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富士通の2022年度連結業績、増収増益で営業利益は過去最高を記録
テクノロジーソリューション事業の営業利益率10%は達成できず
2023年4月28日 00:00
富士通株式会社は27日、2022年度(2022年4月~2023年3月)連結業績を発表した。
売上収益は前年比3.5%増の3兆7137億円、営業利益が同53.1%増の3356億円、税引前利益が同55.0%増の3718億円、当期純利益が同17.8%増の2151億円。営業利益は過去最高を達成。営業利益率は9.0%となった。
2022年度は、富士通が打ち出している中期経営計画の最終年度となり、テクノロジーソリューション事業では営業利益率10%(2023年1月に9.3%に修正)、売上収益で3兆2000億円(同3兆2200億円)を目標としていたが、同事業の営業利益率は8.3%、売上収益は3兆1765億円となり、計画を下回った。
富士通 代表取締役社長 CEOの時田隆仁氏は、「テクノロジーソリューションの営業利益率が10%に届かなかったのは残念であり、経営として大きな責任を感じている。部材供給問題やハードウェアの供給が第4四半期には回復することを見込んでいたが、計画通りにはいかなかった。富士通が調達に苦労している間に、お客さまが別の手段でハードウェアを調達したということもある。確度が高い見通しができず、データドリブン経営が十分でなかったことは大きな反省点である。また、中堅民需市場では、オンプレミスが主流であり、クラウドリフトの提案が十分にできていなかった反省もある」とコメント。
その一方で、「過去最高益となった全社連結業績や、テクノロジーソリューション事業では確実に収益性を向上させることができた。この3年間は、富士通を成長軌道に乗せることを使命とし、富士通の形を変え、質を変えることに取り組んできた。持続的に成長する企業に転換していることを実感している。厳しい制約があった3年間だが、すべてのステイクホルダーに感謝する」と述べた。
また、富士通 取締役執行役員SEVP/CFOの磯部武司氏は、「2022年度の売上収益は、事業再編影響を除いたベースでは前年比5.5%増となった。テクノロジーソリューションではデジタル化やモダナイゼーションなどのDX関連需要が拡大し、部材供給問題のリカバリーも進み、時間を追って収益は改善している。第4四半期の国内ビジネスの受注は前年比16%増となっており、先行きにも期待が持てる」と2022年度の業績について総括。
「1月公表値に比べると未達になっているが、国内向けサーバー、ストレージなどのプロダクトの売上拡大が未達となったのが原因。部材問題が解消し、デマンドも回復しており、第4四半期の受注額は過去10年間でも最高の水準となっているが、年度内に売り上げにならない案件が多く、想定に届かなかった。スピードが十分ではなかった。為替連動によるコストアップの影響も大きかった。また、電子部品においては、主要な顧客からのオーダーが大幅に絞り込まれ、所要減となった。さらに、プロジェクトにおけるトラブル発生などのネガティブな要素もあった。データドリブンのマネジメントがまだ十分な水準に達していないことを痛感している」と語った。
なお、Fujitsu Uvanceの売上収益は2000億円に到達。富士通の時田社長は、「日本以外の顧客へのサービスが60%を占めたほか、日本を中心としたビジネスアプリケーション領域が伸長している。従来のSIよりも大きな利益率をあげることを期待している」とコメントした。
また、「Fujitsu Uvanceは7つのキーフォーカスエリアで展開しているが、そのなかで最も実績が多かったのがデジタルシフトの分野であった。欧州を中心に実績があがっている。また、ビジネスアプリケーションではERPのクラウドへのリフトアップ案件が多い。さらにサステナブルマニュファクチュアリングでは、製造業を中心にしたニーズが高く、そこにハイブリッドITの案件が続いている。コンシューマエクスペリエンスやヘルシーリビング、トラステッドソサエティは、2022年度の2000億円には大きく貢献してはいないが、今後、しっかりと訴求をしていく。買収した独GK Softwareによる小売分野はコンシューマエクスペリエンスに大きく貢献すだろう」などと述べた。
一方、2022年度通期での部品供給遅延の影響は、売上収益でマイナス147億円、営業利益ではマイナス108億円となった。「年度序盤は部材供給不足の影響があったが、第3四半期には影響が底を打った。全方位で盤石とまではいえないが、部材は確実にコントロールできるようになっている」(磯部CFO)という。
