ニュース

日本マイクロソフト、教育現場でのデータ活用動向を紹介 GIGAスクール構想におけるICT利活用の最新事例も

 日本マイクロソフト株式会社は13日、データを活用した教育分野の先進的な事例とソリューションを紹介する、報道向け説明会を開催した。

 GIGAスクール構想によって、ICTを活用した教育を実践する自治体や学校が登場している。今回、1)GIGAスクール構想のICT利活用、2)学習と児童生徒のWell Beingを実現するための教育データの利活用事例、3)安全に教育データの利活用を実現するためのパートナー連携とマイクロソフトのソリューション――、の3つのテーマにのっとって紹介した。

 「データ活用に注目が集まっている中、教育現場でどのようにデータを活用しているのか、これからのデータ活用はどうなっていくのかについて事例を含めて紹介させていただく」(日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長の中井陽子氏)。

日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長の中井陽子氏

GIGAスクール構想によるICT利活用例

 1つ目のテーマであるGIGAスクール構想によるICT利活用例として、複数の学校の事例が紹介された。岐阜県岐阜市では、児童生徒の端末としてiPadを導入し、教員が利用するWindows PCと、Microsoft Teamsを中心とした学習クラウドを活用している。

 富山県高岡市では、OneNoteでテキスト、録音データの貼り付けたものなどを生徒が教員と共有している。教員は生徒が書いたノートにコメントや評価を添えて返すことで、生徒のやる気が上昇しているという。

岐阜県岐阜市の事例
富山県高岡市の事例

 さいたま市立大成中学校は、Teamsの課題機能を備忘録、振り返り活動に使っている。美術の授業では教員側の課題画面を利用して出欠確認と欠席記録を取っているが、課題にひも付いた欠席記録を、教員と生徒双方で確認することができる。毎時の進捗記録を手間なく蓄積できるので、評価だけでなく、出された課題を表示して振り返り活動に活用することもできる。

 愛媛県松山市椿小学校では、デジタルノートで振り返り活動、生徒のやる気スイッチを入れる活動に使っている。OneNoteで体育の授業の様子を写真や動画で記録することで、生徒は自分の運動中のフォームを確認できるうえ、それを家に持ち帰ることで、家族がその様子を共有して家族が感想を書き込めるという。デジタルノートをeポートフォリオとして活用している例だ。

さいたま市立大成中学校の事例
愛媛県松山市立椿小学校の事例

 東京都立光明学園では、障碍がある子どもたちがTeamsを活用している。生徒への情報伝達はすべてTeamsを使って行い、1人1人の学習だけでなく、お互いの考えをリアルタイムで共有して共同作業を進めている。病弱教育部門の授業でも、ファイルの共同編集や必要に応じて教員がチャットを介して指導するなど、教室にいるのと同じように遠隔授業でも学びを進めている。

 なお、先ほども紹介された愛媛県松山市立椿小学校では、VIVAインサイトを使って教員と児童がコミュニケーションを取り、児童に安心感を与えることに成功している。「VIVAインサイトは、世界中の学校からニーズが出てきたツール。先生と児童、あるいは児童同士など簡単に称賛を送り合うことができる。1つのメッセージを送るのも数十秒で、先生と児童が関係を深め、児童同士がお互いを認め合うといった関係構築を作ることに成功している」(中井氏)。

東京都立光明学園の事例
愛媛県松山市立椿小学校では、VIVAインサイトによって児童生徒に称賛を送っている

 こうした事例のベースとなっているのがMicrosoft 365 Educationだ。利用することで、学習ログや履歴データが自動的に収集される。

 「Microsoft 365 Educationの中には、Teamsをはじめ、先生や生徒さんたちに使っていただいている様子を、学習ログや履歴データとして自動収集する機能がデフォルトで付いている。これを見てもらうことで、先生は生徒児童の皆さん1人1人に最適化された指導を行い、学習だけでなく、生徒さんの気持ちに寄り添うような、インサイトからのアクションをとってもらうことが可能になっている」(中井氏)。

日々のTeamsの利用からはじめるデータ活用

 無料で提供されているEducation Insightsは、クラスの学習状況を可視化することができる。TeamsでInsightsをクリックすると、教員が注目すべき活動をまとめて確認することや、Teams内での課題の取り組み状況、音読の練習、今日の気持ち、チャットの投稿数などを深掘りし、支援が必要な児童生徒をいち早く発見し、声掛けや学習支援につなげることに役立つ。

 「Insightsのスポットライトから、例えばある生徒さんはいつも遅い時間に活動している、持ち帰ったGIGAスクール端末を夜遅い時刻に開いているといった活動状況を確認することができる。気になる生徒の様子をいち早く気がつくきっかけとなる」(中井氏)。

Education Insights

 Reading Progressは、AIを活用した音読の練習に活用できる無償で提供されているツール。日本語、英語での活用が可能で、例えばTeamsで英語テキストを課題として配信し、児童生徒がGIGA端末からReading Progressを使って音読を録音し、提出するといったことができる。提出された音声はAIによって児童採点され、児童生徒に返却される。忙しい教員の活動をサポートするツールだ。英語の発音などをAIによって採点する。Windows端末だけでなく、ほかのOSを搭載した端末でも利用することができる。

 Reflectは児童生徒の感情をキャッチするTeamsアプリ。教員が毎日アンケートによってクラス全体、生徒個人の感情の揺らぎをデータにして可視化する。その結果から児童生徒への声掛けや円滑な学級運営につなげていくことができる。

