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NECがDX推進人材育成プログラムを強化、デジタルスキル標準に適応した人材育成を支援

 日本電気株式会社(以下、NEC)は1日、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を支援する「NECアカデミー for DX」において、DX推進人材育成プログラムを強化すると発表した。ビジネスアーキテクトやデザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つのDX人材を対象に育成メニューを用意する。これによりNECでは、DXに取り組む企業を対象として、2025年度までに1万人のDX推進人材の育成を目指すという。

NECアカデミー DX推進人材育成プログラム

 今回の育成プログラムは、2022年12月21日に、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開した「デジタルスキル標準(DSS)」に対応したものになり、受講者が希望する期間、人数、到達レベルなどを確認後、適切な育成カリキュラムを提案する。

 遠隔ライブ研修やeトレーニングなどで知識を習得し、ノーコードやローコードを活用したワークショップや模擬演習を通して自ら活用できるスキルを定着。その後、専門家によるOJTや、伴走型支援を受けた形で実践経験を積み、実際に業務で活用するための実践的なスキルを身につけるという。

 データサイエンティスト育成プログラムの場合、AIリテラシー教育などの知識習得で必須4日間および推奨2日間を設定。データ活用プロジェクト実践PBL(Project Based Learning)による模擬演習を3~5日間実施した後、さらに実践として、データサイエンティストOJT支援を2~6カ月間提供する。トータルでの受講期間は3~6カ月で、受講者8人の場合の価格は1000万円から(税別)。

人材類型ごとのDX推進人材育成プログラム(例)
データサイエンティスト育成プログラム(例)

 NECでは、2019年に、業界に先駆けてAIを社会実装する人材を育成する「NEC アカデミー for AI」を開講。社内外のデジタル人材育成に取り組んできた経緯がある。2021年には、AIおよびセキュリティ、デザイン思考を学ぶ「NECアカデミー for DX」を開始しており、デジタル実装および運用のための専門スキルを持つDX 専門人材を育成してきた。これまでに300社弱、数千人が受講している。

NECのデジタル人材育成

 今回の取り組みは、企業や組織でデジタル変革を推進するDX推進人材の育成という点で狙いが異なる。

 NEC AI・アナリティクス事業統括部 上席データサイエンティスト兼NECアカデミー for AI学長の孝忠大輔氏は、「日本の企業がDXを加速するためには、DX専門人材だけでなく、DX推進人材が求められており、それに向けて、従業員のリスキリングに取り組む企業が増えている」とする。

NEC AI・アナリティクス事業統括部 上席データサイエンティスト兼NECアカデミー for AI学長の孝忠大輔氏

 今回のDX推進人材育成プログラムでは、データを事業のなかで活用できる人材の育成に主眼を置いており、プログラミングを排除する形でメニュー化。より多くの人材を対象に実施する。

 「専門人材であればPythonを活用し、高度なアルゴリズムを活用する必要があり、コードを実装する能力も求められるが、推進人材は事業会社のなかで、データの価値を解き放つことが役割となる。模擬演習にもローコードやノーコードを利用し、BIツールやExcelなども活用する。外部の企業に指示が出せたり、データサイエンティストが出してきた結果を読み解いて、ビジネスのなかに実装したりするスキルを育成する」という。

DX推進人材育成の進め方

 企業におけるDX人材不足が社会課題となっており、政府では、地域で活躍するデジタル推進人材を、2022年度から2026年度までの5年間で、230万人を育成する目標を掲げている。

 経済産業省では、デジタルスキル標準の設定や、デジタルスキル標準にひもづけた教育コンテンツの整備、地方におけるDX促進活動支援などによるデジタル人材育成プラットフォームの構築を推進。厚生労働省では、公共職業訓練や求職者支援訓練、教育訓練給付におけるデジタル分野の重点化、人材開発支援助成金の拡充、3年間で4000億円規模の施策パッケージの創設による人材育成などの推進を通じて、職業訓練のデジタル分野の重点化を推進している。

 また文部科学省では、数理・データサイエンス・AI教育の推進や、リカレント教育の推進により、高等教育機関などにおけるデジタル人材の育成に取り組んでいる。さらに、内閣府などでは、地域企業への人材マッチング支援、地方公共団体への人材派遣、起業支援および移住支援などよるデジタル人材の地域への還流促進に取り組んでいるところだ。

政府のデジタル人材育成への取り組み

 一方、NECは、政府のAI戦略に基づき、「数理・データサイエンス・AIモデルカリキュラム」や「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の検討、デジタル田園都市国家構想に基づく「デジタルスキル標準」の検討にも参画している。

 「政府によるAI戦略2019では、日本が立ち上がるための政策の一丁目一番地に、人材育成を掲げた。それを実現するために、すべての大学や高専生が学ぶことができる『数理・データサイエンス・AIモデルカリキュラム』を策定。これに基づき、リテラシー教育、応用基礎教育、エキスパート教育を実施し、年間約50万人のすべての大学生および高専生がDXに関するリテラシーを習得することになる」とする。

 だが、その一方で課題も指摘する。

 「これからの新入社員が、学生時代に数理・データサイエンス・AIを学んでいるのに対して、既存社員は文系、理系に分かれており、確率や統計を少しかじった程度である。リテラシー格差が広がり、デジタル変革の障壁になる可能性がある。そこで、社会人側も、DXを学ばなくてはいけない。これからは、すべての社員がDXとはなにかを知ることが大切である」。

今後さらにリテラシー格差が広がる

 経済産業省およびIPAが策定したデジタルスキル標準(DSS)は、こうした課題を解決するものになるという。

 DSSは、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力、スキルの標準となる「DXリテラシー標準(DSS-L)」と、DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルを定義した「DX推進スキル標準(DSS-P)」で構成される。

 このうちDSS-Pでは、ビジネスアーキテクトやUI/UXデザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つの人材類型と、それを細分化した15ロールを定義し、共通スキルリストによるスキル項目と、各ロールに必要とされるスキルをマッピング。IPAのITSS+でのレベル4を想定し、「独力で業務を遂行することが可能であり、後進人材の育成も可能なレベルのDX人材」の育成を目指しており、今回のDX推進人材育成プログラムでも、この水準を目指すという。

DXを推進する人材

 一方、NECでは、2020年度には5000人だった社内のDX人材を、2025年度までに1万人まで増加させる計画を打ち出している。

 2021年度時点で5874人のDX人材を育成。人材の構成はコンサルタント3%、アーキテクト7%、アジャイルエンジニア8%、データサイエンティスト16%、クラウド系人材50%、生体認証・映像分析人材11%、サイバーセキュリティ人材5%となっている。

 「NECでは、DXを推進するためには、知識の習得だけでなく実践指導が重要になると考えており、実践重視の育成を進めている」と述べた。

NECにおけるDX人材育成