また、コスト・費用の効率化では、375億円の改善を達成。売上総利益は68億円の改善となり、ソリューション・サービスの売上総利益率は36.0%にまで高まっている。事業成長投資については、前年から460億円増の1310億円となり、「Fujitsu Uvance向けのオファリング開発やサービスデリバリー改革、次世代データセンター向けプロセッサによる新規事業創出、One Fujitsuに向けた社内DX投資などを進めた」(磯部CFO)とした。
2022年度通期のセグメント別業績
2022年度通期のセグメント別業績は、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比3.9%増の3兆1765億円、営業利益は同94.9%増の2631億円となった。
テクノロジーソリューションのうち、ソリューション・サービス事業の売上収益が前年比1.1%減の1兆8193億円、営業利益が同23.8%増の2337億円。システムプラットフォーム事業の売上収益は同9.8%増の6781億円、営業利益は同21.7%増の689億円。海外リージョンの売上収益は同11.4%増の8124億円、営業利益は同75.1%減の59億円となった。
「国内SIサービスの増収効果による利益改善や、開発の標準化や費用の効率化なとの施策が確実に成果をあげている。海外では、本業での成長が見られなかったのに加えて、M&Aに関する一過性コストの発生や為替のネガティブな影響があった。グローバル共通施策を強力に推進、整備することで抜本的な立て直しを進める」(磯部CFO)とした。
テクノロジーソリューションにおけるFor Growthの実績は、売上収益が前年比7%増の1兆1221億円となり、構成比は35%。For Stabilityの売上収益は同2%増の2兆544億円となった。「For Growthは第3四半期以降、2桁成長を遂げている。ソリューション・サービスは年間を通じて着実な伸長を遂げており、コンサルティング、モダナイゼーション、DX、アプリケーション、クラウドなどが牽引した。システムプラットフォームは第4四半期に前年同期比33%増の成長をみせている。5G基地局や北米ネットワーク機器が成長した。海外は、For Growthの規模が小さいが、ハイブリッドITやセキュリティ関連のほか、オセアニアでのM&Aも成長に貢献した」という。
Ridgelinezでは売上収益が100億円以上となり、受注は前年比で130%伸長。約300人のコンサルタントを擁しており、「これまでの富士通では接点がなかったお客さまをはじめとして、250社以上に対して、コンサルティング提案を行っている。DXパートナーとしての信頼関係の向上につながっている。富士通から分離したコンサルティングファームとして3年を経過したが、300人、100億円という規模は、コンサルティングファームとして遜色(そんしょく)ないものだと認識している」と語った。
2022年度通期のユビキタスソリューションは、売上収益が前年比1.7%減の2329億円、営業利益は前年の58億円の黒字から、マイナス65億円の赤字になった。「為替変動による調達コストの増加や、欧州の市況低迷による需要減があった」という。また、デバイスソリューションは、売上収益は前年比1.8%増の3826億円、営業利益は同0.9%増の790億円となった。「上期までは強いデマンドが続いたが、下期に入って急速な市況変化によってブレーキがかかった。しばらくは厳しい状況が続く」とした。
2022年度の国内の受注状況は、全体では前年比3%減。そのうち、SI/サービスは8%増となった。「SI/サービスの受注額は、過去10年間で最も高い水準である。基幹システム刷新やモダナイゼーションへのデマンドが強いことに加えて、DX変革に向けた価値提案が商談につながっている」(磯部CFO)という。
分野別では、エンタープライズ(産業、流通、小売)が前年比8%増、ファイナンスビジネス(金融・保険)が同3%増、Japanリージョン(官公庁、ミッションクリティカルなど)が同8%増、富士通Japan(自治体、ヘルスケア、文教、中堅民需など)が同3%増、ネットワークが同18%減となっている。