Reading Progress
Reflect

 マイクロソフトではGIGAスクールパッケージサイトで教育関係者向けに製品情報、活用事例を紹介し、各種オンラインセミナーのアーカイブなどを提供。今回紹介したツールの紹介や事例を詳細に紹介している。

各種情報ポータルサイト

学習と児童生徒のWell Beingを実現するための教育データの利活用

 2つ目のテーマである、学習と児童生徒のWell Beingを実現するための教育データの利活用については、Microsoft 365 Educationから得られるデータだけでなく、その他の学習系システムや校務系システムのデータを組み合わせて可視化することで、教育の質向上を目指している。

目的に応じてさまざまな校務・学習データを組み合わせて可視化

 つくば市教育委員会では、子どもたち1人1人への細やかな指導を行っていくことを目的として、Power BIを使って設計した教育ダッシュボードを導入した。現在、つくば市の5つの学校でテスト運用を行っている。現場の教員の意見を聞いて改善を行い、使いやすいダッシュボードとしていくことを目指している。

つくば市教育委員会の事例

 東京都渋谷区の教育委員会では、データを利活用していくための活用基盤を導入した。データ活用基盤の概要については、マイクロソフトのイベントに登壇した渋谷区教育委員会事務局 教育政策課 教育ICT政策係の竹澤悠人氏の講演がビデオで紹介された。

 「検討段階で、教育データの利活用により、最終的に何を実現したいのか、そのためには何が必要か、さらにそれを実現するためには、誰に、何をどう提供していけばいいのかなどの視点から検討を行い、掘り下げていった。目的理念を明確にすることなく進めてしまうと、やみくもにデータを書き集めることになり、結果、膨大なコストと工数が発生する。必要とするデータの特定を行うためにも、内部でワークショップなどを重ね、ここを明確にすることから検討を始めた。その結果、何よりも子ども1人1人の幸せ、Well Beingを実現すべき目標と設定し、その実現のためには、教員の子ども理解に基づいた指導支援子どもたちの学校満足の向上を図るべきとした」(竹澤氏)。

渋谷区教育委員会事務局 教育政策課 教育ICT政策係の竹澤悠人氏

 渋谷区のデータ利活用基盤は、スモールスタートで逐次改善することを前提としたもので、データ利活用を発展させていくことで、子どもを理解し、きめ細かい指導や支援を行っていくことや教員自身の成長、学びの振り返り、学びを広げて補っていくことなどを目指している。

 そのために、標準機能であるEducation Insightsと有償のEducation Insights Premiumを利用した。標準機能で教員が学級の様子を素早く察知し、学習成果を向上させることなどに活用。さらに、有償版を使うことで学級を超えて、教育リーダーや教職員がデータに基づいた協働を行い、学習者の成果を組織全体で引き上げていくことを目指している。

 また、School Data Syncによって、学校、学年などの情報をOffice 365に取り込み、生徒1人1人とそれらの情報をひも付けて、学年全体、学校全体など広い範囲で学習データを分析することを可能とした。

データ利活用基盤の構成図
スモールスタート・逐次改善
Education Insights+Insights Premium
児童生徒の名簿情報を紐づけ、広い範囲でのデータ分析を可能に

安全に教育データの利活用を実現するためのパートナー連携とマイクロソフトのソリューション

 3つ目のテーマでは、安全に教育データを利活用していくためのパートナー連携とマイクロソフトのソリューションが紹介された。

 「データの利活用にあたって、どうやってこのデータを安全に運用していくのか、構築していくのかを、どのお客さまも知りたいと思っているという声をいただいている。安全な環境を作っていくため、マイクロソフトでは、パートナーとの連携を深め、よりソリューションを幅広く使っていただけるような環境を整えている」(中井氏)。

 児童生徒のデータを集め、利活用するにあたっては、セキュリティの担保が欠かせないことから、マイクロソフトは端末、クラウド、データ分析基盤まで一気通貫でパッケージ化して提供している。

セキュリティが担保された環境で、安全にデータ利活用を進めるために

 さらに、パートナーと連携し、教育現場で安全で効果的なデータ活用を行うパッケージを提案している。パートナーとの連携とは、例えば校務支援システムや学習アプリベンダーとのID連携、教育情報セキュリティポリシーガイドラインに対応したゼロトラストセキュリティ基盤の提供、安全なデータ分析と可視化のための基盤提供などを指す。
 「この1年半、パートナーとの連携に注力し、教育データ活用に賛同いただいているパートナーは22社となった。これらのパートナーとは、Microsoft 365アカウントとのシングルサインオンやTeams等で連携しており、連携ソリューションも27ソリューションとなった。これらのソリューションについては、マイクロソフト自身のソリューションを加えて合計28ソリューションを『Microsoft Education連携ソリューションカタログ』に掲載している」(中井氏)。

パートナー企業と連携した取り組み

 さらに、教育データ活用基盤構築を担うパートナーは、エーティーエルシステムズ、内田洋行、アバナード、ジールの4社となっている。

 今回はGIGAスクール構想を推進し、成功している自治体や学校が紹介されたが、まだうまくいかない学校や自治体も多いとされている。そういった教育関係者に向けては、「マイクロソフトとしてさまざまなコンテンツをそろえている。かなり幅広いコンテンツがそろっているので、それを見て活用できるところはぜひ、活用してほしい。また、うまくいっている事例を見ると、現場の先生方が頑張るだけでなく、その上の校長先生や教育委員会の皆さまが、ICTを使っていくことに、学ぶ時間も含めて時間を割いている自治体は、活用が進んでいることが明らかになっている」(中井氏)と述べ、提供しているコンテンツの活用に加えて、現場を支援する体制の重要であるとアピールした。