注目していきたい。