「エンタープライズは年間を通じて強いデマンドが続いた。第4四半期には製造および流通での基幹システム刷新やモダナイゼーション商談を複数獲得。DX案件は増加しており、好調な受注を維持している。また、第4四半期には、ネット銀行や保険会社の基幹システム更新の大型商談を獲得。官公庁向け大型商談も複数受注したほか、自治体のシステム標準化ビジネスが活性化している。クラウド版電子カルテに対する強いデマンドも継続している。ネットワークでは第4四半期に国内キャリア向けに5G基地局関連商談を獲得したが、年間では前年度に獲得した北米の大型受注の反動が出ている」(磯部CFO)と振り返った。
海外の受注状況は、Europeが前年比2%減(そのうちサービスが同7%増、プロダクトが同14%減)、Americasが同10%減、Asia Pacificが同2%減(そのうちサービスが同20%増、プロダクトが同25%減)となっている。
中期経営計画を総括、「営業利益の規模を着実に拡大してきた」
2022年度を最終年度とした中期経営計画の総括も行った。
時田社長は、「中期経営計画期間中の2022年度までの3年間は、コロナ禍やウクライナ情勢の影響により、部材の供給不足やサプライチェーンの分断などが発生したが、デジタル化やモダナイゼーションなどのDXへの需要が拡大し、2022年度後半には部材供給問題もリカバリーできた。テクノロジーソリューションでは国内を中心にソリューション・サービスの需要が拡大し、内製化や標準化による生産性の改善も進み、収益性が向上した。過去最高益はテクノロジーソリューションが全体を牽引したことによるものである」とした。
また磯部CFOは、「この3年間は厳しい外部環境下にあったが、初年度の2020年度は最高益を更新。2021年度は需給環境の悪化やDX人材施策の実施により、一度減益になったが、2022年度はこれまでの取り組みが確実に成果となって表れ、再び過去最高益を更新できた。事業収益性の改善には力強さが出てきており、営業利益の規模を着実に拡大してきた」と述べた。
また、非財務経営指標の成果についても言及。お客さまNPSでは、前回調査となる2021年からの改善値として、3.7ポイントの上昇を目指していたが、18.1ポイントと大きく上昇。従業員エンゲージメントでは、75ポイントの目標に対して69にとどまった。DX推進指標は目標の3.5ポイントを達成する3.56ポイントとなった。
価値創造に向けた取り組みと、自らの変革についての成果についても触れた。
「価値創造」では、グローバルビジネスの再構築において、グローバルでのガバナンス体制の強化に取り組み、Americasでのビジネス構造改革により収益性を改善。Fujitsu Uvanceによりグローバル共通のオファリングを整備しており、今後はクラウドビジネスの拡大に取り組むという。
日本国内における課題解決力の強化では、国内において8000人のビジネスプロデューサーへのリスキリングを完了。有償コンサルティングサービスを提供する人材を900人に拡大したことを報告。「経営課題や社会課題の解決に、中長期的視点でお客さまと一緒になって取り組む商談が増加している」と述べた。
お客さま事業の安定化への貢献では、グローバルデリバリーセンター(GDC)およびジャパングローバルゲートウェイ(JGG)の合計人員数が3万人となり、グローバル標準の開発や、デリバリーを通じた生産性および収益性の改善につながっているという。
また、Palantirのデータ分析プラットフォームやAIを活用した損益予測やリスク度評価により、プロジェクトのトラブル発生の予防対策を強化し、すでに6000以上のプロジェクトで点検を行っているという。なお、GDCは2022年11月にロシア拠点を閉鎖したが、「お客さまやビジネスへの影響はない」とした。
お客さまのDXベストパートナーへの取り組みでは、顧客ととも社会課題の解決やサステナビリティに貢献する新たなビジネスモデルの創出に取り組んだ「共創」がグローバルで進展し、2022年度までの3年間で、全世界160社以上との共創案件があるという。
「自らの変革」では、データドリブン経営の強化に向けてOneFujitsuプログラムを推進。社内に散在していたデータを一元化し、全社横断で活用するOneDataについては、2022年度までに基盤整備が完了し、1万3000人が利用しているという。2021年度に稼働したOneCRMは31カ国で2万人の社員が利用し、商談のパイプラインマネジメントが評価され、受注が大幅に伸長しているという。また、グローバルで基幹システムを刷新するOneERP+は、2022年4月に英国およびアイルランドで先行稼働。2024年度に全社稼働を予定している。
DX人材への進化や生産性の向上では、Work Life Shiftに基づく新たな制度の導入などを通じて、自律的な働き方やキャリア形成を促進したことを紹介。社員一人あたりの営業利益は2019年度比で60%増加したという。
また、全員参加型およびエコシステム型のDX推進では、全社DXプロジェクトの「フジトラ」において約30の変革フレームワークを進行。DX事例共有などを行う定例の全社DXイベントには、直近では2万6000人の社員が参加しており、「当初は700人でスタートしたが、この参加者数からも社員のマインド変革が進んでいることがわかる。すでにデータ分析を中心に、社内事例をソリューションとして10社以上に提供しているといった実績もある」とした。
その上で、「各施策には進捗の差はあるが、着実に成果があがっている」(富士通の時田社長)と述べた。
さらに、事業セグメント別の成果についても言及した。
テクノロジーソリューションでは、「ソリューション・サービスにおいて、国内での市場優位性を維持、強化しながら、生産性向上を推進し、利益の規模は確実に拡大している。規模の成長は若干スローだったが、DXサービス領域へのシフト、オフショア開発拡大、共通費用圧縮などによって採算性向上を実現している。システムプラットフォームでは、ネットワーク事業の立て直しと、5G需要の取り込みは想定通りに進んだ。プロダクト事業において、部材調達遅延と為替の急激な変動によるネガティブな影響があったが、サプライチェーンの見直しや価格転嫁を進めることで、2022年度後半からは悪化分をリカバリーできた。だが、サプライチェーンへの対応という点では、よりスピード感を持てなかったのかといった反省がある。海外ビジネスは、環境悪化の逆境をはね返す体力とスピードが不足しており、低水準の採算性のまま足踏み状態となった。事業体質を一段強化するための抜本的な立て直し施策が必要である」とした。
また、「電子デバイス部品は想定以上の需要を取り込み、円安も追い風となった。だが、今後の市況環境には不透明感があり、足元は厳しいと見ている」と語った。
2023年度通期の業績見通しを発表
一方、2023年度通期(2023年4月~2024年3月)の業績見通しは、売上収益は前年比3.9%増の3兆8600億円、営業利益は同1.3%増の3400億円、当期純利益は同1.3%増の2180億円と、増収増益の計画とした。
セグメント別では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比3.9%増の3兆3000億円、営業利益が同9.5%増の2880億円。営業利益率は8.7%となる。そのうち、ソリューション・サービスの売上収益は前年比8.8%増の1兆9800億円、営業利益は同38.4%増の3290億円、システムプラットフォームの売上収益は同8.6%減の6200億円、営業利益は同52.0%減の330億円、海外リージョンは売上収益が同0.9%増の8200億円、営業利益は同37.5%増の220億円を見込んでいる。
「ソリューション・サービスは、DXビジネスやモダナイゼーションの拡大による売り上げ拡大と、生産性のさらなる向上によって、約900億円の増益を計画している」(時田社長)という。900億円のうち、売上収益の拡大で600億円、生産性の向上で300億円を見込んでいる。
また、磯部CFOは、「ソリューション・サービスでは、Fujitsu Uvacneを中心としたDX関連ビジネスを拡大させる。デリバリー体制の標準化や付加価値の高いDX案件を増加させ、採算性の改善を図る」と述べたほか、「システムプラットフォームは、ネットワークビジネスが次世代技術に向けて先行投資サイクルに転換する。5G関連の初期投資需要はピークアウトし、北米フォトニクスはオープン化への転換点に入るだろう」と予測した。
ユビキタスソリューションでは、売上収益が前年比5.2%増の2450億円、営業利益は65億円増のブレイクイーブン。デバイスソリューションでは売上収益が同2.0%減の3750億円、営業利益は同34.2%減の520億円を見込んでいる。
なお、2025年度を最終年度とする次期中期経営計画は、5月24日に発表する予定だ。
富士通の時田社長は、「2030年の富士通のあるべき姿から、その実現に向けて解決すべき課題をバックキャストし、2025年度までに達成すべきことを明確にし、これまでに見えた課題とあわせて施策を検討している。事業モデルやポートフォリオの変革によるFujitsu UvanceやOn Cloudビジネスの強化、お客さまのDXやGX、モダナイゼーションの確実なサポート、日本以外のリージョンにおけるサービスビジネスへのシフトによって、収益性の向上を図る」とし、「2023年度以降は財務、非財務の両方の目標を達成できるように力を尽くしていく」と語った。